5.5 電池で電気をためる
 電気をためるには,通常は他のエネルギーの形にします。
蓄電池は化学的なエネルギーとして電気をためます。
電気エネルギーのまま直接ためられるものには,蓄電器(
5.5節の内容
  | 
    ||||||||||||||||||||||||
| 
       Q 5.15 蓄電池  | 
    
[A]
 蓄電池とは充電すれば複数回放電できる電池です。
そのため二次電池とも呼ばれています。
| 種類 | 電圧(V) | 構造(負極+正極,電解液) | 主な用途 | 
| 鉛 | 2.0 | 鉛+酸化鉛,希硫酸 | 自動車,無停電電源,太陽光発電 | 
| ニカド | 1.2 | カドミウム+ニッケル,アルカリ | 携帯機器,生産中止へ | 
| ニッケル水素 | 1.2 | 水素+ニッケル,アルカリ | 携帯機器,無停電電源,HV車 | 
| リチウムイオン | 3.7 | 炭素+リチウム酸コバルト, 有機電解液  | 携帯機器,HV/EV車 | 
 表 5.7に示したように,小型機器や携帯機器の二次電池で代表的なものには,長い間自動車に使われて来た鉛蓄電池があります。
 さらにHV(
| 
       Q 5.16 鉛蓄電池  | 
    
[A]
 たしかに,鉛蓄電池の電極に使われている鉛は重いし人体にも有毒です。
さらに電解液は希硫酸ですから,液が飛び散って身体に付いたり目に入るとたいへん危険です。
鉛蓄電池の使用が止められない理由は,ひとえに安価で一時的に大電流を取り出せるからです。
 材料に使われている鉛や希硫酸は非常に安価なものです。
添加されている物質も高価な薬品や入手しにくい元素を使っていません。
通常の軽自動車や小型車に使われる40B19〜55B24(12V,28〜36 Ah 程度)の自動車用鉛蓄電池は,1万円以下で買えます。
 さらに古くなって充電できる容量が減っても,構造が簡単なので
 自動車のエンジン始動用のモータ(“セルモータ”という言葉は和製英語)には,最長30 秒くらいですが,ガソリンエンジンの乗用車でも100〜200Aもの大電流が必要です。
このような乱暴な使い方が要求されても,電流が供給できる丈夫さとそこそこの寿命を保てる電池は,鉛蓄電池しか見当たりません。HV車でもエンジン始動など突入電流が大きい場合に備えて,鉛蓄電池を積んでいます。
 お化粧に使う
| 
       Q 5.17 自動車用鉛蓄電池の記号  | 
    
[A]
 自動車用鉛蓄電池の記号は,日本ではJISで表 5.8のように決まっています。
  | 
       
       | 
      左端子が正極 (R型)  | 
    
 ここでの性能指数はAhを表すのではなく,以下のりくつで算出された値です。
完全に充電された状態の電池の放電性能を,流せる電流と時間から,
   √CCA[A]×RC[分] /2.8
という式で計算し,その値を50未満は2刻み,50以上は5刻みで表します。
CCA(
 CCAは,約−18℃( 0°F)の寒冷地で30秒間流しても,電池の電圧が7.2V以上確保できる放電電流値です。
一方RCは,約27℃( 80°F)で25A流し続けたとき,電池の電圧が10.5Vに下がるまでの時間を分で表したものです。
 たとえば,ある自動車用電池が自動車のエンジン始動時に150Aまで流せ,自動車の交流発電機(
   √150×60 /2.8=33.88
となり,性能指数は約34となります。
なお
 一方,通常の容量表示のAh値は,JISでは5時間の間連続放電しても10.5V以上確保できる放電電流値(5時間率)で測ります。
DIN 規格(独)では20時間率をAhの表示に使います。
 英字で表された寸法は,表 5.9のように電池容器の幅と高さを表しています。
もちろん正負の接続電極はその上に飛び出しています。
| 表 5.9 自動車用鉛蓄電池の 幅と高さ  | 
      
  | 
      記号Cは欠番 | 
最後の英字のLとRは,電池の長手を横にし,端子を遠い側に置き,向かって右が正極ならRで,左が正極ならLです。
| 
       Q 5.18 鉛蓄電池のりくつ  | 
    
[A]
 鉛蓄電池は図 5.13のように,Volta電池並の単純な構造をしています。
Volta電池の負極の亜鉛板を鉛板にし,正極は酸化剤に二酸化鉛(PbO2)を使っただけです。
 二酸化鉛は,医療用消毒液の
| 図 5.13 鉛蓄電池の構成  | 
      ![]()  | 
      |
 鉛蓄電池は新品のときは完全に充電した状態になっています。
初期の電解液には鉛は含まれていません。
   正極:PbO2 + 4H++SO4-- + 2e- ←(充電)/(放電)→ PbSO4 + H2O
   負極:Pb + SO4-- ←(充電)/(放電)→ PbSO4 + 2e-
 この化学反応式を見ると,放電時には負極の鉛が硫酸に溶けて電子が外部に取り出せることがわかります。
一方正極では二酸化マンガンと同じく過酸化物である二酸化鉛を酸化剤に使っていて,水素イオンは外部から来た電子と二酸化鉛が供給する酸素とで水になり,鉛は硫酸に溶けだします。
 充電時はまったく逆の動作で,硫酸鉛が鉛と酸化鉛に電気分解されて,もとの充電状態に戻ります。
そのときに多少水が電気分解されて減少し,時々補給しなくてはなりません。
| 
       Q 5.19 密閉型鉛蓄電池  | 
    
[A]
 横転しやすい自動二輪や原付きなどのバイク類には,横にしても希硫酸が漏れ出さない密
閉型の鉛蓄電池が使用されています。もちろん密封してあるので水の補給は不要です。そこ
で,MF(
 MFバッテリは値段が少し高いので,自動車用に使う人は少数ですが,水の補給が不要なため,高級車や車内に置く補助バッテリにはよく使われています。
また,建物内に置く産業用にも使われています。一時,携帯音楽機器の電池として,
 MFバッテリは電解液がこぼれないように,乾電池と同じくセパレータに電解液を含ませたり,電解液をゼラチン状にしてあります。
 MFバッテリが,充電時に酸素ガスの泡を出さないりくつは,過充電で正極で余計に発生した酸素を,充電によって硫酸鉛から海綿状鉛なった負極に吸収させ,負極で発生する水素と結合させ(密閉反応という),水に戻すようにしてあるからです。
 この負極での酸素吸収反応は,外部の空気から酸素が補給されると維持できなくなるので,電池は必ず密封しておかなくてはなりません。