Title

1.2 コンセントまで電気を持って来る

 “電気のブレーカ”からコンセントまでの電気の供給ルートは,基本的に壁や天井裏で行われています。そのことを知らないと,ついつい過大な電気を使ってしまい,事故の原因にもなります。


1.2節の内容

1.1節 電気器具は電気がないと動かない 1.3節 電気を外から家の中へ取り込む

Q1.5 使ってよい電気の量   Q1.6 安全ブレーカ
Q1.7 分電盤 Q1.8 分電盤の中の器具と用語
Q1.9 Sブレーカ Q1.10 漏電遮断器
Q1.11 漏電遮断器のボタン Q1.12 バイメタル
Q1.13 バイメタルの使いみち



Q 1.5 使ってよい電気の量
 一つのコンセントや引っ掛けシーリングからは,どのくらいの電気を使っても大丈夫ですか。

[A]
 家庭や事務所のほとんどのコンセントや引っ掛けシーリングは,図1.8のように壁の中や天井裏などに,同じ系統の配線が“渡り配線”で接続されたり,分岐接続で一つにつながっています。

図1.8
安全ブレーカからの
一系統の配線

 電気の無理な使い方を避けるように,各配線系統ごとに15/20Aの“安全ブレーカBreaker”が付いています。この一つの安全ブレーカの系統では,すべての出口の消費電流の合計で,15Aないし20Aまでしか使えません。100Vでは,消費電力は1.5〜2kWが最大になります。特別な場合は,30Aの配線も使われますが,ケーブルも太くなり工事がたいへんです。
 さらに配線の太さおよびコンセントや引っ掛けシーリング自体の容量からも制限を受けますので,安全ブレーカを自分で勝手に容量が大きいものに交換してはいけません。
 引っ掛けシーリングは照明用なので,壁のコンセントのように15Aも流す必要はなく,最大規格は6A程度です。

*   *   *
★ 配線系統の分離

 安全ブレーカは分電盤(Q1.7)に,建物内部の配線系統と同数付いています。これらの屋内電気配線系統は,通常は部屋ごとに照明と壁付きコンセントを一組にして独立に配線され,それぞれの個所の保守・点検に便利なようになっています。
 100V用でもエアコンや台所機器のように大電流を使う機器や,200V用の機器には,安全ブレーカからコンセントまでそれぞれ独立した専用回線で配線をします。

Q 1.6 使ってよい電気の量
 安全ブレーカはどんなもので,どんなりくつで電気の安全を保っているのですか。

[A]
 安全ブレーカは,正確にはサーキットブレーカCircuit Breakerという電力器具の一つです。 サーキットブレーカは,電流の流れを自動あるいは手動で断つための器具です。 安全ブレーカはいろいろなサーキットブレーカの内では,もっとも簡単な構造をしています。
 ブレーカはプロテクタProtectorあるいは(電路)遮断器ともいいます。 すなわち,ブレーカを通過する電流が規定値を超えたら,自動的にスイッチを切って,過大電流による事故を防ぐための器具です。
 なおサーキットブレーカに対しては,NFB(No Fuse Breakerノー フューズ ブレーカ )という呼び名がありますが,これは三菱電機の商品名です。

日幸電機製作所カタログより
(a)ブレーカが作動する部分 (b)電磁石による電流検知

図1.9 サーキットブレーカ

 サーキットブレーカが作動するりくつは,機械的な機構になっているので,少し理解するのが難しいです。そのおおよその概念を示したのが図1.9(a)です。
 通常はばねの力で開いている接点を,つまみを上げてカムCamを回すことで強制的に閉じておきます。 つまみを上げてカムを回すと,カムが接点を押して閉じ,カムの引っ掛かりに引き外し用の可動片が引っ掛かって,カムが戻らなくなります。 これによって接点が閉じた状態を保ち,電気が流れ続けるようになっています。
 もし電気を使いすぎたり,事故で大電流が流れたときは,この可動片が動いて引きばねで押さえている引っ掛かりが外れ,カムは接点側のばねの力で勝手に戻り,接点は開いてしまいます。この引っ掛かりが外れた状態をトリップTripと呼びます。 実際はもうすこし複雑な構造になっていて,ブレーカを製造する各社の特許が集中している部分です。
 過電流になったときに可動片を動かすには次の二通りの方法があります。

(a) 簡単な安全ブレーカでは,電流による発熱で曲る金属(バイメタルBi-metal)を使う。
(b) 電磁石方式は,電流によって電磁石を働かせて可動鉄片を吸い寄せる図1.9(b)のような電流検知部を持っている。

 過電流による発熱で作動するバイメタルはQ1.12で説明します。(b)の電磁石方式の動作は,以下のような順序で行われます。

(1)  図1.9(b)で,中にばねが仕込まれているパイプPipeには,鉄の可動プランジャPlunger(パイプの中で往復運動する部品)が油に浸されている。
(2)  空芯のコイルCoilに電流が流れると,プランジャは電磁石となり,左側に吸い寄せられるが,ばねの力と平衡がとれた位置で止まる。
この空芯コイルとプランジャの構造をソレノイドSolénoïd(仏語)という。
(3)  プランジャは粘性がある油に浸っているので,瞬時に少しだけ制限電流を越えても,急に左に吸い寄せられることはない。
(4)  制限電流を超え続けると,プランジャはばねの力に逆らって,左の端の鉄の蓋にくっつく。
(5)  プランジャが鉄の蓋にくっつくと,全体としての電磁石の吸引力が急に上がり,弱い引きばねで開いていた可動鉄片が吸い付く。
(6)  可動鉄片が押さえていた接点の引っ掛かりが外れ,トリップ状態になる。
(7)  事故で大電流が流れたときは,プランジャが動いて来なくても,電流の力だけで可動鉄片が吸い寄せられて,素早く電流が遮断される。

 再度電気を通すには,電熱器などの過大な負荷を外したり,事故が起きている部分を修理してから,つまみを上げます。もちろん意図的につまみを下げて電気を切ることもできます。

*   *   *
★ スイッチの回路数

 ブレーカの中にある遮断スイッチを含めてスイッチは図1.10のように電源線を切るときに,すべて同時に切る場合と一部だけを切る場合があります。図1.10のL(Lineライン:電源線),N(Neutralニュートラル:中性線)などの記号は,スイッチに書かれている記号で,接続される電線の状態を表しています。

図1.10
スイッチの
回路数
 (a)片切り(1P)  (b)両切り(2P)   (c)単三式(2P)   (d)三相(3P)

 家庭の照明などの開閉に使う壁付きスイッチは“片切り”といい,記号Lが付いている接地されていない側の電線(接地側Nについては第1.5節を参照)だけを切るように配線してあります。 通常ひとつのスイッチで同時に開閉する電線数をP(Poleポール:極)で表し,1Pのスイッチとか2Pのスイッチとか呼びます。 なお,ブレーカでは過大電流を検知する素子をE(Elementエレメント )で表します。 2Eなら2本の電線の両方に検出素子が付いていることを表します。

表1.1
ブレーカの回路数 
型名記号 スイッチ回路数 過電流検出素子数 用  途
1P1E 1 1 100V用
2P1E 2 1 100V用
2P2E 2 2 100V/単相200V用

★ Trip

 Tripトリップという英単語の辞書の最初に出てくる意味は,“特定の目的あるいは楽しみのための 短時間の旅”となっています。 しかし,ここでは元来の意味の“正常な状態から外れる”という動詞として使われています。
 さらに,旅に関する英単語にはtripの外に,tourツアーjournyジャーニーvoyegeボィッジtravelトラベルがあります。 Tourにはパックツアーという言葉でもわかるように“漫遊・周遊”という意味があります。 Journyは“ある場所から別の場所へ,おもに陸上で移動すること”を意味します。Voyegeは海外へのjournyで,もともと船旅を指しました。
 Travelは短時間ではない“旅行”ですが,電気でも使う単語です。 電波や光の到達時間やICの中を電気信号などが通り抜ける時間などに,“travelling time t ”などと書きます。


Q 1.7 分電盤
 分電盤の箱の中はどうなっていますか。

[A]

図1.11
家庭用
分電盤

 どこの家にでもある分電盤は,ほんとうは勝手に開けて中を見ると危険なので,専門家以外の人は触らないでください。 少し古い型ですが,こっそり開けてみたのが図1.11です。
 家の外にある積算電力(量)計(Q1.16)からの太いケーブルは,家の中を通って左上からこの分電盤に入っています。 分電盤の左端にある電力会社の大きなブレーカ(Sブレーカ)を経て,そのすぐ横にある漏電遮断器に入ります。 通常はこの遮断器を,需要家の主幹(マスタMaster)スイッチとして使います。
 多くの家庭で使われている単三式(Q1.14)の場合は,漏電遮断器の出口から二列に並んだ小型の安全ブレーカを経て,家の中の各所への電気を分岐します。 すなわち分電するわけです。  図1.11の中央に並んでいる上下六つの安全ブレーカは,すべて負荷電流が15Aで切れます。 上側の三つは,赤色の電線につながる銅板と白色の電線につながる接地側の銅板とから100Vを得ています。 下側の三つは,同じく白色と黒色の電線につながる銅板から100Vを得ています。
 さらに右側に離れて付いている三つは,赤色と黒色の電線につながる銅板から200Vを得ています。 この中で左寄りの上下の二つの安全ブレーカは,つまみが赤色に塗られていて,負荷電流が20Aであることを示しています。 これは大型のエアコン(空調機)や台所の電磁調理器用に使います。 いちばん右下の安全ブレーカには“単三220V”と書いてあります。 この安全ブレーカはつまみが赤くないので15A用ですが,配線工事のときに100V用と間違わないように,文字表示がされています。

Q 1.8 分電盤の中の器具と用語
 分電盤で使っている電力用器具は,どういう働きをしていますか。 また,単三式というのはどういう意味ですか。

[A]
 分電盤には,普通の人があまりじっくりと観察したことがない電力用器具が付いています。 さらに使われている用語も,聞いたことがないかもしれません。
 図1.11の写真では解りにくいので内部構成を描いたのが図1.12です。

図1.12
写真の分電盤の内部

分電盤に付いている器具や用語は次のとおりです。

(1) 積算電力計:電力会社が消費電気量を計算する計器(本節の最後で説明)
(2) Sブレーカ:電力会社との契約電流以上の使用を制限するブレーカ
(3) 漏電遮断器:漏電を検出するブレーカ(主幹スイッチと兼用)
(4) 安全ブレーカ:各配線系統ごとの電流を制限するブレーカ
(5) 単相三線(単三)式:100Vと200Vを3 本の電線で供給する方式
(6) 接地側:100Vのコンセントで溝が長い側(大地につながっている)
(7) R・N・T:単三式の各電線名,L1・N・L2 と呼ぶ場合もある(Nは接地線)

Q 1.9 Sブレーカ
 Sブレーカは何のために使われているのですか。

[A]
 エアコンに炊飯器にテレビ……,と電気を使い過ぎたときに,バチンと音がして明りが消えてしまいます。 このとき切れるのが,一般の人が“電気のブレーカ”と呼んでいるSブレーカで,図1.11 の箱の中で,通常いちばん端にある大きなつまみが付いていて数字が書いてあるスイッチSwitchです。
 “電気のブレーカ”は基本的には電力会社と需要家との契約電流量(アンペアAmpere数)を超えると,それ以上電気を使わせないようにスイッチを切ってしまう目的で付いています。 もちろん事故によって過大電流が流れたとき,すぐに電流を遮断して火災などが発生しないようにする目的もあります。

表1.2
電気のブレーカ 
電力会社 北海道・東北・東京・中部・北陸・九州電力 関西・中国・四国・沖縄電力
電流制限 専用,S(サービスService)ブレーカ/リミッタ 主幹遮断器で兼用
費 用 電力会社所有,契約電流変更は原則無料 需要家所有,変更費用自己負担

 日本ではこの“電気のブレーカ”は電力会社によって表1.2のように設置方法が異なります。 関西電力など4 社では,このSブレーカは設置されていません。
 単相三線式のSブレーカは,接地されている電線(白色)以外の2本の電線が図1.9(b)の電磁石に重ねて巻かれていて,200Vの負荷に対しては往復で2倍の電流として検出し,100Vに換算した電流で制限してます。

Q 1.10 漏電遮断器
 漏電遮断器は何をするものですか。

[A]
 漏電遮断器(通称“漏電ブレーカ”)は,入ってきた電流と戻っていく電流の合計を監視していて,その合計値が0でない一定値以上になったとき,電気がどこかで漏れていると判断して電気を遮断するものです。 電流は往復で向きが反対になっていますから,往復の合計値は本来0でなければなりません。

図1.13
漏電検出
 (a)漏電遮断器の外観  (b)漏電遮断器のりくつ

 図1.13(b)のように電源からの電流はブレーカの遮断スイッチを通りトロイダルコアTroidal Core(ドーナツ型の磁性体)を貫通し,電気を使う機器など負荷(ロードLoad)に供給されます。負荷に往復する電流は,すべてこの穴を抜けるので,負荷の側で漏電などがなければ,行きと帰りで合計電流はつねに0になるはずです。 したがって,トロイダルコアに巻いた検出用コイルCoilには電気は誘導されません。
 ところが漏電があると合計電流は0ではなくなり,検出用コイルに電流が流れます。 この電流値は小さいので電子回路で増幅して,遮断スイッチのロックLockを解除するコイルに電流を流します。 あとは通常のブレーカと同じく,遮断スイッチの引っ掛かりの留め金が外れてバネの力で自動的に電源を切ってしまいます。 図1.13(a)の漏電遮断器では30mA以上の電流を感知すると漏電と判断します。

*   *   *
★ 漏電遮断器の電流制限

 漏電遮断器は漏電だけでなく,前述のように需要家の電源を根元で開閉する主幹スイッチとしても使います。 もちろん単なるスイッチではなく,図1.13(b)の過電流と記されているところで負荷の電流を検知し,遮断スイッチを落とす電流制限の機能が付いています。 関西電力など4社は,表1.2のように電力会社との契約で電流を制限するSブレーカがないので,漏電遮断器の電流制限機能で契約電流の制限をします。

図1.14
非平衡負荷

 漏電遮断器の電流制限の機能は電力契約用のSブレーカとは異なり,赤線(R)および黒線(T)の各100Vの線ごとに最大電流を越えると作動します。 すなわち30A用の漏電遮断器なら,うまく使えば赤線と黒線のおのおのの合計値60Aまで流せますが,図1.14のように片方の色の電線だけに100V用のエアコンや電気釜,電子レンジ,テレビなどをつないで同時に動かし,30Aを越えてしまうと,契約用のSブレーカがたとえ40A以上であっても落ちてしまいます。

Q 1.11 漏電遮断器のボタン
 漏電遮断器にはスイッチの外に押しボタンが二つ付いていますが,何のためですか。

[A]
 漏電遮断器が漏電を発見して落ちると,通常は図1.15のように黄色のトリップボタンTrip Buttonが飛び出します。 漏電個所を直して再度電気を入れるには,先にこのボタンを押し込んでからでないと,つまみを上に上げることができません。

図1.15
トリップボタン

 黄色のボタンと並んでもう一つボタンがあります。 これは漏電遮断器がちゃんと動くかどうかの試験用なので,間違って押し込むと遮断器が落ちてしまいます。 この遮断試験はあまり回数を行うと,遮断機構が疲労してしまいますので,年数回程度に止めておきましょう。

Q 1.12 バイメタル
  安全ブレーカなど一部の簡単なサーキットブレーカに使われているバイメタルとは,どのようなものですか。

[A]
 バイメタルは文字どおりバイBi-(二つ)のメタルMetal(金属)からなる複合材料です。
 通常は温度の変化で曲る性質を得るために,熱膨張の度合が大きく異なる二種の金属を図1.16(a)のように貼り合わせて作ったものを指します。 もちろん曲がる必要がない用途でも,機械的強度と電気的性質を両立させるためにバイメタル構造にすることがあります。

図1.16
バイメタル
 (a)バイメタルの構造      (b)サーモスタットに利用

 通常は鉄の合金と銅の合金を貼り合わせます。20℃での熱膨脹率は,純銅で16.5×10-6/℃,純鉄で11.8×10-6/℃ですから,銅は鉄よりも約1.4倍伸びやすいことがわかります。
 合金では物理的特性は大きく改善できます。 純銅の代りに真鍮しんちゅう(亜鉛33%の黄銅)を使うと,銅よりは強度が増し,膨脹率は17.5 × 10-6/℃と少し大きく取れます。 鉄をニッケルNickel36%をインバーInvar含むアンバーUnbar(ともいう)に代えると,膨脹率が0.13×10-6/℃と,常温ではほとんど伸びないようにできます。
 これらの合金を使ってざっと計算すると,20℃で真っ直ぐだった10mmの長さのバイメタル片がもし100℃温度上昇すると,
  100(℃)×(17.5−0.13)×10-6(/℃)×10(mm)=0.01737(mm)
だけ黄銅の方が長くなります。 わずかな長さの差だと感じるでしょうが,二種の合金はぴったりと貼り付いているのでバイメタルは黄銅を外側にしてり返ってしまいます。
 斜辺が10.01737mmで底辺が10mmの直角三角形に単純化して反る量を計算すると,ピタゴラスPythagorasの定理から,
  √10.017372-102≒0.59(mm) と求められます。 しかし,バイメタル自身が曲げに対してばねとして戻ろうとするので,この 計算値よりも小さくなります。
 実際には,図1.16(b)のようにバイメタル片をバネ構造にして,わずかな曲げを数mmの動きに拡大します。 こうすると,両端が固定されているバイメタルは伸びることができず,上下の湾曲を反転させることで,伸びを吸収します。このような現象を材料の世界ではBucklingバックリング(座屈)と呼んでいて,特定の限界状態で突然起こります。

Q 1.13 バイメタルの使いみち
 バイメタルはサーキットブレーカにはどのように使われていますか,また別の使いみちはありますか。

[A]

表1.3
バイメタルの
使いみち
(a)
温度計
湯沸し器・トースタToaster蛍光燈の点灯管
保温器・恒温槽・電気炬燵
点滅式電灯(電子式になる前の自動車のフラッシャFlasherや装飾豆電球)
(b)
(c)

 バイメタルの使い方として表1.3のように,
  (a) 反った量そのものを利用する
  (b) 反ったことで電流を切るが,温度が下がっても再度通電はしない
  (c) 一定の温度付近でスイッチが切れたり入ったりする(サーモスタット)
という用途が考えられます。 サーキットブレーカは,(b)の機能を使って図1.9(a)の引き外し金具を動かします。 なお,(b),(c)の機能は図1.16(b)の跳ね返り機構を利用しています。
 温度で動くスイッチを利用して温度を制御する機構を,サーモスタットThermostatとも呼んでいます。 バイメタルを用いるとサーモスタットを簡単に実現できます。

★ バイメタルでNobel賞

 バイメタルの伸びない側に使われている合金のインバーを1896年に発明したGuillaumeギヨーム(Swiss人)には,1920年にNobelノーベル物理学賞が与えられています。 ごく簡単な発明ですが,発明がもたらした産業への功績が評価されたのでしょう。
 しかし,実用度がはるかに大きな合金であるステンレスStainless鋼については,だれもNobel賞を 受賞していません。 英国人のBrearleyブレアリの貢献が大きく,彼を発明者とする考えもあります。 しかし彼の発明品は,磁石にくっつくクロムChromiumステンレス(JIS SUS430 系)で,磁石にくっつかない18-8 ステンレス(JIS SUS304 など)ではありませんでした。 現在のステンレスは,実際には多くの企業の多くの人々の改良研究の成果であるといえます。
 ちなみに,日本国籍時の研究成果に対する自然科学三部門のNobel 賞学者は,1949年中間子理論で受賞した湯川秀樹博士が最初で,2012年のiPS 細胞の山中伸弥博士,2014年の青色LEDの赤崎勇・天野浩・中村修二博士,2015年の寄生虫の大村智博士,ニュートリノの梶田隆章博士まで21人が数えられます。
 山中博士は医療への多大な貢献が期待されること,LEDの3 博士は短期間で照明の世界を変えてしまったことが,早期に受賞する理由になったのでしょう。
 なお,2008年に物理学賞を受賞した南部陽一郎博士は1970年に,中村修二博士も2000 年に米国の大学(UCSB)へ移籍後米国籍を取得していて,現時点では日本人ではありません。


もくじへ
表紙 この章の頭 次の章の頭
前の節の頭 この節の頭 次の節の頭


© 2015 Yikai Family
このpageの著作権は,猪飼家(猪飼國夫,猪飼綾)が保有しています。 転載禁止です。