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1.8 家庭などに送られてくる電気は交流

 日本では明治の初めは,電気は直流で送られていました。交流は理解しにくい概念です。 さらに解りにくい三相交流については,第3章で触れます。


1.8節の内容

1.7節 パチパチ・モクモクと火を吹く電気 2.1節 電気ヒータで加熱する

Q1.38 交流は振動   Q1.39 交流の波形
Q1.40 交流の電圧



Q 1.38 交流は振動
 家庭や事業所に来ている電気は交流だと教わりましたが,交流というのはどういうものですか。

[A]
 ここまでの説明では,何となく交流という言葉を使ってきましたが,交流とは一言で言えば図1.48のような物の振動やあるいは海岸の波のような波動が電気でも起きたものです。

図1.48
交流は振動

 時計などの振り子やぶらんこは比較的大きなものの振動です。 弦楽器の弦は糸の振動,管楽器は管の中の空気の振動です。 海の波や地震の揺れも水や大地の震動です。

Q 1.38 交流は振動
 交流の振動とは具体的にどんなふうになっているのですか。

[A]
 交流は一言で振動と言っていますが,振動はどんなりくつにるのでしょうか。

図1.49
交流のりくつ

 交流は電気の流れる際の形で,略号でAC(Alternating Currentオルタネーティング カレント )です。 交流は図1.49のように電流の向きが定期的に交互に入れ替わります。 向きが入れ替わる速さはいろいろですが,電力では1秒間に50回ないし60回程度の低い入れ替わり速度(周波数)が使われています。 周波数(Frequencyフリケンシ)の単位はHz(Herzヘルツ)です。

図1.50
サインの波形

 向きが交互に変わるといっても,電流は電子の動きですから大きさや向きが急に変わることは難しく,図1.50のように滑らかに変化します。 滑らかな変化でいちばん効率的な形は,サインSine(正弦)とコサインCosine(余弦)の三角関数です。 図1.50からも分かるようにサインは円運動を横から眺めた動きを示したものです。
 交流は回転型の発電機から供給されます。 回転型ということは,円運動ですから当然ながらサイン波形とおなじ形の電圧の変化が得られるということです。

Q 1.40 交流の電圧
 常時変化している交流の電圧や電流の値はどう決めるのですか。

[A]
 交流の電圧や電流は上で説明したサイン波形になっていて常時変化しているので,次のようなりくつで値を決めています。

(1)   サイン波形に限らず常時変化する値の,その時々の値を瞬時値と名づける。
(2)   交流では電圧の瞬時値が変化するので,その電力も常時変化している。
(3)   交流の電力値は,電力の瞬時値を平均した値で考えることにする。
(4)   直流の場合は電圧も電力も瞬時値は一定であるから,直流を基準にとる。
(5)   交流の電力の平均値と直流の電力の値が同じなら,電熱器などでおなじ発熱量が得られる。 この場合,交流の平均電力と直流の電力は同じ電力値と考えてよい。
(6)   逆に交流の平均電力と実効的に同じ電力値を与える直流の電圧を使って,交流の電圧を定義することができる。
(7)   同じ平均電力を示す直流の電圧の値を使って,交流電圧の実効値(Effective valueエフェクティブ バリュー)とする。

 交流電圧を表わすときには,わざわざ実効電圧とは言わず,“実効”の二字を付けないで使います。 さらに実効電圧の考え方は交流電圧がサイン波形でなくても,上記のりくつを適用しています。
 実効値の呼び名はRMS(Root Mean Squareルート ミーン スクエア)と計算順序どおりの略称を使って,たとえば100Vrmsということもあります。
 交流の瞬時電圧が変化する以上,瞬時電力も常時変化しています。その値は図1.51のように,負荷にかけた電圧の2乗に比例します。電力は電圧(電流でも同じ)の2乗に比例しますから,サイン関数の2乗を求める必要があります。
 そこで,ちょっとだけ三角関数の公式が必要になります。 数学が苦手でない人は,囲み内の式を見てりくつを理解してください。

図1.51
交流の瞬時電力

 図1.51に点線で示した,サイン波形にしたがって瞬時電圧が変化する交流の平均電力は,瞬時電力の最大値の1/2になります。 電圧は電力の平方根に比例しますから,実効電圧は瞬時電圧の最大値の1/√2 (≒0.707)倍ということになります。 逆に電圧の実効値が100Vの交流は,最大瞬時値が約141.4Vのサイン波形を描いて変化しています。

★ 三角関数を使った平均電力の計算

 次の公式はコサインCosine関数の角度の和を与える式で,数学の授業で“コスコス引くサインサイン”などと暗唱した経験があると思います。
  cos(α + β)=cos α ×cos β −sin α ×sin β
 ここで,θαβ と置いてθαβ に代入すると,倍角の公式に変形でき,
  cos 2θ =cos2θ −sin2θ
と整理できます。 さらに,半径が1のときの円の公式 x 2 + y 2=1 に,xy をサインとコサインで表した極座標表示,x =cos θy =sin θ を使うと,
  cos2θ + sin2θ =1
という,三角関数間の公式が得られます。 これはじつはPythagorusピタゴラスの定理と同じことで,この式を覚えた人も多いと思います。
 この円の公式を使って倍角の式のcos2θ を消去すると,
  cos 2θ =1−sin2θ −sin2θ
となり,これからsin2θ を求めると,
  sin2θ =(1−cos 2θ)/2
となります。
 cos 2θ の平均値は0ですから,平均電力はsin2θ =1/2となります。



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