2.3 電気ヒータを使わないで直接加熱
高温を得たいときに電気ヒータを使うと,加熱されるものの温度は,ヒータの温度よりも必ず低くなります。 その分だけ熱が損しています。 対象物を直接加熱できれば,効率が上がります。
2.3節の内容
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Q 2.8 高温にするための直接加熱 |
[A]
電気ヒータは,電気による加熱方法としては便利な方法ですが,Q2.4で挙げた“伝導”,“放射”,“対流”のいずれかの方法で,電気ヒータの熱を対象物に与えて加熱します。
業務用や産業用では,加熱対象に直接電気を流して加熱する方法も,よく使われています。
電気ヒータを使わない加熱方法としては,下記のようにいくつかあります。
(a) 加熱対象の金属に電流を流して加熱する
(b) 放電で加熱する
(c) 電磁誘導で加熱する
(d) 電波を当てて加熱する
(e) 圧縮した気体で加熱する
この内,前の二つはこの節で,次の三つは2.4節,2.5節,2.6節とそれぞれ節を分けて説明します。
Q 2.9 スポット熔接 |
[A]
その音は,たぶん金属板を
図 2.8 スポット熔接 |
スポット熔接の痕が目立つステンレス電車 → レィルウェイライフ氏blogより |
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二枚の薄手の金属板を重ね,低い電圧の大電流を短時間流して発熱させ,熔けた金属板同士を図 2.8のように接合させます。
このときに大きな音が出ます。
鋼板で作られている自動車の
Q 2.10 電気炉による製鋼 |
[A]
普通に使われている鉄はほとんどが鋼鉄です。
鉄鉱石から鋼鉄を作るには,まず高炉で石炭から作った
しかし屑鉄は錆びているとはいえ,すでに鋼鉄になっていますから,高炉に入れていたのでは無駄になります。
そこで,Q2.8の(b)の放電による加熱を使って鋼材にします。
電気炉は,スィッチを切るときに出る火花を連続で出すようにした
図 2.9 電気炉でくず 鉄を再生 |
アーク放電の電極には炭素棒を使います。この炭素棒は放電によりどんどんと消耗します。 交流の電気炉では三相交流を使うので,上側の消耗電極は3本必要です。 直流の場合は1本ですみますが,交流を直流にする装置が必要になります。
コークスは,石炭を蒸し焼きにして揮発性の成分を飛ばし,純粋な炭素と灰分(燃えない成分)だけにしたものです。 製鉄には長い間木炭を使っていましたが,生産性がよいので,近代的な製鉄では,コークスを鉄鋼石の酸化鉄から酸素を取り去るための還元剤に使っています。
Q 2.11 電気熔接 |
[A]
建造物に使う鋼材のように,厚みがあって強度も必要な金属同士の接合は,図 2.10(a),(b)のように
図 2.10 鋼材の接合 |
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(a)リベット止め (b)ボルト止め (c)熔接 |
電気を使って高熱を出すには,Q2.10の電気炉と同じように放電を使う電気熔接があります。
電気溶接は電気炉のような炭素棒を使わず,対象物と同じ材料で作られた熔接棒と対象物との間に,図2.10(c)のように電気を流してアーク放電を起させ,融けた熔接棒でつなぐ方法です。
電気ではなく可燃性ガスと酸素を使って,高温で熔接棒を融かしてくっつけるガス熔接も使われています。
強力な
航空機のアルミを使用している部分には,リベット止めがまだ一部で使われています。
酸素がない雰囲気でやらねばならないアルミ熔接自体と熔接後の処理が難しいからです。
一方,鋼鉄製のものは,東京スカイツリーを始めとして,建物や橋などの構造物や新幹線を始めとする世界の鉄道では,ほとんどがボルト止めです。
これには,日本企業が開発したハードロックナット(商品名)という“絶対に緩まないナット”が,保守作業での点検締め直しが不要なため大活躍しています。
熔接は接合強度は大きいのですが,作業がたいへんなのと,仕上がりの検査をしなければならないので,船や
接合には接着剤が使われることもありますが,接着剤は耐久性問題が発生することもあります。
2012年暮れの中央自動車道笹子トンネルで起きた,天井板崩落による死傷事故のように,天井に釣り下げボルトを止めていた接着剤が施行不良で不完全接着していました。