3.4 三相交流で回転する界磁を作る
整流子モータは,直流で回わせるモータとしては古くから使われてきました。 やがて種々の半導体が発達し,電子回路で電磁石を励磁してロータを回すことで,大きさや保守面で有利な新しいタイプのモータが出現しました。
3.4節の内容
|
Q 3.20 サイン波の交流で界磁を励起 |
[A]
サイン波で回す方式のほうが,ステッピングモータよりも古くからあります。
交流は,図1.50の波形のように,円周上を回る点を横から見たように電圧が上下するので,交流を使えば界磁の変化は滑らかになります。
しかし,1本の交流を使っただけでは,Q3.6のように回転する磁場は作れません。
ただ,1組の界磁が滑らかに反転するだけです。
整流子モータでもロータの電磁石は,最低三つの極が必要でした。
そこで,図3.19のブラシレスモータと同じ構造で,位置センサを外したモータを作り,図 3.28のような互いにズレた3組の交流(三相交流)で励磁すれば,回転界磁ができます。
図 3.28 三相交流 |
この3組の交流を,円周上で1/3回転(120°)ずつずらして変化するようにすると,図3.28に示したように,3組の交流の電圧の合計がつねに0になります。
なお,交流の各組のことを“相”(
このことは,下記のようにめんどうでも三角関数で正確に計算してやると,合計が0になることでわかります。
★ 互いに120°ずれたサイン波の合計
|
Q 3.21 三相交流は3本の電線で送る |
[A]
3組の交流をおのおの2本の電線で送ると,本来は合計6本の電線が必要になります。
しかし,3組の交流電流の和が常に0なら,図 3.29(a)のように,モータや電熱器など同一の三つの負荷を通した後の電気を戻す電線3本を一まとめにしても,そこでお互いに帰還(
図 3.29 三相交流 の帰線 |
||
負荷がすべて等しいとN 点で電流が打消 しあって単相で必要な帰線は不要となる |
負荷を各線間に入れると中性点Nは不要 | |
(a)三相の帰線 | (b) |
もちろんこれが成り立つためには,三相のおのおのの電線に流れる電流が等しくなければなりません。
さらに負荷のバランスがとれていれば,負荷を図 3.29(b)のように各線(相)の間に入れることもできます。
図3.29(b)のような結線を△(
△結線ではY結線の√3倍の電圧が負荷にかかります。
三相交流の電圧は帰還用の電線がないので,通常はR(U)− S(V)間など△結線時の線間電圧を測ります。
なお,三相交流を送って来る各電線はR,S,T(トランスや負荷側ではU,V,W)と名付けられています。
三相交流に対して,2本線で送る普通の交流は単相といいます。
2本線で交流の電気を送ると,瞬時電圧が0になることがあるので電線の使用効率が上がりません。
直流ならつねに電圧は変りませんから,電線の使用効率は最大です。
三相交流は単相とくらべて帰還電流用の電線が不要となるので,電線の使用効率は直流の場合と同程度になります。
これが送電に三相交流が用いられる理由の一つです。
Q 3.22 三相同期モータ |
[A]
図3.3で説明したように,モータを回すにはステータの界磁をぐるぐる回るようにすればよいので,ブラシレスモータやステッピングモータのように電子回路で駆動しなくても,三相交流でモータを回すことができます。
図 3.30 三相同期モータ |
|
(a)永久磁石式 (b)電磁石式 |
ロータに永久磁石を用い,図 3.30(a)のようにステータのコイルに三相交流を流すと,界磁が回転します。
この場合,電磁石の電流は図3.28に示したサイン波になるので,りくつの上では界磁の回転は滑らかになります。
このモータは,ステータの磁場の回転に付いて回ります。
そのりくつから,ステッピングモータと同じく界磁の回転に同期(
なお,ロータの永久磁石は電磁石にすることもできます。
この場合,直巻モータとは異なり,ロータに流れる電流の向きを変える必要がないので,整流子のように一周を分割したものではなく,図 3.30(b)のような
三相同期モータのりくつは,ステッピングモータと同じような構造を基にしてるため,界磁の回転速度が早いと,図3.25(a)と同じような脱調現象を起こします。
そのため,停止状態からの始動はできません。
ステッピングモータなら脱調限界以下で始動し,徐々に速度を上げていくことができます。
一方,外部から電源が供給されている三相交流では,周波数は変えられないため,図3.27(b)のような徐々に回転速度を上げる始動方法は使えません。
図 3.31 三相同期モータ |
|
(a)外部から始動する (b)自始動法 |
電子回路を使えば周波数の変更は可能ですが,高価になるため,通常は図 3.31(a)のように,外部の別のモータの軸を直結して,脱調しない回転速度まで始動の補助をしてやります。 ロータに永久磁石ではなく電磁石を使っている同期モータでは,図 3.31(b)のようにモータのロータの接続を変え,第3.5節で説明する誘導モータとして始動する方法が使えます。
Q 3.23 交流の電磁石 |
[A]
じつは,整流子モータやブラシレスモータでも,コイルに流れる電流はモータが回ると変化するので,電磁石の鉄芯に普通の鉄の塊を使うことできません。
図 3.32 三相同期モータ |
|
(a)交流電磁石 (b)積層硅素鋼板 (c)フェライト |
交流では,コイルに流れる電流が一瞬0になりますので,図 3.32(a)のように何かを吸い付けたときに,交流の2倍の周波数の
さらに交流の電磁石では,普通の鋼鉄など電気を通す磁性体をそのまま使うと,誘導電流が流れて磁性体が発熱してしまう問題がおきます。
図2.14で説明したIH調理器と同じ現象です。
この発熱は,交流の周波数が高いと大きくなるので,電力の配送に使っている50〜60Hzの交流では,図2.16のように真っ赤に加熱されることはありません。
しかし,多くの電力を発熱で無駄にしてしまいます。
したがって,交流で使う電磁石の芯には,電気抵抗が大きいか,電気を通さない素材を使います。
前者には,図 3.32(b)のように,電気抵抗が大きい硅素鋼板を薄くし,積層したものを使います。
薄くすると渦電流が小さくなるので,鋼板が加熱される割合が減ります。
硅素鋼板は原材料が鉄なので,安価なものあるいは大型のモータや変圧器(トランス:
一方後者には,酸化鉄の粉末を主体にした図 3.32(c)の焼き物(
1930年に絶縁性の強磁性体であるフェライトを発明したのは,東京工業大学の加藤与五郎教授と武井武助教授です。
当時,東工大は蔵前高等工業専門学校から官立大学に昇格したばかりでした。
現在の最先端電子機器や動力機器に欠かせない基礎材料であるフェライトを発明したにもかかわらず,残念なことに
★ 国際産業スパイ事件
磁性体用の硅素鋼板を超高性能化(双方性電磁鋼板という)する製造手法( |
Q 3.24 磁場と電流と力の関係 |
[A]
これは本来中学や高校の理科で教わる範囲ですが,ちょっとりくつが理解しにくいので,覚えている人はあまり多くはないでしょう。
まず,電流と磁場と力の関係を整理します。
図 3.33 右ねじの法則 と力の発生 |
|
(a)右ねじの法則 (b)磁場の中の電線に電流を流す |
図1.41や図3.4ですでに触れていますが,図 3.33(a)に示すように,電線に電流を流すと,右ねじの法則(
電線を図 3.33(b)のように磁場の中に置くと,左から右に磁力線が向いている電線の向こう側では,磁力線は打ち消しあって間隔は粗になり,手前側は相乗効果で密になります。
すると,磁力線は間隔が均等になろうとする力が働いて,電線を向こう側に動かそうする力が発生します。
磁力線の間隔が均等なほうが,磁場全体のエネルギーが少なくなるからです。
たとえは少し違いますが,水面の一部だけ持ち上げその隣が凹んだ状態にするには,石でも投げ込んで外部からエネルギーを与える必要があることを想像すると理解できます。
この電線を動かす力が出る源は,当然ながら電線に流れた電流です。
すなわち電気のエネルギーが電線を動かす力に変化したのです。
磁場と電流の向き,力の向きの関係を
Flemingの法則には右手の法則と左手の法則とがあり,覚えにくいので,試験の前に熱心に確かめたり,机の上にそうっと落書きしたりした人もいると思います。
図 3.34 Flemingの法則 |
|
(a)左手の法則(モータ) (b)右手の法則(発電機) |
これは,
Q 3.25 モータは発電機になる |
[A]
前にも説明したように,回転子に永久磁石を使ったモータは,回転軸に外部から動力を加えて回すことで,簡単に電気を発生させる発電機になります。
磁場の中に置いた電線に力を加えると,磁力線が図3.35のように押されて上側が密に下側が疎になります。
図 3.35 発電の原理 |
⊗は矢印をお尻の 側から見た状態を 表します。 (電流が画面の裏 側に向かっている) |
Q3.24で説明したように,磁力線の間隔は一定のほうがエネルギーが低い状態なので,この磁力線の変化を吸収するように,Flemingの右手の法則にしたがって電線に電流が流れます。
すなわち,紙面の表面から裏面に向かって電流が流れると,右ねじの法則によって右回りの磁場が発生し,この磁場と図 3.35の左端の静止状態の磁場を重ね合せた磁場が,中央の磁場分布となります。
この場合は図3.33(b)とは逆で,電気を発生させるエネルギー源は電線を押した力です。これが回転型の発電機の原理です。
もちろん電線が移動しているときだけ,電流は発生します。
実際には,電線を移動させるよりも磁場を移動させるほうが構造が簡単にできるので,三相同期式発電機では,磁石の方を回転させコイルは固定しておきます。
直流発電機では,整流子を使うのでコイルを回転させます。
発電機は,普通の永久磁石型モータと同じ構造をしてます。
すなわち,永久磁石型のモータを外からの力で回せば,電気を起こせるわけです。
大型の商用発電機は,永久磁石ではなく外部から励磁する電磁石を使っていますが,その構成は図3.30のモータと同じです。
揚水発電所はこの発電機とモータが可逆利用できるりくつを使っています。
夜間は下の貯水池から上の貯水池に水をモータとして上げて,昼間は落した水で発電機として回します。