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2.7 加熱で光を出す


 図 2.24(a)のEdisonエジソンが,電気に関するいろいろな発明をした中で,電球に竹のフィラメントFilament(意味は細い糸,雄蕊おしべの一本)を使う発明は,電球の実用化に多大な貢献をもたらしました。

図 2.24
Edisonと電球
← 旧U.S. Information Agency HPより
    306-NT-279T-20
神田明神前の甘酒屋の玄関燈
(a)炭素電球を持つEdison (b)Edison電球のレプリカ


2.7節の内容

2.6節 冷蔵庫とエアコン 3.1節 動く家電機器とモータ

Q2.23 電気による発光   Q2.24 白熱電球の発明者
Q2.25 昼光色と昼白色 Q2.26 発熱が見える温度
Q2.27 黒体放射 Q2.28 冷たい光



Q 2.23 電気による発光
 蛍光燈やLED電球には昼光色や昼白色があるのに,白熱電球はなぜ夕日のような色なのですか。

[A]
 白熱電球の中のヒータの温度が低いと発光色がオレンジ色になります。 蛍光燈やLED電球は,発光のりくつが違うために,温度が低くても昼間のような白い光を出すことができます。
 物体はどんなものでも温度を上げると光り出します。 温度が上がるに連れて,この色は暗赤色,赤色,黄色,白色,そうして青白くなります。 たとえば昼間の太陽の光は,太陽の表面温度約5,500℃(5,780K)に相当する光が出ていると,推定されています。
 電球は,高い温度にすれば明るく光るので,Edison は竹を細く割り,それを炭化させて作ったフィラメントを使うことで温度を上げ,電球を実用化しました。 炭素は,高温でも液化がはっきりと観察できない物質ですが,電球の中に残った酸素と結合して減ってしまったり,直接蒸発してしまうため,寿命が長くありません。 さらに機械的な強度が小さいのも欠点です。
 一方通常の金属は,実用的な光が出るまで温度を上げると,融けてしまいます。 比較的高温まで融けない金属には,表 2.3のようなものが知られています。 モリブデンMolybdenumを除く他の金属は,周期律表で白金と同じ段にあり,タンタルTantalumタングステンTungsten以外のレニウムRheniumオスミウムOsmiumイリジウムIridiumは貴金属です。

表 2.3
融点が高い金属

 この中でタングステン(元素記号Wは,タングステンの別名のWolframウルフラムから取っている)は,硬くてフィラメントに加工するのが非常に困難でした。 しかし,融点が飛び抜けて高い上,電気抵抗も比較的大きいので,白熱電球の抵抗体としてフィラメントに使われています。 それでも,太陽の表面温度に比べるとかなり低い2,200〜2,700℃くらいまでしか加熱できないので,夕日のように黄色や赤が強い光になってしまいます。 この温度では,供給された電力の90%は赤外線領域の熱になってしまいます。

Q 2.24 白熱電球の発明者
 Edisonが実用化する前から電球はあったのですか。

[A]
 今の電球の原型の白熱電球は,Swanスワン(後,英国のナイトKnightの爵位を授与された)が長年の実験を経て,1860年ごろに完成させました。
 フィラメントには炭化させた木綿糸を使い,寿命は40時間程度でした。点灯には大電流を必要とし,実用的に使うには今一歩という状態でした。

*   *   *
★ 電球の口金

 Edisonと並ぶ電球の発明者Swanの名は,自動車など振動が多いところで使われる小型白熱ランプに使われている,口金(Baseベース)がねじ込み(Screwスクリュー)式ではなく,図 2.25に示す挿しこんでばねで押さえる形の電球の名称(Swanベースという)に残っています。 一方ねじ込み式の口金は,Edisonベースと呼んでいます。

図 2.25
電球の口金
← Edisonベース(左)と
  Swanベース(右)

 なお,大電流でより安定な接触を必要とする自動車のヘッドライトHeadlightなどには,差込み式が使われています。
 なお,電球の口金の大きさは表 2.4のように直径で区別されています。

表 2.4
電球の口金の
主な大きさ

 頭にEが付いている形式はEdisonベースで,BかBA(Bayonetバヨネット:仏国の村の名称,銃剣の意味,転じて似た機構の差込みに使う)あるいはSが頭に付いる形式はSwanベースです。 なお,LED 電球も口金は従来の形式を踏襲しています。

★ 電球時代の終わりとEdison電球

 日本では省エネルギー対策のために,2008年に各電球メーカーに白熱電球の製造自粛要請が出され,特殊な電球以外は2012年末でほとんどの製造が打切られました。
 なおEdisonが作ったものと同じ,竹を素材にしたフィラメントを使った電球が復元されて,現在も販売されています。 価格は同じW数のタングステン電球の100倍以上します。
 一方,炭素繊維で作った電球は,数社から発売されていて,普通の電球の10倍程度の値段で入手できるので,図2.24(b)のように凝ったお店のインテリアによく利用されています。


Q 2.25 昼光色と昼白色
 蛍光燈やLED電球の色で,電球色というのは分かりますが,昼光色と昼白色とはどうちがうのですか。

[A]
 蛍光燈などの昼光色は約6,230℃,昼白色は約4,730℃の温度に相当する光を出しています。 一方,電球色は2,530℃程度ですから,かなり色が違うことがわかります。
 昼光色は,直接の太陽光よりも,晴天で青空からの光の影響が大きいときの戸外の光です。 太陽の表面温度よりも若干高い温度に相当するので,ものが青みがかって見え,食卓の照明には適しません。
 昼白色は,太陽の表面温度よりも低い温度に相当する光の色ですが,空にかすみや雲がかかって,短い波長の青い光がさえぎられたときの昼間の光の色です。

★ 夕日の色

 空が青いのは,成層圏の酸素や窒素分子によるRayleighレイリー(Nobel物理学賞受賞の英国人名)散乱と呼ばれる現象によって,惹き起こされたものです。

図 2.26
夕日の色

 夕日は,図 2.26のように太陽光の入射角度が傾くと,大気中を通過する距離が長くなり,波長が短い青い光は昼間より大きく散乱され,黄色や赤い光が多くなります。
 さらに,大気中の微小浮遊粒子(Aerosolエアロゾル)によるMieミー(独の物理学者名)散乱も大きく作用して,黄色や赤色の光も散乱されて一面に拡がるので,赤っぽくなります。 月も同じりくつで,地平線近くでは黄色から赤っぽく見えることがあります。 なお,水蒸気は赤外線を吸収します。
 オゾンOzone(O3)は,可視光とともに短波長の紫外線をよく吸収するので,大気汚染によって上空のオゾン層が破壊されると,紫外線で遺伝子が破壊され皮膚がんになる危険が大きくなります。

Q 2.26 発熱が見える温度
 ものが熱くなると,まず暗い赤い光が出はじめ,温度がかなり高いことが分かります。 この程度の温度は何℃位でしょうか。

[A]
 物体は温度を上げると,図 2.27のようにその温度に相当した光を出します。 なお,熱線(赤外線)や可視光も電磁波です。

図 2.27
高温での
電磁波放射
Wikimediaより
2006/8/4,4C氏

 星も見えない真っ暗な宇宙空間でさえ,2.7K(−270.45℃)の温度に相当する電磁波が飛び交っています。 なお,KはKelvinケルビン(英国の物理学者Kelvin卿にちなんだ名称)といい,絶対温度の単位で,0K=−273.15℃です。

図 2.28
Wienの変位則

 この図2.27の曲線群の各最大値を結んだ図 2.28の線は,高温の物体の色は温度で決まることを示しています。
 図2.28の線は,Wienウィーン(独の物理学者名)の変位則と呼ばれています。 これによると,放射強度が最大になる波長λは,
   λ max=0.00289776829/T
という反比例の式で与えられます。 λ の単位はmで,T は絶対温度です。
 この関係から,ある光の放射強度が最大になる波長を知ると,その光源の温度を知ることができます。
 暗い赤い光が感じられるときは,まだ放射の最大値は赤外線の領域にあります。 この波長の電磁波は,照射された物体の分子を直接揺すぶることができるので,照射されると暖かく感じます。 ですから,手などにまず暖かく感じられてから,暗い赤い光が見えて来ます。 暖かく感じる遠赤外線は,4〜25μm程度の波長です。
 一方,暗い赤色は大体0.75μm程度ですから,この色が見え出すのは,光の最大放射が近赤外の範囲(0.75〜4μm)になったあたりです。 4μmにピークがある物体の温度は,
  T=0.002898/0.000004=724.5(K)
ですから,450℃くらいなら赤く見え初めます。 実際にはまわりを暗くすると,もう少し低い温度から見えて来ます。

*   *   *
★ 体温の放射波長

 常温よりも温度を上げた物のそばに寄ると暖かく感じるのは,Q2.4で赤外線の放射による加熱ということを説明しました。
 もし風邪をひいて体温が38℃あると,最大の放射波長はWienの変位則からおおよそ,
   0.0029/(273+38)=0.0000093(m)=9.3(μm)
となります。 この波長は遠赤外線領域と呼ばれていて,放射を受けると身体が暖かく感じる電磁波ですから,自分が出す赤外線よりも受け取る赤外線が多いと,病人のそばに近寄るだけで熱を感じます。

Q 2.27 黒体放射
 図2.27の曲線は,実験で求めたのですか。

[A]
 図2.27は,黒体(Black body)という物体表面での光の反射がまったくない理想的な物質を考え,その温度と放射される電磁波の関係を理論的に求めたものを,グラフにしたものです。
 加熱した物体から出る色は,表面の物質とその状態によって本来少しずつ違います。 それではりくつを考えるのに不便なので,黒体というものを考えたのです。

図 2.29
黒体放射

 黒体に近い物として,図 2.29のように物体に小さな穴を開け,その窓から加熱された内部を見たときが黒体に近い状態として測定に利用しています。
 黒体からは温度を上げると,温度に相当した電磁波が放射されます。 これは黒体放射といわれていて,絶対温度の4乗に比例する光(電磁波)のエネルギーを放射します。 この放射光は,色(波長)に関しては連続的な値を持ちます。
 なお,LEDや蛍光灯の光は,飛び飛びの波長の光からできています。

*   *   *
★ 黒い物質

 黒体に代る黒い物質というと,すぐに思い浮かぶのは墨です。 これはることで極めて細かくなったグラファイトGraphite(石墨,黒鉛ともいう)状の炭素です。 しかし,黒鉛には偏光という現象があって,壁に貼った習字でよく見られるように角度によっては光るので,黒体の代用には向きません。
 白金や銀を化学的な方法で超微細粒子にすると,光を反射しなくなり黒体に近くなります。 白金は高価なので,白金より安価な銀を使ったのが銀塩写真のフィルムや印画紙です。

★ 黒体放射の理論式

 図2.27の曲線の元になった黒体放射の式は,理論的に下記のように求まっています。
     (Plankプランクの法則)

E 放出エネルギー強度 λ 放出される電磁波の波長
c 光速(299,792,458m/s) h Plank定数(6.62602876×10−34J・s)
k Boltzmannボルツマン定数(1.3806488×10−23J/K)  T 絶対温度(K)

 難しくなりますが,この式を全波長(λ)に渡って積分すると,黒体からの全放射エネルギー強度I は,IσT 4となるというStefan-Boltzmannシュテファン・ボルツマンの法則が得られます。 ここでσ =5.670373×10−8です。 すなわち温度が2倍になると明るさは(24=)16倍になります。


Q 2.28 冷たい光
 蛍光灯やLED電球のように,温度が上がらなくても白い光が出るのはなぜですか。

[A]
 図 2.30(a)のように温度が高くなくても光る冷たい光を,“蛍光”と呼んでいます。 文字どおりホタルの光は生化学的な方法で発光していて,自分自身は光を出しても火傷やけどを負いません。

図 2.30
冷たい光
 (a)いろいろな冷たい光           (b)冷たい光は電子が出す

 紫外線による刺激など物理的な方法でも蛍光を出すことが出来ます。 もちろん蛍光燈やLED電球のように,電気的な方法で冷い光を出すこともできます。
 これらは発光用のエネルギー源が違うだけで,発光のりくつ自体は生化学的な方法とあまり変わらず,図 2.30(b)のように,電子が存在する状態の段差(エネルギーギャップという)を落ちることで発光しています。 光の色は落差で決まり,光の強さは落ちる電子の数で決まります。
 このりくつは,原子や分子の構造をちゃんと理解しないと説明できませんので,本書では割愛します。



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