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4.2 怖い雷もじつは静電気


 雷は強力な電気です。これが自在に使えればと思いますが,ちょっとぎょしきれません。


4.2節の内容

4.1節 パチッと来る電気は静電気 4.3節 静電気は悪役も善玉もこなす

Q4.6 雷の発生   Q4.7 Franklinの雷の実験
Q4.8 Lenard効果 Q4.9 雷雲はどうやって帯電するか
Q4.10 空中放電と避雷針 Q4.11 火山雷



Q 4.6 雷の発生
 雷雲にはどうやって電気が溜まるのですか,それはどのくらいの量が溜まるのですか。 うまく溜めれば住宅の電気をまかなえますか。

[A]
 パチパチというおとなしい音ではなく,バリバリ・ドカンという音を出す雷も,溜った静電気が放電ではじけたものです。 どうやって電気が溜まるかというりくつは,なかなか解明できませんでした。200年以上かかって,以下の三段階の主な実験や研究を経て,やっと解明に至りました。
  (a) 有名なFranklinフランクリンの雷の実験(1752年)
  (b) 滝で起きる放電現象の解明(1915年)
  (c) コンピュータComputerも使った“着氷電荷分離機構”理論の完成(1978年)
 通常見られる半径2km程度の規模の雷雲が持つ電荷の量は,20〜30C程度と推定されています。 電圧は1〜10億V程度あります。
 一方,1回の落雷では,この電荷を複数回の雷撃で中和します。1回の雷撃では,数Cの電荷が1万分の1秒程度で流れると観測されていますので,最大で数万A以上の電流が流れ,火災の原因ともなります。
 しかし時間が短いので,電力量としては数100kWhにしかなりませんから,普通の家庭1軒の1ヶ月分くらいです。

★ 「電」の字

 日本や中国で使われている「電」という字は,雷から稲妻いなづまが出ている形だという通説がありますが,故藤堂明保博士(元日中学院長)の学位論文『漢字語源の研究』(学燈社刊)によれば,「雨」に「申」(伸びるという意味)が付いたことで,稲妻を表しているのだそうです。


Q 4.7 Franklinの雷の実験
 Franklinは雷雲に向かってたこを上げた人ですね。

[A]

図 4.4
Franklinはお札に
なった人
  2013年秋から流通している新$100札の見本

 図 4.4にある米国の100ドル札の顔になっているBenjaminベンジャミン Franklinは,政治家で米国独立宣言起草者の一人ですが,科学者でもありました。
 かれは1752年に,図 4.5に示すような有名な凧揚げの実験を行い,雷の正体が電気であることを確定しました。 さらに避雷針も考え出しました。

図 4.5
雷雲に向かって凧揚げ 
 Leiden瓶は,新潟大学の“旧制新潟高等学校の物理関係の資料”HPより

 凧揚げの実験では,凧糸にぶら下げた鍵を触るとパチパチ火花が飛んだそうですから,かなり危険な実験をしたと言えます。 事実おなじような実験をして死んだ科学者もいます。

★ 電気二流体説の決着

 Franklin は当時信じられていた,“エボナイトEbonite電気”と“ガラスGlass電気”の二種の電気が存在するという電気二流体説に対し,電気は一流体からなるという自説を実験で立証し,この流体が過剰なのが正(陽)電気,不足しているのが負(陰)電気としました。
 +と−の割り振りはこの時のままなので,今でも電子はマイナスMinus(負)の電荷を持つと定義されています。


Q 4.8 Lenard効果
 水しかない滝でも放電が起きるという話ですが,本当ですか。

[A]
 水滴がぶつかってまた離れて飛び散るときに,Lenardレナード(発見者名:独)効果(分裂帯電ともいう)が起きて,正負に帯電した水滴ができることがあります。

図 4.6
Lenard 効果 

 このりくつは,分離する前の水滴が図 4.6のように表面が負に,中心部が正に帯電していることから説明されています。
 大きな水滴の表面から飛び散った小さな水滴が負に帯電したままということです。 容器が金属製でない霧吹きを使うと,霧吹きの先端が帯電することがあります。
 LenardはAlpsアルプスの滝で放電が起っていることからこのことを研究し,1915年に結論をまとめて報告しました。 観光地によっては,滝壷付近では負イオンIonの水滴が立ちこ籠めていて身体によい,と宣伝しているところもあります。
 しかし,この程度の電気量では大きな雷を発生するには不足です。

Q 4.9 雷雲はどうやって帯電するか
 雷雲の帯電現象もLenard効果ですか。

[A]
 上空で雷雲を構成している粒子は氷で,氷は水の1,000〜1万分の1程度しか電気を通しませんので,帯電のりくつは水滴の分裂とは異なりますが,同じようなことが起ります。
 雲の中の氷の粒子が,滝の場合と同じく毎秒30mに達するとみられている激しい上昇気流によって,ぶつかっては分離して帯電します。
 この分離帯電のりくつについては,過去100年近くの間,十指に余る諸説や地上実験の結果が発表されましたが,なかなかすっきりと雷雲の帯電を説明できませんでした。
 最終的に日本の高橋つとむ博士が提唱した,地上実験と計算機実験の結果を総合した“着氷電荷分離機構”の研究が完成したことで,ほぼ解明されました。
 なお雷雲は,図4.5のように多くの場所では雷雲の下部が負に,上部が正に帯電する傾向があります。

★ 地球の帯電

 晴天でも地球表面は負に,上空は正に帯電しています。 これは地球上のどこかの雷がもたらした結果です。
 すなわち,成層圏にまで伸びた雷雲上部にある正の電気は,主に太陽の放射線によって成層圏の大気が電気を通しやすい状態になっているために,地球のすべての地域に拡がります。

図 4.7
地球の帯電 

 この帯電の状態は気球で測定でき,地表から上空50kmの間で30万Vと見積もられています。 電圧の上昇割合は地表付近がもっとも大きく,1mで100V程度です。
 電線の付いた気球を100mも上げると1万V近くの静電気が得られ,尖った先端からはジージーと放電します。 これはすでに戦前に,有名な物理学者寺田寅彦博士や電気工学者抜山平一博士たちが実験してデータDataを得ています。
 このように積極的に放電しなくても常に空気の対流がこの静電気を運んでいます。 もし,地球上のどこにも雷雲がなくなって新たな静電気の供給がなくなると,わずか10分以下でこの静電気は消えてしまうそうです。


Q 4.10 空中放電と避雷針
 空気中で火花が出て放電するには,どのくらいの電圧がかかっているのですか。 また,避雷針はなぜ有効なのですか。

[A]

図 4.8
大気の絶縁耐圧 
乾いた空気は,1mm離れている平面の間では,
約3,000Vの耐電圧があるといわれている。

 火花は通常の乾燥した大気中では,図 4.8のように1mm程度の間隔でも,3,000Vの電圧(電位差ともいう)がないと飛ばないといわれています。 放電する場所が尖っていると,図4.8に示す数分の1のもっと低い電圧でも放電してしまいます。

図 4.9
St. Elmoの火 
‘ST. ELMO’S FIRE’ ON MAST OF SHIP AT SEA
Wikimediaより,The Aerial World(1886)

 Franklinは,この針の先端が放電し易いことを利用して,避雷針を発明しました。 雷雲がある場合は,その下では当然ながら高い電圧がかかり,図 4.9のようないわゆるSt. Elmoセントエルモの火という,教会の尖塔や船のマストMastの先端が,放電で発光する現象が見られることがあります。
 避雷針は,このSt. Elmoの火を強制的に起こさせて,避雷針の付近に雷の直撃がこないようにしたものです。 避雷針の頭から地上に向けて45°の円錐形の内部では,電圧のかかりかたが急に大きくはならない現象を利用しています。

Q 4.11 火山雷
 火山の噴火で雷雲がないのに稲妻をみたのですが,なぜですか。

[A]
 九州の桜島のような大規模な火山噴火があると,火山雲の中で雷が発生します。 2011年6月にChileチリPuyehueプジェウェ火山では図 4.10のような大規模な稲妻が観測されました。

図 4.10
火山雷 
 GATAG Free Photo 2.0 HPより,JORNAL BRASILEIROS JBG氏

 これは火山雲が帯電したからで,火山雷といいます。 帯電は,氷や水滴の代わりに火山灰のような粉体でも,お互いに激しくぶつかりあうことで起きます。
 このほか原水爆実験,激しい砂嵐や竜巻・地吹雪でも帯電が起って,雷になります。



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