5.7 キャパシタに電気をためる
日本で通常コンデンサ(Condensare,Latin語の用語)と呼んでいる
図4.13に出て来た
5.7 節の内容
5.6 節 | 鉛蓄電池との決別 | 6.1 節 | 水蒸気を使って電気を起こす | |
Q 5.24 | 電池がないのに消えないヘッドランプ | Q 5.25 | キャパシタのりくつ | |
Q 5.26 | キャパシタでためられる電気の量 | Q 5.27 | 静電容量を大きくする | |
Q 5.28 | アルミ電解キャパシタ | Q 5.29 | 電気二重層キャパシタ | |
Q 5.30 | 蓄電池の代り |
Q 5.24 電池がないのに消えないヘッドランプ
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[A]
製品として,そのような蓄電式の発電ランプはあまり出ていませんが,自作なら,もしかすると電池を使っていないかもしれません。
自転車の発電機で起きる電圧は,静電気のような高圧ではないので,電気をためるにはごく小さな寸法のキャパシタが使えます。
しかし,普通の電子機器用に使うキャパシタとは異なり,電力をため込むことを主目的としたキャパシタで,Q5.29で説明する電気二重層キャパシタと呼ばれているものを利用します。
Q 5.25 キャパシタのりくつ |
[A]
キャパシタは,純粋に物理的な方法で電気をためます。
図 5.17 電気をためる |
||
図 5.17のように,絶縁された状態で近接させた二つの導体に,外部から正負の電圧をかけると,正負の電気が近接導体間で引合うために,相手がいないときよりもたくさんの電気が境界側に集まります。
境界から遠い側では,当然ながら電気が不足しますので,その分の電気は電池から供給されて,一時的に電流が流れます。
これをキャパシタの充電電流と呼びます。
このまま電池を外しても,キャパシタにたまった電気は消えません。
すなわち蓄電池と同じように電気をためることができます。
蓄電池では電気のエネルギーは化学物質の結合エネルギーとして蓄えられていますが,キャパシタの場合は二つの絶縁された電極間に,物理エネルギーとして蓄えられます。
化学反応と物理現象では,後者のほうがはるかに応答が速く,かつ充放電の繰り返し回数にも耐えることができます。
しかし,物質としてエネルギーを蓄える化学反応とは違い,物理現象では電極間の空間にエネルギーが蓄えられるので,体積当りのエネルギー密度はあまり大きくとれません。
Q 5.26 キャパシタでためられる電気の量 |
[A]
キャパシタが電気をためることができる量は,静電容量(
静電容量が大きいと,同じ電気量をためても電極間の電圧は高くなりません。
この関係は図 5.18のように容器に入れた水の量とその高さの関係に似ています。
図 5.18 静電容量 |
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静電容量は,二つの導電電極間の距離に逆比例し,電極間を満たす絶縁物の持つ比誘電率(kε :
C = kε ε0 A / d
A は面積(m2),d は距離(m),ε0 は真空の誘電率(約8.854×10−12)
すなわち,相手の電極との距離が半分になると,静電容量は2倍になります。
ちなみに,真空中で無限に拡がる平行平板からなるキャパシタの1m2 当りの静電容量は,平板の間隔が1mmのとき,約8.854nF(n:
Q 5.27 静電容量を大きくする |
[A]
静電容量が大きなキャパシタが欲しいときは,比誘電率が大きな絶縁物を探すことから始めます。
このような絶縁物を誘電材料といいます。
誘電材料の比誘電率は,真空のときの何倍の電気がためられるかを表しています。
普通の固体物質は,10程度よりも小さな値を示します。
液体の中でも,Q2.16で説明した水のように,分極しているものは比誘電率が大きくなります。
表 5.10 比誘電率 |
さらに,表 5.10のように
誘電材料を選ぶこともさりながら,電極の面積を大きくして電極間距離を縮める方が,大容量化への近道です。
ただ電極間の距離を縮めると,第4章で説明した電極間の放電の問題が,必然的にキャパシタの耐圧として浮かび上がってきます。
手造りで2〜300円くらいの材料費で考えます。
自転車のヘッドランプには輝度が高い3.1V,0.02A 程度の白色LEDを使います。
電気をためるには,小型(直径20mm,高さ8mm)で安価な,耐圧5.5V容量1.5F の電気二重層キャパシタを使います。
耐圧にゆとりを見て充電を5Vまでで打ち切っても,7.5Q(クーロン)の電気がためられます。
3Vまで放電してもキャパシタにはまだ4.5Q残ります。
差引き3Qの電気を0.02Aで流すと,LEDヘッドライトを150秒間つけ続けることができます。
LED用に昇圧用の電子回路を付ければ,あと50秒くらいは延長できますが,部品代が高くつきます。
Q 5.28 アルミ電解キャパシタ |
[A]
電気二重層キャパシタが実用化されるまでは,電解キャパシタが大容量キャパシタの代名詞でした。
電解キャパシタは日本では通称“ケミコン”(
図 5.19 アルミ電解 キャパシタ |
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日本ケミコン製 秋月電子通販HPより |
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(a)エッチングした断面 (b)電解キャパシタの構造 |
0.05mm程度の厚みのアルミ箔の表面を,塩酸や食塩からなる
エッチングしたアルミ箔に,電解液中で直流を流して表面を酸化し,薄い
電解キャパシタの構造は,電解液を使う点では電池に似通っています。
キャパシタとしては,図 5.19(b)のように,負極のアルミ箔とアルミナ膜の間にペースト状の電解液を挟んで,電気的接触の確保と使用中でもアルミナ膜の再生ができるようになっています。
アルミ箔には正の電圧をかけ,電解液側は負の電圧をかけます。
正極のアルミ箔と電解液がアルミナ膜を隔てて向い合うために,電極間の距離は小さく,エッチングでの面積の増大と共にキャパシタの大容量化を実現しました。
なお,負極にはアルミナ膜がないアルミ箔を使います。
正負の電極間に挟む絶縁用の電解紙には,木質パルプではなくマニラ麻や合成繊維のような丈夫な材料を使います。
このような努力の結果,どのくらいの静電容量が得られるか計算してみます。
小型のアルミ電解キャパシタの例として,エッチング前の表面積が100cm2 のアルミ箔を使い,アルミナ膜の厚みを1μmとすると,アルミ電解キャパシタの容量は表5.10に記載の比誘電率8.5を使って,
8.854×10.12×8.5×0.12×((20〜100)/(1×10.6) = 15〜75μF(20〜100は表面積拡大率)
となり,自転車のLEDヘッドランプの点灯には100倍ほど足りません。
アルミ製の調理器具などの表面に施した,
なお,アルマイト処理法は,日本の理化学研究所で1924年に開発された技術です。
★ パンク
電解キャパシタは扱い方が悪いと,“パンク”と呼ばれる爆発が起きて,運が悪いと電子機器が破損や汚染で使えなくなります。
通常は内部で発生したガスを外部へ逃がす防爆弁が,キャパシタ自体についているので,“シュー”という音がして終わりです。 |
Q 5.29 電気二重層キャパシタ |
[A]
電気二重層キャパシタは,アルミの代りに多孔質の活性炭を使います。
活性炭は水道水を浄化するのに使っているので,お
図 5.20 電気二重層 |
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さらに次の手段があります。
活性炭でなくても,電気が通じる固体と電解液が接触する面では,電圧をかけると図 5.20のようにイオンが固体の表面に集まって膜のようになり,電気を通さなくなります。
電圧を高くすると二重層の絶縁は破れて,電気分解が起ります。
この膜の耐圧は電解質によって変りますが,せいぜい数Vです。
この電解質1分子程度の厚みの層からなる膜の構造を,電気二重層(
電気二重層の厚みはたいへん薄いので,キャパシタの容量を増やす手段として大きな強みです。
この方法により,従来は10mF程度までしか実現できなかったキャパシタが,1,000Fを越える容量まで作ることができるようになりました。
ただ,図5.20のように,正極側と負極側の二つのキャパシタが直列になるので,耐圧は単独の電気二重層の倍になります。
もちろん直列になると,電極間距離が2倍になったのと同じことなので,容量は電気二重層単独の場合の半分になります。
実際の電気二重層キャパシタは,図 5.21のようにアルミ箔に活性炭を付着させたものを電極に使っています。
図 5.21 電気二重層 キャパシタ |
高さ: 45mm 直径: 22mm |
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VINA Technology製 秋月電子通販HPより |
電気二重層キャパシタは,その構造から見ると原理的には正負の極性はありません。 しかし,製造過程で最初に電解液に電気を流すと,内部である程度の化学反応が起きて,それで極性が決まってしまいます。 正負逆向きに電圧をかけると,再度化学反応が起きるために,発熱したりします。
Q 5.30 蓄電池の代り |
[A]
電気二重層キャパシタに限らず,キャパシタは空のときの電極間電圧は0Vです。
一見蓄電池も似ていますが,蓄電池に充電するために電圧をかけると,電気化学反応が起きて充電が始まるまでの低い電圧では,電極間電圧はかけた電圧と近い値になります。
電気化学反応が起きている蓄電池の充電中は,電極間電圧は図 5.22(b)のように放電時の電圧よりもちょっと高めになったまま,フル充電するまでほとんど変りません。
蓄電池では,充電のための化学反応を起すには一定以上の電圧が必要です。
図 5.22 定電流充放電特性 |
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(a)キャパシタ (b)蓄電池 |
一方,キャパシタの電圧はたまった電気量に比例しますので,一定電流で充放電すると,電極間電圧は図 5.22(a)のように直線的に変化します。
なお,キャパシタでも蓄電池でも,耐圧あるいはフル充電に達したら,充電停止電圧を検出して充電を停止します。
それ以上充電を続けると,キャパシタや蓄電池が壊れて火災になる危険もあります。
放電は,キャパシタの場合は完全に空になるまで可能ですが,電圧がどんどんと下がるので,実用的な放電中止電圧があります。
蓄電池では,端子電圧が急に電圧が下がり始めたときが,放電限界電圧です。
それ以上放電し続けた場合,最悪再充電不能となるだけでなく,充放電回数の寿命を著しく縮めてしまいます。
実際には,キャパシタでも蓄電池でも,充放電は一定電流で行うのが好ましいとされています。
それは充放電を一気に行うと,発熱や破損といった事故が起きやすいからです。
図 5.23 定電圧−定電流変換 |
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図5.22(a)のキャパシタの充放電特性から見ると,電気二重層キャパシタを蓄電池の代りに使うには,一定電圧が出ているオルタネータ(自動車の発電機)や一定の電圧を必要とする車内登載機器との間に,図 5.23のような電圧を電流にあるいはその逆に電流を電圧にする電子回路(
ただでさえ高い電気二重層キャパシタの価格に,インバータの費用が加わりますから,鉛蓄電池よりも高価なリチウムイオン電池を置き換えるのも難しそうです。
さらに電気二重層キャパシタは,体積当りの充電可能電気量(体積エネルギー密度という)が,鉛蓄電池の80Wh/L 前後と比べてもかなり少ないです。
たとえば,耐圧2.5Vで2,300 F,直径51mm,長さ135mm の市販の大型の電気二重層キャパシタにためることができる電力量は,
1/2・CV2 = 0.5×2300×2.52 /3600 = 2(Wh)
です。
一方体積は,
π(5.1/2)2 ×13.5 = 275.8(mL)
です。
ここから,体積1L当りの電力量(エネルギー密度)は,2×1000/275.8 = 7.25(Wh/L)となります。
なお,性能比較によく使われる重量エネルギー密度については論じません。
据置型では重さはあまり関係ないからです。
どの道,鉛蓄電池は重量エネルギー密度で比べると不利になります。
電気二重層キャパシタから一度に流せる電流は,化学反応を伴わないので,理論的には無制限です。
このような特徴は,自動車エンジンの始動用モータのような高負荷な用途に最適で,自動車会社では1990年代には盛んに研究されました。
しかし電気二重層キャパシタは,化学物質でエネルギーをためていないので,自己放電現象によって,数日以上も車を使わないで放っておくと,せっかくためておいた電気が雲散霧消してしまいます。
すると鉛蓄電池自体を廃止できないので,たとえ鉛蓄電池を小さくしてコストを下げても,電気二重層キャパシタによる安価なエンジン始動装置は,なかなか実用化しませんでした。
しかし,大電流が流せるという特徴は,停止状態からエンジンを始動するモータにはやはり最適です。
たとえば,赤信号で停止するたびにエンジンを切る
さらに,リチウムイオン電池と電気二重層キャパシタのいいとこ取りを狙ったリチウムイオンキャパシタも,開発されています。
重量エネルギー密度(kWh/kg)が鉛蓄電池に匹敵し,長寿命・高負荷・高安定だということです。
まだ高価ですが,量産効果が出て安価になれば,自動車用としては有力な蓄電池になるかもしれません。
★ 電気二重層キャパシタの実質体積エネルギー密度
電気二重層キャパシタは活性炭を通じて電気が流れるため,原理的に金属膜の電解キャパシタにくらべて内部の抵抗が大きくなります。
電極内部や引き出し線へ電子が動く際にも抵抗があります。
さらに,イオンが活性炭の小さな穴に出入りする際にも妨害が出て,等価的には内部抵抗として観測されます。 |