亡くなった後,残った者の立直り
2007年2月2日更新 (C)CopyRight 2004-2007
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家族や親友など自分が愛情を持つあるいは愛着を持つ人が亡くなると,それなりの精神的打撃を受ける。そのstressの強さは一般的に,結婚していてその結婚が順調に継続している人にとっては,配偶者の死がいちばん大きい,とされている。右に,ある調査におけるstressの強さの比率を,配偶者の死を100として示す。
私の場合,結婚時に始めた会社を二人で経営していたため,どちらかに用事があって出かける時以外は,1日24時間のほとんどを共に過ごして来た。たった28年の短い時間ではあったが,普通の勤め人の倍以上の時間を共に過ごしたと思う。
定年退職した夫婦で,濡れ落ち葉とか,退職離婚とか,うまく行かない例も多いが,長年培って来た二人の関係は,それとはほど遠かった。
それだけに愛着は強く,最後に意識が衰えた状態でも,妻は私のことはよく判別した。妻の死去により,私は心の半分を突然喪失した状態になってしまった。
たとえ,寝たきりでもそこで生きていれば,愛(着)の対象は存在する。それが骨になってしまっては,何とも愛情を表現する手段が見つからないのだ。これが必ず別れることが解っている親子との違いであろう。
愛(着)の対象を喪失することによって起こる現象と解決方法は,日本においては上智大学名誉教授Alfons Deeken氏が提唱し,その実践として会を作成したり,講義をしたりした。
その内容はいろいろなところで公開されている。特にNHKで放映された氏の番組「死とどう向き合うか」はNHKから販売されていた。NHKの人間大学での講義内容をまとめたCDも出ている。
Deeken氏の話の説明の他,Engel氏,Lamers氏など,悲嘆のprocessを研究しているいろいろなsiteの内容を含めて要約すると以下のようになる。
I 愛(着)の対象を失った人は,通常次のような過程を経て回復する。
1. 無感覚の段階(比較的短い期間)
2. 思慕と探求(怒り)の段階(数ヶ月)
3. 混乱と絶望の段階(数ヶ月〜半年)
4. 再建の段階(2〜3年)
II そのためには以下のようなことを経験していかねばならない。
1. 喪失の事実を受容する
2. 悲嘆の苦痛を乗り越える
3. 死者のいない環境に適応する
4. 死者を情緒的に再配置し,生活を続ける
III その経験を経ずにいると,無感覚の段階や思慕と探求の段階が継続してしまう。
1. 意識的悲哀の長期的欠如(怒りっぽくなる,頭痛)
2. 慢性の悲哀(抑制的な生活や,生きていた時と同じ状態を維持しようとする)
立直るには,死を語る必要がある。亡くなった人を苦悩なく思い出せるようになれば立直ったと見なされる。ただ,命日などの記念日に精神的な破綻を起こす可能性がある。
他人や親族の励ましや叱咤激励・説教はまったくの逆効果である。必要なのは心を支えること。以下のような言葉をぶつける人は,自分が愛する人と別れた経験がないか,そのような経験を拒絶して生きて来た人である。
1. 死んだ人は帰らないのだから,くよくよと考えるのはよせ,シャンとしたらどうか
2. 仕事や勉学・趣味などに熱中すれば死んだ人を早く忘れられる
3. (伴侶を失った人に)新しい出会いを探したらどうか
このような言葉は,心の傷を治さないまま新しいstressに出会えということである。身体が傷を負ったときに,人はこのような言葉を吐くであろうか。こころのケガは外部から見えないだけに,骨折が直らない内にsportsを始めたときのように,一生涯心に傷を残してしまう。
自分自身の具体的な手段としては,形から入るのがよい。外相を整えて内相を変える,という手法である。
1. 目標を持つ
2. Rhythmを持って生活する
3. 温かい人間関係を保つ,故人を知る人と話し合う
4. 頑張りすぎない
5. 健康人らしくふるまう
心の回復は急ぎすぎても,放置しておいてもだめである。心の傷は,皮膚表面の傷などとは異なり,急性期を過ぎても突然に状態が戻ってしまうことがある。医師や相談に乗ってくれる人や組織も利用して,各人別のmenuを作成して回復を図るとよい。ただ漫然と時間を過ごしていても回復しない。
辛い体験を自分の中で昇華してはじめて死を受け入れることができる。このためには,死に至る過程で,「逝った人に対して自分がどのように関って来たか。」について第三者の視点から正確に道のりを辿るとよい。
死が避けられないと悟ったら,まだ意識がはっきりしている内に,逝く人が心残りになっていることがらに決着をつけておくとよい。これは治療方法の選択だけでなく,家族や友人関係のわだかまりも解いておくことが望ましい。逝く人はすでに自分主導でこのような処理ができないし,させるべきではない。家族の方から必要な解決を考える必要がある。ただし,残る家族の意見は一つに纏めておかないとうまくない。
多くの近親者を失った方々が自分だけで悩まずに,心のmechanismを知って立直りを図る必要がある。Internet上には多くの情報がある。それらを上手に探して心の回復に向かわれることを希望する。
遺族の心のcareをしてくれる医師は2007年の時点で日本に30人ほどしかいない。その中で埼玉医科大学では大西教授を中心に精神腫瘍科で遺族外来を開設している。「うつ」状態でないと健康保険が適用されないが,医師に「患者が生きていたときは,あんなにしっかりとやったじゃないか,今の心境のままでよいのだ。」と言われると,周囲からよけいな圧力をかけられて,さらに落ち込んでいた状態から抜け出せるそうである。
[ニューヨーク 19日 ロイター] 米研究によれば、幸せな結婚をしている女性が、ストレスを感じた際に夫の手を握ると、ストレスが即座に解消されることが、脳のスキャンではっきりと示されるという。 |