1.7 パチパチ・モクモクと火を吹く電気
ビリビリ以外に人が電気を恐れるのは,雷を怖がるのと一緒で,容易に火を吹くからです。
もっともガソリン車からガスコンロの着火や電子ライタなどまで,その発火能力を利用しているのですから,毒薬が薬に使えるのと一緒です。
見えない電気の取り扱いには,細心の注意を払っても行き過ぎではありません。
1.7節の内容
|
Q 1.31 パチパチ電気 |
[A]
電気は通常は,分子の間が離れている空気中を通ることができません。
裸の電線がお互いに接触したり地面に触れたりして電気が流れていて,それが風などで離れると,図1.40のようにいきなり電気の流れが途絶えるので,そのときに慣性を持って流れたがっている電気が空気中を放電します。放電すると,パチパチと火花を出して電気が通ります。
このような現象を通常,“火花”の意味の英単語を使い,
図1.40 電気火花 |
パチパチと火花が出ている状態は火打ち石と同じですから,長い時間パチパチが続いて燃えやすいものがそばにあれば,モクモクと煙を出すようになるのは時間の問題です。
図1.40 では,電子自身に慣性があるように描いてありますが,これは意味が解りやすいように表現しただけで,実際の電子は金属から飛び出すにはある程度の
図1.41 電気火花 |
図1.41のように電子の流れ(電流)が,電流の周りに小さな磁石(磁場)を作り,この磁場と電流の間にエネルギーが溜め込まれます。学校で砂鉄を集めて磁石が出来ることを実験したことがあると思います。
電流が突然切られてもこの磁石になったエネルギーは残るので,これが消滅するまで電流を流そうという作用が働き,高い電圧が発生し火花が出ます。
電池のような低い電圧の下でも,大電流を流しておいて突然電流を切ると,火花が出ます。
Q 1.32 スイッチから火花 |
[A]
電気を消費する電気機器(負荷)を電源につないだり切り離したりするにはスイッチを使います。
電池から流れるような直流の電流は,負荷に対して連続的に供給されて途絶えることがありません。
そのためいきなりスイッチを切ろうとすると,図1.42のように負荷の種類や状態によっては,Q1.31で説明したように電流が止まらないでいようとします。
図1.42 電流の切断 と火花 |
直流電化区間で
交流でも電流が流れている時にスイッチを切れば同じように火花が出ますが,交流は電流の向きが常時変わっているので,電線上に電流が流れていない瞬間があります。
ですから,やがて電圧が0になり電流の向きが変るときが来ます。
その瞬間にスイッチを切れば火花を飛ばさずに,無事にスイッチを切ることができます。
通常のスイッチは,そこで使っている電圧や電流で発生するであろう火花に耐えられるように設計されていますが,何かの原因で綿ぼこりなどが付いていると火がつくことがあります。
このようなことが起こらないように,スイッチは電気をつなぐ部分(接点)を露出させずに完全にカバーしています。
スイッチで指定されている定格内で使う使用環境ならば,通常はスイッチからの出火は避けられます。
Q 1.33 電気でモクモク煙が出る |
[A]
電気の漏電と電線や電気器具の過熱による火災は,放火やタバコの火ほどは多くありませんが,表1.7に示すように10大火災原因に入っています。
表1.7 火災原因上位10 (2010 年) |
|
2011年度版消防白書より(“火入れ”は法律用語で“野焼き”のこと) |
火災原因中の“電気配線”は基本的に漏電のことです。
1995年1月の明け方に起きた阪神淡路大震災では,震災で停電した後,自動的に損傷した建物に再通電されたことで,電気で加熱する機器に接触していた可燃物や千切れた電線のスパークから発火した例(通電火災)が多数判明し,地震で電気のブレーカを自動的に落す必要性が認識されました。 重りをぶら下げ,地震の上下動でブレーカを落す器具もあります。
Q 1.34 漏電はどうして起きる |
[A]
古い家では電気配線がネズミに
図1.43 漏電する場所 |
|
(a)天井裏や壁の裏で配線が露出している (b)ホコリで電気が漏れる |
そのようなところに雨もりがあったり,ほこりが付いて湿り気があると,電気が
あるいは,ネズミが運んできた可燃性のものが接触して湿気を帯びて,火を吹くこともあります。
これは電気配線のやり方を変えるか,ネズミ取りを仕掛けるかの対策が必要です。
さらにQ 1.34(b)のように,壁付きのコンセントに長時間挿したままの家電機器のプラグが往々にしてゆるんでいることがあります。
最初はちゃんと入れてあっても,長い間に引っ張られたりして,プラグの刃の部分が露出していることがあります。
このようなコンセントが机や本棚の後ろなどにあると,長い間に綿ぼこりがプラグの2本の刃の間に溜まります。
湿度が高い時期や金属製のほこりが付くと,この部分に電源の電圧が全面的にかかり,発火することがあります。
これを
年に一度は大掃除をしてプラグの周りを掃除し,コンセントにしっかりと挿し直しておく必要があります。
なお,ほこりによるショート除けのために,最近のプラグは,刃の根元の部分を薄い絶縁物で覆ってあり,プラグの刃に後から被せる
これらの電線間の漏電は,正規の電気機器が電気を消費しているのと同じなので,現場を確かめないかぎり漏電ブレーカでは自動検出できません。
電流が少ないので,安全ブレーカも落ちません。
一方,電線や家電機器から配線や機器の不良による大地への漏電は,分電盤に付いている漏電ブレーカで検知でき,自動的に電気が遮断されます。
2013年冬に,明治初期創業の
2013年の秋,福岡の整形外科医院の1階処置室に置かれていた,24時間通電状態の温熱器のプラグとコンセント付近から未明に出火し,寝ていた入院患者ら10人が一酸化炭素中毒で死亡しました。
消防によると,図1.43(b)のようなトラッキング現象との見解です。
通常の防火訓練では点検しない個所から出火する危険があります。
家電機器やパソコン自体から火が出る事故は,設計や製造上の問題のほかに内部にほこりが付いて,それが発火することがあります。
特に油気が多いところやタバコの煙に巻かれる場所に置いてある機器には注意が必要です。
機器の中も年に1回程度掃除機やぼろ布などで掃除をし,さらに湿気があまりないところに機器を置くくらいしか対策はありません。
Q 1.35 電線自体が熱くなる |
[A]
たいへん危険です。
発火の危険があります。
図1.45 延長ケーブル |
芯線0.75mm2×2 外形6.6mmのケーブル |
細めのケーブルは図1.45のような,30本撚りの電線を使っています。
ここに流せる電流は,Q1.22の表1.6に示したように7Aが限界です。
電線に限界以上の電流を流しますと,急速に発熱します。
電線の抵抗は温度が上がると大きくなりますから,熱くなればなるほど抵抗が大きくなって,電線での電力消費が増えるという悪循環が起こります。
電線内では電子が移動する速度と量によって,電子が内部の障害にぶつかって発熱します。
この熱は当然ながら電線を温めます。
発熱量は流れる電気量の二乗に比例します。
1A流したときには問題がなくても,10A流すと発熱量は100倍にもなるので,よく理解しておかないととんでもないことになります。
丸い電線の断面積は直径の二乗に比例します。 すなわち電線の抵抗は,直径の二乗に反比例します。 したがって同じ発熱量の制限下では,電気を流せる量は電線の直径に比例すると言えます。 この許容電流は,表1.5によれば,Fケーブルでは直径1mm当り約12Aです。
★ 電源延長ケーブルはどのくらい熱を持つか
表1.6から30本撚りの電線(30芯ともいう)で,電流が1Aのときの発熱量を出すと,1m当たり約0.0258(J/秒=W)の発熱があることが分かります。 |
Q 1.36 漏電はどうして起きる |
[A]
これも,コンセントのほこりなどと同じく,気を付けなければならない事故です。
横着をし続けて,プラグのところでケーブルが切れかかっているのです。
このまま放っておくと,いつかはプラグのところから発火してしまいます。
図1.46 切れかかった ケーブル |
機器の根元やプラグの根元でケーブルが図1.46のように切れかかって,本来50本もある細い芯線が数本だけで危うくつながっているという現象がよく起きます。
この場合はこの数本の細線に電気が集中して流れるので,掃除機のように大電流が流れる機器を使うと,極度に発熱して火を吹くことがあります。
筆者は,電気スタンドのスイッチの配線が抜けかかって,スイッチが黒こげになった経験があります。
幸い火事にはなりませんでしたが,基本的には電気スタンドのメーカの責任です。
もし,コンセントの中で電線が抜けかかっていて発熱発火した場合には,施工後の日が浅ければ,工事業者の責任も問われます。
Q 1.37 電気用品の安全性保証 |
[A]
日本で販売される,電気用品安全法(略称:電安法)によって指定された電気用品は,すべて一定の基準による安全検査を経て型式認証を受けなければ,販売を認められていません。
“日本でも使える”と称して国外で売られている電気機器で,この認証を受けているマークが付いていない場合は,日本国内での安全性については不明です。
火が出たり漏電したときの保証はないと思われるので,自己責任で使うしかありません。
なお,秋葉原などで売られている国外で使える電気釜などは,通常,国際的な安全基準を満たしています。
↑ 認証機関略称 |
|||
(a)特定電気用品 | (b)特定以外の電気用品 | (c)S マーク | (d)旧甲種電気用品 |
図1.47 電気用品の安全マーク |
安全検査を受けて型式認証された電気用品には,図1.47(a)か図1.47(b)のようなマークが,機器のどこか見える位置に付いています。
図1.47(a)の
円形マークの図1.47(b)は,特定電気用品以外の電気用品に付けるマークで,同じく341品目が指定されています。
Q5.23で説明するリチウムイオン蓄電池も,円形マークの対象電気用品です。
なお,事業者が自己確認した製品の安全性を,第三者機関(日本ではJETまたはJQA)が確認する第三者認証制度による,図1.47(c)の“S マーク”も使われています。
PSE で指定されてないものにもSマークが付けられます。
Sマークは世界の多くの国で採用されています。
これらのマークにはその横や下に図1.47(c)のように認証をした第三者機関の記号を記入することがあります。
2001年3月末までは,電気用品の安全を規定する法律は,電気用品取締法(略称:電取法)という名称でした。
その法律で規定されていたマークは,図1.47(d)のような郵便マーク(〒)の外側を逆三角形で囲んだものでした。
これは,電気用品の規制を行っていた役所が,戦前は郵便も管理していた
逓信省は通信(有線と電波)と放送,郵便および電気用品を管理していました。
戦後,電気通信省(電電公社からNTTになった)と郵政省(今は日本郵政と総務省)に別れ,電気用品の監督は通商産業省(今は経済産業省)に引き継がれました。