癌一般の最近の研究動向(2021年1月12日更新)
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Big topics
2016/11/17 近赤外線でがん細胞が消滅
2015/3/12 がん診断,尿1滴で
2013/10/15 がん細胞の分裂を止める薬
2011/10/16 がんを抑制するREIC遺伝子
2009/11/20 採血だけで消化器がんを判定
2007/4/48 大腸癌抗がん剤「アバスチン」承認

【AIでがん発見、熟練医並み 見逃し防止へ医療機器承認】(朝日新聞)2021年1月12日

 国立がん研究センターは,人工知能(AI)を使って大腸の内視鏡画像から早期の大腸がんやがんの手前の段階のポリープを見つけることに成功し,医療機器として承認されたと発表した。 25万枚の画像を使った学習で,熟練医なみの実力を備えたという。
 同センターによると,大腸がんになりうるポリープの発見率が1%上がれば,命にかかわる大腸がんが5%減るとされる。
 医師の技術のばらつきによる見逃しを減らそうと,同センターとNECは共同でAIを使って診断を補助するソフトウェアの開発を進めてきた。
 同センターの山田真善医師らは,約1万2千種類の早期がんやがんになる前のポリープの画像25万枚分をAIに学習させた。 有効性を検証したところ,判断しやすいタイプの病変は95%を正しく検出し,熟練医と同等レベルに達していた。 判断しにくいタイプの病変でも78%を検出した。 山田医師は「人間が認識しにくいタイプの画像をさらに学習させて精度を高めたい」と話す。

 大腸の内視鏡画像をAIが診断補助する医療機器は,内視鏡メーカーのオリンパスや富士フイルムに次いで三つ目の承認という。


【保険適用となった! 光でがん細胞だけを破壊する「がん光免疫療法」】(夕刊フジ)2021年1月6日

  【ここまで進んだ最新治療】

 米国立衛生研究所(NIH)の主任研究員である小林久隆医師が考案した「がん光免疫療法」が,世界に先駆けて日本で承認され,昨年11月に保険適用になった。 外科治療・抗がん剤治療・放射線治療・免疫治療薬に続く「第五のがん治療法」として注目されている。
 今年から臨床現場での実施がスタートする見込みだが,どんな治療法で,どの程度の効果があるのか。 国内の臨床試験を担当してきた国立がん研究センター東病院・頭頸部内科の田原信科長が説明する。

 「まず患者さんに『アキャルックス』という薬剤を点滴投与します。 すると薬剤は,がん細胞だけに結合します。 そして24時間後に専用機器を使って,がんの部分に近赤外線を照射すると化学反応を起こして,がん細胞だけが破壊されるのです。 治療効果は速く,30分後にはがん細胞は壊死し,1週間後くらいには死滅したがんの塊がはがれ落ちます」

 アキャルックスは「抗体」と「光感受性物質」の複合体。 抗体の作用によって,がん細胞表面に出現している「EGFR」というタンパク質(抗原)と結合する。 そして,近赤外線に反応して,がん細胞を破壊するのは光感受性物質の作用だ。
 近赤外線はテレビのリモコンなどに使われている光で,手をかざしても熱くもなく,人体には無害。 この光を体の表面にあるがんには外部から照射し,体の深部にあるがんには光ファイバーを差し込んで照射する。 照射時間は5分ほどだ。
 今回の保険適用の対象は「切除不能な局所進行または局所再発の頭頸部がん」。 頭頸部がんは、鼻・口・のど・あご・耳などにできるがんで,6割がステージⅢ以上の進行がんで見つかる。 治療して治っても約半数が3年以内に局所再発するという。

 「光免疫療法は頸動脈にがんが浸潤している場合は禁忌ですが,正常細胞は反応しないので副作用や全身への影響が少ないのが大きな利点です。
 米国の30人を対象とした臨床試験の成績では,がんが完全消失したのが4人,縮小が9人で奏効率は44.8%です。 80%以上はがんの進行が止まっています」

 光感受性物質の破壊によってがん細胞に穴が開くと,放出された物質の情報を免疫細胞がキャッチして,免疫が活性化し,残ったがん細胞にも攻撃を加えるという二段構えの効果も期待されている。 そのため「光+免疫」という名前が付いている。 しかし,免疫による全身的な効果は,人ではまだ確認されていないという。
 機器を取り扱う医師のトレーニングも必要なので,最初は臨床試験に参加してきた全国10施設ほどから開始するとみられている。 1回の治療費用は600万円弱で,高額療養費制度を使うと自己負担は最大で30万円弱になる。 現在,「胃がん」・「食道がん」に対しても臨床試験が進められている。


【「液体のり」放射線治療でも期待の星 がん細胞ほぼ消失】(朝日新聞)2020年1月23日

 がん細胞に薬剤を取り込ませておき,中性子をあててがん細胞を壊す放射線治療で,薬剤に液体のりの主成分を混ぜると治療効果が大幅に高まることを東京工業大のチームが発見し,23日発表した。 薬剤が理科の実験でつくったスライムのようになり,がん細胞にとどまりやすくなるらしい。 マウスの実験では大腸がんがほぼ消失したという。
 この放射線治療は、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)。 国内10ヶ所弱の施設で臨床試験が進んでいる。 ホウ素化合物の薬剤を注射してがん細胞に取り込ませておき,外から中性子を照射して破壊する。 正常な細胞へのダメージが少ないことから,次世代の放射線治療として期待されている。
 しかし、ホウ素化合物ががん細胞から流出しやすいのが課題だった。 チームは、ホウ素化合物に液体のりの成分であるポリビニルアルコール(PVA)を混ぜると,スライムをつくるのと同じ原理で分子が長くなることを応用。 がん細胞が薬剤を取り込みやすい形にした。
 その結果,がん細胞の中に入るホウ素化合物の量は約3倍に。 とどまり続ける時間も長くなるのが確認できた。 大腸がんのマウスで試したところ,がん細胞がほとんど増えなくなり,「根治に近いレベルを実現」できたという。

 東工大の野本貴大助教は「PVAを混ぜるだけなので製造しやすく,実用性は高い。 人の臨床応用につなげたい」と話している。
 この成果は米科学誌Science Advancesに発表された。


【血液1滴でがん13種99%検出 東芝,2020年から実証試験】(共同通信)2019年11月25日  東芝は25日,1滴の血液から13種類のがんいずれかの有無を99%の精度で検出できる技術を開発し,2020年から実証試験を始めると発表した。 東京医科大や国立がん研究センターとの共同研究に基づく成果で,数年以内の実用化を目指す。  血液中に分泌される「マイクロRNA」と呼ばれる分子の種類や濃度を検査し,乳がんや膵臓がん・食道がん・胃がん・大腸がんなど13種のがんについて,ごく初期の段階でも発見できる。 実用化すれば、生存率が高まることが期待される。  東芝はRNAを短時間で簡便に検出できるチップや小型機器の開発に成功した。 2時間以内に結果が判明するという。 【『がん組織を簡単に発見,副作用もない』世界初のマイクロ波を使った「乳がん検査機器」】(関西TV)2019年9月16日  世界初となるマイクロ波を用いた乳がんの検査機器のモデル機が完成したと神戸大学の研究グループが発表した。  神戸大学の研究グループが開発したのは,世界で初めてマイクロ波を使って胸の中にあるがん組織を3D画像で映し出す乳がん検査機器。 50代未満のアジア人女性の約8割は乳房に乳腺がぎっしりと詰まっていて,x線で撮影する従来の「マンモグラフィー」ではがん組織を見つけにくいとされているす。  一方,マイクロ波を使った検査機器を使えば,がん組織を簡単に見つけられるうえ,被ばくなどの副作用もないという。 今回のモデル機の完成で開発が加速し,早ければ2年後にも国の認可を受け実用化される見込みだ。 機器を開発した 神戸大学 木村建次郎教授談:  検知不可能だったもの(がん)が検知可能になる。進行が早い若い女性に(がんが)小さいうちから見つけて,“まだ小さいからすぐオペ(手術)する必要ないかもしれない,来月もう一回測ろう”と,乳がんをコントロールできるようになるのが女性のメリット。  モデル機を使った新しい検査は,神戸大学医学部付属病院のほか,堺市にあるレディースクリニックやぎなど7か所で受けられるようになるという。

【世界初、唾液のにおいで口腔がん診断 北九州市立大と九州歯科大開発】(西日本新聞)2018年12月11日

 北九州市立大と九州歯科大(北九州市)の研究グループは10日,唾液に含まれるにおい成分から口腔(こうくう)がんを診断する技術を世界で初めて確立したと発表した。 簡易で早期発見が可能な診断方法として期待され,臨床試験を経て,医療現場での実用化を目指す。
 グループによると,初期症状が出にくい舌がんなどの口腔がんは早期発見が難しく,転移しやすい。 5年以上の生存率は50%以下とされる。 国内の患者は増え続け,2016年は7675人が死亡した。

 研究では,唾液のにおいのもととなる12種類の揮発性有機化合物が,
  (1)口腔がん患者から検出できる成分
  (2)健康な人から検出できる成分
  (3)両方から検出できるが検出量に大きな差がある成分
の3群に分かれることを特定。
 患者12人と健康な人8人の唾液を分析したところ,ともに9割以上の確率で判別できた。 唾液の採取は体への負担が少なく,時間もかからないため,スクリーニングに効果的という。 将来的には,息を吹きかけるだけでがんの診断ができる計測機器の開発も可能となる。

 研究を主導した同市立大国際環境工学部の李丞祐(리승우)教授は,

「病気が持つ『におい情報』を明確にできたことが大きい。 口腔がんに関係するにおい成分が特定できたように,肺がんや胃がんのにおいも特定できる可能性がある」

と話した。


【血液1滴で、卵巣がんを98.8%の精度で判別…国立がん研など成功】(ヨミドクター)2018年10月18日

 国立がん研究センター(東京都中央区)などの研究teamは17日,血液1滴を使った検査法で卵巣がんを98.8%の高率で判別することに成功したと,国際科学誌『Nature Comminucations』に発表した。 卵巣がんは自覚症状が出にくいため,早期発見や治療向上につながる成果として期待される。
 Teamは,細胞から血液中に分泌される微小物質micro RNAの変動paternが,がんの有無の判別に使えることを突き止め,13種類のがんで正解率95%以上という検査法を開発している。
 この検査法で、卵巣がん患者428人に他のがん患者、がんがない人を合わせた4,046人の血液を使って,卵巣がん患者の判別精度を調べた。 その結果,がんの進行度を4段階で示すstage別では,初期のⅠ期で95.1%、Ⅱ~Ⅳ期では100%判別できた。
 血液を使ったがんの早期発見を研究する九州大病院別府病院の三森功士(みもりこおし)教授(消化器外科)は「4,000例を超えた大規模解析で非常に信頼度の高い成果と言える。卵巣がんと健常者のほか,他のがんとも区別できることを示した点が重要な発見だ」としている。


【「がんを凍らせ死滅させる」凍結治療に密着】(日本テレビ)2018年7月30日

 徳島県の大学病院が新しい「がん治療」に取り組んでいる。それは「がんを凍らせる」という「凍結療法」。 現場にcameraが入った。 冷やした針でがんを凍らせ死滅させるという新しいがんの治療。
  執刀医の徳島大学病院・岩本誠司医師「でっぱった様に見える黒っぽいところ,ここが腎臓がんのところです」
 午後2時前,腎臓がんの患者の治療が始まった。 背中の一部だけに麻酔をかける。 患者には意識があり、医師が声を掛けながら治療を進める。
  岩本医師「今から針、刺していきますからね」
 CT画像でがんの位置を確かめながら,慎重に針を刺す場所や向きを決める。 画面の中央,白く見えるのが腎臓にできた“がん細胞”だ。 医師が刺した針が,がん細胞めがけ伸びていき見事に刺さった。 細い針に特殊なgasを通して冷やしていく。針がみるみる凍りついていくのが分かる。 針の先はminus 40℃以下まで下がるという。凍傷になるのを防ぐため皮膚にはお湯をかけ続けなければならない。
  岩本医師「この白いところが腫瘍。その周りにぼんやり黒いところがある。黒いところが凍結できている範囲」
 まわりの細胞もわずかに凍らせることでがんを残さず退治する。
 岩本医師「治療している間、痛くなかった?全然痛くなかったですか。よかったです」
 凍った針を溶かして抜くまで凍結治療にかかった時間は約2時間。
  岩本医師「画像上は完全に制御できています。 本日の判断では完全に治療できている」


【将来,がんの8~9割の治療が可能に/確実に効果が期待できる仕組み――開発・治験の2氏に聞く】(毎日新聞)2018年1月13日

 このnewsは【近赤外線でがん細胞が1日で消滅,転移したがんも治す】の続報である。

 近赤外光と新たに開発した薬剤を使ってがんを治療する「がん光免疫療法」の治験が,日本で3月に始まることになった。 米国で先行して2015年に治験が始まったこの治療法は,がん細胞をピンポイントで攻撃でき,副作用が少ないうえ,対象となるがんも幅広くなる可能性があるため,国内の患者の期待は高い。
 この治療法を開発した米国立衛生研究所(NIH)の小林久隆主任研究員,国内初の治験を実施する国立がん研究センター東病院(千葉県柏市)の土井俊彦副院長に,それぞれ治験や治療法への期待を聞いた。


【血液1滴,がん13種早期発見…3年めど事業化】(読売新聞)2017年7月24日

 国立がん研究センター(東京都)などは,血液1滴で乳がんなど13種類のがんを早期発見する新しい検査法を開発し,来月から臨床研究を始める。
 同センターの研究倫理審査委員会が今月中旬,実施を許可した。 早ければ3年以内に国に事業化の申請を行う。
 一度に複数の種類のがんを早期発見できる検査法はこれまでなく,人間ドックなどに導入されれば,がんによる死亡を減らせる可能性がある。
 検査法では,細胞から血液中に分泌される遺伝子の働きを調節する微小物質(Micro RNA)を活用する。 がん細胞と正常な細胞ではMicro RNAの種類が異なり,一定期間分解されない。
 同センターや検査技術を持つ東レなどは,がん患者ら約4万人の保存血液から,乳房・肺・胃・大腸・食道・肝臓・膵臓・卵巣・前立腺・胆道・膀胱・骨軟部・神経膠の13種類のがんで,それぞれ固有のMicro RNAを特定した。 血液1滴で,がんの病期(Stage)が比較的早い1期を含め,すべてのがんで95%以上の確率で診断できた。 乳がんは97%だった。


【がん抑える化合物発見 九州大など、数年内に新薬開発目指す】(西日本新聞)2017年5月3日

 九州大学生体防御医学研究所の福井宣規教授や東京大・理化学研究所などのチームが難治性がんについて,がん細胞の生存や転移に重要な役割をしているタンパク質を突き止め,この働きを阻止する化合物を見つけたと発表した。数年内に治療薬の開発を目指す。2日付の米科学誌セル・リポーツ電子版に論文を掲載した。

 チームが研究対象としたのは,変異したがん遺伝子をもつがん。変異遺伝子は膵臓がんのほとんどや大腸がんの約5割で見られるなど,がん全体の3分の1で確認されている。有効な治療薬は開発されておらず,難治性とされる。
 これまで,変異遺伝子をもつがんの増殖や転移は,細胞の形態変化を促す分子“RAC”の活性化が原因であることが分かっていた。しかし性質上,RACを直接コントロールする薬の開発が難しいことから,RACを活性化させている分子を見つけ出すことが課題だった。

 福井教授らは,RACに関係する多数の分子のうち,“DOCK1”というタンパク質に注目。DOCK1を発現しないよう遺伝子操作したところ,がん細胞の周辺組織への浸潤や細胞外からの栄養源の取り込み活動が低下し,がん細胞の生存度が落ちたという。
 このことから、チームはDOCK1がRACの活性化に大きな影響を与えている分子だと判断,DOCK1の活動を抑えればRACの活性化を防げると考え,約20万種の化合物の中からDOCK1の活動を阻害する“TBOPP”を探し出した。がん細胞を移植したマウスに投与したところ,転移や腫瘍の増大が抑えられ,明白な副作用もなかったという。

 研究チームは“変異遺伝子をもつがんの治療に役立つだろう。実証を重ね,効果的で安全な抗がん剤を作り出したい”としている。


【近赤外線でがん細胞が1日で消滅,転移したがんも治す】(Science Translational Medicine)2016年11月17日

 人体に無害な近赤外線を照射してがん細胞を消滅させる新しい治療法の開発状況が,米国の科学誌Science Translational Medicineで発表された。
 それは“近赤外光線免疫治療法”と言い,米国立がん研究所(NCI:National Cancer Institute)の小林久隆・主任研究員が開発した。がん患者を対象にする臨床試験も順調に進み,2~3年後の実用化を目指しているそうだ。

 がん治療法には,“外科手術・放射線療法・化学療法”の三つがあるが,外科手術は患者の身体への負担が大きく,他の二つは副作用がある。転移・再発防止などにも課題があった。これに対し、小林氏の開発した新しい治療法はがん細胞の死滅率が極めて高く,ほとんどのがんに適用できる。やっかいな転移がんにも有効だ。副作用がなく、必要な設備や薬品は安価なので,医療費の削減にも大いに貢献しそうだ。

 オバマ大統領が2012年の一般教書演説でこの治療法の発見を取り上げ,「米国の偉大な研究成果」として世界に誇ったことを覚えている方も多いだろう。その後順調に研究開発は進み,NCIで20年越しの研究が大詰めを迎えている小林氏に,この治療法の効果や革新性、将来展望などを伺った。

 この治療法は,がん細胞だけに特異的に結合する抗体を利用します。その抗体に,近赤外線によって化学反応を起こす物質(IR700)を付け,静脈注射で体内に入れます。抗体はがん細胞に届いて結合するので,そこに近赤外線の光を照射すると,化学反応を起こしてがん細胞を破壊します。
 近赤外線は,波長が可視光と赤外線の中間に位置する光です。治療には近赤外線のうち,波長がもっとも短く(700nm、1nmは10億分の1m)エネルギーが高い光を使います。IR700はフタロシアニンという色素で,波長700nmの近赤外線のエネルギーを吸収する性質を持っています。
 その化学反応で変化したIR700ががん細胞の膜にある抗体の結合したたんぱく質を変性させ,細胞膜の機能を失わせることによって1~2分という極めて短時間でがん細胞を破壊します。その様子を顕微鏡で見ると,近赤外線の当たったがん細胞だけが風船がはじけるようにポンポンと破裂していく感じです。

 この治療法には,ほぼ副作用はなく,安全性が確認されています。これはとても重要なポイントです。そもそもがん以外の正常細胞には抗体が結合しないので,近赤外線が当たっても害はありません。また抗体が結合したがん細胞でも,この特殊な近赤外光が当たらなければ破壊されません。
 つまり抗体が結合して,かつ光が当たったがん細胞だけを破壊するという高い選択性を持つ治療法なのです。これほど選択性が高いがんの治療法は過去にありませんでした。

 近赤外線はテレビのリモコンや果物の糖度測定などに使われるおなじみの光です。可視光と違って人体をある程度深くまで透過しますが,全く無害です。抗体は,米国食品医薬品局(FDA)ががん治療に使うものを20数種類認可しており,毒性が少ないことが証明済みなので,現在は,まずこの中から選んで使っています。
 IR700は,本来は水に溶けない物質で体内に入りませんが,中にシリカ(ケイ素)を入れて,水に溶ける性質に変えています。1日で尿中に溶けて排出されるので,これも人体には無害です。

 皮膚がんのような身体の表面に近いものだけでなく,食道がん,膀胱がん,大腸がん,肝臓がん,すい臓がん,腎臓がんなど,全身のがんの8~9割はこの治療法でカバーできると思います。近赤外線の照射はがんの部位に応じて,体の外から当てることもあれば,内視鏡を使うこともあります。
 がんの大きさが3cmを超えるような場合は,がんの塊に細い針付きのチューブを刺し,針を抜いて代わりに光ファイバーを入れ,塊の内側から近赤外線を照射します。

 臨床試験の認可はFDAから2015年4月に出ました。治療法の毒性を調べるフェーズ1は,頭頸部の扁平上皮がんの患者さん10人を対象にして行い,全く問題なく終わりました。
 この10人はがんの手術をした後に放射線治療や化学療法をやっても再発し,どうしようもなくて,私たちの臨床試験に参加した方たちです。現在は30~40人の患者さんを対象に治療効果を調べるフェーズ2に入ったところです。

 この治療法には副作用がなく,抗がん剤のような蓄積量の上限がないので,何回でも繰り返し治療することができます。実際にフェーズ2では,既に一度で治りきらなかった患者さんに繰り返しの治療を行っています。
 この先,一般的には従来方法との比較検討をするフェーズ3に進むのですが,もしフェーズ2で顕著な効果が出れば,フェーズ2を300人程度まで拡張してフェーズ3を省略し,治療法としての認可を受けられる可能性があります。私としてはこの過程を経て2~3年後に実用化する計画です。

【がん患者 尿中物質の量に違い 日立など 新たな早期発見に道】 (日本経済新聞)2016年6月14日

 日立製作所と住友商事子会社の住商ファーマインターナショナル(東京・中央)は14日,がん患者の尿に含まれる脂質や糖などの量が健康な人とは異なることを突き止めたと発表した。 がんを早期発見する尿検査の開発につながる成果で,今後,乳がんを対象に実用化を進める。
 乳がんと大腸がんの患者各15人,健康な人15人の尿中に含まれるさまざまな物質の量を,微量な物質を精密に測定できる質量分析計という装置で細かく調べた。
 尿には1,300種類以上の物質が含まれるが,このうちがん患者と健康な人とで量が違う物質を約10種類つきとめた。 尿中物質の量を測ることで、がんを早期発見できる可能性があることがわかった。
 今後,乳がん患者200人以上の尿を取って臨床データと比較し,早期の乳がん患者の尿で変化している物質を明らかにする計画だ。
 将来は自宅や検診などで尿を採り,検査センターなどに送って解析することで,乳がんの疑いがある患者を早期発見する検査システムの開発につなげる。


【がん細胞だけを狙い撃ち、放射線治療が最終治験】(読売新聞)2016年1月5日

 国立がん研究センター中央病院(東京都)と総合南東北病院(福島県)、大阪医科大(大阪府)の3病院が今月から、がん細胞だけを狙い撃ちする放射線治療「ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)」の実用化に向けた最終段階の臨床試験(治験)を始める。
 悪性脳腫瘍を再発した患者を対象に、生存率などから治療効果を検証し、早ければ5年後に入院費などの一部保険がきく先進医療の認定を目指す。
 BNCTは、がん細胞に取り込まれやすいホウ素薬剤を患者に点滴し、体への影響が少ない中性子線を照射する。ホウ素は、中性子線を吸収して核分裂した際 に放射線を出し、がん細胞を内部からたたく。放射線の射程は細胞1個分ほどで、周囲の正常な細胞を傷つけにくいとされる。


【オオキンケイギクに抗がん作用 岐阜大・纐纈教授発見】(岐阜新聞Web)2015年12月30日(水)

 岐阜大工学部の纐纈守教授(54)=天然物化学=の研究グループが、例年5~7月に鮮やかな黄色に咲き誇るオオキンケイギクの花に抗がん作用のある有用 物質が含まれていることを突き止めた。県内全域に生育域を拡大している特定外来生物で、纐纈教授は「有効利用により駆除に弾みが付けば」と話している。
 研究は2年前に着手。岐阜市や近郊でオオキンケイギクを採取し、花をアルコールに漬けて含有成分を抽出した。さまざまな成分を分離・精製したところフラボノイド系の化合物6種類を確認した。
 フラボノイドは黄色い色素として存在する天然の有機化合物で、薬理作用や健康増進効果が報告されている。オオキンケイギクの含有量は刺し身などを飾る食用のキクの約5~6倍、観賞用キクと比べても倍以上あった。
 実験では培養したヒトの白血病細胞に各化合物を投与し観察。うち「4-メトキシランセオレチン」を与えた細胞は2日後には約20%に急減した。市販抗がん薬と同等の強い効果で、DNA鎖を切断し細胞死に導いたと考えられるという。
 4-メトキシランセオレチンは他ではほとんど報告例のない化合物で、纐纈教授は「オオキンケイギクは希少なフラボノイドの供給源。安全性を確認し、効果を高めて薬にする可能性を見いだしたい。花以外の部位からも役立つ成分を探したい」と語った。
 纐纈教授によると、オオキンケイギクから抗がん作用を見いだした研究は、他に例がないという。研究は岐阜大が推進する地域貢献につながる研究プロジェクトに採択されており、学内の成果報告会で発表した。

【オオキンケイギク】 北米原産のキク科の多年草。日本には1880年代に観賞や緑化用で持ち込まれた。一度定着すると在来の野草を駆逐し、景観を一変さ せるとして外来生物法で栽培や運搬、販売が原則禁じられ、違反すると罰則もある。日本生態学会が生態系などへの影響が特に大きい生物100種を指定した 「日本の侵略的外来種ワースト100」にも選ばれている。


【大腸がん、アスピリンで予防…検証へ臨床試験】(読売新聞)2015年11月30日(月)

 解熱鎮痛薬として知られる「アスピリン」の大腸がん予防効果を確かめる7,000人規模の臨床試験を、国立がん研究センター(東京都)や大阪府立成人病センターなどのチームが始めた。
 数百人規模の研究ではすでに確認されている効果をさらに詳しく調べて予防法の確立を目指す。研究チームによると、別の病気の治療に使う薬でがんを予防する試みは初めて。
 臨床試験は、日本医療研究開発機構の支援で、10月に始まった。研究チームの代表を石川秀樹・京都府立医大特任教授が務め、全国約20施設が参加している。
 計画によると、大腸がんになる危険性が高い大腸のポリープ(腺腫)を切除した40~69歳の7,000人が対象。ポリープの大きさが1センチ以上なら、25%ががんになるとされる。


【卵巣がん新薬、患者1割の腫瘍消失】(読売新聞)2015年9月9日(水)

 免疫を再活性化するタイプの新しいがん治療薬の投与により、卵巣がん患者の一部で腫瘍を消失させる効果を臨床試験(治験)で確認したと、京都大の浜西潤三助教(婦人科腫瘍学)らのグループが発表した。
 この治療薬は小野薬品工業が昨年9月に発売したニボルマブ(商品名オプジーボ)。免疫反応のブレーキを解除してがん細胞を攻撃するよう体内で働き、腫瘍 を縮小させる。皮膚がんの一種である悪性黒色腫の治療薬として承認された。現在、肺がんで適応拡大の承認申請がされている。
 グループは、卵巣がんの手術後にがんが再発し、抗がん剤も効きにくくなった患者20人に対する治験で、この薬を2週間ごとに計4回投与。2人は腫瘍が完 全に、1人は部分的に消えた。6人に腫瘍が大きくならないという抑制効果があった。一方、10人は効果が全く見られず、残りの1人は評価ができなかった。
 論文は9日、米医学誌電子版に掲載された。
 杉山治夫・大阪大特任教授(腫瘍免疫学)の話「一部とは言え、抗がん剤治療が期待できない患者に効果があったのは大きな成果。免疫の強さには個人差があり、実用化するには薬が効きやすい人を絞り込む研究も必要だ」


【がん診断、尿1滴で=線虫の習性利用―10年後の実用化目指す・九大など】(時事通信)2015年3月12日(木)

 体長1ミリほどの線虫を使い、がんの有無を1滴の尿から高い精度で判別することに成功したと、九州大などの研究チームが発表した。早期のがんも発見で き、実用化されれば簡単で安くがん診断が可能になるという。研究チームは「精度の向上などを進め、10年程度で実用化を目指したい」としている。論文は 11日付の米科学誌プロスワンに掲載された。
 がん患者の呼気や尿には、特有のにおいがあることが知られており、「がん探知犬」を使った診断手法が研究されている。しかし探知犬は育成に時間がかかり、普及には課題が多い。
 九大の広津崇亮助教と伊万里有田共立病院(佐賀県有田町)の園田英人外科医長らの研究チームは、体内に寄生した線虫アニサキスを手術で取り除こうとした際、未発見の胃がん部分に集まっていたことに着目した。
 研究チームは、実験動物として使われる線虫C・エレガンスを用意。この線虫は犬と同程度の嗅覚受容体を持ち、好きなにおいに集まり、嫌いなにおいから逃げる習性(走性行動)がある。事前の実験で、がん細胞のにおいを好むことが分かった。
 研究チームは健常者218人、がん患者24人の尿を採取。実験皿の上に1滴ずつ垂らし、線虫の走性行動を調べた結果、健常者207人と、がん患者23人を正しく判定した。がん患者をがんと診断できる確率は95.8%に達し、がんの種類や進行度にかかわらず判別できた。
 血液を調べる腫瘍マーカーで、同じ患者らを検査した結果は16.2~25%だった。 
 がん患者24人のうち5人は、採尿時にはがんが見つかっておらず、従来のがん検診で見つからない早期がんも判別できる可能性が高いことも分かった。


【「ウイルス療法」で脳腫瘍治療 東大が国内初の治験へ】(朝日新聞デジタル)2014年12月19日

 がん細胞をウイルスに感染させて破壊する日本初の「ウイルス療法」の治験を脳腫瘍の患者で始めると、東京大医科学研究所が18日、発表し た。ウイルス療法は手術、抗がん剤治療、放射線治療に次ぐ第4の治療法として期待されている。研究チームは、3~4年以内の実用化を目指す。

 対象は、脳腫瘍の中でも最も治療が難しい「膠芽腫」で、手術でがんを摘出後、放射線と抗がん剤を使ってもがん細胞が残っていたり、再発し たりした30人。口唇ヘルペスウイルスの遺伝子を改変し、がん細胞だけで増殖し、正常な細胞では増えないようにした。このウイルスを針で腫瘍に注入して、 がん細胞に感染させて破壊する。

 安全性を確認するための臨床研究では、副作用はほとんどなかった。通常診断から1年ほどの平均余命だが、10人中3人が3年以上生存した。今回は医師主導で治験を行い、生存期間がどの程度延びたか、治療効果をみる。

 この治療用に改変したウイルスは、あらゆる固形がんに応用できる可能性があるという。現在、前立腺がんと嗅神経芽細胞腫でも臨床研究を進めている。藤堂具紀教授(脳腫瘍外科)は「製薬企業の協力を得て実用化を目指したい」と話す。


【ワクチン新治療確立へ 神奈川県立がんセンターが治験開始】(神奈川新聞) 2014年9月11日

 神奈川県立がんセンター(横浜市旭区)は10日、膵臓(すいぞう)がんが進行して有効な治療法がない患者に対し、がんワクチンの投与による新たな治療法の確立に乗り出す考えを明らかにした。手術、放射線治療、化学療法に次ぐ第4のがん治療として国内外から注目を集めている分野。4月に新設した「がんワク チンセンター」で近く治験(治療の臨床研究)を始め、実用化に向けて効果や副作用の検証を進める。

 がんワクチンは、人間が本来持っている免疫の働きを活性化し、がん細胞を排除する治療法。近年、がん細胞の表面に、がんの目印となるような分子(ペプチド)が見つかり、臨床研究が進められている。
 今回、治験で使用するのは、がん細胞表面の分子を分析して作られた「がんペプチドワクチン」(サバイビン2B)。注射による投与で、がん細胞を攻撃するリンパ球の一種「キラーT細胞」を活性化させる効果があるという。

 県立がんセンターの大川伸一がんワクチンセンター長は「がんの進行を抑える効果がすでに確認されている。さらに検証を進め、将来の薬事承認を目指したい」と話している。
 治験では、(1)サバイビン2Bを皮下注射するグループ(2)免疫力を高める効果があると見込まれるインターフェロンと併用するグループ(3)どちらも 使用しないグループ-に分けて効果を比較する。東京大学医科学研究所付属病院、札幌医科大学付属病院と共同で実施し、患者71人を対象にする。また、食道 がんや膵臓がんに関する2種類のがんワクチン臨床試験も行う。

【がんの征圧は間近か!? - 鳥取大、悪性度の高い未分化がんを正常細胞に転換】(マイナビニュース) 2014年1月28日

 鳥取大学は1月25日、クローニングしたRNA遺伝子に関連して発現変動する単一の「マイクロRNA」を悪性度の高い未分化がんに導入したところ、容易に悪性度を喪失させることができ、正常幹細胞へ形質転換できることを発表した。
 成果は、鳥取大 医学部病態解析医学講座 薬物治療学分野の三浦典正 准教授らの研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、1月24日付けで英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。

 三浦准教授は、自身のクローニングした遺伝子がRNA遺伝子であり、がんの第1抗原と目されてきた「ヒトテロメレース逆転写酵素遺伝子(hTERT)」と 関連して、特に未分化なヒトがん細胞において、その発現を制御させる性質を持つ特異な遺伝子として、また発がんやがんの悪性度に関わる遺伝子として機能解 析をこれまでしてきた。
 また、「未分化型悪性黒色腫」でも当該RNA遺伝子が増殖抑制できることを、製剤候補として「ハイドロゲル」や「アテロコラーゲン」を用いて確認してき た。そして今回、そのRNA遺伝子を「shRNA法」という遺伝子発現を抑制する手法により、10種程度のヒトマイクロRNAによって発現変動することが 究明されたのである。そしてその1つ1つをがん細胞の中へ導入することで、最もがんを制御できる有効なものが検討された次第だ。その結果「miR- 520d」が三浦准教授らが"驚異的"とも表現する現象を誘導したのである。

 2012年2月に、京都大学の山中伸弥教授らが当初iPS作製に使用した「293FT細胞」、または未分化な肝がん細胞、膵がん細胞、脳腫瘍、悪性黒色腫 細胞で、球状の幹細胞または「がん幹細胞様」の細胞へ容易に変化させ、その細胞は「P53」というがん抑制遺伝子を高発現していることが見出されている。 それまでは、マイクロRNAのがんや再生医療の報告として、「miR-302」family、「miR-369」「200c」に関して多数種の併用でリプ ログラミングの試みがなされているが、1つでこのような効果をもたらす報告はなかった。
 今回の研究では、まず未分化な肝がん細胞がmiR-520dにより、12時間程度でP53、Nanog、Oct4陽性の細胞へ変化し、miR-520d導 入細胞がマウスでそのがんとはまったく異なる組織(奇形腫や正常肝臓組織)を形成したり、腫瘍をまったく形成しなかったりすることが確認されたのである。 高分化型がんでも1カ月程度で同様の細胞へ変化することも判明した。
 このことは、悪性度の高い低分化なものほど容易に良性形質になりやすいことを意味するという。この結果からメカニズムの解析が進められると同時に、治療的効果の検討も行われており、脱メチル化による脱分化誘導がその原因の1つであることが証明された。
 ほかのがんでも派生元の細胞の性質をより強く持つまったく異なる細胞へ形質転換できることから、多くの未分化ながん細胞で有用な分子であることがわかった とする。たった1つの生体分子が、このように劇的にがん細胞の状態を変えてしまうことは、がん根絶の夢が目前に来ており、この領域の研究および製剤開発が 推し進められることで早期に実現する可能性が高まったとした。
 高分化な正常細胞から、高分化ながん細胞、中分化ながん細胞、低分化ながん細胞、未分化なが ん細胞が発生し、分化度の異質ながん細胞が混在することが多い。しかも、この中にはがん幹細胞が含まれている。今回の技術は、「特にがん幹細胞比率の高い 未分化型がん細胞から、正常幹細胞を誘導でき、その後、生体環境に適応して分化も進む」、ということを示しているという。

 医療の現場では、がん細胞は集学的に研究や治療が試みられており、がん幹細胞の根絶が困難なために、再発が担がん患者の心身を蝕んでいる。 20mer(1merはDNAの塩基1個のこと)という今回の小さなRNA分子のメリットは、がん幹細胞への感受性が高いことで、ほかに治療法のない末期 的な担がん状態に奏効すること、また抗がん薬で有効でなかったがん細胞にがん治療の「アジュバント療法」(メインの療法を補完するもう1つの療法のこと) として奏効する可能性が極めて高いことだ。
 このRNAからなるがん細胞へ送達できる製剤との併用により、従来にない作用機序の医薬品としての応用が期待できるという。またがんに対する核酸医薬の中 心的な役割を果たすことが期待できるとする。さらにP53の発現を誘導することから、再生医療でもiPS細胞の品質管理などに応用できる可能性があるとし た。


【がん転移の抑制酵素を発見…熊本大教授ら】(読売新聞) 2014年1月25日

 熊本大の尾池雄一教授(分子遺伝学)らの研究グループは、がんの転移を促進させる特定のたんぱく質の仕組みを解明するとともに、このたんぱく質の働きを抑える酵素を発見したと発表した。
 がんの転移を防ぐ薬の開発につながる可能性があるとしている。米科学誌「サイエンス・シグナリング」(電子版)に21日掲載された。
 尾池教授らはこれまで、肺がんや乳がんのがん細胞から分泌される特定のたんぱく質(ANGPTL2)が、転移や周囲に広がる「浸潤」を促進することを確認してきた。
 今回、ヒトの骨肉腫細胞をマウスに移植する実験で、低酸素や低栄養といったがん組織内の環境の変化に伴い、このたんぱく質の遺伝子はDNA脱メチル化という過程を経て活性化することを明らかにした。
 さらに、このたんぱく質がTLL1と呼ばれる酵素によって切断されることを明らかにした。切断されたたんぱく質では、がんの進行が遅いことも確認。このため、この酵素でたんぱく質を切断していけば、がんの転移を抑えられる可能性があるとした。
 今後、この酵素が人体のほかの機能に悪影響を及ぼさないか検証が必要だが、尾池教授は「様々ながんへの応用が十分考えられ、転移を抑える治療につながりうる成果だ」としている。


【がん死滅に重要なたんぱく質=東京慈恵会医大、愛媛大が発見】(時事通信) 2013年12月31日

 がんの放射線や抗がん剤による治療の際、がん細胞が死滅する過程で重要な役割を果たすたんぱく質を、東京慈恵会医科大の吉田清嗣教授や愛媛大の東山繁樹 教授らが発見した。がん細胞以外の正常な細胞に悪影響を与えず、副作用の少ない治療法を開発する手掛かりになると期待される。論文は31日以降に米科学ア カデミー紀要電子版に発表される。
 がん細胞が放射線や抗がん剤を受けるとDNAが損傷し、軽い場合はがん抑制遺伝子「p53」が生み出すたんぱく質が修復に働くが、修復不可能な場合は細 胞全体を死滅させる。吉田教授らは、p53たんぱく質が細胞死を誘導する場合、「アンフィレグリン」と呼ばれるたんぱく質の生成を促すことを発見した。
 アンフィレグリンは細胞核内で他のたんぱく質群とともに小さなリボ核酸「マイクロRNA」を生み出し、細胞死に抵抗する遺伝子群の働きを止めることが分 かった。今後、がん細胞だけでアンフィレグリンを効率良く生成させる方法を見つければ、副作用の少ない治療法につながるという。 


【がん細胞、分裂止める薬=実用化に期待―研究会と理研】(時事通信)2013年10月15日

 がん細胞が分裂・増殖するのに不可欠な遺伝子の働きを妨げる薬剤を開発したと、がん研究会と理化学研究所の研究チームが米がん専門誌オンコジーン電子版 に発表した。ヒトのがん細胞をマウスに移植し、この薬剤を飲ませたところ、がん細胞だけ分裂・増殖を抑えることができた。新たな抗がん剤になる可能性があ るという。
 がん細胞は正常な細胞より盛んに分裂、増殖する。細胞が分裂する際には、DNAが集まった染色体が複製され、二つに均等に分配される必要がある。
 がん研究会の八尾良司主任研究員らは、この複製された染色体を引き離す「微小管」を制御する遺伝子「TACC3」に注目。この遺伝子の働きを妨げると、微小管の配置が乱れ、細胞分裂が止まることが分かった。
 6800種類の化合物の中から有力な薬剤候補を探し出し、濃度が低くても効くよう改良して薬剤「SPL」を開発した。 


【仏での肉腫治験 日本人も対象へ ゲノム創薬使い「顕著な効果」】(産経新聞)2013年 9月30日

 日本の研究成果を基にフランスで始まったがんの一種、滑膜(かつまく)肉腫に対する世界初の抗体薬を使った臨床試験(治験)に、日本の患者も参加できる 見通しであることが分かった。仏側の責任者を務めるレオンベラールセンターのジャン・イブ・ブレ教授が10月3日、横浜市で開かれる第72回日本癌(が ん)学会学術総会で発表する。
 滑膜とは骨の関節をなめらかにする膜で、そこにがんができる滑膜肉腫は命にかかわる難病。
 治験はヒトゲノム(全遺伝情報)解析から研究・開発された「ゲノム創薬」の効果を調べている。

 治験の第1段階では昨年から今年8月末までに参加した滑膜肉腫の患者らの中から計5人が治療に移行。ブレ教授は「うち数人に顕著な効果があり、がんが縮小または同程度の大きさを保っている。脱毛などの副作用はほとんどない」ことなど治験の状況を公表する。
 第1段階はフランス国籍の患者に限定。同教授は「第2段階の治験は欧州各国や米国に拡大し、そこには日本の患者も参加できるだろう」との見通しも明らかにする。第2段階は2015年ごろ開始予定。

 抗体薬は米シカゴ大の中村祐輔教授が東大時代に研究員とともに治療の標的を発見し、肉腫が消える動物実験を成功させ、創薬を手がけるオンコセラピー・サイエンスが開発を担当。仏側は公的な補助金を出すなどして治験を誘致した。
 同総会の大会長を務める中村教授は「この病気は、有効な治療薬がなく、日仏の力を結集し、一刻も早く患者に届けたい」と語った。


【「小指の半分」の血液で高精度がん診断 注目のAICS】(AERA)2013年9月16日号

 血液中のアミノ酸濃度を測るだけで複数のがんの可能性が一度に分かるアミノインデックスがんリスクスクリーニング(AICS)が注目されている。簡単だが高精度。新技術が将来のがん検診を変える可能性も秘める。
  AICSに必要なのは、小指の半分程度(5ミリリットル)の血液だけ。内視鏡検査などと比べて体への負担も少ない。そうでありながら一度の採血で2~5種 類のがんが存在するリスクを予測できる。さらに特筆すべきはその精度。腫瘍マーカーなど既存のスクリーニング検査との比較で同等以上の成績なのだ。進行し たがんにも、早期がんにも反応する。料金は1万~2万円程度で自費受診が基本だ。
 AICSを開発したのは味の素。調味料など食品事業に とどまらず、医療や化粧品などの分野でアミノ酸の高度利用に取り組んできた成果の一つだ。患者の血液に含まれる約20種類のアミノ酸濃度を健康な人と比 べ、両者の差を統計的に解析することで判別式を導いた。アミノ酸濃度の差は、がん細胞による臓器や全身の代謝状態の変化を反映すると考えられている。

 同社の吉元良太アミノインデックス部長はこう話す。
 「アミノ酸をモニターすると、がんの可能性が分かるのは驚きでした。新しい医学や医療の分野が開かれつつある思いです」
 同社によるとAICSは現在、全国の約600の医療機関で実施されている。受診すると約2週間で医療機関に届く結果には、がんの種類ごとにリスクの大小が3段階で評価されている。ランクCが最もがんの可能性が高いとされるのだが、結果の受け止め方には注意も必要だ。
 「AICSは細胞診や組織検査のように、がんであるかないかをはっきり示すものではありません。言うならば、がんの存在確率を示すものです」

  東京都港区にある虎ノ門・日比谷クリニックの大和宣介院長は、そう指摘する。判定するのはあくまでがんであるかもしれない「可能性」だ。大腸がんでランク Cの場合、体の中にがんがある可能性が健康な人と比べて8.2倍、ランクBなら1.3倍高いことを意味するが、必ずしもがんがあるとは限らない。だからこ そ、結果をどう理解するべきか、医師との対話が欠かせない。大和院長の場合、方針はこうだ。
 「自覚症状を重視します。ランクCで症状があれば、大腸カメラなどの精密検査ができる医療機関を紹介します。ランクBでも、症状があって本人が希望すれば、精密検査につなげます」
 こうした注意点を踏まえれば、AICSのメリットは大きい。


【土壌微生物の抗がん作用解明】(時事ドットコム)2013年8月22日
-新薬開発に期待-

 群馬大の久保原禅准教授らの研究グループは22日、土の中に住む微生物がつくる「DIF」と呼ばれる物質が、がん細胞の増殖を抑制する仕組みを解明したと発表した。新たな抗がん剤の開発が期待できるという。
 東北大、福島県立医科大との共同研究で、論文が米科学誌「プロスワン」に掲載された。
 研究グループは、人工培養した人間のがん細胞に、蛍光物質を結合させて光らせたDIFを投与し観察。DIFが、がん細胞内のミトコンドリアが持つ細胞の生存や増殖のエネルギーを生み出す機能を阻害し、がん細胞の増殖を抑制することが分かった。
 群馬大によると、ミトコンドリアの機能を妨げる抗がん剤の研究が進んでおり、久保原准教授は「動物実験などで、がん抑制の効果や副作用の有無を確認し、10年程度での開発実現を目指したい」と話している。


【前立腺がんに対するウイルス療法の臨床研究を開始】(東京大学 発表記事)2013年05月15日
―遺伝子組換えヘルペスウイルスを用いた前立腺がん治療は世界初―

 東京大学医学部附属病院は、泌尿器科・男性科 講師 福原浩を総括責任者として、再燃前立腺がん患者を対象にしたウイルス療法の臨床研究を開始します。これは、がん細胞だけで増殖するようにウイルス遺伝子を 組み換えた人工的なウイルスを使ってがん細胞を破壊する、新しいがん治療法です。用いるのは東京大学医科学研究所 教授 藤堂具紀らが開発した第三世代のがん治療用単純ヘルペスウイルスⅠ型のG47Δ(デルタ)で、現在、悪性脳腫瘍を対象にした臨床研究が本学で進行中です。 今回は、ホルモン療法が効かなくなってきた、手術を受けていない前立腺がんの患者が対象です。遺伝子組換え単純ヘルペスウイルスⅠ型を前立腺の中へ投与す るのは世界で初めての試みであり、安全性を調べるのが今回の臨床研究の目的です。


【白血病再発の主原因「白血病幹細胞」を標的とした低分子化合物を同定】(独立行政法人理化学研究所)2013年4月18日
-急性骨髄性白血病に対する生体内での効果をマウスで確認-

 急性骨髄性白血病は、遺伝子異常が原因で起こる再発率が高い血液がんです。再発を防ぎ、根治に導く治療法の開発が強く求められています。これまで に、理研の研究者を中心とする共同研究グループは、白血病再発の主原因となる白血病幹細胞を見いだし、体のどこに残りなぜ再発するかなどを明らかにすると ともに、白血病幹細胞に発現し、治療標的となる候補分子を多数発見してきました。
 今回、その候補分子の中から、リン酸化酵素(キナーゼ)「HCK」を標的に選び、HCKの酵素活性を最も強く阻害する低分子化合物として、数万の化 合物の中から「RK-20449」を同定しました。試験管内の実験では、RK-20449はごく低濃度から効果を発揮し、濃度が高くなるのに応じて患者由来の白血病幹細胞を死滅させました。また、白血病状態を再現した「白血病 ヒト化マウス」を作製し、生体内での有効性を調べたところ、Flt3という遺伝子に異常を持ち、従来の抗がん剤が効かず悪性度が高い症例に対して有効なことが分かりました。
 数週間にわたってRK-20449をマウスに毎日投与すると、マウスの末梢血から全てのヒト白血病細胞がなくなり、2カ月後には骨髄でも白血病幹細 胞を含むほぼ全ての白血病細胞が死滅しました。急性骨髄性白血病を発症すると、骨髄では赤血球など正常な血液の生産ができず、貧血になります。同時に脾臓 が大きくなる脾腫を起こします。従来の抗がん剤を投与しても貧血や脾腫は改善されませんでしたが、RK-20449を6日間連続投与したところ、貧血・脾 腫とも改善しました。52日間の連続投与では、末梢血で再び白血病細胞が増加することはなく、骨・脾臓とも正常でした。この成果は、悪性な症例でも幹細胞 レベルで白血病細胞を根絶できる、新しい治療薬の開発につながると期待されます。


【カテキンとED薬で抗がん作用=併用で高い効果―九州大】 時事通信(2013年1月26日)

 緑茶に含まれるカテキンの一種と男性機能不全(ED)治療薬を併用投与することで、正常な細胞を傷つけずにがん細胞のみを殺し、高い抗がん作用を発揮することを、九州大大学院農学研究院の立花宏文教授の研究チームが突き止めた。研究成果は25日、米医学誌ジャーナル・オブ・クリニカル・インベスティゲー ション電子版に掲載された。
 立花教授によると、これまで抗がん剤が効かなかったケースでも、高い効果が期待できるという。早ければ年内にも米国で臨床実験を実施する。
 同教授のチームは2004年、「エピガロカテキンガレート(EGCG)」と呼ばれるカテキンの一種ががん細胞の細胞膜表面にあるたんぱく質と結合することで、がん細胞を特定して殺す仕組みを解明。今回の研究では、EGCGの抗がん作用を阻害する酵素に着目し、この酵素の働きを抑える化合物を含むED治療 薬を投与したところ、抗がん作用を高めることに成功した。 
 マウスにヒトの乳がん細胞を移植した実験では、2日に1回、EGCGとED治療薬を投与した結果、16日間でがん細胞が死滅した。多発性骨髄腫や胃がん、膵臓(すいぞう)がん、前立腺がんでも同様の効果が得られたという。


【がん再発防止の新薬 臨床試験申請へ】 NHK NEWSWEB(2013年1月24日)

 がんを作り出すと考えられている細胞「がん幹細胞」を直接攻撃し、がんによる死亡の大きな原因となっている「再発」を防ぐ新薬を実用化しようと、大阪の製薬会社が近く臨床試験の申請を行うことが分かりました。
 新薬が誕生すれば、がん幹細胞をターゲットにした世界初の薬になるということです。

 大阪・中央区の大日本住友製薬は、大腸がんのがん幹細胞をターゲットにした新薬の開発を北米で進めていて、日本でも新薬の承認を目指し、ことし3月末までに厚生労働省に臨床試験の申請を行うことが分かりました。
 「がん幹細胞」は、この十数年ほどの間に大腸がんのほか、乳がんや肝臓がん、胃がんなどで次々と報告されていて、抗がん剤や放射線治療が効きにくいなどの特徴から再発を引き起こし、がんによる死亡の大きな原因になっているとされています。
 今回の新薬は、がん幹細胞に特有のタンパク質の働きを止め、細胞を死滅させる効果があるということで、北米で行った臨床試験では、重い副作用がないことやがん細胞の増殖を抑える効果が確認できたということです。
 新薬が誕生すれば、がん幹細胞をターゲットにした世界初の治療薬になるということで、大日本住友製薬では、「順調にいけば、アメリカとカナダでは2015年に、日本では翌2016年に販売が開始できるようにしたい」と話しています。
 こ れについて、がん幹細胞の研究に詳しい大阪大学大学院医学系研究科の森正樹教授は「今のがん治療は、抗がん剤で一時的によくなることはあるが、がん幹細胞が残るため、いずれは再発してしまう。このため、がん幹細胞を標的にした新薬の開発が今、世界中で行われているが、まだ使えるものがない。患者の中には、再発におびえながら生活する人も多く、がん幹細胞をたたく薬が出来れば、安心して過ごせるようになる」と話しています。

注:大日本住友製薬はすでに以下のように企業買収により,この分野での薬剤の上市を検討していた。

 大日本住友製薬は2012年2月29日、米Boston Biomedical Inc.(BBI)を買収したと発表した。BBI社はがん領域を専門とするバイオベンチャー企業。今回の買収で、がん幹細胞への抗腫瘍効果を発揮する分子標的薬のうち、最速で2015年の北米上市を目指すBBI608と、BBI503を獲得する。
 今回の買収で大日本住友製薬はBBI社および同社株主に対し、一時金2億ドル、開発マイルストーン・最大5億4000万ドル、さらに販売マイルストーンとして北米と日本の年間売上高が40億ドルに達した場合に最大18億9000万ドルを支払う。
 同日会見した大日本住友製薬の多田正世社長は、同社のグローバル戦略品であるラツーダ(統合失調症薬)の後継として、がん領域の分子標的薬を確保すること ができたと成果を強調した。また同社が、がん領域に参入する意義に触れ、アンメットメディカルニーズへの対応や研究開発型企業としての使命をあげ、「典型的なスペシャリティー領域であり、小さな営業組織でグローバル展開が可能」など、経営戦略との適合性も指摘した。
 BBI社の買収により、経口の分子標的薬2剤(BBI608、BBI503)を確保することになる。いずれも、新規性が高く、がん幹細胞を標的に抗悪性腫瘍効果を発揮する。また、2剤とも異なる作用機序を有することから、他の化学療法剤との併用効果が期待されている。
 BBI608の米国における開発ステージは、結腸直腸がんで2nd/3rdライン・単剤がP3を準備中。最速で2015年の北米上市を目指す。同様に、結腸直腸がん(2nd/3rdライン・併用)がP2段階、結腸直腸がん(1stライン・併用)がP1bを実施中、そのほか固形がん(1stライン・パクリタ キセル併用)を対象にP1b/2を実施している。
 一方、BBI503は、固形がん(安全性試験、単剤)を対象にP1を実施している。なお、日本国内では、2012年中に両剤の開発をスタートさせたい考えだ。 


【<免疫細胞>iPSで再生…がん治療に応用 東大グループ】 毎日新聞(2013年1月4日)

 ウイルスに感染した細胞やがん細胞などを攻撃する免疫細胞の一種「T細胞」を一度、人工多能性幹細胞(iPS細胞)にした上で、同じ能力を持つ「元気」 なT細胞に再生させることに世界で初めて成功したと、東京大の中内啓光(ひろみつ)教授らのグループが発表した。このT細胞を患者の体に戻すことで、がん などの新たな治療法につながるという。4日付の米科学誌「セル・ステムセル」に掲載される。
 T細胞は、外敵の侵入が重なったり、感染状態が慢性化したりすると疲弊し、病気に対する免疫力が低下する。
 中内教授らはHIV(ヒト免疫不全ウイルス)に感染している患者の血液から、HIV感染細胞のみを認識して攻撃する特定のT細胞を分離。疲弊したこのT 細胞をiPS細胞へと変化させて大量に増やし、ヒトの白血球に含まれる「単核球細胞」と一緒に培養することなどで、再びT細胞に分化させることに成功した という。

 中内教授らによると、iPS細胞を経て再生されても、T細胞は攻撃対象の記憶を失っていなかった。
 がん患者の体からT細胞を取り出して、体外で増やしてから体に戻す治療法は現在も行われている。しかし、がんを攻撃する特定のT細胞だけを選んで増やすことが難しく、効果は限られる。
 中内教授は「今回の方法を使えば、特定の対象を攻撃する若くて元気の良いT細胞を大量に増やすことができる」と話している。


☆2012年以前(古い順)


【p600蛋白質合成阻害剤】 2005年10月4日

 増殖している癌細胞には正常な細胞には少ないp600という蛋白質が異常に増えていることが解っている。この蛋白質の合成を妨げると、癌細胞は増殖しなくなり次々と自滅(apoptosis)する。
 薬物でこの蛋白質合成を阻害する実験を試験管内で試みたところ,子宮癌や骨肉腫,直腸癌などの癌細胞で効果があり,癌細胞は1/10以下になり,正常細胞には影響がなかった,ということが確認されている。
 上記の癌の他,胃・小腸・大腸・肺・卵巣。前立腺の癌細胞でも,p600蛋白質の異常増加が起きていることが分かってる。将来ほとんどすべての癌に効果が期待できる薬を開発することが可能という。


【子宮頸癌を起こすvirusのvaccine(ワクチン)】 2005年10月7日,2006年6月9日

 米国の医薬品会社大手Merck KGaA社(萬有製薬の親会社)は,子宮頚癌の原因となるHPV(人papilloma virus(乳頭腫:イボのvirus))4種に効くvaccineの臨床試験を,北米と欧州,Singaporeなどで感染の危険性が高い16-26歳の女性1万人以上で実施し, 非常に高い効果が見られたと発表した。
 このvaccineは商品名をGardasilと言い,米食品医薬品局(FDA)からこのほど承認された。子宮頚癌は世界で毎年30万人が死亡しているが,上記4種のvirusによるものが約70%を占めている。また,重篤な副作用の報告もまだない。
 性行為が活発化する年代頃に3回の予防接種をすることで,この4種のHPVへの感染はほぼ100%防げる,という。 


【大腸がんの内視鏡手術】 (毎日新聞)2005年9月22日

 開腹手術が必要な大きめの大腸がんを、患者の意識を保ったまま内視鏡で切り取る手術に、国立がんセンター中央病院(東京都中央区)が取り組んでいる。最近3年間で約200人の手術を成功させた。患者の負担が軽いとされる腹腔鏡(ふっくうきょう)手術とも違い、患者の体をメスなどで傷付けることもないため、いっそう負担が軽い手術法として注目されそうだ。28日から横浜市で開かれる日本癌(がん)学会で発表する。
 大腸がんの場合、初期のがんでも直径が4センチを超えると、内視鏡で取るのは難しかった。しかし開腹手術が必要なのは本来、がん本体に加え転移のありそうな場所も切る場合。同病院内視鏡部の斎藤豊医師らは「内視鏡的粘膜下層剥離(はくり)術」という方法に取り組んだ。
 患者に軽い麻酔をかけ肛門(こうもん)から長さ1メートルを超える内視鏡を入れる。モニター画面に映る腸内の映像を頼りに、内視鏡先端の電気メスをミリ単位で操作。がんの下側の「粘膜下層」に電気メスを入れ下の層ごと掘り起こすように切り取る。従来の、がんにワイヤをかけて取る方法より広い範囲のがんを一度に取れる。

 厚さ数ミリの腸の壁に穴を開けずに内側の粘膜などだけをはぐため、熟練した技術が必要だ。
 03年10月から直径15センチのがんなど従来は開腹手術だったとみられる患者約200人を手術。患者は手術中も医師と話せ手術時間は平均1時間半。大半は4泊5日で退院した。開腹なら2、3週間の入院が普通という。
 患者のうち30人は、手術後の検査で転移の危険が少し残るとされ開腹手術も受けたが、残る170人は内視鏡で治療を終えた。腸に小さな穴が開いた患者が10人いたが9人は内視鏡で処置でき、緊急の開腹手術が必要になったのは1人だった。
 難しい方法で、実施している主な病院は東京大病院、虎の門病院、自治医大病院、佐久総合病院、徳洲会岸和田病院、広島大病院、岡山大病院など少ない。


【前立腺癌を細胞死させる遺伝子】 (共同通信)2005年10月30日

 正常細胞にあるのに,癌細胞でほとんど発現していない特定の遺伝子が,前立腺癌を選択的に細胞死(apoptosis)に導くことを岡山大の公文裕巳教授(泌尿器病態学)と許南浩教授(細胞生物学)らのgroupが30日までに突き止めた。
 この遺伝子はREIC/Dkk3と言い,同グループによると,培養したヒトの前立腺癌細胞で,この遺伝子の発現が抑制されREICタンパク質ができないことを確認した。52人の前立腺癌患者の組織を調べ,全員の癌細胞でタンパク質が減り,うち悪性度の高い26人では完全になかった。


【抗癌剤を癌細胞まで運ぶcarrier】 (読売新聞)2005年11月10日

 NEC(日本電気)直径5nmという超極細の新素材「カーボンナノホーン」の中に抗がん剤を浸透させ,癌細胞を死滅させることに成功した。従来の抗癌剤は正常な細胞も傷つけてしまうが,ナノホーンなら病巣を直接狙うことができ,副作用が少ない新治療技術であるという。

 NEC基礎・環境研究所などの研究teamはナノホーンを約500℃に加熱し,表面に無数の細かな穴を開け,抗癌剤の溶液に浸し内部にナノホーン重量の約10%の抗がん剤を滲透させた。
 このナノホーンの固まりを癌細胞を培養した容器に入れると,薬剤が少しずつしみ出して,3日後には癌細胞がほぼ死滅した。癌の腫瘍の血管には,普通の血管にはない直径数百nmの穴が開いている。人体に投与した場合,ナノホーンはこの穴を通ってがん細胞だけに集積し,ほかの器官には影響をほとんど及ぼさないと考えられている。


【Radio波焼灼法を乳癌に】 (北國新聞)2006年2月15日

 金沢大附属病院の野口昌邦助教授(日本乳癌学会長)らの治療グループは,それまで肝臓や膵臓にのみ適用されてきたradio波焼灼法を乳癌治療に試み,10例の治療で癌細胞がすべて死滅しいたことを,米国の腫瘍外科学誌に発表した。すでに,八尾総合病院や金沢有松病院(金沢市)で治療を始めている。
 Mammographyが普及したため,癌が2cm程度と小さいうちに見つかるcaseが増えている。このため最大で4cmと言われるradio波焼灼法が適用できる例が増え,野口助教授が勧めてきた乳房温存療法の武器としての利用が可能となった。


【WT1癌vaccine】 2006年5月3日

 癌の免疫療法は京大などでは,自分の癌に対する抗体作用を持つ白血球の成分を体外で増殖し,体内に戻すという療法が試みられている。
 この療法は原理的にはたいへん勝れているが,増殖や再度体内に白血球を戻す処置に手間がかかり,治療費用は莫大なものとなっている。

 一方丸山ワクチンなど古くから研究されているvaccineはその効果に疑問が付いたまま有料治験状態に留まっている。その間多くの,これが決定版と言われた癌vaccineが研究段階では発表されたが,いずれも臨床段階で効果が見られなかったり,意外な副作用が見つかり実用には至っていない。
 癌は自然治癒する例があるので,生体の免疫機能を利用した癌の治療は原理的には不可能ではないが,癌の元となった細胞の分化の状態やその他の個人差のため,本人の細胞を使った免疫療法といえども,必ずしも常時有効性を発揮するものではない。

 この中で,阪大などが手がけているWT1癌vaccineが有効範囲を見定める第II相臨床試験に入っている。2006年度は試験を行う病院を全国20個所に拡げ,大腸癌を含むほぼすべての癌に対する効果や副作用を調べることになり,すでに着手している。上記題字からlinkされるpageで臨床試験の受付け方法などが紹介されている。

 この研究は1990年代初めから進められている。WT1は蛋白質の名称で,種々の癌細胞で増殖に関っていることがわかっており,癌細胞表面のHLA分子に結合する。したがってHLAとWT1を持つ癌患者に人工合成したWT1の断片(peptide)をvaccineとして投与することで,体内での抗体の生成を促し,癌細胞を攻撃させようという手法である。
 すでに,副作用を見るために行われた数10人規模の第I相臨床試験で,主に白血病や肺癌に乳癌や脳腫瘍を加えて,ある程度の有効性が確認されている。
 初期に行った例では20人中3人で癌の進行を抑えたり縮小が見られ,さらに9人で腫瘍maker値の低下があった。副作用は白血病の一部以外は見られなかったと言う。


【<抗がん剤>病巣だけ治療 大阪府立大が微小カプセル開発】  (毎日新聞) 2006年5月22日

 がんができた部位を体外から温めることで、病巣だけに抗がん剤を働かせることができる微小カプセルを、大阪府立大の河野健司教授(生体高分子化学)らの研究グループが開発した。抗がん剤が正常な組織も傷つけてしまう副作用を減らすことができるという。24日から名古屋市で開かれる高分子学会で発表する。
 カプセルは直径100ナノメートル(ナノは10億分の1)で、生体内にもあるリン脂質とコレステロールでできている。温度に反応しやすい高分子を表面に組み込み、40度以上になるとカプセルが壊れるようにした。
 がんができた部位の毛細血管は、正常な部位の血管に比べ、血液中の物質が血管の外に漏れ出しやすい性質がある。このため、体内に入った微小カプセルは、毛細血管から漏れ出てがん細胞の周辺にだけたまる。がんを外から温めてやると、カプセルが壊れて抗がん剤が放出される仕組みだ。
 河野教授らは、後ろ足にがん組織を移植したマウスで効果を調べた。
 カプセルの投与から12時間後に、高周波加温機で体外からがんを45度で10分間温めたところ、8日たってもがんはほとんど成長しなかった。一方、温めなかったりカプセルを投与しなかったマウスでは、がん組織の体積は5倍以上になった。
 河野教授は「医療の分野と連携し、がん組織だけを攻撃する治療の実現を目指したい」としている。【大場あい】


【骨髄腫にサリドマイド承認 米医薬品局、使用が先行】 (共同通信) 2006年5月26日

 米製薬セルジーン社は25日、米食品医薬品局(FDA)が、同社の内服薬「サリドマイド」を血液のがんの一種である多発性骨髄腫の治療薬として承認したと発表した。
 サリドマイドは、1950-60年代に日本など各国で、睡眠薬や胃腸薬として妊婦が服用し、赤ちゃんに深刻な薬害を引き起こした。米国では98年にハンセン病の合併症に対する治療薬として承認され、多発性骨髄腫の治療用としても医療現場での使用が先行していたが、今回、副腎皮質ホルモン「デキサメタゾン」との併用療法が公式に認められた。


【<サリドマイド>FDA承認 被害者「厳格な管理と使用を」】 (毎日新聞)2006年5月26日

 米食品医薬品局(FDA)は25日、血液がんの一種である多発性骨髄腫の治療薬として、鎮静・睡眠剤「サリドマイド」を承認した。製造元の米セルジーン社が発表した。世界的薬害を引き起こした同剤だが、米国では98年にハンセン病関連の治療に承認され、適応外だった多発性骨髄腫にも効果があるとして広く使われている。日本でも医師が個人輸入し処方する例が増え、厚生労働省が薬害の再発防止システムの運用開始を決めている。
 同社によると、FDAが承認したのは、未治療患者を対象にした、サリドマイドとステロイド剤「デキサメタゾン」の併用療法。臨床試験では、5割前後で病状の改善が見られたとの報告もあるが、静脈血栓症などの副作用も1~2割で起きている。
 米国には多発性骨髄腫の患者が約5万人おり、年間約1万4000人が新たに診断されている。サリドマイドは、登録した医師や薬剤師のみが入手・処方でき、患者への十分な情報提供を義務づけるなどの管理体制下で使われている。
 サリドマイドは50~60年代、妊娠中の女性が服用して胎児が死亡したり、手足が短いなどの障害を持った子供が生まれるなど、日本を含む世界各国で数千人と言われる被害者を出した。被害者からは再発防止のため厳格な管理、使用を求める声が強い。


【がん死者、過去最高の32万6千人 厚労省の人口統計】 2006年06月01日

 がんによる死亡が32万5885人と、調査を始めた1899年以来最多にのぼったことが1日、厚生労働省の発表した05年人口動態統計でわかった。死亡総数は108万4012人で、前年より5万5410人の増。3年連続で100万人を超え、戦後では47年に次ぐ多さとなった。同省は高齢者数の増加に加え、インフルエンザの流行が影響したとしている。

 死因で最も多いのはがん(30.1%)で、81年以降の連続1位。昨年より1.7%増えた。心臓病(17万3026人、16.0%)、脳卒中(13万2799人、12.3%)がこれに続き、日本人の三大死因と言われるこの三つで死亡者数の全体の6割近くを占めた。

 4位の肺炎(9.9%)は高齢者を中心に前年より12.2%増え、10万7210人に。昨年初めにインフルエンザが流行したためだという。

 がんを部位別でみると、男性では肺が最も多く、昨年より2.9%増えて4万5187人。続いて多い胃と肝臓は微減だったが、4位の大腸は1.4%増えた。女性で最多の大腸は昨年より2.6%増の1万8679人。2位の胃は微減だったが、3位の肺が5.4%増だった。


【ソウル】 (聯合)2006年?月18日

 国内研究チームが、ウイルス操作によるがん治療法を開発した。産業資源部が18日に明らかにしたところによると、延世大学医科大学のキム・ジュハン、ユン・チェオク教授チームは、同部が1999年から10年間の計画で支援する難病遺伝子治療剤開発課題を通じ、開発に成功した。研究結果は、米がん研究専門誌「JNCI」に18日付けで掲載される。

 研究チームは、アデノウイルスにリラキシンというホルモン遺伝子を注入して新たなウイルス(腫瘍選択的なアデノウイルス)を開発した。これをがん細胞の奥まで投入すれば、ウイルスががん細胞内で1万倍以上増殖しがん細胞を破壊する。破壊されたがん細胞から出たウイルスは、周りのがん細胞に浸透し増殖を続けるため治療効果が高まる。腫瘍(しゅよう)選択的なアデノウイルスは、がん細胞で活発に働いている酵素テロメラーゼを攻撃するため、正常な組織の細胞には何ら影響を及ぼさない。従来のウイルスがん治療法は、一部のがん細胞のみで働きがん細胞全体を破壊できず、生き残ったがん細胞が急速に増殖する副作用もあった。

 研究チームが腫瘍選択的なアデノウイルスを脳腫瘍や肝臓がん、子宮ガン、肺がん、頭頸部がんにかかったマウスの腫瘍に3回注射したところ、60日後にはいずれも90%以上のがん細胞が破壊された。従来の抗がん剤の副作用はほとんどみられず、注入されたウイルスも20日で自然消滅し安全性が確認された。

 研究チームは来年初め、頭頸部がんに対し臨床試験を行う計画だ。

注:アデノウィルスを使う研究は,2002年に岡山大学の藤原俊義先生が世界で始めて開発したもので,すでに2006年10月から米国で臨床実験に入っている。


【肺がんCT検診で早期治療、10年後の生存率9割】 2006年10月27日

 CT(コンピューター断層撮影)による肺がん検診を受け、早期の段階で見つかり、治療した人の10年後の生存率が約9割にのぼることが、日本を含む国際チームによる大規模調査で分かり、26日付の米医学誌ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンに掲載された。CT検診の有効性をめぐる論議が活発化しそうだ。

 93年から05年の間にCTで検診を受けた日米欧などの3万1000人あまりを調べた。日本人では、JA長野厚生連安曇総合病院(長野県池田町)で人間ドックを受診した約6000人が対象になった。

 その結果、484人に肺がんが見つかり、うち85%は早期段階の「1期」と判断された。このうち、診断から1カ月以内に手術を受けた患者の10年生存率は92%だったという。一般的に、1期で見つかった肺がん患者は、5年生存率でも70%ほどとされている。CTでがんが見つかった患者全体の生存率は80%だった。

 CT検診は胸部X線を使う従来の検診よりも、小さいがんを発見できる。一方、結果的に、ただちに治療する必要のないがんが見つかってしまう例なども指摘されており、CT検診が必ずしも有効かどうか、まだ結論は出ていない。

 日本CT検診学会理事長の金子昌弘・国立がんセンター中央病院医長は「CTの有効性を考えるうえで、非常に心強い治療成績だ」としている。


【モズクにがん抑制効果 フコイダンが転移を阻止】 (琉球新報)2006年11月1日

 モズクの主成分フコイダンにがん細胞の転移を阻止する効果があることが分かった。29日に横浜で開催された第65回「日本癌(がん)学会学術総会」で、 シーズ(浦添市、前田すえこ社長)と共同研究を進めていた岡山理科大臨床生命科学科の浜田博喜教授らが学術論文で発表した。31日、県庁で会見した前田社 長は「まだ基礎実験の段階だが、がんを抑える代替医療として世界に発信できるのではないか」と話した。 研究はシーズが持つフコイダンを低分子化する技術 を使って浜田教授らが進めていた。がん細胞は自ら血管を作り出し(血管新生)、正常な血管とつながることで栄養を取り入れ、転移する。
 浜田教授によると、5000に低分子化されたフコイダンががん細胞の血管新生を阻止し、結果がん細胞は死滅するという。浜田教授は「フコイダンを構成するフコースはメチル基という分子構造を含み、その部分が阻害に影響しているのではないか」と分析した。
 実験は鶏卵を使って行われ、フコイダンを投与した2日後、頭部に当たる部分の血管新生が止まったという。血管新生を阻止する抗がん剤としては、米国の製 薬会社「ジェネンティック社」が開発した「アバスティン」が大腸がんに効果があるとして、2004年に米食品医薬品局(FDA)の認可を得、日本でも今年 認可された。前田社長は「今後は抗がん剤としての可能性を探りながら、健康食品として商品化を目指したい」と述べた。
 シーズと岡山理科大は共同で研究を進めていた「沖縄生物資源からの配糖体とオリゴ糖包接体の開発」が、県実施の2004年度産学官共同研究推進事業に採択されている。


【手術後のがん再発、ワクチンで防げ 大学病院など】 (朝日新聞)2007年02月06日
 全国13の大学病院やがん専門病院などが、がんを攻撃する免疫細胞を活性化させる「がんワクチン」の臨床研究ネットワークを作った。一部で患者への接種 も始まった。対象とするがんは膵臓(すいぞう)や食道、肝臓、胃、肺、膀胱(ぼうこう)など多岐にわたる。安全性を確かめた後、手術後の再発を予防する目 的で接種。数年後の実用化をめざす。がんワクチンはこれまでいくつかの大学病院で個別に臨床研究されてきたが、これほど規模が大きく、組織だった研究は初 めて。
 参加するのは岩手医大(研究対象は膀胱がん)、神奈川県立がんセンター(肺、胃がん)、近畿大(大腸、食道、腎臓がん)、九州大(大腸がんなど)など。
 東大医科学研究所ヒトゲノム解析センター(中村祐輔センター長)が開発した約10種のワクチンを使う。同センターは、人の遺伝情報をつぶさに調べ、正常 細胞のもとではほとんど働かないのに、がん細胞の中だと活発に働く遺伝子を特定。それらを基にワクチンを作り、がんに対する免疫細胞を活性化させるかどう かを実験で検証した。
 臨床研究は、まず人での安全性を調べる第1段階から始める。標準的治療が効かず、ほかに有効な治療法がないと判断された患者に参加への協力を求める。
 山梨大の河野浩二・助教授(第1外科)は、食道がんを対象に3種類のワクチンを同時に用いる。第1段階は5人の患者に使う予定で、すでに 2人に接種した。以前、別のワクチンを試みたが、免疫反応を思うように高めることができなかったという河野さんは「免疫反応の活性化を図るワクチンは本 来、術後の再発予防などに向いている。今回は期待したい」と話す。
 和歌山県立医大の山上裕機教授(第2外科)は、膵臓がんと食道がんを対象にワクチンの段階的な増量などを計画。膵臓がん2人、食道がん3人に接種した。「たとえがんが縮小しなくても、大きくなるのを抑えて生活の質が向上し、生存期間が延びれば」と言う。
 がんワクチンの臨床研究はこれまで末期患者が対象で、免疫細胞を活性化させるのが難しい場合が少なくなかった。今回は手術後の再発予防が最終目的で、患者は手術を受けたとはいえ比較的体力のある人が対象。免疫反応を導きやすいという。


【抗がん剤「アバスチン」承認 厚労省】 (朝日新聞)2007年04月18日

 厚生労働省は18日、結腸や直腸がん向けの抗がん剤アバスチン(一般名ベバシズマブ)の製造販売を承認した。
 アバスチンは、がん組織に栄養や酸素を運ぶ血管がつくられるのを妨げることで、がんの増殖や転移を阻害する。進行がんや再発がんに効果があるとされ、中外製薬(東京)が06年4月に承認申請していた。同社によると06年7月現在、欧米など88カ国で承認されており、国内でも患者団体などから早期承認を求める声が上がっていた。


【余命3週間、本人意思が前提=がん終末期医療に指針案-厚労省研究班】 (時事通信)2007年6月6日

 厚生労働省研究班(班長・林謙治国立保健医療科学院次長)は6日までに、治る見込みがないがん患者の延命治療を中止する際のガイドライン(指針)の試案 をまとめた。終末期を「余命3週間以内」と定義し、患者本人の意思を前提に、治療中止の範囲を、「人工呼吸器(の装着)などすべての治療行為」としてお り、国が今年春にまとめた指針より踏み込んだ内容となっている。
 試案は、終末期について、複数の医師が複数回にわたり診察するなどした結果、余命3週間以内と判定した時と定義。延命治療の中止は、(1)本人が2年以 内に書いた文書で意思表示した(2)立会人の下、本人が口頭で意思表示した(3)家族から本人の意思が推定でき、家族が承諾した-場合とし、治療中止の範 囲を「人工呼吸器(の装着)、栄養の補給、輸血、投薬などのすべての治療行為」と定めた。
 また、患者の意思が確認できない場合や、認知症や知的障害があり、本人による判断が困難な場合、15歳未満の場合などは対象にしないと明記した。
 試案の対象は、終末期のがん患者のみとし、救急、難病、エイズなどの患者については別途検討するとしている。 


【がんワクチン「効果あり」 34人中22人、安定か改善】 2007年10月05日

 進行した膵臓(すいぞう)がんや食道がんなどを対象にしたがんワクチンの臨床研究で、患者34人のうち22人に病状の悪化を防ぐ効果が確認されているこ とがわかった。横浜市で5日まで開かれている日本癌(がん)学会総会で、東大医科学研究所ヒトゲノム解析センターの中村祐輔教授が発表した。目立った副作 用は出ていないという。新薬として開発を進める方針だ。
 がんワクチンは、がん細胞に狙いを絞って免疫反応を高め、がんをやっつけようという手法。中村教授らが、正常細胞ではほとんど働かない のに、それぞれのがん細胞で特徴的に活発に働いている遺伝子を特定。その中から強い免疫反応を導くものを選び出し、複数のワクチンを作った。
 膵臓、食道のほか、肺、肝臓、膀胱(ぼうこう)、大腸の各がんを対象に、岩手医大や福島県立医大、山梨大、和歌山県立医大、九州大などが昨秋から順次、臨床研究を始めた。
 今はワクチン自体に毒性がないかどうかを確認している段階で、標準的な治療法がないと判断された患者らに説明し、同意を得て研究に参加してもらっている。
 9月末までに投与した患者は67人おり、このうち、計画通り投与し、3カ月以上過ぎた34人について分析した。がんが縮小したと評価された人は膵臓、膀胱、大腸の各がんだった5人。がんが大きくならずに安定していた人が17人で、計22人で効果があったと判断した。
 がんに対する免疫反応が高まっていることも確認され、特に比較的若い人で顕著だった。また、投与の結果、半年以上、病状が安定している患者がいた一方、効果のみられないケースもあった。
 グループが、がんワクチンに期待するのは、手術後の再発予防。実用化にはさらに研究を重ねる必要があるが、新薬の承認申請を目指し、臨床試験(治験)を担当する厚生労働省の関連組織と相談に入りたい考えだ。


【体内酵素に抗がん作用=新たな治療法に期待-九州大】 2007年11月8日

 主に人間の免疫系細胞に発現するたんぱく質分解酵素「カテプシンE」が、がん細胞の増殖や転移を抑える機能を持つことを、九州大大学院歯学研究院の山本健二教授らの研究グループが発見した。山本教授は「がんの新たな治療法の開発につながることが期待される」としている。
 研究グループは、ヒトがん細胞を移植した実験用マウスのがん組織にカテプシンEを注入し、細胞に対してどう作用するかを調べた。その結果、カテプシンEは正常な細胞に影響を与えずに、がん細胞のみを死なせることが分かった。
 また、カテプシンEを取り除いたマウス、通常のマウス、カテプシンEを過剰にしたマウスの3種類を比較したところ、過剰にしたマウスほど、がんの増殖、転移に強い抵抗を示し、生存率が高いことも突き止めた。 


【ホウ素薬剤+中性子、がん狙い撃ち 京大など実用化へ】 2009年3月6日

 特殊な薬でがん細胞を探し出して、中性子でがんだけをねらい撃ちにする――そんな新しい放射線治療法の実用化に、京都大原子炉実験所や大阪府立大などの チームが今春から乗り出す。小さながんが多発したり、複雑に広がったりして、手術が難しい患者に効果が期待され、今年中の臨床試験を目指す。
 この手法は「ホウ素中性子捕捉療法」と呼ばれる。中性子をよく吸収するホウ素の働きを利用して、がん細胞をねらい撃ちにする。増殖の盛んながん細 胞に取り込まれやすいホウ素の薬剤を患者に注射する。患部に中性子を照射するとがん細胞に集まったホウ素が核反応を起こし、細胞1個分の範囲が壊れる仕組 みだ。正常な細胞にも微量の薬剤が取り込まれるが、線量の調整で周囲へのダメージは最小限にできるという。
 今回の共同研究で、住友重機械工業が中性子を照射できる約3メートル四方の小型加速器も開発。照射室も合わせ、大学病院などに設置でき、原子炉の設置も不要になった。将来は建物も合わせ、数十億円で設置できる見通しだという。
 また、大阪府立大とステラファーマ社(大阪市中央区)のこれまでの研究で、血液に溶けやすく、長期間保存できるホウ素薬剤を量産できる技術開発にも成功している。
 同実験所の小野公二・粒子線腫瘍(しゅよう)学研究センター長は「普及させるには、医療施設で中性子を扱える専門家が少ないことが課題だ。本格稼働を機に人材育成も進めたい」と話している。


【虫下し薬が「がん」に効く? メタボローム解析でがんが回虫と同じ代謝を使うことを示唆】 (慶応大学)2009年5月20日
~国立がんセンター東病院とのスーパー特区(がん医薬品・医療機器早期臨床開発プロジェクト)の共同研究成果~

 慶應義塾大学先端生命科学研究所の平山明由研究員、曽我朋義教授らと国立がんセンター東病院(千葉県柏市)の江角浩安病院長らの研究グループは、メタボロー ム(*1)解析によりがん細胞が自身の増殖に必要なエネルギーを作り出す際に、回虫などの寄生虫が低酸素環境下で用いる特殊な代謝(*2)か、又はそれに 類似した代謝を用いる可能性があることを世界で初めて実証しました。これは、平成20年度に国が「先端医療開発特区」として創設したスーパー特区(がん医 薬品・医療機器早期臨床開発プロジェクト)に選定された国立がんセンター東病院、慶大先端生命研の共同研究の成果です。 この研究成果は2009年5月19日、米国がん学会誌Cancer Researchの on-line版に掲載されました。

1.研究の背景
 ほとんどの生物は酸素が十分にある環境では、クエン酸回路(*3)と呼ばれる代謝を使ってエネルギー物質であるATP (*4)を生産します。寄生虫として知られる回虫も、酸素の多いところで成長する幼虫の間や、体外にいる間は酸素を呼吸し、ヒトと同じクエン酸回路を使っ てエネルギーを生産します。しかし、ひとたび酸素の乏しい小腸内に進入すると今度は特殊な代謝を使ってエネルギーを生産するようになります。ある種の虫下 し薬は、回虫が使っているこの特殊な代謝を選択的に阻害するためヒトには副作用がなく、回虫のみを死滅させる事ができます。 国立がんセンター東病院の江角浩安病院長らは、虫下し薬が悪性のがん細胞も死滅させることを2004年に発見しました。この研究成果を元に、がん細胞は血 管がなく酸素が乏しい環境でも活発に増殖することができる事から、がん細胞も回虫と似た特殊な代謝を使ってエネルギーを生産するのではないかという仮説を 立て、世界最先端のメタボローム解析技術を持つ慶大先端生命研と、がんの代謝を解明するための共同研究を2004年より開始しました。

 2.今回の研究成果
 研究チームは、国立がんセンター東病院で大腸がん患者と胃がん患者からがん組織と正常組織を採取し、慶大先端生命研でそれらの組織のメタボロームを網羅的に 測定し、がんと正常組織の代謝物の違いを比較しました。その結果、低酸素の環境下でコハク酸を高濃度に蓄積するという回虫が示す現象ががんの組織でも起き ていることが明らかになりました。このコハク酸の蓄積は回虫が特殊な代謝を使ったときにのみ観察され、がんもこの代謝を用いていることを強く支持する結果 でした。また、酸素濃度の低い大腸がんの方が、胃がんよりもより多くのコハク酸を蓄積していることが判明しました。 虫下し薬でがん細胞が死滅すること、がん組織と回虫のエネルギーを生産する代謝のパターンが似通っていることから、がん細胞は、回虫などの寄生虫が酸素の 乏しい環境下で使用する特殊な代謝、あるいはそれに似通った代謝を使って増殖に必要なエネルギーを生産している可能性を今回の実験で示しました。 一連の研究成果は2009年5月19日、米国がん学会誌Cancer Researchの on-line版に掲載されました。 今後さらに研究をすすめ、がん細胞が使用する特殊な代謝を特定し、その代謝システムのキーとなる酵素(*5)を選択的に阻害する薬物を開発することで副作 用がなく、薬効の高い(正常細胞には作用しないため、副作用が少ない)抗がん剤の実現を目指します。


【<特定抗体>人の血液から 富山大大学院教授らが開発、がん治療応用期待】 (毎日新聞)2009年8月17日
◇短期間で大量に

 富山大大学院医学薬学研究部の村口篤教授(免疫学)らのグループが、特定のウイルスなどを攻撃する抗体を、人の血液から約1週間で作り出す新システムを 開発した。従来はマウスなど動物の血液から半年以上かかって作成しており、良質な抗体を短期間で大量に作ることで、がん治療などへの応用が期待される。成 果は16日付の米科学誌「ネイチャー・メディシン」電子版に掲載された。
 人間の血液中にはウイルスや細菌、がん細胞などの抗原と戦うリンパ球がある。そのうちBリンパ球は抗原の刺激を受けると「抗体産生細胞」となり、病原菌が出す毒素を中和したり、殺したりする抗体を生み出す。
 抗体を使った医薬品は現在もリウマチや、がんなどの治療に使われているが、特定の抗原に対する抗体産生細胞は人の血液中で推定1万個に1個以下と少なく、通常は検出や採取ができない。動物を使った抗体作成は時間がかかり、品質が悪いなどの欠点があった。
 グループは、富山県工業技術センターと6年前に共同開発したマイクロアレイチップを応用。チップはシリコン基板にリンパ球1個が入る穴(直径10ミクロ ン)を約23万個並べたもので、抗原に反応する細胞を数分間で解析・選別できる。今回はワクチン接種した健康な人の血液を使い、肝炎などに対する複数の抗 体を得ることに成功した。
 抗体を使った医薬品は副作用が少ないメリットがある。新システムを使えば患者本人のがん細胞に対する抗体を大量に培養、投与する免疫療法も可能になる。


【腸内細菌、大腸のがん化促進 米グループがマウスで解明】 (朝日新聞)2009年8月24日

 下痢を起こす腸内細菌の一種が、大腸のがん化を促進することを、米ジョンズホプキンス大のグループがマウスの実験で明らかにした。胃がんでは、胃の中に いるピロリ菌が原因の一つとされているが、この腸内細菌も、似たような役割を果たしている可能性を示している。23日付米医学誌ネイチャー・メディシンに 発表される。
 バクテロイデス・フラギリスという、人の腸内に常在している腸内細菌の一種。人によっては何の症状も示さないが、下痢を起こすことで知られてい る。毒素を作るタイプと作らないタイプがあり、グループは大腸がんを自然発生しやすくしたマウスに、それぞれを感染させて観察した。
 すると、毒素型を感染させたマウスは下痢になり、大腸に炎症と腫瘍(しゅよう)が1週間以内にでき、がん化が早まった。非毒素型は下痢を起こさず、大腸の炎症も腫瘍も認められなかった。菌の毒素が免疫細胞を活性化させて炎症を起こし、がん化を促進しているとみられる。
 また、毒素型を感染させたマウスは、炎症反応の引き金となる信号を送るたんぱく質が増えていた。このたんぱく質が増えると、特定の免疫細胞が活性 化されてIL17という因子が作られることが、もともと知られている。IL17を働かなくさせたマウスで同様の実験をすると、腫瘍ができにくくなったこと から、こうした因子を抑えることなどで大腸がんの治療につながる可能性も明らかになった。
 今回の成果について、吉村昭彦・慶応大医学部教授(微生物・免疫学)は「人の大腸がんとの関係は今後、疫学調査などがされないと、まだわからないが、人の腸内細菌の毒素ががん化を促進することを実験的に示したことは画期的だ」としている。


【<脳腫瘍>「膠芽腫」の増殖抑える方法発見 東京大のチーム】 (毎日新聞)2009年11月6日

 もっとも悪性度が高い脳腫瘍(しゅよう)「膠芽腫(こうがしゅ)」の増殖を抑える方法を、東京大のチームが見つけた。がんのもとになる幹細胞を無力化さ せ、動物実験で効果を実証した。臨床応用できれば、生存率の大幅な向上が期待できるという。6日、米科学誌「セル・ステムセル」電子版に掲載される。

 膠芽腫は脳腫瘍の約1割を占める。放射線や抗がん剤でたたいてもやがて再発し、患者の7割が診断から2年以内に亡くなるという。東京大医学系研究科博士 課程4年の生島弘彬さんと東京大病院の藤堂具紀特任教授は、再発の理由は脳腫瘍のもとになる「がん幹細胞」が生き残るためだと考え、脳腫瘍患者から見つ かった細胞増殖因子「TGFベータ」に着目した。その働きを抑える阻害剤を膠芽腫患者のがん幹細胞に作用させたところ、増殖が抑えられた。

 健康な7匹のマウスの脳にがん幹細胞を注射すると、すべてが膠芽腫を発症し30~45日で死んだ。一方、TGFベータ阻害剤を作用させたがん幹細胞を注射した7匹は、90日過ぎても無症状だった。

 TGFベータには幹細胞を維持する機能があり、その働きを阻害することでがん幹細胞が無力化されるらしい。

 ドイツの企業が脳腫瘍患者の脳にTGFベータ阻害剤を直接注入する臨床試験を実施中で、生島さんらは今回そのメカニズムを解明した。チームの宮園浩平教 授(分子病理学)は「がん幹細胞を阻害剤で無力化させ、残ったがん細胞を放射線や抗がん剤でたたくという組み合わせで、膠芽腫の治療が可能になるかもしれ ない。他のがんにも有効か今後調べたい」と話す。


【採血だけで消化器がん発見 金沢大教授らが判定法開発】 (朝日新聞)2009年11月20日

 金沢大学は19日、胃がんや大腸がん、膵臓(すいぞう)がんなど消化器のがんを採血だけで発見できる手法を開発したと発表した。消化器がんに特徴的な遺 伝子群の異常があることを見つけ、がんの有無を判定できるようにした。従来の検査法より、がんを高率で見つけることが期待できるという。人間ドックなどで 活用することを目指す。

 同大医学類の金子周一教授(消化器内科)らは、消化器がん患者に特有の遺伝子群の異常を見つけた。この遺伝子群の特徴に着目して、がん患者40人 と健康な人13人の計53人の血液で調べたところ、約9割の48人でがんの有無を正しく判定できたという。一方、「陽性」と判定した人の約1割で実際に は、がんは見つからなかった。
 がんを種類別に調べたところ、胃がん・大腸がん(患者40人)の7割、発見されにくい膵臓がん(28人)でも7割で判定できたという。ただ、早期がんをどの程度、発見できるのか検証はこれからだ。
 一方で、がん患者150人を対象に、がん特有のたんぱく質などから判定する一般的な腫瘍(しゅよう)マーカーの精度を検証すると、「陽性」と正しく判断できたのは2割にとどまったという。
 金沢大の判定法では採血だけで3~4日で結果が出るのが利点。特別な薬の投与も不要なうえ、X線による被曝(ひばく)も心配なく、費用もがん判定に使われる陽電子放射断層撮影(PET)検査の半額程度の10万円以下ですむという。
 金沢大の研究成果を事業化する目的で設立された「キュービクス」(金沢市)が、遺伝子の異常を判定できる専用の「DNAチップ」を委託製造し、来年末にも自費診療で検査をスタートさせたいとしている。
 金子教授は「今回は消化器がんで検査したが、肺がんや子宮がんにも応用可能だと思う。健康診断や人間ドックで検査することで早期発見、治療につなげたい」と話している。


【がん細胞悪性化の仕組み判明(群馬大)】 (毎日新聞)2010年1月15日

 細胞内にあるHsp90というタンパク質が、がん細胞を悪性化する酵素の一つ「Polη」の働きを促進していることを、群馬大生体調節研究所の研究グループが突き止めた。抗がん剤でHps90の働きを阻害し、がん細胞の悪性化を抑える研究が進んでいるが、その仕組みが判明したのは初めて。 14日付の米科学誌「モレキュラーセル」(電子版)に掲載された。

 研究グループによると、細胞ががん化すると、Hsp90の働きが活発化する。また、がん細胞は遺伝子の変異を繰り返してさらに悪性化するが、Polηは 変異を促進させることが分かっていた。山下孝之教授らは、培養したがん細胞でHsp90とPolηが結合していることを確認。Hsp90阻害剤を用いる と、Polηが分解されたり、働きを抑制することができたという。
 山下教授は「Hps90の働きが分かったことで、より効果的に抗がん剤を活用し、がんの悪性化を食い止められるようになるのではないか」と話している。

養豚家からの参考意見:Hspは必ずしも悪役ではない。 


【唾液でがん検出=80~99%の高精度―膵臓や口腔(慶応大)】(時事通信社)2010年6月28日

 慶応大先端生命科学研究所は28日、唾液(だえき)で膵臓(すいぞう)がん、乳がん、口腔(こうくう)がんを検出する方法を開発したと明らかにした。米 カリフォルニア大ロサンゼルス校との共同研究。それぞれ99%、95%、80%の精度で検出できるという。
 オランダ・アムステルダムで開催中の国際学会で発表する。
 膵臓がん、口腔がんは進行してから見つかることが多く、生存率が低い。マーカーと呼ばれる生体内の物質でがんを診断する方法があるが、口腔がんに有効な マーカーはまだなく、膵臓がんはあるものの、他の病気でも異常値を示すため識別が難しいという。
 同研究所は、三つのがんの患者と患者以外の計215人の唾液サンプルに含まれる物質を網羅的に解析。約500種類の物質が検出され、このうち54物質の 濃度ががん患者とそれ以外で異なることが分かった。 


【悪性乳がん細胞が消失=人工ペプチドで免疫活性化(北海道大など)】(時事通信社)2010年8月17日

 北海道大遺伝子病制御研究所の西村孝司教授(免疫学)らの研究グループは17日、アミノ酸を結合させた人工ペプチドをがん患者に投与し、がんに対する免 疫力を高める治療法の有効性を臨床研究で確認したと発表した。悪性の乳がん細胞が消失する効果も表れたといい、22日から神戸市で開催される「第14回国 際免疫学会議」で発表する。
 研究グループは、アミノ酸40個を結合させた人工ハイブリッドペプチド「H/K―HELP」を開発。従来のペプチドワクチンによる治療では、がん細胞を 直接攻撃する「キラーT細胞」を活性化させることが中心だったが、H/K―HELPは、ほかの免疫細胞の機能を促進する「ヘルパーT細胞」も同時に活性化 させる働きがあるという。これを患者に投与したところ、6人のうち4人に、がんに対する免疫力を示す数値の上昇が確認され、重い副作用はなかった。
 また、共同研究者の奥野清隆近畿大医学部教授によると、再発で化学療法や放射線治療が効かなくなった悪性の乳がんの患者1人に投与した結果、CT画像で腫瘍(しゅよう)が完全に消失したことが確認された。 


【米国で新規乳がん治療剤ハラヴェンの承認取得-エーザイ】(産経新聞他から合成)2010年11月16日

 エーザイは11月16日、米食品医薬品局(FDA)から乳がん治療剤ハラヴェン(一般名=エリブリン)の承認を取得したと発表した。今月内に米国で発売 する予定。
 エリブリンは同社の創製品で、全世界で年間約10億ドル以上の売り上げが見込める大型品(ブロックバスター)候補として期待されている。今月25日に米国で主力の認知症治療薬「アリセプト」の特許切れを控える同社だけに、収益減をカバーする次期主力薬と位置づけている。
 エリブリンはがん細胞の細胞分裂を停止させて増殖を阻害する注射剤。前治療歴のある転移性乳がん患者に対し単剤でがんの進行を遅らせる。欧米を中心としたグローバルフェーズ3試験では、主要評価項目である全生存期間中央値が、ハラヴェン投与群は13.12か月となり、治験医師選択療法施行群の10.65か月を約2.5か月、有意に上回った。統計学的に有意に生存期間を延長した世界初のがん化学療法剤という。
 エーザイは今年3月に日米欧で同時に承認申請。 日本では現在、優先審査の対象となっている。

 米国での適応症は、「アントラサイクリン系およびタキサン系抗がん剤を含む少なくとも2種類のがん化学療法による前治療歴のある転移性乳がん」。エーザ イは同剤の特徴として、▽他剤にはない新規メカニズムを有する「微小管ダイナミクス阻害剤」▽投与方法が2-5分の静脈投与と短時間かつ簡便▽水溶性が高 いために、溶解補助剤が必要なく、溶解補助剤に伴う過敏反応を回避するための煩雑な前処置を必要としない-などを挙げている。
 安全性の面で、高頻度(頻度25%以上)で認められた有害事象は、▽無気力(疲労感)▽好中球減少▽貧血、脱毛症▽末梢神経障害(無感覚、手足などのしびれ)▽吐き気▽便秘-だった。

 同社は今後、対象を肺がんに広げるなどして、将来的にピーク時で全世界で年間約10億ドルの販売を見込んでいる。この日の記者会見で内藤晴夫社長は、「世界に通用する自社開発の新規の薬剤を提供する意義は大きい」と強調した。


【抗がん剤:患部に微小カプセル直送 東大、実験に成功】(毎日新聞)2011年1月6日

 抗がん剤を微小カプセルに入れて、抗がん剤が効きにくいがん細胞に直接届け、増殖を抑えるとともに細胞内で働く様子を観察することに、片岡一則・東京大教授らのチームが動物実験で成功した。6日付の米医学誌に発表した。
 抗がん剤の多くは、使い続けるうちに薬の働きを抑える物質が細胞内に作られるなどして効きにくくなる。同チームが開発した手法はこうした薬剤耐性がんにも有効で、患部に直接届けることから副作用も軽いという。欧州では人への臨床試験も始まっている。

 チームは、高分子で作った直径約40ナノメートル(ナノは10億分の1)の微小カプセルに抗がん剤を入れ、その抗がん剤に耐性を持った大腸がんマ ウスに注射。カプセルががん細胞内で壊れる様子が観察できた。同じ耐性を持つマウスに、抗がん剤をカプセルに入れずに投与したところ、25日後にがんの体 積が約50倍に増えたが、カプセルに入れて投与したマウスは約2倍にとどまった。
 カプセルは細胞内の核の近くで壊れて薬を放出するため、薬の働きを抑える物質の影響を受けにくいと考えられる。


【がんを抑制するREIC遺伝子でほとんどの腫瘍が完全に消滅】(週刊ポスト)2011年5月22日

 「REIC」は不死化細胞の研究から発見された遺伝子で、その後、がんを抑制する働きがあることが確認された。マウスに腫瘍を作り、アデノウイルス にREICを組み込んだ製剤を腫瘍に注射する実験で、ほとんどの腫瘍が完全に消滅するという結果が得られた。がん細胞の選択的死滅と、抗がん剤免疫の活性 化によるもので、これを受けて、前立腺がん患者に対する臨床研究が開始された。

 REICは、岡山大学における細胞の不死化の研究で2000年に発見、同定された。正常細胞は寿命が来ると死ぬが、がん細胞は分裂しながら永遠に 生きる。正常細胞はがん化する前の段階で不死化することがわかっているが、そこにかかわっている遺伝子の一つがREICだ。その後、同大ではがんに対する REICの遺伝子治療研究が開始された。岡山大学大学院泌尿器病態学の公文裕巳教授に聞いた。
 「前立腺がんを作ったマウスの実験で、REIC遺伝子を、がん細胞でアデノウイルスをベクター(運び屋)に強制的に発現させたところ、がん細胞だけが劇的に死滅しました。2004~2005年のことですが、がんの遺伝子治療に応用できることを確信しました」
 がんは複数の遺伝子異常によって発症する病気ではあるが、がん化が完了した段階では遺伝子を修復しても治らない。異常遺伝子の修復ではなく、がん細胞だけを死滅させる遺伝子による治療に挑戦したのが、このREIC遺伝子治療だ。


【がん細胞を直接死滅 岡山大発ベンチャー、新薬開発へ】(朝日新聞)2011年11月5日

 がん細胞を死滅させ、がんへの免疫力も高める治療薬づくりに岡大発ベンチャー企業が5年間4億円で取り組む。科学技術振興機構(JST)の事業に採択され、資金のめどがたった。前立腺がんや中皮腫、腎がん、乳がんへの効果が動物実験で確認された遺伝子を用いる。
 事業主体の桃太郎源(岡山市北区)によると、製剤の元になるのは遺伝子「REIC(レイク)」。無毒化したウイルスに組み込み、直接がんに注射する。が ん細胞にREICが増えると、たんぱく質の生産異常を起こして死ぬ。REICが普段からある正常な細胞は、少し増えても問題はない。
 さらに、死んだがん細胞の断片がワクチンのように働き、がんに対する免疫を高めるという。
 岡山大病院では、REICの特許権を持つ公文裕巳教授らが、ウイルスに組み込んだREICを前立腺がん患者で臨床研究中。今のところ安全性に問題は無 い。今回は臨床研究中の製剤を改良する。ウイルスへのREIC遺伝子の入れ方を工夫し、薬効を10~100倍に上げ、5年以内に腎がんでの臨床研究を目指 すという。


【<がん細胞>近赤外光で破壊 マウスで成功 米チーム】(毎日新聞 2011年11月7日

 体の外から光を当ててマウス体内のがん細胞を破壊する実験に、米国立衛生研究所の研究チームが成功し、6日発行の科学誌「ネイチャーメディシン」(電子 版)に発表した。正常な細胞は傷つけず、効率的にがん細胞だけを破壊できる治療法として、数年以内の臨床応用を目指すとしている。
 チームは、主にがん細胞に存在するたんぱく質と結びつく性質を持った「抗体」に注目。この抗体に、近赤外光の特定の波長(0.7マイクロメートル)で発熱する化学物質を取り付け、悪性度の高いがんを移植したマウスに注射した。
 その後、がんがある部位に体外から近赤外光を15~30分間当てた。計8回の照射で、がん細胞の細胞膜が破壊され、10匹中8匹でがんが消失、再発もな かった。一方、抗体注射と照射のどちらかだけを施したマウスや何もしなかったマウスは、すべてが3週間以内にがんで死んだ。複数の種類のがんで同様の効果 を確認。注射された抗体ががん細胞と結びつき、照射によって化学物質が発する熱で衝撃波が発生、がん細胞だけを壊したと結論づけた。
 がんに対する光治療には、今回と波長の異なる光を当てる方法があるが、やけどをしたり、光を受け止める物質ががん細胞以外にも結びついたりするなど、健康な細胞への影響が避けられなかった。
 近赤外光を使う新しい方法では、抗体がわずかに正常細胞に結びついても、光の強さを調節することでがん細胞だけ破壊できる。また、光自体が無害なため繰り返し照射でき、体表から5~10センチ程度の深さまで届くという。
 チームの小林久隆主任研究員は「抗体は、肺、乳、前立腺、大腸、卵巣、白血病、悪性リンパ腫などさまざまながんに使えるものが承認されており、数年以内 に臨床応用を実現させたい。がん細胞が血中を移動する転移がんでも、それに結びつく抗体が見つかれば応用できる」と話す。


【がん成長抑える物質発見=免疫細胞が分泌-東大など】(時事通信)2011年11月22日

 がんの成長を助長する異常な炎症反応を抑える物質を、東京大と大阪バイオサイエンス研究所、動物衛生研究所の研究チームが21日までに発見した。この物質は免疫細胞の一種が分泌する「プロスタグランジンD2(PGD2)」。働きを強めることができれば、新たな治療法になるという。研究成果は米科学アカデ ミー紀要電子版に発表される。
 東大大学院農学生命科学研究科の村田幸久助教らは、がん組織で免疫細胞の一種「肥満細胞」にPGD2の合成酵素があることを発見。この合成酵素を作れないマウスを生み出したところ、がん組織で異常な炎症反応が起きたり、血管が新たに形成されたりして、がんの成長が速 かった。


【微小がん、スプレーで蛍光=内視鏡手術の成功率向上期待―東大と米国立研が試薬開発】(時事通信)2011年11月24日

 がんの外科手術の際、スプレーすると数分後に微小ながんが緑色の蛍光を発し、見分けられる試薬を開発したと、東大大学院医学系研究科の浦野泰照教授や米 国立がん研究所の小林久隆主任研究員らが23日付の米医学誌サイエンス・トランスレーショナル・メディシンに発表した。内視鏡などを使ってがんを切除する 際、取り残しを防ぐことができ、手術の成功率が高まると期待される。
 研究チームは、正常な細胞には少ないが、がん細胞には非常に多い物質を探し出し、この物質にだけ蛍光試薬を結合させて光らせる方法を考案。健康診断の際、アルコール性肝障害などの指標として利用される「ガンマGTP」によく似た酵素「GGT」を見つけた。
 GGTは、肺や肝臓、乳、卵巣などさまざまながん細胞の細胞膜上に多く存在し、がん細胞のエネルギー生産に必要な「グルタチオン」を外部から取り込む役 割を果たしている。研究チームは、GGTに結合すると、蛍光物質を生成し、がん細胞内に蓄積される試薬「gGlu―HMRG」を開発した。 


【胃粘液の「糖鎖」がん抑制、薬や予防法の開発に期待】 (読売新聞)2012年2月8日

 胃の粘液に含まれ、糖の分子が鎖状になった物質「糖鎖(とうさ)」に胃がんの発症を抑制する働きがあることを、信州大学医学部(長野県松本市)の中山淳教授(病理学)らの研究グループが突き止めた。
 6日付の米医学専門誌「ジャーナル・オブ・クリニカル・インベスティゲーション」に発表した。今後、糖鎖に着目した薬や予防法の開発が期待できるという。糖鎖は、糖の分子が鎖状に結びついた化合物で、細胞膜の表面のたんぱく質などと結合し、病気の発症に影響する。
 胃の粘液は「表層粘液」と、胃粘膜の下方の細胞で分泌される「腺(せん)粘液」に分類され、腺粘液に糖の分子「α型N―アセチルグルコサミン」を含む糖鎖がある。グループは2004年、糖鎖が胃がんなどを引き起こすピロリ菌の増殖を抑えていることを明らかにした。
 今回は、胃粘膜での糖鎖の役割を解明するのが目的。ピロリ菌に感染していない状態で、糖鎖を欠損させたマウスと通常のマウスを比較する実験を行った結 果、糖鎖のないマウスは5週間で胃粘膜の炎症が起き、30週で胃がんを発症した。また、早期の胃がん患者では糖鎖の量が低下するか、消失していた。このた め、糖鎖は炎症を抑え、がん発症を防いでいると結論づけた。
 中山教授は「粘液は粘膜の単なるバリアではないことが分かった。研究結果が、糖鎖の量を増やす薬の開発などにつながることを期待したい」と話している。


【がん探知犬マリーン、婦人科ほぼ確実に嗅ぎ分け】(読売新聞2012年4月24日)

 がん特有のにおいを嗅ぎ分ける訓練を受けた「がん探知犬」が、子宮がんなど婦人科がんをほぼ確実に判別できることを、日本医科大学千葉北総病院の宮下正夫教授(外科)らが確認した。
 この犬は、大腸がん判別で既に成果を出しており、乳がんや胃がんについても実証実験が進行中。宮下教授は「自覚症状がない早期がんでも嗅ぎ分けられる。犬が感じているにおい物質を特定し、早期発見の技術につなげたい」と話している。
 この探知犬は、千葉県南房総市内の専門施設で訓練を受けた雌のラブラドルレトリバー「マリーン」(10歳)。判別試験では、尿1ミリ・リットルの入った試験管を木箱に入れ、その前を研究者に連れられて歩く。がんのにおいを感じた時は箱の前で座り、それ以外は通り過ぎるように訓練されている。
 子宮頸(けい)がんや卵巣がんなど5種類の婦人科がん患者43人の尿では、マリーンはすべてがんと判定。子宮筋腫など、がん以外の婦人科疾患29人の患者の尿では、1人分を誤ってがんと判定したが、それ以外は間違わずに嗅ぎ分けた。


 なお,これについては以下の記事も参照するとよい。

【探知犬、がん患者かぎ分け 呼気実験で成功率9割超】(共同通信)2011年1月29日

 犬の嗅覚を利用して、がん患者の呼気などをかぎ分ける「がん探知犬」を使った九州大の研究者らの実験で、9割以上の精度で判別に成功したことが、29日までに分かった。近く英国の医学誌「GUT」で発表される。
 実験は、セントシュガーがん探知犬育成センター(千葉県南房総市)と、九州大大学院消化器総合外科(福岡市)の園田英人助教らが約300人分の検体を集めて実施。2008年11月から09年6月にかけ、ラブラドルレトリバーのマリーン(9歳、雌)にかぎ分けさせた。
 五つの容器のうち一つだけに大腸がん患者の呼気を詰めて並べ、マリーンがどれを選ぶかを試したところ、計36回のうち33回は正解を選んだ。
 呼気の代わりに便から採取した液状の検体を使った実験では、38回中37回正解した。
 同センターの佐藤悠二所長によると、マリーンは嗅覚が特に優れていたため「体内の臭いで、病気をかぎ分けられるのではないか」と考え、呼気で食べた物を当てるなどの訓練を積んだという。
 乳がんや胃がん、前立腺がんで数例試した場合も、かぎ分けに成功したといい、園田助教は「がん特有の臭いに反応したと推測できる。臭いの原因物質を特定できれば、がんの早期発見にもつながる」と話している。

【胸部X線検査より、喀痰検査より、診断感度が高い?肺がんを嗅ぎ分ける「がん探知犬」登場がん特有の匂い物質と呼気検査】
(週刊ダイヤモンド)2011年11月28日

 この8月、欧州呼吸器学会誌に、吐いた息から肺がんを嗅ぎ分ける「がん探知犬」の研究結果が報告された。
 それによると、肺がんに特有の匂いを嗅ぎ分けるように訓練された犬は、肺がん患者の呼気サンプル100例中71例を「陽性」とし、健康な人の呼気、COPD(慢性閉塞性肺疾患)患者の呼気400例に対しては93%に「陰性」の判断を下した。一般診療で胸部X線による肺がんの検出感度は80%、喀痰検査は40%前後であり、堂々、それ以上の結果が示されたというワケだ。
 臭覚に優れた犬が「がんの匂い」に反応することは以前から知られている。最初の報告は1989年に医学雑誌「Lancet」に掲載された論文。コリーとドーベルマンの混合種の雌犬が飼い主のホクロに異常な関心を示したため、不審に思った飼い主が受診したところ、悪性黒色腫が発見された例が紹介されている。

 これが世界中で大反響を呼び、同様の報告が相次いだ。なかには通常の尿検査で「陰性」だった患者が探知犬の「陽性」判定を受けて、精査したところ腎がんが発見されたという例もある。日本では2005年から続けられている千葉県南房総市の「セントシュガー がん探知犬育成センター」の研究が嚆矢。今年初め、医学誌「Gut」に報告された九州大学医学部第二外科のグループとの共同実験では、ラブラドールレトリバーの「マリーン」(9歳、雌犬)が9割以上の確率で大腸がん患者の呼気サンプルを嗅ぎ分けた。
 ただし、臭覚の個体差や特殊訓練に費やす時間とコストからして検診施設に「がん探知犬」が配属される、なんてことはありえない。そのあたりは研究者も現実的で、実際は探知犬で存在が証明されたがん種特有の匂い物質「揮発性有機化合物」の特定に力を入れている。これがかなえば、すでに一般的に使われている匂い感知器の「電子鼻」を医療用に改良し「匂いの“腫瘍マーカー”による究極の低侵襲検査が実現する」(臨床医)だろう。
 日本人の嗜好からするとがん探知機能搭載の犬型ロボットを開発しそうだが、ともあれ、がん検診に「呼気検査」項目が追加される日は近いかもしれない。


【がん細胞を狙い撃ち=死滅促す仕組み解明―薬開発に期待・愛知がんセンター】(時事通信)2012年6月11日

 人間などの哺乳類の細胞にある突起物「一次線毛」の働きを利用し、がん細胞だけを死滅させる仕組みを解明したと、愛知県がんセンター研究所の稲垣昌樹部 長らの研究グループが11日、名古屋市で記者会見して発表した。研究成果は米科学誌「ジャーナル・オブ・セルバイオロジー」に掲載された。
 稲垣部長は「より副作用の少ない薬の開発に力を与えると思う」と話している。
 一次線毛は各細胞に一つずつ存在。細胞分裂を起こす時は隠れているが、アンテナを伸ばすように細胞から突き出ると、分裂が停止することで知られる。がん細胞には存在せず、がん治療への応用が期待されていた。
 稲垣部長によると、研究グループは人間の子宮頸(けい)がんの細胞と正常な網膜細胞をそれぞれ培養。一次線毛の働きを抑え、細胞分裂するのに必要な酵素「オーロラA」をそれぞれの細胞から取り除き、2、3日置いて観察した。
 その結果、がん細胞の方は中途半端に細胞分裂が進み、異常な状態で停止した上、自浄作用が働き死滅した。一方、正常な細胞は一次線毛が飛び出し、正常な状態を保ったまま細胞分裂が停止したという。 


【大腸がん、1滴の血液で早期発見 神戸大などが成功】(神戸新聞)2012年7月12日

 1滴の血液から大腸がんの指標となる四つの物質を発見し、それらを使った診断法を開発することに、神戸大大学院医学研究科(神戸市中央区)などの グループが成功、12日付の米科学誌プロスワンに発表した。従来の方法では診断が難しかった早期の大腸がんでも見分けられ、早めの治療につなげることが期待できるという。
 大腸がんは食事の欧米化などに伴って増加傾向で、国内では年間約4万5千人(2010年)が死亡。肺がん、胃がんに続き、がんによる死因の3位となっている。
 早期の大腸がんは治療できる可能性が高いものの自覚症状がない。検査では便を採取して血液の有無を調べたり、がんが出す血中のタンパク質を調べたりするが、いずれも見つけにくかった。

 グループは大腸がん患者60人と健康な60人とを比べ、アミノ酸の一種「アスパラギン酸」など4種類の物質について、いずれもがん患者の方が平均2~3倍多いことを発見した。
 さらに、別の大腸がん患者と健康な人のそれぞれ約60人で検証すると、従来のがん指標となるタンパク質では早期がんの1割程度しか診断できなかったが、4種類の物質を使った診断法では8割以上が診断できた。
 同科の吉田優准教授は「今後、4種類の物資を使ってさらに簡単に診断できる機器をメーカーと共に作り、実用化させたい。胃がんや膵臓がんなどの早期診断法も開発したい」と話す。


【悪性脳腫瘍の再発抑制=薬剤、マウスで効果―山形大など】(時事通信)2012年7月19日

 治療が難しい悪性脳腫瘍「グリオブラストーマ」の再発を抑える効果がある薬剤をマウスの実験で発見したと、山形大と国立がん研究センターの研究チームが19日付の英科学誌サイエンティフィック・リポーツに発表した。
 この悪性脳腫瘍は手術や放射線、抗がん剤による初期治療が成功しても、再発する場合が多い。研究チームは、腫瘍を作り出すがん幹細胞の維持に必要な分子に着目。この分子の機能を抑える薬剤の効果をマウスで確認した。
 脳に腫瘍を移植したマウスに薬剤を5日間投与したところ、腫瘍の中のがん幹細胞は10分の1以下に減少。また、がん幹細胞を脳に移植したマウスでは、10日間の薬剤投与でがん幹細胞を10分の1~100分の1以上減少させる効果があった。脳の機能には影響がなく、生存期間を延ばすことができた。


【アスピリン、一部の大腸がんに効果? 米ハーバード大】(朝日新聞ディジタル)2012年10月26日

 【東山正宜】鎮痛剤のアスピリンが、ある特定の遺伝子に変異がある大腸がん患者については死亡率を減らす効果がある、との論文が、25日付の米医学誌 ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンに掲載された。米ハーバード大の荻野周史(しゅうじ)准教授らが米国の患者を過去にさかのぼって追跡し て分析、報告した。今後、実際の効果を確かめる研究を進めることになりそうだ。
 荻野さんらは、医療関係者が参加する健康調査から、2006年時点で大腸がんと診断され、細胞を分析できた964人の経過を追跡した。このうち 「PIK3CA」というがんの増殖に関わる遺伝子に着目、その遺伝子に変異があった161人と、遺伝子変異のない803人について、アスピリンを飲むかど うかで予後の違いを比べた。
 遺伝子変異があったグループでは、アスピリンを飲む習慣がなかった95人のうち44人が昨年1月までに死亡、うち大腸がんが死因だったのは26人だっ た。一方、アスピリンを週に複数回飲んでいたのは66人で、亡くなったのは18人。このうち死因が大腸がんだったのは3人だった。


【がん幹細胞のマーカー特定=新たな治療法開発に期待―京大】 時事通信(2012年12月3日)

 がんの幹細胞だけに反応するマーカーを特定したと京都大大学院消化器内科学の千葉勉教授らの研究グループが発表した。マーカーが発現した細胞を除去して も正常組織への副作用はなく、新たな治療法が期待できるという。論文は2日、英科学誌ネイチャー・ジェネティクス(電子版)に掲載された。
 がんの治療には、がん細胞をつくる幹細胞を根絶する必要がある。しかし、これまでのがん幹細胞のマーカーは、正常な細胞の幹細胞にも発現し、がん幹細胞との区別ができなかった。
 研究グループは、消化管幹細胞マーカーの候補遺伝子として知られていた「Dclk1」に注目。マウスの腸でDclk1を識別できるよう操作した結果、正 常な腸ではごく少数でやがて消滅したが、がんの幹細胞があるとみられる腫瘍のある腸では、Dclk1が増え続けることを突き止めた。
 Dclk1が発現している細胞だけを排除する遺伝子操作をしても、正常組織への影響はなく、腫瘍の大きさは5分の1に縮小した。
 千葉教授は「がんの幹細胞を標的とした治療法を開発する上でこれまで大きな障害だった問題を一挙に解決する可能性がある」と話している。 


【血液中のがん、網で生け捕り=簡単検査で転移の早期発見も―理研と米大学】 時事通信(2012年12月31日)

 がん患者の血液中を流れ、転移の原因となる微量のがん細胞を生きた状態で効率良く捕らえる微細な「網」が開発された。理化学研究所と米カリフォルニア大 の研究チームが31日までに、ドイツの科学誌アドバンスト・マテリアルズ電子版に発表した。実用化されれば、血液検査でがんの転移を早期に発見したり、治 療後の経過を観察したりできる可能性がある。
 血液やリンパ液中を流れるがん細胞は「循環腫瘍細胞」と呼ばれ、がんが最初にできた場所から流れて一部が転移の原因となる。米国で検査技術が実用化されたが、より簡単で精度が高い技術が求められている。
 カリフォルニア大チームはこれまでに、循環腫瘍細胞を捕らえる抗体物質を微細な剣山状のシリコンに付着させた「網」を開発したが、分析のため細胞を生きた状態で網から分離することが難しかった。
 理研の尤嘯華独立主幹研究員らは、抗体物質とシリコンの間に、温度により伸縮する素材を挟み改良。健康な人の血液1ミリリットルに循環腫瘍細胞を 10~1000個加えたサンプルで改良した網を試した結果、体温の37度で循環腫瘍細胞を7割捕らえ、その後4度に冷却すると、このうち9割を生きた状態 で分離できた。