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2.2 電子が動くと熱が出る


 ここまで使ってきた電気という言葉は,とても曖昧あいまいでした。 しかし,物理学的な正確な定義を説明すると,たいへん退屈な話になってしまうことも事実です。 でもここで,ちょっとだけ寄り道をします。 むつかしい話になりますが,少しがまんしてください。
 なお,電子についてのもうすこし詳しい解説は,旧雑誌記事『電子の話し』を参照してください。 半世紀近く以前の活字凸版印刷時代の雑誌からの転写なので,少々読みにくいことをご了承ください。


2.2節の内容

2.1節 電気ヒータで加熱する 2.3節 電気ヒータを使わないで直接加熱

Q2.5 電子が動くと熱が出る   Q2.6 どのくらい発熱するか
Q2.7 電子は外へ出られない  【旧雑誌記事】電子の話し



Q 2.5 電子が動くと熱が出る
 電気ヒータはどうして熱が出るのですか。

[A]
 電気が流れるということは,図 2.5(a)のように電子が動くということです。 そうして,動いている電子がいろいろなものにぶつかって,邪魔じゃまされると熱が出るのです。

(a)電子の動きが電流 (b)邪魔されると熱が出る
図 2.5 電子が動くと熱が出る

 では,邪魔物とは何でしょうか。 金属と言っても,決して金属の原子が碁盤目のように,整然と並んでいるわけではありません。 図 2.5(b)のようにいろいろな邪魔物が,電子の快適な動きを邪魔しています。 これらはあたかも,図2.5(a)の坂道に邪魔物が置いてあるように,電子がスムーズに流れるのを妨害します。

【熱振動】
   絶対零度の状態にない物質は,いつも熱振動という震えを起こしている。 電子がこの震えにぶつかってしまって,金属の結晶の間を真っ直ぐに通り抜けられない。
【不純物】
 普通は100%純粋な物質は得られないので,結晶のところどころに不純物による邪魔な部分ができ,電子の通り抜けを妨害する。
【結晶粒界と格子欠陥】
 ふつうの金属は細かい結晶がくっついたものなので,結晶はかならずどこかで電子の通路を邪魔するようにお互いにずれてくっついている。 結晶中にも乱れ(格子欠陥)ができる。

 主にこれら三つの原因で,電子は金属中でもスルスルと通り抜けることはできません。 電子が結晶を構成している原子とぶつかると,ぶつけられた原子は揺られて振動します。 電子の勢いは原子を結晶から叩き出すほどではないので,衝突した結果,電子が持っていた移動のエネルギーEnergyの一部を原子に渡して,原子の振動を増やす(すなわち原子の温度を上げる)ことに使われてしまいます。

*   *   *
★ 電流と電子の流れの向き

 電子の動きをまとめて見たものを電流(Currentカレント)といいます。
 第4章で説明しますが,最初に電流の向きを決めたときに,電子の流れる向きと逆方向を電流の向きとしてしまったため,電子はマイナスMinusの電気を持ち,電流は図2.5(a)のように,電子と逆向きに流れるという解りにくいことになってしまいました。

Q 2.6 どのくらい発熱するか
 電子が動くと発熱するというのなら,電子の数が多いとその数に比例して発熱しますか。 さらに邪魔物が多いとその数に比例して発熱しますか。

[A]
 発熱量は邪魔物の数には比例します。 そこにある電子の数には比例しませんが,動いている電子の数で変わります。 電子の動きを邪魔する物のことは抵抗(Resistanceレジスタンス)と呼んでいます。 邪魔物の数が多いのは“抵抗が大きい”,少ないのは“抵抗が小さい”と言います。
 ここで議論のかなめになるのは,電子を動かす(電流が流れる)ためにはどんな条件が必要か,ということです。 電子は放っておいては動かないので,図2.5(a)の坂道のように力をかけない と電流は流れません。

図 2.6
電流を流すには
電圧をかける

 電子が図 2.6のように電線のパイプPipeに詰まっているとすると,電流を流す(電子を動かす)には圧力(電圧:Voltageボルテッジ)をかけてやります。
 じつは,この電流と電圧の間には,
  (a) 電流を2倍にするには,抵抗が同じなら2倍の電圧が必要
  (b) 抵抗が2倍になると,同じ電流を流すには2倍の電圧が必要
という比例関係があります。 ここから,電圧と抵抗と電流の間には,
  電圧(V)=抵抗(Ω)×電流(A)
というOhmオームの法則が成り立ちます。
 発熱は消費された電力(Wattageワッテージ)で惹き起こされますから,
  発熱割合(J/秒)=電力(W)=電圧(V)×電流(A)
の関係を使うと,
  発熱割合(J/秒)=電力(W)=抵抗(Ω)×電流(A)×電流(A)
ということがわかります。
 すなわち発熱割合は,電子の流れの量(電流)の二乗に比例して大きくなります。 ヒータの抵抗が小さいほど,同じ電圧下では電流がたくさん流れるので,発熱量が大きくなります。
 なお英語では,“電力”を数値が伴わない表現で使うときには,“Electric powerエレクトリック パワー ”を使います。

*   *   *
★ エネルギー・熱量を測る単位

 エネルギー(仕事・熱)の分量は,J(Jouleジュール)という単位で測り,1Wの電力消費が1秒続いたときに発生する熱量に相当します。
 よく使われているカロリCalorieとの間では,
  1cal=4.184J
という関係があります。
 カロリはもともと,1mL(cm3)の水の温度を1℃上げるに必要な熱量とされていますが,この値が水の温度によって変わるので,熱量にはもっと正確に表せるジュールを使います。
 なお,食品のカロリは,1,000calを単位としたkcal(キロカロリ)で表示されます。 食品に関しては,以前は1kcalを1Call(大カロリ)で表示していたこともあります。

Q 2.7 電子は外へ出られない
 電子に電圧をかけても,金属などの外部へは飛び出さないのですか。

[A]
 通常,電子はプールの中の水のように,自由に物質の外部へは飛び出せません。 何もないところへ出るには,プールで水面をバシャバシャ叩くのと同じように,物質の拘束を振り切るだけの力を与えなくてはなりません。
 一方,金属中ではそんなに力をかけなくても,電子はプールの中の水のように,かなり自由に動けます。 金属中にある全部の電子がそんなに自由ではありませんが,図 2.7(b)のように,金属原子のいちばん外側にある電子は,ほとんど原子に拘束されていません。 そこで,少しでも電圧がかかると,物質の内では水のように自由に流れることができます。

図 2.7
電子は原子に
捕まっている
 (a)単独のアルミ原子          (b)金属アルミにはお隣さんがいる

 たとえば Aluminium アルミニュウムは,原子核に13 個のプラスの電気を持つ陽子が集まっています。 ですから同じ数の電子を周りに集めて,電気的には中性になっています。
 13 個の電子は一 かたまり 塊になっているのではなく,原子核に近い方から2 個(K殻という),8 個(L 殻),3 個(M殻)と3 層になっていると考えられています。

  (a) 内側の殻ほど原子核に近いので,より多くの陽子のプラスの電気で引っ張られている。
(b) その引っ張られる度合は,ちょうど図 2.7(a)に示す井戸のように,原子核の中心に近づくにしたがって急に深くなる
(c) 外側の殻では,内側の殻にいる電子が原子核のプラスの電気を打ち消すので,いちばん外側のM殻の電子は井戸の浅いところにいる。
(d) 結晶のようにアルミニュウムの原子がたくさん隣合わさると,図2.7(b)のように井戸のふちが下がって,M殻の電子は原子核のプラスの電気の拘束から自由になってしまう。
(e) アルミニュウムの場合は,3個の電子がこの下がった井戸の縁を越えることができる。

 このように物質内を自由に動ける電子を,“自由電子”(Free Electron)と名付けます。 金属は自由電子がつねに存在する物質です。



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