大腸の検診と癌(転移)の全身検査(PET)(2006/3/15更新)
 (青字はlinkがある)


☆ 大腸の内視鏡検査
☆ 拡がり始めたPETによる全身癌検診
☆ PETでの癌の発見能力と受診頻度
☆ PETなどの放射線の影響
☆ 私の検査結果
☆ 新しい情報(肥満男性は大腸癌の危険度が高い)

☆ 大腸の内視鏡検査(健康保険適用

 大腸癌は米国化した食事に影響されたのか,最近は非常な勢いで増加している。日本ではすでに全癌患者の1/3を占めていて,2003年度で新患数9万人,死者4万人と言われている。
 この癌の特徴はかなり進行しないと自覚症状がないことである。ただし,非常に運がよいと集団検診の大便の潜血反応で早期発見されることがある。
 大腸癌に対しては非常に効果的な検査法がある。それは大腸内視鏡である。これにより,大腸癌の発生率を90%も下げることが可能となる。大便の潜血反応で陽性になった場合,初期癌であるとは限らないが,内視鏡でなら必ず初期癌の内に発見できる。それには,継続した内視鏡検査が不可欠である。
 詳しいことが知りたい人は,大腸.comを参照するとよい。現在得られる最良の情報である。このsiteは妻が発見したのであるが,私も妻も早い時期にこれを知っていたら,むざむざと命を落とすことはなかった,と悔やんでも悔やみきれない。
 妻の癌の確定診断をした本郷の医院は,最近たいへん混んでいて,検診まで2ヶ月ほど待たされる。後述のようにPETを受診することも選択肢の一つである。
 国立がんセンターがん予防・検診研究センター情報研究部長を主任とする厚生省の研究班は,2005/3/22に,集団検診での内視鏡・X線検査や直腸指診に否定的な見解を出し,便潜血検査を推奨する報告を取りまとめた。これは,上記の健康保険適用の大腸癌検診が拡がって健康保険財政を圧迫するのを怖れる役人の意向に沿った意見をでっち上げたと解釈してよい。
 この意見によると,「内視鏡とX線の検査は死亡率を減らす証拠はあるが,出血や腸閉塞・shock症状などが起きることもあり,自治体の集団検診や職場検診などには勧められない。」と決めつけ,「人間ドックなどで個人対象なら,安全性の確保と十分な説明があれば可能である。」となっている。さらに,「死亡率を減らす効果があり,受診者負担も小さい便潜血検査は,集団と個人両検診で強く推奨する。」ということだ。
 この結果,2006年度から40歳以上の全員を毎年便潜血反応でscreeningを実施しようということになった。
 時代に逆行したこの方針は,われわれが支払った保険料を役人の給料や福祉に使っている現在の状態を隠匿するために,国民の生命を犠牲にして出された,と考えてもよい。厚生省の言うことに耳を傾けていると,薬害AIDSなど多くの国民を犠牲にしてきた事件と同じ目に遭うことは疑いがない。厚生省の意向を無視して内視鏡検査に行くべきである。

 私の妻は一度も便潜血検査で要注意になったことがないにもかかわらず,大きな結腸癌を抱えていた。肝臓転移の結果,ALPの値がおかしいのが発見の切っ掛けだった。
 じつは,私の母親も卒寿を過ぎた歳で大腸癌を摘出した。年齢的に見て転移があっても進行が遅いので,まだCT等で見える大きさの転移巣は発見されていないが,CEAの値が5.0を越えて無気味に上がっている。
 なお,CEAも必ずしも大腸癌の発見の役に立つ数値ではない。母親は2004年の暮れの手術寸前の値が4.0の正常値だったのである。CEAやAFPは胎児や癌など成長が著しいと大きくなる指標だそうだが,大腸癌の肝臓への転移の状況を見るのにも役に立つ。
 母親の大腸癌の発見は最終的には便潜血反応の結果だったが,腹の外から手で触って分かるほどの差し渡し5cm大に成長するまで,いままでの毎年の検査では一度も引っかかったことがない。妻に大腸癌が発見されたとき,わが家では親子全員が内視鏡検査をした。しかし,20年ほど前に一度検査した経験から,母親は断固拒否し,自分は持病の心臓病で死ぬと決めていた。
 私の新婚時から,持病を盾に嫁いびりとしか言えない言動を吐いていた母親は,嫁に世話をしてもらえることなく最後を迎えることになる。内視鏡を嫌って大腸癌の発見が遅れたことは,母親の自業自得というか,妻のたった一つの姑に対する反抗だったのかもしれない。

 40才を過ぎた人は誰でも大腸癌になる可能性がある。大腸の内視鏡検査は,通常の健康診断や人間ドックと違い健康保険が使えるので,時間を盗んででも1〜3年に一回の検査をすべきである。他の癌と違い,それだけで危険率を1/10に下げることができる癌である。9割の大腸癌はならずに済む癌である。
 Polypがあってもそれが必ず癌になるとは限らないし,癌化しない過形成polypなどもあるが,癌になる可能性がある腺腫というtypeのpolypは,小さくても検査のときに切除してもらわないと後が怖い。実際には過形成polypも同時に切除することになる。
 10mmを越えたpolypは放置してはいけない。そのように大きく育つこと自体が,癌化が疑われるからである。「おおよそ13mm以上に育ったpolypは全部癌と考える方が安全だ。」と言う専門医もいる。

 なお,大腸の検診の際に絶食するので,胃や十二指腸が痛む人は同時に胃cameraの検査をするとよい。年一回X線撮影用のbariumを飲んでやる集団検診よりはるかに正確に内情が分かる。
 自覚症状があれば保険が適用される。「医師の腕が未熟で,痛い,苦しい。」という人もいるが,硫酸bariumが固まって排便時に苦しい思いをした人も多い。検査の主流は時代と共により有効な方法へと変るべきである。

☆ 拡がり始めたPETによる全身癌検診

 大腸癌に限らないが,全身への転移をCTやMRIだけで発見するのは非常に難しい。最近は放射線による検査の一つである FDG-PET(Positron Emission Tomography)が癌検診の方法として注目されている。FDGはブドウ糖の2番の位置の-OH基をフッ素に置換した物質で,細胞に取り込まれるまではブドウ糖と同じように振る舞うが,細胞内では代謝されないという便利な物質である。
 病院の現場に設置した小型のcyclotronで,放射性の同位元素のF18を作成する。F18は半減期が110分と短く,陽電子を放出する。陽電子はすぐその周りにある通常の電子と結合して鋭いγ線を出す。これを放射線のsensor(γ線cameraなど)で捕らえて,ブドウ糖の集積度を調べる。β線を出さないので放射線障害が比較的少ない検査法である。
 脳や心臓のように細胞の活動量が大きい部位にはブドウ糖が集積するので,放射線が影像によく映る。癌細胞も同じくブドウ糖が集積する傾向が高いので,本来ブドウ糖の集積が低い部位に影像が映れば,癌の可能性が高いというわけである。健康保険が適用されている癌患者の場合は,これだけで全身への転移を探すことができる。

 現時点では日本に100台余りしかないPETの検査機械も急速に普及しはじめており,MRIが普及しはじめたころに情況は似ている。現在国内でPETが設置されている病院のlistには80病院近く載っているが,健康診断を受けられる病院はその半数に及ばない。九州や北海道の病院では患者数が少ないので,tourによる検査を受け入れているところもある。
 2004年7月には新横浜にも大規模なPET検査センターが開設された。ここでは周辺の医療機関からPET検査を専門に請け負っている。受診したい人は通院中の医療機関からの紹介という形になる。
 この装置を2002年の秋から稼働させている東京都板橋区にある西台クリニック画像センターでは健康診断も直接受け付けている。私も西台でPET検査を含む総合検診を受けたが,癌患者以外は健康保険がきかないので,一人半日で約17万円と非常に高額な費用を必要とする。
 癌以外の病気も発見できる人間ドックとどちらが得かという比較は出来ないが,癌以外にも脳血管障害,心臓動脈障害などについても個別に費用がかかるが,西台では検査を受けることができる。ただこれらはPETでなくても検査でき,症状があれば健康保険が使える。自費でもそちらのほうが安価である。

 私が受けたときもほとんどの受診者は癌患者だったが,検査は流れ作業で待たされることもなく順調に進んだ。予約時間は10分間隔で設定されていて,5台のPETを駆使して1日で数10人の検査ができる。この時は,予約待ちも10日ほどで済んだ。ひところあちこちのTVで紹介されたためか,奈良の友人は2004年には検査を半年近く待ったというが,最近はPET検査ができる病院がかなり増えたようで,この西台では1ヶ月程度の待ちで受診できる
 前金を振込むことで受診手続が済んでいるので,到着しだい大便や採尿・身長・体重・血圧などの基本dataを取った後,超音波で甲状腺・肝臓・膵臓・脾臓・腎臓・膀胱・前立腺などのechoを技師が撮る。この間約20分で終了した。これらの臓器はブドウ糖が集まり易いので,PETだけでは診断ができないそうである。実際に胃や大腸など内視鏡で見える部位は,内視鏡で検査したほうがはるかによくわかる。
 そのあと体部(首から腰まで)のCT映像を撮る。話では6mm sliceだということである。本当ならかなり細かい所までが見えるはずである。ただ,妻の場合もそうであったが,以前の画像との比較がないと,CTだけで癌の小さな病巣を発見するのはかなりの技術を必要とする。その後すぐにMRIで腹部の画像を撮った。これも癌が発生し易い内臓の腹部がPETやCTだけでは診断できないからである。
 そしていよいよPETである。FDGをブドウ糖の代わりに静脈注射する。7〜8時間程度絶食したあとに注入するので効率はよいが,それでもこのFDGが体内の癌など細胞活性が高い部位に集まるのに30〜50分かかる。吸収されずに排泄されたFDGは腎臓や膀胱に集まるので,排尿後すぐ検査を受ける。検査機械はCTと同じ要領で回転させたsensorで測って,ブドウ糖の集積部位を30分ほどで画像化する。
 血液検査の血液は,FDGを注射するために針を刺した時点で16mlほど取られた。これは種々の癌markerなどを調べるという。

 私は上記の検査から2年後にも再度検査を受けた。今回は何と同時に実施した便潜血反応が2回とも陽性になった。さっそく内視鏡である。しかし,PETやCTでは異常は発見されていないので,あってもそれほど大きい物ではないと,ゆとりを持って大腸内視鏡検査に望んだ。
 しかし,5mm大ではあったが,通常の頭が丸い過形成polypではない危険性が高いpolypが発見されてしまった。その場で切除したが,1年以上放置して10mm以上に育つと,このtypeのpolypは癌化してしまう可能性が高いとのことであった。

☆ PETでの癌の発見能力と受診頻度

 PETは塊状の癌なら差し渡し5mm大であれば見つけることができると言われている。
 私の妻の経過と私のPET検査の話を聴いた娘の友達が,ぐずる家族を押し切って,アルバイトをして貯めたお金で自分の母親に検査を受けさせたら,3mm大の癌が大腸に見つかったそうである。命拾いである。今後,両親は子供に頭が上がらないだろう。
 この程度の大きさの癌なら,母体となったpolypを含めても20mmに満たない大きさであり,内視鏡で簡単に切除できる。これが30mmとなると開腹手術となり,下手をするとstage IVといわれる転移がある状態にまで進んでいるかもしれない。

 国立癌センターで発表されたdataによると,同センターで2004年から始めたPETを中心とした健康診断により,3.3%の人に何らかの癌が見つかったということである。国立癌センタ−であるから,何らかの自覚症状や身に覚えがある人が検診を受けたのかもしれないが,かなりの高率と言えよう。
 西台クリニック画像センターによると,過去2万例の中で1.5%の人に癌が見つかったという。ここを受診する人は50代がいちばん多く,60代と40代がそれに次ぐという。

 なお,国立癌センターは2006年3月にPETでも85%もの癌の見落としがあるので,万能ではないという極めて政治臭を漂わせたdataを発表している。
 しかし,これはPETでは見つからない種類の癌があることを前提としたdataではないことに注意して欲しい。逆に全検査数に対して15%は,PETでのみ確定診断ができたと見るべきである。PETを併用しないCT等だけの癌検診よりはそれだけより多く見付けることができたと考えてよい。
 実際,PET抜きの検診であってもかなり高額の検診費を必要とする。読映した医師の見逃しも考慮に入れると,二つ以上の方法で癌の存在を探すというのは,正しい手法であると思われる。
 PETはFDGが分裂中などブドウ糖活性が高い細胞に集まるという特性を利用して,癌の判断するものであるため,大腸癌などに多い高分化細胞の癌は成長が遅いため,小さいうちはPETではあまりはっきりとは映像化されない,という特徴を知って,CTやMRI,超音波の検査と併用して癌の確定診断をする必要がある。
 ただ低分化細胞が癌化した場合は成長が早いことがあり,小さな癌でも見付けることができる。逆にCTなどでは観測にかからない大きさのうちに上記の娘の友人の母親のように見つかることがある。
 

☆ PETなどの放射線の影響

一回の検査で受けるX線量の例(平均値mSv)
X線撮影 頭 部 0.1
胸 部 0.3
胃(Barium) 3.3
間接X線 胸 部 0.06
X線透視 0.6
X線CT 頭 部 2.4
胸 部 9.1
上腹部 12.9
下腹部 10.5

 PETはX線による検査に比べると被爆量は少なく,全身一回で一年間に自然界から受ける線量の2〜3mSvと同程度である。
 なお,胎児が100mSv以上の放射線を一度に浴びると,奇形や知能低下を起こす確率が上がると言われている。成人の癌の発生率は,一度に200mSv以上の被爆があった場合に,線量に応じて上昇するという。
 年間5mSv程度の線量を浴びた場合,癌の発生率は却って低下した,という報告すらある。免疫活性が上がって,異常細胞を除去する能力が上昇するのかもしれない。
 γ線の強度はCTのX線より弱いので時間がかかる。私の場合は頭蓋骨の下から腰までを7回に分けてcameraに納めた。1回の撮影で200回位ガチャガチャ音がした。約30分かかった。

☆ 私の検査結果

 私の検査の結果は,「現時点でPETとCTおよびMRI,超音波echoを総合した範囲では癌と認められる大きさの腫瘍はない。」とのことであった。「やれやれ。」である。妻の癌が発見されて以来初めてホッとした瞬間であった。ただいくつかの本人も知らない身体の衰えや変異が見つかった。これについてはどうするかは自分の問題であるが,人間ドックの半分位の検査結果が得られたと思われる。
 PET検査は,高額な自己負担金と実施している機関の少なさのために,すべての人には勧められないが,旅行業者が企画している韓国でPETを受けるtourに参加する位なら,東京への旅費を含めても安価である。施設の近郊の人なら半額以下で済む。健康のためとはいえ,旅行業者にむざむざと儲けられる必要はない。韓国旅行ならもっと格安の旅行がいくらでもある。

 ただPETを含む総合検査で癌が見つからなくても,癌細胞がないということを保証している訳ではない。検査に引っかかる程度の大きさの癌がなかった,ということである。癌の切除手術を受けたときも,それで根治したわけではない。検査で見つかった癌は取れたということである。
 以後,どこかに潜んでいるかもしれない散らばった癌細胞が増殖しないように,自分の免疫力で押え込む生活をしなくてはならない。癌の種類によっては増殖防止に抗癌剤が有効なこともある。現在日本で認可されている抗癌剤は,大腸癌にはあまり有効性を示さない,とされている。

☆ 新しい情報

 去る2005/9/8に,国立がんセンターは,40〜69歳の男女約十万人を対象とした9年間に渡る,大規模疫学調査の結果を発表した。
 それによると,体重(kg)/身長2(m)(=BMI)が27以上男性は,同じ値が25未満の男性の1.4倍も大腸癌になったという。
 岩手・長野・沖縄など全国の10の地域で肥満と大腸癌発生の関連について調べた結果,9年間におよそ一千人が大腸がんになったという。百人に一人の割合である。なお,女性では,肥満と大腸癌の関係は明らかにはならなかったそうである。

<大腸がん>便秘とは無関係 厚労省研究班、6万人調査

12月20日21時57分配信 毎日新聞


 日常的に便秘気味や下痢気味でも、大腸がんになる率は、便通が正常な人と変わらないことを、厚生労働省の研究班(担当研究者・大谷哲也群馬大大学院助手 =公衆衛生学)が6万人規模の追跡調査からまとめた。米医学誌「疫学紀要」12月号に発表した。以前は、大腸がん患者と患者以外を比べた調査などから、便 秘だと大腸がんになりやすいとの説があった。
 研究班は93年から94年にかけ、全国の40歳から69歳までの男女に、便通の回数や日ごろの便の状態などを聴いて、計約5万8000人が回答。01年 末まで追跡し、このうち男女計479人が大腸がんと診断された。過去の回答と照らし合わせた結果、便通が「週に2、3回」という便秘の人が大腸がんになっ た率は、「毎日1回」の人や「1日に2回以上」の人と変わらなかった。
 大谷助手は「週に2、3回程度の便通がある便秘なら、大腸がんを心配しなくてもよいだろう。ただ、週に1度程度の人や、水のような下痢が毎日続く人は、がんに限らず病気の可能性があり、医師にかかることを勧める」と話している。【高木昭午】