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4.3 静電気は悪役も善玉もこなす


 静電気は,雷など悪さばかりしているのではありません。 人類は,このやっかいな相手も,ちゃんと使いこなす術を会得しました。


4.3節の内容

4.2節 怖い雷もじつは静電気 4.4節 静電気のような高電圧を調べる

Q4.12 静電気が漏れるりくつ   Q4.13 悪さをする静電気
Q4.14 静電気を防ぐには Q4.15 静電気を役立てる



Q 4.12 静電気が漏れるりくつ
 放電以外で静電気が漏れるのはなぜですか。

[A]
 静電気は,火花放電や金属でつながなくても,湿り気があると電気は漏れ出します。 純粋な水は,それ自体ではほとんど電気を通しませんが,図 4.11のようにいろいろなものが溶け込むと電気をよく通すようになります。

図 4.11
水は電気を逃がす 

 静電気は,空気に湿り気(相対湿度65%程度以上)が多いと,金属でなくてもものの表面や内部を伝って,ほとんど溜まることなく漏れてしまいます。 静電気は,ものを接触させて動かさないと発生しませんから,一度漏れてしまえばそれでなくなってしまいます。
 そう考えると,静電気はたいしたことはないように思われますが,いろいろな悪さを経験した人も多いと思います。 しかし,静電気を積極的に利用することもできます。

*   *   *
★ 純水は電気をほとんど通さない

 現実の世界では,水に溶けこんだ物質がなにもないという純水を入手するのはほとんど不可能です。 たとえば水は空気に触れただけで,空気中の二酸化炭素が溶けこんで純水ではなくなります。 一方氷は,不純物があってもあまり電気を通しません。
 しかしりくつの上では純水は存在していて,その電気抵抗率は,25℃で18.24MΩcm(導電率ではその逆数の0.0548μS/cm)と計算で求まっています。 これは大理石並の抵抗率ですから,ほとんど絶縁物と考えてよいでしょう。 純水のわずかな電導状態は,温度によって水の分子がOH- とH+ に分かれてイオンIon化することで起きます。 だいたい,1億個の水の分子の内一つが解離し,イオンになっている計算になります。
 ICを作る際には,材料のシリコンSiliconの表面を洗浄しますが,この理論値に近い16MΩcm程度まで不純物を除いた超純水を使います。

Q 4.13 悪さをする静電気
 雷は別として,家庭内などで発生する微弱な静電気は,問題にならないのですか。

[A]
 静電気が原因の悪さは,衣類やほこりが身体にまつわり付いたりするだけでなく,図 4.12のように,精密な電子機器には甚大な被害をもたらします。
 ICの内部は数Vの電圧で動いていて,10Vを越える電圧がかかって大電流が瞬時でもIC内部に流れると,壊れてしまうことがあります。

図 4.12
静電気に弱いIC 

 金属の箱に収まっていて封がしてある電子機器の蓋を開けてしまうと,保証期間中でも無償修理をしてくれないのは,開けて中を触ってパチパチと火花を飛ばしてしまった可能性が,零ではないからという理由もあります。
 実際に,液晶表示器の表面が傷つかないように貼ってあるフィルムFilmを剥がしたら,火花が飛んで内部のICが壊れたということもあります。

Q 4.13 静電気を防ぐには
 静電気を防ぐにはどうすれたよいでしょう。

[A]
 静電対策の基本は,静電気が発生してもすぐに逃げるようにすることです。 すなわち,電気が通り易いように導電性の物質を使ったり,湿度をあげておきます。
 静電気はものがくっついたり離れたりすると発生します。 そこで思わないところでも静電気が起り,それが溜り易い状態ですと火花も出ます。

表 4.2 悪さをする静電気

 表 4.2にいくつかの例と対策をまとめておきました。静電気対策を怠ると,簡単に爆発事故につながります。 帯電し易い粉や粒状のものをしまう際も,金属の容器を使ったほうがよいかもしれません。

Q 4.14 静電気を役立てる
 静電気を実用的に利用することはできないのですか。

[A]
 18世紀最後の年に電池が発明されるまでは,電気といえば事実上静電気のことを指していました。 静電気は,物体に帯電するだけの現象であるため,通常の電力のようにエネルギー として連続的に利用するには向きません。 それでも図 4.13のような連続的に静電気を発生させる装置が考えつかれました。

図 4.13
静電発生器と
Leiden瓶
 教室などでの実験用,静電気の
 発生は右下のモータを回す
 Leiden瓶は両側の下にある
 Wikimediaより,2012/8/16,Daderot氏
 (a)Van de Graaff  (b)Wimshurst

 図4.13(a)はVan de Graaffバンデグラフ(発明者名:米)と呼ばれ,10万Vほどの静電気を摩擦などで連続して発生し,蓄めることができます。
 図4.13(b)はWimshurstウィムズハースト(発明者名:英)式静電発電器で,こちらは正負の静電気を連続して発生させて,正負二つのLeidenライデン(大学名:蘭)びんJarジャー)に蓄めることができます。
 なお,Leiden瓶は第5.7節で説明するキャパシタCapacitorの一種です。
 Wimshurst式が発電できるりくつは摩擦ではなく,図4.13(b)の写真に写っている二枚の円盤を互いに逆に回すことで,静電気を誘導発生させて実現しています。
 これらの装置の“りくつ”は長くなるので説明しませんが,連続して発生した静電気は,金属ブラシBrushなどを使って効率よく集めています。
 図4.13(a)の連続して高圧が出せる装置は,原子物理学研究用の初期の粒子加速器やX線発生器に利用されました。 静電気の実用化と言ってもよいでしょう。
 現在,静電気を実用に利用しているのは,静電塗装・植毛やコピーCopy・印刷機,集塵機,着火装置などです。
 ただ現在はその静電気は,電池や普通の電源から発生させていますので,図4.13の装置は科学実験の装置として,静電気の教育用にだけ生き残っています。
 圧電素子と呼ばれる物質に,圧力をかけて変形させると静電気が発生します。これを利用したガスGas器具やライタLighterの着火装置が,電池要らずの着火装置として使われています。

*   *   *
★ 静電集塵機

 1960年代に日本で発生した公害病“四日市ぜんそく”では,工場の煙突から大量の微粒子が撒き散らされ,四日市コンビナートкомбинат(露語:日本では化学工場が有機的に連携した工業団地を指す)の周辺で,大量のぜんそく患者が発生しました。 その対策の一つとして,大がかりな静電集塵機が開発され,今の日本ではほとんどの煙突に装着されて,微粒子の拡散を防いでいます。
 一方日本には,昔から毎年冬から春にかけて,大陸から黄砂が飛来して来ました。 最近はこれに加えて,微小粒子状物質(PM2.5)とよばれる肺がんの原因となる大気汚染物質も,工業化や自動車交通の発展が著しい中国大陸東半分で大量発生し,朝鮮半島や西日本に流れ込んできています。 そのため,図 4.14のような飛来予報も計算され,気象協会などから発表されています。
 大気汚染を発生源で押さえられない場合は,各家庭や事業所,学校,交通機関などで独自に電気集塵機を用意する必要があるでしょう。 なお,喫煙による飲食店などの内部のPM2.5の汚染水準は,優に中国大陸の最悪の汚染状態に匹敵します。 電気集塵機は室内の喫煙場所には必須の機器でしょう。

図 4.14
PM2.5の
分布予想図
  日本時間2016/1/27 6:00のPM2.5濃度を50kmのメッシュで予測
  一番濃い所は,100μg/m3 以上の場所 (日本の基準は35μg/m3 以下)
  SPRINTARSエアロゾル予測HPより,九大応用力学研(責任者:竹村氏)



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