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第1章 身の周りの電気



   2011年3月の東日本大震災のような災害では,停電の怖さや恐ろしさを経験した人も多いでしょう。現代人は電気なしでは生きて行けません。
 しかし,多くの人は“電気が何であるか”なんとなく解ったつもりで使っています。もしかすると,心のどこかで“電気は怖い”と思っています。
孫子  古代中国春秋時代の兵家孫子(孫武)も, “てきを知り己を知らば,百戦あやうからず”と言っています。
 孫子の言ったことは本当でしょうか。身近なところから“相手の正体”を知ってください。


第1章の内容

まえがきもくじ 第2章 電気で加熱・冷却する

1.1 電気器具は電気がないと動かない   1.2 コンセントまで電気を持って来る
1.3 電気を外から家の中へ取り込む 1.4 電気の配線はどうやるか
1.5 アースも配線する 1.6 ビリビリと感電する電気
1.7 パチパチ・モクモクと火を吹く電気 1.8 家庭などに送られてくる電気は交流


1.1 電気器具は電気がないと動かない

 電気といえば,すぐに思いつくのは照明・家電機器・情報機器などの電気器具です。これらを動かしているのは,電池か家庭や事業所・学校などに送られてくる電気です。


1.1節の内容

 まえがき 1.2節 コンセントまで電気を持って来る

Q1.1 電気を電気器具につなぐ   Q1.2 コンセントの形
Q1.3 エアコン用のコンセント Q1.4 引っ掛けシーリング



Q 1.1 電気を電気器具につなぐ
 普通に使う電気器具は電気にどうやってつなぎますか。

[A]
 家庭や事業所の100V(Voltボルト )や200Vの電源と電気器具は,普通はコンセントなどを介してつなぎます。図1.1のような電気器具の電源ケーブルCableプラグPlug(差込み)をコンセントに差し込んで,電気の供給を受けます。

 100V-10Aプラグ  200V-15Aプラグ  200V-20Aプラグ  照明釣り下げ用引っ掛けシーリング
図1.1 電源への接続(日本)

 家庭などにある電気の取出し口を日本では“コンセント”と呼んでいます。 ご年配の方の中には昔の用語の“差込み口”を使う人もいるかもしれません。
 天井などから照明を釣り下げるときは“引っ掛けシーリングCeiling”という器具で,照明器具側の ケーブルが重力で抜け落ちないようにしています。 なお,Ceilingシーリング は英語では天井の意味です。
 ダウンライトDown lightのように,天井や壁に埋めこんである照明や器具には,コンセントや引っ掛けシーリングを使わずに,直接電線が配線されていることがあります。
 コンセントや引っ掛けシーリングは,電気器具を電源から簡単に切り離せるので,便利なだけでなく電気の事故が起きたときに,電気工事をした業者と需要家(電力会社から見た電気の購入顧客)との責任もここで分割されます。

*   *   *
★ 電気は戻り道が必要

 電気を送る線は,図1.2トロリーバスTrolley busのように“行き”と“戻り”で2本必要です。
 水道やガスGasは行きっ放しで,仕事が終わると大気中や下水に放出してしまいます。 しかし,電気は電線のように電気が通せるところでないと送れません。 もし電線が1本の片道だけだと,仕事をした電気は戻ってくることができません。ですから,プラグもコンセントも必ず2本の電線が接続できるようになっています。


北京市内を走るトロリーバス→ 

図1.2 電気は戻り道が必要


★ コンセントは和製英語

 “コンセント”は英語みたいですが,残念ながら和製語です。 コンセントは英語では通常アウトレットOutletまたはソケットSocketと呼びます。
 コンセントの語源は,もともと差込み口と電気器具の電線の先の差込みとを合せて,英語ではコンセントリックConcentric(同心)プラグPlugと呼んでいたものに由来します。 日本では大正時代に,“コンセント”と“プラグ”とに勝手に分けて呼ぶようになったため,差込み口側の名称がコンセントと呼ばれるようになった,という説があります。
 一方綴りは違いますが,発音通りの英単語コンセントConsentの意味は,医療関係で使われる用語のインフォームドInformed・コンセントからも解るように“同意(する)”です。
 時代や国によっていろいろな呼び方があり,現代中国語ではコンセントを「挿口チャーコウ」,プラグを「挿頭チャートウ」と呼んでいます。


Q 1.2 コンセントの形
 海外旅行にノートパソコンを持って行きたいのですが,充電はできますか。

[A]
 ノート型やタブレット型パソコン,スマートフォン,携帯電話および電子辞書などの携帯情報機器の充電器(日本国内専用を除く)は,日本や北米の100/117Vから,世界のほとんどの国で使われている200〜240V まで,基本的にどんな電圧でも使えるように設計されています。 なお,世界の国々の電圧は表7.2 にあげてあります。
 通常は90〜240V 程度の範囲なら問題ありません。 第3章で出てくるインバータInverter方式の電源の普及で,広範囲の電圧に対応出来るようになりました。
 しかし,電気器具の電源を抜き挿しするプラグ形状の違いが,国を越えて移動するときに問題となります。 プラグ(差込み)の形が国によって大きく違うからです。 さらに同じ国の中でも違うことが多々あります。 それは,各国で電気事業を始めた会社や機関ごとに勝手にプラグの形状を決めたからです。 プラグの形状が異なれば,他社に顧客を盗られずに済むことも理由の一つだったようです。

図は台湾の
永力實業有限公司のHP
参考に作成
http://www.yung-li.com.tw/
tw/info/ww_specifications.htm

図1.3
電源コンセントの形

 電源プラグの形状は,大きく分けて平刃型と丸ピンPin型があります。 世界で使われているプラグは主に図1.3に示すようになっています。さらにそれぞれにいろいろな亜種があります。 同じ電圧でも形状が違うことがあるので,形状変換アダプタAdaptorが必要になることがあります。

【米国型】
   並行平刃のA型を使っているのは,台湾・ThailandタイVietnamベトナム・米国・Canadaカナダ・中南米諸国・Saudi Arabiaサウジアラビアなどです。 日本は上下に二つ並んでいるA型の中で,下側の接地端子付きプラグをあまり使わない点を除けば,基本的にこれらの国と同じです。
【英国型】
 B,B3 の丸ピンの直径は5mmで,接地ピンは7mmです。 BF 型は平刃が横一列に直線配置されています。 垂直に離れているのは接地用の刃です。 英国およびその影響下にあった国で使われています。 なお,この平刃は分厚く,長方形と言ってもよいくらいです。
【欧州型】
 3種のC型は接地用丸ピンを含めて直径は4mmです。 ピン三本が一列に並んでいるのはItaliaイタリアの,山形に並んでいるのはSwissスイスLatinラテン語の正式国名はHelveticaヘルヴェティカ)の規格です。 SE 型の丸ピンの直径は5mmです。
【大洋州型】
 O,O2 型は平刃が斜めになっていて,AustraliaオーストラリアなどのOceaniaオセアニア諸国と中国で多く使われています。
【その他】
 図1.3 右下の二つは,左からDenmarkデンマークIsraelイスラエルの独自規格です。
【アース端子】(第1.5節を参照)
 プラグにピンが三つ付いているときは,一つが接地(アースEarthグランドGround)につながります。

 日本で使われているA型と中国で使われているA型は図1.4のようにかたちは似ていますが,中国のプラグは刃の先にストッパが引っ掛かる丸い穴があいていないことがあります。
 また中国と日本では溝の幅が少し異なり,中国で日本のプラグを挿すとぐらぐらすることがあります。

図1.4
A型電源プラグの形
同じA型プラグでも
国によって異なる

ストッパ穴がある(日本)




抜け易い(中国)

★ 多型対応コンセント

 いろいろな形状の電源プラグが一つの国内で使われている国では,図1.5のように種々の形状のプラグに対応したコンセントを用意することで,解決するようにしています。

図1.5
種々の形状のプラグ
に対応できる電源
コンセント
A,C,O型に対応

Q 1.3 エアコン用のコンセント
 小型のエアコンが古くて効率が悪いので,もう少し出力が大きなものに替えたいと思います。電気工事の必要がありますか。

[A]
 日本では,エアコンは大きく分けて小型の100V用と,大きな部屋向けの200V用があります。 古くて小型のエアコンはたぶん100V 用でしょう。
 すると,新しく大型のエアコンにするには,コンセントと分電盤(Q1.7)の中の配線を換えなくてはなりません。 工事をするには電気工事士の免許が必要ですが,多くの場合はエアコンを設置する電気工事屋さんが兼業でやってくれます。
 日本では200V用のコンセントは,図1.6(b)のように差込みの穴が直線に並んだ平刃型になっています。 100V用と形状を変えることによって,誤挿入を防止しています。

図1.6
100V用と200V用
コンセント




上:15A 1.5kW







下:15/20A 2kW
 左:15A 3kW   右:15/20A 4kW
(a)100V用 (b)200V 用

 また,利用できる電気量によっても,刃の形状を変えて誤挿入を防いでいます。大電流用のコンセントには小電流用のプラグを挿すことができますが,その逆はできません。

★ エアコンの出力

 エアコンの能力は普通,冷房時の出力で分類されています。
 100V 用でも14 畳の洋間に対応している冷房出力4kW(Wattワット )程度のものまであります。 冷房出力2.5kW(8 畳)程度までは15A(Ampereアンペア)のコンセントで間に合いますが,それ以上 の大きさでは図1.6(a)下側の20A 用のコンセントを使います。
 冷房能力2.8kW(8〜10 畳)以上では通常は200V用のエアコンを使います。 図1.6(b)左側の15A用のコンセントで,冷房出力4kW程度までは間に合いますが,機種によっては右側の20A用が必要なものもあります。
 なお,エアコンを1kWの出力で1 時間動かすと,860kcalカロリの熱が処理できます。 一方,空気1m3の温度を1℃変えるには約0.288 kcalの熱処理能力が必要です。 たとえば8畳間は,約30m3の体積がありますから,空気の温度だけを冷房出力2.5kWのエアコンで5℃下げるなら,
  5(℃)× 30(m3)×0.288(kcal)/(2.5(kW)× 860(kcal))=0.02時間(約72 秒)
くらいで冷えてしまいます。
 しかし実際には,8畳間を締め切ったとしても,空気が漏れたり,人やパソコン・照明などの発熱体があったり,壁や床・天井のような構造体および室内に置いてある品物も同じように温度を下げなくてはなりませんから,10分以上はかかります。


Q 1.4 引っ掛けシーリング
 天井からぶら下っている蛍光燈の照明器具を,LEDのものに替えたいと思います。 引っ掛けシーリングはみな同じでしょうか。

[A]
 外観は異なっていても,咬み合う部分の形状は同じです。 照明器具のケーブルの頭を入れ,そのまま回して止めたり外したりするだけで済みます。 電気工事の必要はありません。

図1.7
引っ掛けシーリング
受け側
(a) 釣金具付 (b)小型(照明のカバーで隠せる大きさ)

 引っ掛けシーリングの受け側は,図1.7のように照明を釣る金具の有無で形状が異なります。 引っ掛けシーリングの引っ掛け部自体でも軽い照明ならぶら下げられますが,少し重くなると図1.7(a)の釣金具を持つタイプが使われます。
 天井に埋めこまれている照明器具の場合は,電気の供給ケーブルが直接照明器具に止めてあることがあります。 その場合は蛍光管の部分だけLED灯にするか,電気工事をして照明器具を交換する必要があります。



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