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第4章 静電気はパチッとくる


 “本日土用うしの日”という宣伝文句を考えたと伝えられているのは,水戸の光圀みつくに公の子孫が封じられた讃岐さぬき高松の松平家の足軽だった平賀源内です。
 源内は長崎に遊学後,禄を離れて江戸に出ました。 長崎で破損したエレキテルを入手し,江戸で模造に成功しました。 源内が作った現物は,国の重要文化財として東京千代田区にあった逓信総合博物館に2013年8月の閉館まで保存されていました。


源内のエレキテルの複製品(国立科学博物館で展示)
Wikimediaより
2012/12/9,Momotarou2012


第4章の内容

第3章 電気で動かす 第5章 電池は移動できる電源

4.1 パチッと来る電気は静電気   4.2 怖い雷もじつは静電気
4.3 静電気は悪役も善玉もこなす 4.4 静電気のような高電圧を調べる


4.1 パチッと来る電気は静電気

 雷は怖いです。 最悪,瞬時に命を奪われてしまいます。 雷雨・吹雪・砂嵐・火山爆発などで細かな粒子が高速でぶつかると雷が発生します。 雷雲など大きな自然現象だけではなく,雷と同じような現象の小さなものは,身の回りでも起きています。 パチパチする電気も,一過性のパチッというものと,第1.6節で触れたビリビリ電気と同じく,連続してパチパチとなるものとがあります。


4.1節の内容

3.5節 ロータに永久磁石や外部電源の
 電磁石を使わないモータ
4.2節 怖い雷もじつは静電気

Q4.1 静電気が起きる   Q4.2 摩擦で起きる電気
Q4.3 静電気を起せるもの Q4.4 静電気が起きるりくつ
Q4.5 静電気の量



Q 4.1 静電気が起きる
 冬など乾燥しているときに,指先などからパチッと放電することがありますが,何が電気を帯びているのですか。

[A]
 身体にパチッっと感じる電気は静電気(英語ではStatic electricityスタティック エレクトリシティ)と呼んでいます。

図 4.1
火花がパチッ

 乾燥しているときに,床に絨毯じゅうたんなどの電気が通りにくいものが敷いてあるところを歩いて,図 4.1のように金属の把手とってを触ったり,着ていたセータSweaterなどの毛織物や化繊・絹などの衣類を脱いだりすると,起きた静電気が身体に溜って(帯電という)パチッと放電します。
 もちろん学校の理科の時間に実験したように,電気を通さないものをこすり合わせると,もっと効率的に静電気が発生します。 摩擦による帯電です。 人類が最初に体験した電気は,このパチッとくる静電気と怖い雷です。
 人の身体は,水分が多く電気よくを通しますので,起きた静電気は,瞬時に身体中にまんべんなく行き渡ります。 しかし,身体自体が絨毯やスリッパSlippersなどで,地面と電気的に分離されていると,電気の逃げ場がなくなり,静電気は人体に溜ってしまい,そのまま金属を触れるとパチッと放電するのです。

Q 4.2 摩擦で起きる電気
 学校の理科の時間に,琥珀こはくこすって静電気を起す実験をしましたが,昔の人もそうして電気を起したのですか。

[A]
 琥珀を図 4.2のように摩擦すると,静電気を帯びやすい性質があるので,欧州では琥珀を表わす古代Ελλαζギリシャ語のηλκτρονエーレクトロン(Électron)が語源となり,Electricエレクトリックという言葉が電気のことを指すようになりました。
 なお英語では,“電気〜”の接頭語にはElectro-エレクトロを使います。

Wikimediaより
2008/1/18,Hannes Grobe氏
図 4.2 帯電し易い琥珀

★ 琥珀はどこから来たのか

 琥珀という漢字は,葡萄ぶどう琵琶びわ鞦韆ぶらんこ傀儡かいらい(くぐつ,操り人形)などと同じく,二文字で一つの物を指しています。 しかもそれぞれの漢字一字は単独では使えません。
 このような漢字は,うんと古い時代の中国にはなかった物に対して,その物が伝来したときにその元の音に合せて二文字の漢字を作ったのではないか,という学説があります。
 琥珀は,松はく(柏は柏餅に使う“かしわ”とは別物の針葉樹)類の樹脂が化石になったものといわれています。
 じつは琥珀は,日本や中国などAsiaアジアでも産出しますが,北欧のBultバルト海の底には大量の琥珀を含む地層があり,海岸に打ち上げられた琥珀は,古代から世界中に運ばれました。
 静電気を帯び易いだけでなく,上質なお酒の色を琥珀色というくらい気品に満ちた色をしているので,古来飾り物に使われてきました。


Q 4.3 静電気を起せるもの
 どんなものを擦り合わせると静電気が起きますか。 また,擦り合わせた双方には違う種類の電気が溜まるのですか。

[A]
 摩擦によって起きる静電気の性質は,摩擦するものによって異なります。 ガラスGlassと絹布を擦り合わせるとガラスに正,絹布に負の電気が溜り(帯電し:Chargeチャージ/Electrifyエレクトリファイ)ます。
 一方毛皮と琥珀やエボナイトEboniteゴムGumを硬くしたもの)などを擦り合わせると,琥珀などの樹脂に負,毛皮に正の電気が溜ります。

表 4.1
静電気の帯電しやすさ

 表 4.1は金属を除くと経験的に分かっている帯電しやすさです。 金属は,接触電位差(Q4.4)が容易に測定できますので,その対応する位置に置いてあります。 試料や測定条件・測定者によっては,前後することもあります。 表4.1でお互いに遠くに位置するもの同士を摩擦するほうが,より効果的に電気が溜まると考えてもよいでしょう。

★ 電気二流体説

 18世紀前半までは,二種類の“電気流体”という物質がある,と考える説が有力でした。 実際は,一種類の電気が一方からもう一方に移動したために,その抜けた後を含めて二種類あるように見えていたのです。


Q 4.4 静電気が起きるりくつ
 静電気はどうして起きるのですか

[A]
 静電気が起きるりくつの細かなことは,完全には分かっていませんが,だいたいの筋書きは次のようだと考えられています。
 通常二つのものが接触していると,その表面同士は電気の力で軽くひっつきます。 このりくつは,接触電位差(CPD:Contact Potential Differenceコンタクト ポテンシャル ディファレンス)といわれていて,片方のものからもう一方のものへ電子(e-)が移って電気のバランスBalanceを保つ物理現象にります。
 すなわち二つのものが互いに正負の電気を帯びて,その間の引力で二つのものが軽くくっついていると考えられます。

図 4.3
静電気が
起きるりくつ

 図 4.3のように,それを引きがすときに,その物質が両方とも金属なら,電子はすぐにほとんどが元の物質に戻りますが,電気を通さないものだと,引っ張る力に負けて電子がそのまま一方に残ってしまうことがあります。 もちろんもう一方のものの方では,電子が足りなくなるので正の電気を帯びたままです。
 静電気のエネルギーEnergyは,この正負の引力に逆らって引き剥がした外部からの力を源として,得られたものです。 この引き剥がしを効率的に行って静電気を溜めるには,二つのものをこすり合わせる,すなわち摩擦することです。

Q 4.5 静電気の量
 家庭で静電気が帯電するとき,どのくらい溜まるのですか。

[A]
 人が感じる静電気は,2〜3千V 以上(3千Vは普通の乾電池を2,000個も縦に並べた電圧)だといわれていますが,家庭内での放電で解放される静電気の量は,ほんの僅かです。 家で感じるパチパチ一回の電気量は,雷の1億分の1程度だと言われています。
 実際に通常の静電気による放電は,その元になった電気の量が少なくエネルギーが小さいので,それで明かりを灯したり,モータMotorを回したりはできません。
 したがって,空気や帯電しているものにちょっとでも湿り気があると,水は電気を通しやすいので,わずかな電気も溜まらずにすぐに逃げてしまいます。

★ 電気の量

 ここで静電気の量と一言でいっているのは,実質的には電子(Electronエレクトロン)の数のことです。 電気の量のことを,電荷あるいは電荷量(Electric chargeエレクトリック チャージ)といいます。
 電荷はクーロンCoulomb(記号はC)という単位で測ります。 1Cは1Aの電流が1秒間流れたときの電荷の量です。 一回のパチッは1μC(μは百万分の1)程度の数の電子が放電する水準です。 それでも1μC の電荷には6,241,509,629,152(約6兆)個の電子が含まれています。




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