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1.3 電気を外から家の中へ取り込む

神田上水の石樋の遺構
 江戸の町人が多く住んだ下町では,井戸を掘っても水質が悪かったため,神田上水などから町屋や裏長屋へ水道が配管され,地下に井戸と同じような桝が作られて,釣瓶つるべで水を汲みあげて使っていました。
 かつての上水道が神田川を越えるところに上水用の橋がかかっていて,後楽園球場の最寄り駅に今でも水道橋という駅名が残っています。
 ガスや水道も各需要家に取り込む際には,メータを付けたり,工事などに備えて配管を閉じるバルブValveがあったりします。 電気は危険なので,取り込みにもいろいろと手間がかかります。


1.3節の内容

1.2節 コンセントまで電気を持って来る 1.4節 電気の配線はどうやるか

Q1.14  3本の電線   Q1.15 供給電圧は110V,それとも100V
Q1.16 電気のメータ



Q 1.14 3本の電線
 日本では電柱などから家へと引き込んでいる電力会社の電線は多くの場合3本ですが,三相交流ではないのですか。

[A]
 日本では,家庭や学校・企業などの事業所で標準的に利用されているのは,交流の100Vです。 つまり,原理的には2本の電線があれば十分です。
 しかし,エアコンや調理器具,電気ストーブStoveなど電力消費が大きい器具用に,200Vの電源も同時に供給する必要が生じました。 大きな電力を必要とする機器では,電源電圧の違いは最大性能に大きく響きます。

図1.17
単相三線式

 では,3本の電線では何を送っているのでしょう。 これは通常単相三線(単三)式と呼ばれていて,図1.17のように3本の電線で110Vと220Vの両方の電圧の電気を供給する方法です。 昔の家や小さなアパートでは,電線2本の110Vのみというところもあります。
 単相三線式では,通常は図1.17に示すように赤白黒の3色の電線を持つケーブルで受電します。赤(記号RあるいはL1)と黒(記号TあるいはL2)との間が220Vです。 中央の白色の電線(記号N)は中性線といい,変圧器のところで大地に接続されています。
 単相三線式の220Vは,二つの110Vの電源を縦につないだものです。通常の110V用の機器には図1.17の中央の白色電線と赤・黒どちらか片側の110Vを使います。

*   *   *
★ 白線の止めねじが弛むと火事になる

 中性線(N)がトランスからの途中で切れると,赤と黒の間の200Vが直接100V 用の電気機器にかかるので,場合によっては図1.18のように100V以上の電圧がかかって,100V用の電気機器が焼損してしまうことがあります。 古い建物などで,白色の配線の止めねじが弛むと起きることがあり,電気による火災の原因の一つになっています。

図1.18
中性線が
切れた

 そこでSブレーカでは中性線(N)はスイッチで切れないようになっています。 また漏電ブレーカには中性線に電気が来ていない状態(中性線欠相という)が起きると,自動的に落ちてしまうような保護機能が付いています。

Q 1.15 供給電圧は110V,それとも100V
  家庭などの需要家に供給されている電圧は110Vとか100Vとか言われていますが,どちらが正しいのですか。

[A]
 変圧器から家庭などに引き込まれてパソコンなどに給電されるまでに,図1.19のように電線の抵抗で電圧が降下してしまいます。

図1.19
電灯用の電気の
電圧降下

 図1.17で100Vではなく110Vと書いてあるのは,電気機器の入り口で100Vの電圧を確保するために,柱上変圧器などの出口では電圧が110Vになっているからです。
 最近の家電機器は内部で直流に変換しているため,供給電圧に多少の低下があっても機器の内部では必要な電圧を確保しています。

★ 分電ケーブルでの電気の損失

 電気がたとえ電線中だけを流れていても,電線中では損失があります。損失分は熱になってしまいます。
 たとえば,直径1.6mm長さ20mの屋内配線でつながったコンセントから20Aの電気を取るとコンセントでの電圧はどうなるか計算してみましょう。
 直径1.6mmのケーブルで配線してあるコンセントから20Aの電気を使うのは,規定以上の使い方です。一方,20mは住宅内部の配線長としてはそう長いとは言えません。 電線の抵抗は後で出てくる表1.5から計算すると,往復40m分で0.3568Ωあります。  電圧降下は,
  電圧(V)=電流(A)×抵抗(Ω)(Ohmオームの法則)
で求まるので,以下のように,
  20×0.3568=7.136(V)
となり,たとえ分電盤の出口で110Vあったとしても,電気機器には103Vしか供給されません。 7% もの電気代が天井裏のネズミを温めることに使われてしまいます。


Q 1.16 電気のメータ
 家の外に付いている電気のメータMeterは誰の持ち物ですか。

[A]

図1.20
外からの受電

 電気のメータは積算電力計と名付けられています。 電気の引込線は図1.20に示したように,まずこの積算電力計に接続されます。 積算電力計を含めて,そこまでの電気の設備は電力会社の持ち物です。

図1.21
積算電力計
(a)単相三線式 (b)三相200V

 図1.21の写真の機械式積算電力計には電圧と電流のコイルがついていて,その値の積に比例した速度で内部のアルミの円盤が回転します。 アルミを用いる理由は,電気をよく通し軽くて錆びないためです。 この円盤の回転数の累積値が,電気料金に反映されます。
 積算電力計自体も電力を消費していて,日本全国の合計では原発1基分に相当するという計算もあります。

★ 取引証明用計器

 物を買うときに重さをはかるはかりは,基本的には販売側の所有物で測ります。 一般に,取引に使う計器は持ち主の責任で用意し,検定(通常は2年に1回,検査を受ける義務がある)を受けなくてはなりません。
 積算電力計も取引証明用の計器なので,全品その精度について検定を受けており,有効期限も機械式の家庭用(30〜50A)で10年と決まっています。 有効期限が過ぎたものは,部品を交換修理し,日本電気計器検定所の再検定を経て再使用することもあります。


★ Arago の円盤

 積算電力計内の計測用円盤が回るりくつは,Aragoアラゴ(仏国の人)が1824年に発見しました。 そのためこの回転現象はAragoの円盤と呼ばれています。
 なおこの回転現象は,3.5節で説明する誘導モータと同じりくつで起ります。



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