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第2章 電気で加熱・冷却する



   電気はいろいろなところで使われています。 大別すると,エネルギーとして使う場合と,情報のキャリアCarrier担体たんたい,運び手)として使う場合です。
 前者には,直接熱や光のエネルギーに変換する利用法と,力に変換する利用法があります。
 さらにメッキなど電気で化学反応を起こす用途もあります。 アルミニュウムAlminiumなどは原材料から酸素を取り除くのに,大量の電気を使っていますので,電気の缶詰などといわれています。
 果たしてオール電化は正しい選択なのでしょうか。 生物系だけではなく,情報源や収入源を一つに頼るのが危ないのと同じで,エネルギーの世界でも電気モノカルチャMono-cultureはあまりよくない選択なのかもしれません。


第2章の内容

第1章 身の周りの電気 第3章 電気で動かす

2.1 電気ヒータで加熱する   2.2 電子が動くと熱が出る
2.3 電気ヒータを使わないで直接加熱 2.4 IH調理器具での加熱
2.5 電子レンジでの加熱 2.6 冷蔵庫とエアコン
2.7 加熱で光を出す


2.1 電気ヒータで加熱する

 電気の発熱体(ヒータHeater)による発熱を利用した電気機器は,数多くあります。 電気を使った調理器具や暖房機器が普及する前は,まき・炭・石炭・油・ガスなど種々の燃料を燃やして,その熱を調理や暖房に利用してきました。
 それらの熱源の最大の欠点は,一酸化炭素ガス(CO)が発生し易いことです。 もちろん煙や炭酸ガス(CO2:二酸化炭素)も大量に発生しますから,換気が必要となり,結果的に暖房効果が下がってしまいます。


2.1節の内容

1.8節 家庭などに送られてくる電気は交流 2.2節 電子が動くと熱が出る
Q2.1 電気ストーブは費用の勝負には参加できない   Q2.2 電気ヒータでの直接加熱
Q2.3 電気ヒータの構造 Q2.4 電気ヒータで加熱する方法



Q 2.1 電気ストーブは費用の勝負には参加できない
 電気ストーブで暖房すると費用が高くつくといいますが,なぜですか。

[A]
 金属などに電気を流すと,特別な例外を除いて発熱します。この方法は手軽なため,加熱を必要とする多くの場所で使われています。 電球(白熱電灯)も,高温での発光現象を利用していますから,熱い光源と言えます。

図 2.1
暖房機の費用

 電気による加熱や暖房には,たくさんの有利な点があり,熱源としてはとても便利です。

(a) スィッチ一つで入り切りができ,タイマTimerで時間を指定できる
(b) 発熱の強さが簡単に調節でき,すぐに応答する
(c) 直接火の気や煙が出ないので,発火や火傷の危険が少ない

でもよいことずくめではありません。

(d) 電気代が高くなる
(e) 電気器具は水に弱く,感電する
(f) 小型の石油ストーブでも3kW程度の発熱量があり,単純な電気による発熱だけの電気ストーブでこれをまかなうと,家庭用の契約電力の大半を使ってしまう

 実際に暖房のために電気を直接熱にして使う場合,燃料が元々持つ熱エネルギーEnergyは,発電や送電によって約半分以下に減っています。 電気ストーブStoveは灯油を直接燃やす石油ストーブと比べ,原理的に勝ち目はありません。 社会全体から見てもエネルギー効率がよい使い方ではありません。
 じつは灯油も,自宅に運ぶためには,輸送のためのエネルギーが必要となります。 したがって灯油で暖房しても,途中での損失がまったくないわけではありません。
 なお,エアコンによる暖房については第2.6節で説明します。

Q 2.2 電気ヒータでの直接加熱
 暖房以外で,電気の発熱体を使って直接加熱する身近なものには,何がありますか。

[A]
 家庭などで電気を使って手軽に温めているものは,調理器具が主です。たとえば,電気コンロ・電気ポットPot(湯沸し)・電気オーブンOvenトースタToaster,調理器具以外ではドライアDryerアイロンIron・電気炬燵こたつや毛布・熱帯魚の水槽温熱器など,枚挙まいきょいとまがありません。
 これらの機器にも,電気を流すと発熱するヒータが付いています。 ヒータは電気に対する抵抗体で,電気を加えると発熱します。 発熱量の説明はQ2.6を見てください。

*   *   *
★ 合金系発熱体

 ヒータには,表2.1のようなニクロムNichromeカンタルKanthalという合金材料が使われています。 さらに,Edisonエジソンの電球に使って以来の炭素繊維も,リニューアルRenewalして使われています。
 これらの合金類は,鉄と同じ程度に融点が高いだけでなく,鉄よりも抵抗値が高く,高温で錆びにくいという特徴を持っています。 なお,NichromeニクロムKanthalカンタルはいずれも商標名です。

表 2.1
合金系ヒータ
用の発熱体

Q 2.3 電気ヒータの構造
 電気ストーブや電熱レンジのヒータは,どうしてガラス管に入っているのですか。

[A]
 安価な電気コンロ(昔は電熱器とも言った)は,図 2.2(a)のようにニクロムなどの線を空芯で巻いて,鍋の底の形に合わせてあります。 この場合発熱体は裸ですから,何かの間違いで発熱体に鍋の金属が触れると,そこで電気がショートShortして漏れ出し,鍋を触った人が感電する危険があります。

(a)発熱体が裸の電気コンロ (b)ガラス管ヒータ
図 2.2 電気コンロ

 これを防ぐために,図 2.2(b)のように,ガラス管に発熱体を封じたものがあります。 ガラス管の中の酸素をなくしてしまえば,発熱体の損耗も少なくなり,寿命も伸びます。 電気ストーブでは,綿ぼこりが電熱線に付いて燃え,こげ臭いということも減ります。

*   *   *
★ 進化するヒータの構造



旧三洋電気製
RX-CS9A(T)
(生産終了品)
パナソニックHP
カタログ
より


山善
DF-J121(W)
楽天暮しの
eショップ
より
SK-1200 石崎電機製作所
鈴木啓文氏HPより
(a)シーズヒータ (b)カーボンヒータ (c)セラミックヒータ
図 2.3 いろいろなヒータ

【シーズヒータ】
  

 鍋や水・油など物に触れた状態で直接加熱するには,ガラス管では破損する危険があるため,合金の発熱体を酸化マグネシュウムMagnesiumで絶縁してから金属のパイプに入れたシーズヒータSheathed heaterが使われています。
 最近の電気コンロは,図2.2(a)のような裸の発熱体ではなく,ほとんどがシーズヒータを使っています。図 2.3(a)の構造は鍋の底にヒータが直接接触できるので,熱がよく伝わります。

【カーボンヒータ】
  

 発熱体に炭素繊維を使ったカーボンヒータCarbonは,人が暖かく感じる領域の遠赤外線を多く放出するので,電気ストーブに向いています。 もちろん,空気中で炭素繊維を高温に晒すと燃えてしまいますので,ガラス管に封じたヒータとして使います。

【セラミックヒータ】
  

 発熱体をアルミナAluminaや窒化硅素などのセラミックCeramics(陶磁器のような無機材料の焼結体)の中に封じ込め,一体化して焼き固めたものをセラミックヒータと呼んでいます。
 焼き固めてあるため,発熱体の酸化などによる劣化がほとんどありません。 表面がセラミックですから,いろいろな物と接触しても電気は流れませんし,強酸などとの化学反応もほとんど起きません。


Q 2.4 電気ヒータで加熱する方法
 同じW数(消費電力)の電気ストーブでも,あまり暖かく感じないことがありますが,なぜですか。

[A]
 暖め方が異なるからです。 発熱体から直接加熱した方がすぐに暖かく感じますが,熱が来ない側は寒いままです。 電気ヒータで暖めるには,図2.4のように熱源と接触させて加熱対象を暖める方法,放射熱(赤外線)で暖める方法などの直接加熱があります。 一方,暖めた空気や水で身体を暖める間接加熱もあります。

図2.4
電気ヒータの
発熱で暖める

 これら三つの熱の伝わり方は,前から順に“伝導”,“放射(輻射)”,“対流”と呼んでいます。 もちろんこれらの加熱法はそれぞれが独立している訳ではなく,どれが主に働いているかということで判断します。

*   *   *
★ 熱の伝わり方
【伝導】
  

 熱源に接触しているものに直接熱を伝える方式です。 たとえば,ホッカイロ(商品名)を貼ると暖かく感じるのが伝導です。 発熱体で発生した熱は効率良く対象物に伝わりますが,たとえ40数℃〜50℃の熱いと感じない低温でも,数時間から一晩中接触していると,皮膚の深部組織が低温熱傷になる危険があります。

【放射】
  

 太陽からの熱は放射によるものです。 パン焼き器などで加熱する際も放射です。 カーボンヒータを利用した電気ストーブは,人が暖かく感じる範囲の赤外線をより多く放射します。
 なお,“輻射ふくしゃ”ということばも放射と同じ意味に使いますが,“輻射熱”のように熱の放射に限定した語感があります。
 絶対零度ではない物体は,つねに表面から常時,光や赤外線・電波を放射しています。 たとえば,少し熱っぽい感じの37℃の体温の人からは,9.7μmを最大頂点とする遠赤外線が出ています。 逆にこれより短い波長の赤外線が身体に当たると,暖かく感じます。
 この原理を利用し,赤外線センサSensorを使って耳の穴で短時間に体温を測る放射温度計が作られています。 温度と赤外線の波長の関係については,第2.7節でそのりくつを説明します。

【対流】
  

 高い温度のヘアドライヤの風が身体に当たると,暖かく感じます。 これは熱源から空気が熱を運んで来たからです。 この方法は,周りの空気の温度を上げなければならないため,電気の消費量は大きくなります。
 セラミックヒータにファンで風を当てて,空気を暖める方式の電気ストーブがよく使われます。 足元のなどの局所暖房には便利です。




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