新しい大腸癌の抗癌剤(2015年9月9日更新)
(青字はlinkがある)
免疫治療
遺伝子治療薬
新しい治療薬
癌治療の補助となる漢方薬
最近の抗癌剤のまとめ
癌一般の最新研究動向
☆ 免疫治療
人体では一日5,000個という割合で正常細胞が癌化していると推定されている。このほとんどすべてが,体内を循環する免疫細胞によって退治されていて,癌細胞がどんどんと増殖するのを防いでいる。
しかし,加齢や何かの疾患,免疫抑圧治療,体温低下,stressによって自然に持つ免疫力は大幅に低下することが知られている。風邪なら直り難いというだけで済むが,免疫力の低下は,異常細胞が癌細胞だと致命的になることがある。
癌化した細胞の中で増殖の危険が大きいのは分化度が低い癌幹細胞といわれるもので,この細胞は抗癌剤の影響をもっとも受けにくい。このため,抗癌剤で一旦縮小した癌が再度戦略を変えて幹細胞から増殖するという例が非常に多く,癌の致死率を高めている。抗癌剤の影響を受け難いといわれている癌幹細胞は,当然ながら免疫細胞の監視の目からも逃れ易い。
現在最新の免疫治療は,患者の血液から免疫細胞の一種である標的(抗原)取得細胞(樹状細胞)の元を取り出し,今かかっている癌細胞に対する提示能力を付けて大量培養し,体内に戻すという手法である。体内に大量に特定の種類の癌があるという情報がばら撒かれると,それを感知した免疫T細胞が体内をくまなく探して,指定された標的を持つ癌細胞を攻撃する。
この原理はかなり以前から解ってはいたが,患者の癌細胞から的確な抗原を取り出し,それを抗原提示(Helper)T細胞や細胞傷害性T細胞に持たせることにかかる手間と時間が,この治療法をすべての癌患者に適応することを妨げている。詳しいりくつは専門のHPを参照してもらいたい。
ここに最近の技術として,最初に癌細胞から抗原となる分子を取り出す患者の樹状細胞に,人工癌抗原分子を与えて癌細胞の情報を覚えさせるという手法が確立した。この場合は,各患者ごとの癌細胞からの抗原ではないが,一般の癌細胞に共通する特異抗原を人工的に創り出したものである。
この人工抗原は比較的安全性が高く,かつ各患者の癌細胞からの抗原の取り出し(癌細胞の採取は,すべての癌患者に適応できる訳ではない)にかかる手間と時間が短縮される。費用も少し押さえられるため,設備や専門医師が少ない状態でも,比較的容易に免疫治療を実施できる。
この人工癌細胞抗原はWT1 peptideと呼ばれている蛋白質を構成する断片で,大阪大学大学院杉山治夫教授等によって世界に報告された,ほとんどすべての癌細胞で発現している癌細胞の抗原である。
実際にはたった1種類のWT1 peptideを抗原として治療に使うのではなく,いくつか用意されたWT1 peptideから癌患者に適合するものを使い分けることで,患者の癌細胞の多様性に対処している。
当然ながら自費治療になるが,1 set(一回の採血と数回の培養された樹状細胞の注入)で200万円程度で効果を確かめることができる。
この他に,各患者が持つ一般の異常細胞を排除する能力を有するNK(Natural Killer)細胞を大量に培養して患者の体内に戻し,癌細胞の発見と排除に使うという免疫治療がある。この場合はNK細胞は癌細胞だけでなく多くの異常細胞を見つけて攻撃するので,一種のAllergie反応が起きる危険性もある。一般的な免疫力上昇効果で,癌細胞を見つけて破壊するのである。
さらに,患者のT細胞を取り出して大量に増殖させて体内に戻すという手法もある。この場合は患者の体内にある癌を認識しているT細胞が増えることで患者特有の癌細胞に対する破壊能力を上げることもできる。NK細胞に比べて,比較的副作用が出ないと考えられるが,体内でのT細胞の消耗があると,治療に時間がかかる。
大腸癌に関しては免疫治療の実施例は,膵臓癌や肺癌に次で多いが,いずれも手術・抗癌剤・放射線治療が出来なくなった状態からの免疫治療開始であるので,半数の人は免疫治療開始から亡くなっている。
☆ 遺伝子治療薬
じつは大腸癌に対する抗癌剤の研究は,遺伝子を直接解析することによって開発した治療薬を中心に急速に進んでいる。白血病の遺伝子解析による治療薬は,これまで骨髄移植手術をしない限り死が避けられない病気だった白血病の進行を劇的に止めることに成功した。この原理に基づいた抗癌剤を,世界の薬品会社が承認へ向けて多大な臨床試験を行っている。
このような最新の抗癌剤は,その抗癌のmechanismからみて,副作用が格段に少ないのが特徴である。5FUやCPT11のように細胞分裂を阻止するtypeの汎用抗癌剤は,当然ながら正常細胞の分裂にも影響を与える。それが,本来分裂をしなければならない表皮細胞や血液細胞,毛根,爪などの分裂を阻害し,効き目があればあるほど重篤な副作用をもたらす。
5FUなどに対し,たとえばRoche社が開発中の癌に栄養を供給する毛細血管の新生を阻害する,大腸癌の抗癌剤Bevacizumab(rhuMAb-VEGF)などは,分子標的薬なのであまり副作用を出さずに腫瘍の増大を押さえることができる。その意味では健康食品の鮫軟骨や睡眠薬のthalidomaidと同じような作用をする。
このRoche社の薬によって癌の大きさが半分になった人が臨床試験した患者の23%にもなった,と伝えられており,画期的な効能と賞賛されている。逆に言うと,いままでの抗癌剤はこの程度の効果も期待できない気休めである,ということである。
ところで日本では,このような新薬の臨床試験も外国で承認されてからしか行われない傾向がある。また医師によってはこのような抗癌剤を毛嫌いする場合もある。それは,癌の内科的治療の専門医が極度に不足しているからである。
Roche社の新薬はSwissでは亡妻の治療時にすでに承認されているそうであるが,日本では2004年にようやく中外製薬で第1相の試験が始まり,2007年にようやく認可された。ところがこの薬は,加齢黄斑変性という目の中心部から見えなくなる病気の薬としても,毛細血管の新生を妨げる作用が利用されている。
大腸癌の抗癌剤の開発はこのRoche社以外にも白血病の治療薬を出しているNovartis社やImClone社でも違う原理に基づくものが承認へ向けて進行中である。ここ数年の内に,全世界で年間40万人と言われる大腸癌の患者には福音をもたらすであろう。
岡山大学で世界で始めて開発された画期的な腫瘍溶解virus剤の臨床実験も,2006年10月に米国Baylor大学病院・癌centerで第i相の臨床実験が行われた。
☆ 新しい治療薬
以下種々の新しい抗癌剤について簡単に触れておく。
Cetuximabは上皮成長因子受容体(EGFR)を阻止する分子標的薬である。大腸癌においてはCPT11に抵抗性を示した転移性大腸癌に対し,この薬剤を併用することで2ヶ月程度の延命効果があるという報告がある。効果はCetuximab単独で9%,CPT11との併用で15%の事例で認められたという。この薬は米国では2004年2月に認可された。
日本では1999年から治験が始まり,ヤクルトが認可申請しているOxaliplatin (Eloxatin) という抗癌剤は,大腸癌に有効であるということで,世界の多くの国ですでに認可が出ている。この薬剤は5FUと併用することで,手術後の再発の危険性を低下させるというdataが欧米では出ている。
癌研究会のdataによると,5FU/LV(ロイコボリン)+CPT11+Oxaliplatinの併用時では,延命効果がいちばん高い,となっている。
この抗癌剤は日本人が発明したのであるが,なぜか日本での認可が遅れていて,個人輸入で利用すると検査を含む全額が保険外診療になり,月に100万円以上もの費用がかかる。
これらの薬剤はある人にはどれかが有効でなくても別のものが有効である可能性もあるので,新薬によって生存率が上がることは間違いない。
ただ,これらの薬剤は特許が切れた5FUとは違い,とてつもなく高価なものもある。その意味では効用がいかがわしい割には非常に高価な種々のキノコの抽出液よりはましであると言えるが,実際にこれらの薬剤が保険適用となっても,薬代を負担することに困難を感じる人は多いと思う。また,高価であるがゆえに保険適用外となると,薬代だけで月に数10万円の負担が重くのしかかって来る。
早期発見ですぐに投与する場合以外は,われら貧乏人がこれらの新しい薬の恩恵を得るには,特許が切れる20年後を待たなくてはならない。
これを考えると,大腸癌が発見されてからこれらの新薬の投与を受ければよいと考えるのは止めたほうがよい。大腸の内視鏡検査に年平均1〜2万円程度を投じることの方が癌保険に年数万円を払うより意味があると思う。
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☆ 癌治療の補助となる漢方薬
癌に効く自然物由来の薬として,キノコ類から抽出された抗癌剤が何種類か認可されていた。しかし,それらは試験管内(in vitro)で腫瘍消滅効果が確認されただけで,単独では複雑な生理作用を行う体内(in vivo)特に経口摂取ではほとんど薬効を示すことができなかった。通常の食用キノコ類は漢方薬としては使われていない。
キノコ由来の薬剤では,以下の3種が他の抗癌剤との併用でのみ現在は投与が認められている。
薬剤名 | 商品名 | 由 来 | 効 果 |
Lentinan | レンチナン | 椎茸の食用部分から得られる多糖類 | 生体防御機構の賦活により抗腫瘍活性を発現するとされ,胃および大腸癌に対して,化学療法剤との併用 |
Sizofiran | シゾフラン | スエヒロ茸の菌糸体が培養濾液中に産生する多糖体 | 子宮頸癌における放射線療法の直接効果を増強する作用があり、肺癌への適用拡大検討中 |
PS-K | クレスチン | カワラ茸の菌糸体から得らる糖蛋白 | 消化器癌・肺癌・乳癌に適用され,胃癌・結腸および直腸癌患者における化学療法との併用による生存期間の延長,小細胞肺癌における化学療法との併用による奏効期間の延長 |
もちろん高価なAgaricus(アガリクス)単体を経口摂取した場合の薬効は誰も検証出来ていないので,むやみと自然食品や漢方薬に頼ることは禁物である。
しかし,まだ研究段階であるが,血液サラサラ効果がある漢方薬として2,000年前の神農本草経に記載されている漢方薬「冠元顆粒」などの丹参製材の主薬「丹参」に抗癌作用があるということが詳細な研究で判明した。詳しくは銀座東京クリニックの院長福田一典医師のblog(199〜201)を参照されたい。