1.2 コンセントまで電気を持って来る
“電気のブレーカ”からコンセントまでの電気の供給ルートは,基本的に壁や天井裏で行われています。そのことを知らないと,ついつい過大な電気を使ってしまい,事故の原因にもなります。
1.2節の内容
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Q 1.5 使ってよい電気の量 |
[A]
家庭や事務所のほとんどのコンセントや引っ掛けシーリングは,図1.8のように壁の中や天井裏などに,同じ系統の配線が“渡り配線”で接続されたり,分岐接続で一つにつながっています。
図1.8 安全ブレーカからの 一系統の配線 |
電気の無理な使い方を避けるように,各配線系統ごとに15/20Aの“安全
さらに配線の太さおよびコンセントや引っ掛けシーリング自体の容量からも制限を受けますので,安全ブレーカを自分で勝手に容量が大きいものに交換してはいけません。
引っ掛けシーリングは照明用なので,壁のコンセントのように15Aも流す必要はなく,最大規格は6A程度です。
安全ブレーカは分電盤(Q1.7)に,建物内部の配線系統と同数付いています。これらの屋内電気配線系統は,通常は部屋ごとに照明と壁付きコンセントを一組にして独立に配線され,それぞれの個所の保守・点検に便利なようになっています。
100V用でもエアコンや台所機器のように大電流を使う機器や,200V用の機器には,安全ブレーカからコンセントまでそれぞれ独立した専用回線で配線をします。
Q 1.6 使ってよい電気の量 |
[A]
安全ブレーカは,正確には
ブレーカは
なおサーキットブレーカに対しては,NFB(
日幸電機製作所カタログより | |
(a)ブレーカが作動する部分 | (b)電磁石による電流検知 |
図1.9 サーキットブレーカ |
サーキットブレーカが作動するりくつは,機械的な機構になっているので,少し理解するのが難しいです。そのおおよその概念を示したのが図1.9(a)です。
通常はばねの力で開いている接点を,つまみを上げて
もし電気を使いすぎたり,事故で大電流が流れたときは,この可動片が動いて引きばねで押さえている引っ掛かりが外れ,カムは接点側のばねの力で勝手に戻り,接点は開いてしまいます。この引っ掛かりが外れた状態を
過電流になったときに可動片を動かすには次の二通りの方法があります。
(a) | 簡単な安全ブレーカでは,電流による発熱で曲る金属( |
(b) | 電磁石方式は,電流によって電磁石を働かせて可動鉄片を吸い寄せる図1.9(b)のような電流検知部を持っている。 |
過電流による発熱で作動するバイメタルはQ1.12で説明します。(b)の電磁石方式の動作は,以下のような順序で行われます。
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再度電気を通すには,電熱器などの過大な負荷を外したり,事故が起きている部分を修理してから,つまみを上げます。もちろん意図的につまみを下げて電気を切ることもできます。
ブレーカの中にある遮断スイッチを含めてスイッチは図1.10のように電源線を切るときに,すべて同時に切る場合と一部だけを切る場合があります。図1.10のL(
図1.10 スイッチの 回路数 |
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(a)片切り(1P) (b)両切り(2P) (c)単三式(2P) (d)三相(3P) |
家庭の照明などの開閉に使う壁付きスイッチは“片切り”といい,記号Lが付いている接地されていない側の電線(接地側Nについては第1.5節を参照)だけを切るように配線してあります。
通常ひとつのスイッチで同時に開閉する電線数をP(
表1.1 ブレーカの回路数 |
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★ Trip
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Q 1.7 分電盤 |
[A]
図1.11 |
どこの家にでもある分電盤は,ほんとうは勝手に開けて中を見ると危険なので,専門家以外の人は触らないでください。
少し古い型ですが,こっそり開けてみたのが図1.11です。
家の外にある積算電力(量)計(Q1.16)からの太いケーブルは,家の中を通って左上からこの分電盤に入っています。
分電盤の左端にある電力会社の大きなブレーカ(Sブレーカ)を経て,そのすぐ横にある漏電遮断器に入ります。
通常はこの遮断器を,需要家の主幹(
多くの家庭で使われている単三式(Q1.14)の場合は,漏電遮断器の出口から二列に並んだ小型の安全ブレーカを経て,家の中の各所への電気を分岐します。
すなわち分電するわけです。
図1.11の中央に並んでいる上下六つの安全ブレーカは,すべて負荷電流が15Aで切れます。
上側の三つは,赤色の電線につながる銅板と白色の電線につながる接地側の銅板とから100Vを得ています。
下側の三つは,同じく白色と黒色の電線につながる銅板から100Vを得ています。
さらに右側に離れて付いている三つは,赤色と黒色の電線につながる銅板から200Vを得ています。
この中で左寄りの上下の二つの安全ブレーカは,つまみが赤色に塗られていて,負荷電流が20Aであることを示しています。
これは大型のエアコン(空調機)や台所の電磁調理器用に使います。
いちばん右下の安全ブレーカには“単三220V”と書いてあります。
この安全ブレーカはつまみが赤くないので15A用ですが,配線工事のときに100V用と間違わないように,文字表示がされています。
Q 1.8 分電盤の中の器具と用語 |
[A]
分電盤には,普通の人があまりじっくりと観察したことがない電力用器具が付いています。
さらに使われている用語も,聞いたことがないかもしれません。
図1.11の写真では解りにくいので内部構成を描いたのが図1.12です。
図1.12 写真の分電盤の内部 |
分電盤に付いている器具や用語は次のとおりです。
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Q 1.9 Sブレーカ |
[A]
エアコンに炊飯器にテレビ……,と電気を使い過ぎたときに,バチンと音がして明りが消えてしまいます。
このとき切れるのが,一般の人が“電気のブレーカ”と呼んでいるSブレーカで,図1.11 の箱の中で,通常いちばん端にある大きなつまみが付いていて数字が書いてある
“電気のブレーカ”は基本的には電力会社と需要家との契約電流量(
表1.2 電気のブレーカ |
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日本ではこの“電気のブレーカ”は電力会社によって表1.2のように設置方法が異なります。
関西電力など4 社では,このSブレーカは設置されていません。
単相三線式のSブレーカは,接地されている電線(白色)以外の2本の電線が図1.9(b)の電磁石に重ねて巻かれていて,200Vの負荷に対しては往復で2倍の電流として検出し,100Vに換算した電流で制限してます。
Q 1.10 漏電遮断器 |
[A]
漏電遮断器(通称“漏電ブレーカ”)は,入ってきた電流と戻っていく電流の合計を監視していて,その合計値が0でない一定値以上になったとき,電気がどこかで漏れていると判断して電気を遮断するものです。
電流は往復で向きが反対になっていますから,往復の合計値は本来0でなければなりません。
図1.13 漏電検出 |
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(a)漏電遮断器の外観 | (b)漏電遮断器のりくつ |
図1.13(b)のように電源からの電流はブレーカの遮断スイッチを通り
ところが漏電があると合計電流は0ではなくなり,検出用コイルに電流が流れます。
この電流値は小さいので電子回路で増幅して,遮断スイッチの
漏電遮断器は漏電だけでなく,前述のように需要家の電源を根元で開閉する主幹スイッチとしても使います。 もちろん単なるスイッチではなく,図1.13(b)の過電流と記されているところで負荷の電流を検知し,遮断スイッチを落とす電流制限の機能が付いています。 関西電力など4社は,表1.2のように電力会社との契約で電流を制限するSブレーカがないので,漏電遮断器の電流制限機能で契約電流の制限をします。
図1.14 非平衡負荷 |
漏電遮断器の電流制限の機能は電力契約用のSブレーカとは異なり,赤線(R)および黒線(T)の各100Vの線ごとに最大電流を越えると作動します。 すなわち30A用の漏電遮断器なら,うまく使えば赤線と黒線のおのおのの合計値60Aまで流せますが,図1.14のように片方の色の電線だけに100V用のエアコンや電気釜,電子レンジ,テレビなどをつないで同時に動かし,30Aを越えてしまうと,契約用のSブレーカがたとえ40A以上であっても落ちてしまいます。
Q 1.11 漏電遮断器のボタン |
[A]
漏電遮断器が漏電を発見して落ちると,通常は図1.15のように黄色の
図1.15 トリップボタン |
黄色のボタンと並んでもう一つボタンがあります。 これは漏電遮断器がちゃんと動くかどうかの試験用なので,間違って押し込むと遮断器が落ちてしまいます。 この遮断試験はあまり回数を行うと,遮断機構が疲労してしまいますので,年数回程度に止めておきましょう。
Q 1.12 バイメタル |
[A]
バイメタルは文字どおり
通常は温度の変化で曲る性質を得るために,熱膨張の度合が大きく異なる二種の金属を図1.16(a)のように貼り合わせて作ったものを指します。
もちろん曲がる必要がない用途でも,機械的強度と電気的性質を両立させるためにバイメタル構造にすることがあります。
図1.16 バイメタル |
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(a)バイメタルの構造 (b)サーモスタットに利用 |
通常は鉄の合金と銅の合金を貼り合わせます。20℃での熱膨脹率は,純銅で16.5×10-6/℃,純鉄で11.8×10-6/℃ですから,銅は鉄よりも約1.4倍伸びやすいことがわかります。
合金では物理的特性は大きく改善できます。
純銅の代りに
これらの合金を使ってざっと計算すると,20℃で真っ直ぐだった10mmの長さのバイメタル片がもし100℃温度上昇すると,
100(℃)×(17.5−0.13)×10-6(/℃)×10(mm)=0.01737(mm)
だけ黄銅の方が長くなります。
わずかな長さの差だと感じるでしょうが,二種の合金はぴったりと貼り付いているのでバイメタルは黄銅を外側にして
斜辺が10.01737mmで底辺が10mmの直角三角形に単純化して反る量を計算すると,
√10.017372-102≒0.59(mm)
と求められます。
しかし,バイメタル自身が曲げに対してばねとして戻ろうとするので,この
計算値よりも小さくなります。
実際には,図1.16(b)のようにバイメタル片をバネ構造にして,わずかな曲げを数mmの動きに拡大します。
こうすると,両端が固定されているバイメタルは伸びることができず,上下の湾曲を反転させることで,伸びを吸収します。このような現象を材料の世界では
Q 1.13 バイメタルの使いみち |
[A]
表1.3 バイメタルの 使いみち |
(a) |
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(b) | |||||
(c) |
バイメタルの使い方として表1.3のように,
(a) 反った量そのものを利用する
(b) 反ったことで電流を切るが,温度が下がっても再度通電はしない
(c) 一定の温度付近でスイッチが切れたり入ったりする(サーモスタット)
という用途が考えられます。
サーキットブレーカは,(b)の機能を使って図1.9(a)の引き外し金具を動かします。
なお,(b),(c)の機能は図1.16(b)の跳ね返り機構を利用しています。
温度で動くスイッチを利用して温度を制御する機構を,
★ バイメタルでNobel賞
バイメタルの伸びない側に使われている合金のインバーを1896年に発明した |