3.3 電子回路で回す直流モータ
整流子モータは,直流で回わせるモータとしては古くから使われてきました。 やがて種々の半導体が発達し,電子回路で電磁石を励磁してロータを回すことで,大きさや保守面で有利な新しいタイプのモータが出現しました。
3.3節の内容
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Q 3.14 ラジコンのモータ
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[A]
制御(
しかし模型用エンジンの燃料は,
直流モータの駆動を電子化することで軽量化し,蓄電池も高性能化したので,電池とモータで飛ぶ模型飛行機が可能となり,小さな子供でも扱えるおもちゃになりました。
ミニ四駆などの自動車や船など,空中に浮上しない模型やおもちゃは,動力で自分の重量を支える必要がないため,古くはぜんまい仕掛で動いていましたが,そのうちモータで動かすようになりました。
“
★ ドローン
複数個の回転翼を持つ自動操縦のヘリコプタを |
Q 3.15 ブラシレスモータ |
[A]
そのとおりです。
ロータに永久磁石を使い,ステータを電子制御の電磁石にし,ブラシを使わないようにしたモータを,
図 3.19 ブラシレスモータ |
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ただしブラシレスにするためには,図 3.19のように電子スイッチを用意し,ロータの回転位置を検出して,界磁の電磁石の電流の向きを制御する必要があります。
このため,位置
ロータの磁石の位置検出に使う磁気センサは,通常
ロータの永久磁石は一組のN,Sだけでも回りますが,その整数倍の組でも可能です。
多数の永久磁石を使用する時は,ステータはY字型の整流子モータと同じりくつで,円滑に回るように3分割します。
すなわち界磁は3の倍数組の巻き線がある電磁石となります。
ブラシレスモータは,界磁に永久磁石を使っているので,その回転特性は図3.13(b)の分巻整流子モータと同じようになります。
回転の角度検出には,Hall素子以外にも図 3.20に示すように,回転軸に分度器のような目盛を付けて位置を測る
図 3.20 ロータリ エンコーダ |
左にある光センサを 使って回転量を検知する Wikimedia より 2011/3/28,Rrudzik 氏 |
ただしこれらは,Hall素子と比べるとどうしても高価になるため,ただ回すだけのブラシレスモータに使うことはあまりありません。
主に精密を要する工作機械のモータや,高級自動車の電動
Q 3.16 Hall素子 |
[A]
Hall素子は Hall(米国の物理学者)が1879年に発見したHall効果という物理現象を用いて,磁場(この場合は磁束密度を指す)の強さを検出するものです。
図 3.21 Hall効果 |
Hall効果とは,図 3.21のようにごく薄い半導体のa,b間に一定電流を流し,半導体の上下面方向に磁場をかけると,電流の向きと直角の方向に電子が吹き寄せられて,c,d端子間に電圧を発生することを指します。
この電子を吹き寄せる力は
発生する電圧Vcdは,
Vcd=(RH/D)IabB
で与えられます。
ここで,D は半導体の厚み,Iabは流した電流,B は上下面方向にかけた磁場です。
すなわち,発生する電圧は磁場の強さに比例します。
R H はHall係数といい,
RH=1/(e ・n)
です。ここで,e は電子の電荷量,n は電荷の濃度です。
Hall 素子には,Hall 効果が大きく出る化合物半導体であるGaAs(
Q 3.17 外側が回るモータ |
[A]
整流子モータでは,ロータの回転軸に固定された整流子で,ロータの電磁石の極性を変えて回転させています。
回転軸を掴んで止めると,モータの外側,すなわちステータに固定されたブラシに電気が供給されているので,図 3.22(a)のように電線が
図 3.22 アウタロータモータ |
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(a)外側は回せない (b)内側が固定 |
しかし,整流子がないブラシレスモータなら外側を回すことは可能です。
その際,元のステータの電磁石が回ってしまうと,電気の供給ができないので,回る外側を新しいロータとして永久磁石を使い,固定した元のロータ側を新しいステータとして電磁石にします。
図 3.22(b)のような構造のモータを,
この場合もブラシレスモータとしての原理は変わらないので,低速での高いトルクや高速回転などの利点はそのまま生かして使えます。
アウタロータ型のモータは,回る側の直径が大きいので,ロータ自体の慣性が大きくなりますが,永久磁石の大きさや電磁石の巻き線が比較的自由に設定できるという特長があります。
それを生かして,パソコン関係の
電動自転車や電気自動車などの車輪(
Q 3.18 ステッピングモータ |
[A]
もちろん回りますが,それでも外部の電子回路を使って,界磁のN,Sの極性を順番に変えていかなくてはなりません。
図 3.23のように,4個の界磁用の電磁石を用意し,電子回路を用いて順番に励磁してやれば,ロータ側の永久磁石は引き合った位置まで回って止まります。
引き合った位置に来たところで励磁の順番を次に送ると,ロータはさらに回転を続けて次の引き合った位置へ進みます。
ただ,ブラシレスモータと違い,ロータの位置
図 3.23 ステッピング モータの原理 |
90度ずつ回る |
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ステータのコイルに 電流を流す順番 |
このようなモータを
ステッピングモータは,図3.23の表のように,つねに二つのコイルに電流が流れるように駆動するのが普通です。
一つのコイルだけに電流を流すと,次のステップに進む時にガタガタと音が出て,スムーズに回らないことがあります。
さらに,いずれかのステップで次への移行を止めると,ステッピングモータはその位置で停止します。
図 3.24 永久磁石なし ステッピングモータ |
Wikimediaより 2011/5/17,Dolly1010氏 |
実際のステッピングモータは,図 3.24のように,ロータに永久磁石を使わずに凹凸がある鉄のロータと界磁を使って,全周を100あるいは200ステップに分割し,細かい回転位置制御ができるようにしたものが使われています。
ステッピングモータの界磁を回す速度を急に変えると,ロータが界磁の回転に正確に付いて行けなくなります。
しかも付いて来ていないことは検出できません。
もし,図 3.25(a)のように,界磁の回転にモータの回転が追いつけないと,モータがガタガタと異常振動を起こしたり,止まってしまいます。
これは負荷の慣性が大きいか,界磁の回転が急に変化したときに起き,脱調といいます。
図 3.25 ステッピング モータの脱調 |
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(a)脱調現象 (b)速度とトルク |
直流モータは通常は始動時のトルクが最大ですが,ステッピングモータは図 3.25(b)のように実用最高回転速度までだんだんとトルクが大きくなる性質があります。 そのため,図3.25(b)の自起動速度以下の速度で,脱調しないで始動できれば,最高速度までの加速は意外と簡単です。
Q 3.19 ステッピングモータの利用 |
[A]
ステッピングモータは,電子制御で回転位置を決めることができ,図 3.26(a)のように界磁の
さらに,停止状態はロータと界磁の磁石の引き合いで止まっているので,通常のモータとは異なり,ブレーキがかかっているのと同じ状態になるため,小さな力を加えた程度では位置がズレる心配もありません。
図 3.26 ステッピングモータの 位置決め機能 |
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(a)停止状態 (b)位置決め機能を使った応用例 |
このような性質から,ステッピングモータは,図 3.26(b)のようにロボットや自動機械などの簡単な位置制御に多く使われています。 さらに,ねじ巻き式ではないアナログ式腕時計の駆動部にも,超小型のステッピングモータが使われています。
パチンコ店で見かける,
(a)筆者の手元にある初代パチスロの試作機 | (b)加減速制御 |
図 3.27 スロットマシンを回すモータ |
最初にパチスロに使用したステッピングモータは,一周が200ステップのものだったので,スロットマシンのリールの一周の絵柄の数21と合わせるために,1 絵柄を9ステップと10ステップの交互に送って回転させました。
脱調の危険があるために,絵柄の始まりの位置は別途センサを付けて検出し,さらに回転の始動と停止は一気に行わずに,図 3.27(b)のような速度変化が台形になるように加減速制御をしました。
モータの回転制御や当り役を出す出さないの回転の制御,および払い戻しや通信機能は,すべて機械語で書いた