3.5 ロータに永久磁石や外部電源の電磁石を使わないモータ
通常の交流で動くモータは,ロータに永久磁石や外部電源の電磁石を使っていません。
巧みな方法で,ロータを電磁石にしています。
じつはこの方式の誘導モータ(
3.5節の内容
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Q 3.26 換気扇のモータ |
[A]
換気扇や安価な扇風機などのただ回ればよいだけのモータには,材料費が高くつく永久磁石を使っていません。
永久磁石を使っていない直巻型モータも,交流でも回せますが,ブラシが必要なことと回転速度が負荷の大きさで決まってしまうので,ほぼ一定の回転速度で長時間使用する換気扇などには向きません。
図 3.36 扇風機の モータ |
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(a)外観 | (b)ロータ(上)とステータ(下) |
図 3.36は,安価な扇風機のモータを分解したものです。
鉄釘を使って試すと,永久磁石は使われていないことが分かります。
図3.36(b)のステータから電線で付いている黒い四角いものは,始動キャパシタと呼ばれているもので,単相の交流で始動するときに,回転する界磁をつくり出すために用意されています。
ロータは,積層鋼板の芯にアルミ製のカバーを付けたものです。
Q 3.27 誘導モータの原理 |
[A]
ロータの構造に秘密があります。
図 3.37 誘導電流と回転 |
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(a)コイルを回す (b)磁場の方を回す (c)磁場に付いて回る |
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スリップの割合は,界磁の回転速度の3〜10%位で,負荷が重いほど大きくなります。 もちろん誘導モータの始動時は,ロータが停止していますのでスリップ率は100%となります。 このスリップ率の分のエネルギーが,動力としてロータから外部に取り出せているのです。
Q 3.28 籠型ロータ |
[A]
ロータは,図3.37のような一本の電線だけでは効率が悪いため,図 3.38のように,多数の電線をロータの回りに配置してあります。
両端はすべてつないでループ電流が自由に流れるようにしてあります。
大きなモータではちょうど丸い鳥
図 3.38 籠型ロータ |
ロータの電線を全部まとめて,一枚の銅やアルミの板にしてしまうと,誘導電流が一定方向に流れなくなるので,電磁石としての効率は非常に悪くなります。
一枚板にするときは,図3.36(b)の上側のロータの写真のように斜めに切って,隣には電流が行かないようにします。
なお,斜めに切られているのは,ロータの位置によって力にむらが出ないようにするためです。
誘導モータは構造が簡単でトルクもありますので,小型の動力源として単純な扇風機(換気扇)や安価な洗濯機,工場の機器の回転などに使われています。
誘導モータも数百W以下の小型のもの以外は三相交流で回します。
誘導モータのロータに誘導されてできる電磁石は,永久磁石や外部から励磁電流を流した電磁石とは異なり,回転する界磁からコイルが遠くなるとすぐに弱くなってしまいます。 このため,ステータとロータの間の隙間は,なるべく小さくしないと大きなトルクが得られません。
Q 3.29 単相誘導モータ |
[A]
単相の交流で界磁を作ると,静止状態ではロータに有効な誘導電流を流すことが出来ません。
なぜなら,磁場は交流の波形に応じて,図 3.39(a)のように往復反転するだけで,ロータの巻線を切るようには動かないからです。
これではモータを始動できません。
図 3.39 単相から二相へ |
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(a)単相交流 (b)キャパシタで90°ずらす |
もし手で押したりして運良く回り出しても,右回りになるか左回りになるかは,最初に回した向きで決まってしまいます。
しかし一度回り出すと,回転磁場との関係が成り立ち,モータとして使えます。
これは,Q3.6で出てきたロータが2極の整流子モータと似た現象と言えます。
単相誘導モータを始動するには,回転する界磁を作らなくてはなりません。
ひとつは,キャパシタ(コンデンサ)を使って交流電流の波形を時間的に早くする機能(進相という)を付け,そのずれた電流を元の単相交流から90°ずれた位置に付けた別のコイルに流して,回転磁界を図 3.39(b)のように作成します。
図 3.40 隅取りコイル |
← | 鉄心に巻きつけられた 実際の隅取りコイル Wikimedia より 2004/10/21,Megger氏 |
もう一つの方法は,
隅取りコイルは,トランスの二次側をショートしているので,ここで発熱が起きて効率があまりよくありません。
10W程度までの比較的小さな誘導モータに使われています。
三相の誘導モータは三本の電源線の任意の2本を入れ替えると,回転磁場が逆回転しますので,逆転できます。
キャパシタで90°進んだ電流を加えているタイプの単相誘導モータでは,主コイルか90°進んだ電流を加えているコイルの,どちらかの接続を逆にすると,磁場の向きが反転しますので,逆転します。
なお,隅取りコイルを使ったモータは,コイルの位置が固定されているので逆転できません。
Q 3.30 VVVFで誘導モータを回す |
[A]
誘導モータは,停止状態ではロータが回っていませんから,ロータが回転することによる逆起電力が発生しないので,ステータのコイルには大きな突入電流(
図 3.41 スターデルタ始動 |
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(a)スターデルタ始動 | (b)Y −Δ切換えの結線方法 |
大きなモータで始動時の大電流を回避するには,ステータコイルの電圧を下げたり電流を制限します。
電車などの直巻モータでは,以前は抵抗器を直列に入れて制御していました。
三相交流の場合は始動時にY結線で回して,回りはじめたらΔ結線にするという図 3.41のようなスターデルタ始動がよく使われます。
Y結線ではステータの各コイルにかかる電圧は線間電圧200Vの1/√3の115Vですから,突入電流もその分小さくできます。
しかし,電車や
誘導モータの始動をもっと滑らかにするには,電圧と回転用の交流の周波数の両方をだんだんと上げて行くしかありません。
これをVVVF(Variable Voltage Variable Frequency:可変電圧可変周波数制御)と呼んでいます。
VVVFは電車やエレベータなどの制御に使っています。
エスカレータは,負荷(お客の数)によって動く速度が変化しては困るので,負荷で回転数が変わる直巻モータや普通の誘導モータは使えません。
かつては回転数が変わらない同期モータを使っていましたが,今はVVVFで回転速度を一定に保つようにしています。
Q 3.31 可変周波数 |
[A]
VVVFは,直流から誘導モータ用の交流を作り出す方法の一つです。
ブラシレスモータと同じく,電力用の半導体でできた電子スイッチとそれを制御する電子回路が必要です。
まず三相交流を作って,周波数を可変にする方法を検討します。
(a)三相を生成するスイッチの接続 | (b)電圧と電流の波形 |
図 3.42 誘導モータ用の三相交流の生成 |
図 3.42 (a)のように接続した半導体の電子スイッチを交互に入れたり切ったりすることで,直流電源から図 3.42 (b)のような三相交流をつくり出すことができます。
このように電子スイッチを高速で入れたり切ったりする電子回路を,
周波数を可変にすることは,この電子スイッチを入り切りする周期を変えることで,比較的容易に実現できます。
このようにして得られた電圧波形は,サイン波ではなく四角い方形波ですが,モータの巻線はコイルなので,電流は急には変化できず,ま四角に急変することはありません。
りくつの上では,各相の供給電流は,図3.42(b)のように,ある程度滑らかに変化します。
問題は,たとえばR+やR-の電子スイッチが切れたときですが,U−V間あるいはW−U間のコイルに流れていた電流は,それぞれW−U間あるいはU−V間へ流れるので,コイル電流は急変しません。
電車の場合は,すでに直流が給電されている場合が多いですが,エレベータや交流電化区間では,供給された交流電源を一旦直流に直して,さらに三相交流にするという手間をかけます。
図 3.43 電子スイッチ IGBT |
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東芝 1200V,300A |
この電子スイッチには,図 3.43のような電力用の
また,GTO(Gate Turn Off)
表 3.3 電子スイッチ用半導体 |
GCT : GateComm utated Turn-off サイリスタ,VA は単位で電圧と電流の積を表す |
Q 3.32 可変電圧 |
[A]
そうです,それでは実用になりませんし,三相交流の電圧波形も図3.42(b)のようにサイン波ではありません。
電圧波形が角張っていると,他の電子機器への雑音の原因ともなります。
図 3.44 PWM |
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(a)高速で入り切り | (b)サイン波を近似 |
直流を図 3.44(a)のように,高速で入り切りを繰り返しますと,出力側の電圧は,りくつとしては電子スイッチが入っている時間の割合で決まります。
すなわちスイッチが半分の時間入って(
もし,スイッチを入り切りする頻度を高速の一定値にして,スイッチが入っているオン時間を0〜100%の間を変化させてやれば,出力電圧を0Vから電源の直流電圧の値まで,オンの時間の比率に比例して変化させることができます。
このように,高速の一定周期で動くスイッチのオン時間の幅を変化させて,出力電圧を変化させる方法をPWM(
すなわちPWMは,電源の直流電圧を任意の低い電圧に変換する方式です。
商用交流と同じようなサイン波を得るには,電力用の交流の周波数よりも高速で,図 3.44(b)のようにだんだんとオン時間の幅を変えてやれば,平均電圧をサイン波にできます。
(a)キャパシタを使う | (b)コイルを使う | (c)交流を直流にした脈流 |
図 3.45 PWM出力の平滑化 |
しかし,いくら平均電圧が可変だと言っても,このままでは使えません。
なぜなら現実に得られる電圧は,0Vと電源電圧の間を往復しているだけだからです。これを
さらにコイル(
モータを回す場合は,モータのコイルがこの作用をしますから,別途コイルを入れる必要はあまりありません。
しかし,低い直流電圧を電子回路で使おうとすると,モータのコイルのようなものがないので,やはりバタバタしたままになり,電子回路を動かすことが出来なくなります。
この場合は,キャパシタとコイルの併用が有効です。
なお,PWMの出力だけでなく,通常の交流を整流した図 3.45 (c)のような脈流(
パソコンの内部など直流の一定電圧を必要とする場合,PWMの方式の電源は,スイッチング電源やスイッチングインバータなどと呼ばれています。