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6.2 水蒸気を作る熱源はいろいろある


 現代社会は,化石エネルギー源の獲得競争が,世界の政治情勢を大きく動かしています。


6.2節の内容

6.1節 水蒸気を使って電気を起こす 6.3節 発電はだれでもできる

Q 6.7 燃焼による熱源   Q 6.8 石炭燃焼による公害
Q 6.9 原子力による熱源 Q 6.10 原子力発電の政策
Q 6.11 放射性物質 Q 6.12 地熱などの熱源
Q 6.13 太陽熱で発電 Q 6.14 あまり高くない温度の熱源
Q 6.15 Stirling エンジン



Q 6.7 燃焼による熱源
 火を燃やすなどして熱を得る方式の発電には,どのような燃料や熱源が使われますか。

[A]
 汽力発電の熱源は,表6.1に示すように,各国の事情や資源の世界情勢で大きく異なります。

表 6.1
蒸気を発生
させる熱源

 汽力発電の熱源にいちばん早くから使われたのは,石炭や石油の燃焼熱です。 石炭は炭素の固まりであるため,地球温暖化に悪影響があるとされている二酸化炭素(CO2)を多く排出し,その上に硫黄いおうなどの不純物も含まれていて,公害の原因にもなりやすいです。 埋蔵量が豊富なので,中国など石炭を多く産出する国では,盛んに使われています。
 石油は重油あるいは原油のままで使います。 なお,灯油から軽油や重油,食用廃油まで使えるDiesel エンジンは油種が豊富です。
 LNG(Liquefiedリクェファイド Naturalナチュラル Gasガス:液化天然ガス)は,都市ガスに使われているものと同じで,石炭や液体の石油類と比べ,同じ熱量に対しての水素の割合が多いので,二酸化炭素の排出量が少ないです。 さらに不純物も少なく,その分離も容易なので,日本ではかなり多く使われています。
 LNG を使うと,1,600℃もの高温の燃焼ガスで,航空機のジェットJet エンジンEngineのように直接タービンを回し,その廃熱で水蒸気を加熱して蒸気タービンを回す,図6.9に示すようなコンバインドCombined サイクルCycleが可能です。 総合熱効率は60%台にもなります。 蒸気温度が600℃台の汽力発電でも,蒸気タービン単体だけでは,熱効率は40%台が限界です。

図 6.9
一軸型コンバインド
サイクル

 石炭を気化し,LNG の代りにコンバインドサイクルに使うこと(IGCC:Integrated coal Gasification Combined Cycle)も,原油の可採量の減少や値上がりで,有力な熱源として世界中で開発が進められ,日本では勿来なこそで,2007年から25万kWの石炭ガス化の実証発電が行われています。 2020年には,2011年の3.11大震災で津波被害に遭った原発銀座の福島の浜通りに,100万kWの発電所が出来る予定です。
 その他割合は少ないですが,清掃工場などではゴミを燃料として発電しています。木材チップChipや他の可燃物を燃やしている例もあります。

*   *   *

 日本では,3.11大震災前の発電割合(設備の割合ではない)としては,LNGは石油・石炭,原子力とほぼ同程度でしたが,LNGのコンバインドサイクル発電は,今後原子力発電所を停・廃止した後の当面の有力な代替発電手段と考えられています。

Q 6.8 石炭燃焼による公害
 石炭を使って発電すると黒い排気が出て公害が発生しませんか。

[A]
 石炭は大量の硫黄を含んでいるので,そのまま燃やすと亜硫酸(二酸化硫黄)ガス特有の刺激臭がします。 第二次大戦後しばらくは,東京でも大量の蒸気機関車が発着した上野駅の周辺へ行くと,よくこの臭いがしました。
 2010年時点で石炭火力発電の割合が50%を越えている中国では,2012〜14年の冬に人口の半分以上を襲った,PM2.5の微粒子による極度の大気汚染が発生しました。 PM2.5 の微粒子は,そのほとんどが硫黄酸化物と炭素微粒子からなっています。 硫黄酸化物は石炭の燃焼および自動車の排ガスから発生します。
 日本の石炭火力発電所は,世界に冠たる清浄な設備で,表6.2のように有害物質の排出割合は世界で最少です。 かつ,総合発電効率は世界トップの40%前後です。

表 6.2  石炭火力発電の有害物質の排出量(g/kWh)
日本は電気事業連合会(2010年実績)
海外はOECD(2005年実績)の資料による
← 2009年実績(*イタリアの代り

 横浜市の磯子という都会に60万kW×2基の微粉炭火力発電所があっても,粉塵や有毒ガスの排出問題は起きていません。 この発電所の2号機の送電端での発電効率は何と43%だそうです。
 しかし,LNGの約2倍といわれる二酸化炭素排出量の問題で,石炭火力発電所の新設は,今世紀に入ってからはほとんど認められてきませんでした。 効率が上がれば二酸化炭素排出量は減少し,発電量1kWh当たりの燃料費も2013年現在でLNGの約1/3ですが,大陸に多い頁岩に含まれるシェールガスShale gasが実用化したため,経済的に有利かどうかは定かではありません。
 3.11大震災による原発停止の影響か,2016年に超々臨界圧(USC)の高効率発電に限り,石炭火力の新設や改造が認められる方向になりました。

Q 6.9 原子力による熱源
 原子力発電では何が発熱するのですか。

[A]
 原子力発電用の核燃料としては,現在表6.3に挙げたものが使われています。

表 6.3  核燃料の種類

 ウラニウムUranium235(235U)の核分裂を熱源とする原子力発電は,原爆をゆっくりと爆発させている原子炉から出る熱で蒸気を発生させます。
 235Uの核分裂で出る大部分のエネルギーは,1.4万km/sという高速で飛び出す中性子が持っています。 この高速中性子を中性子と衝突しやすい水素(実際は水を使う)で減速し,原子炉ではそのブレーキBreak効果で発生する熱で水を加熱しています。
 一般に放射性物質は放射線を出しますので,体内に取り込まないよう用心が必要です。 一方体外から浴びる放射線は,γ線以外は減速してしまえばどこにでもある普通の物質です。

図 6.10
中性子の減速と
核分裂生成物

 中性子は名前のとおり電気を持っていないので,物質の中へもよく透過します。 しかし,図6.10に示すように普通の水(軽水ともいう)の分子と18回ほど衝突することで,速度が遅い熱中性子になります。 したがって高速な中性子は,水分が多い生物体にとっては危険な物質です。 減速には水の代りに黒鉛(炭素)が使われる場合もあります。
 核分裂を行わせることができる物質には,235Uや239Pu以外に,トリウムThorium232(232Th)に中性子を吸収させ,段階を経て233Uに変換し,核分裂に使う方法もあり,米国では1960年代に実証実験炉が作られました。 地殻中のトリウムが豊富なIndiaインドでは1990年代にはトリウムによる商用発電も試みられています。
 原子力発電の場合,原子炉自体の温度をあまり上げられないために,Carnotサイクルの限界値が低くなり,全放出エネルギーの1/3程度しか電力に変換できていません。 すなわち発電量の倍もの熱を冷却しなくてはならないので,多くは最終的には海水による冷却に依存する海岸地域に立地しています。

Q 6.10 原子力発電の政策
 国によって原子力発電の割合が異なるのはなぜですか。

[A]
 各国の燃料の供給情況と放射性物質への国民の考え方が違うからです。さらに地球温暖化 対策として二酸化炭素の排出量を抑えるにはどうするか,という点への考え方も関係します。
 2012年現在では,独(Deuchelandドイツ)は段階的廃止,伊(Italiaイタリア)は原子力発電を使わないことになっています。 一方仏(Françeフランス)では,約80%の電力を原子力発電から得ていて,何か変ですが,原子力発電を廃止したItaliaに原発の電力を輸出して稼いでいます。
 日本では電力会社と情況にもよりますが,3.11大震災以前では全発電設備の約1/3が原子力発電になっていました。 さらに地球温暖化対策のために,将来その比率を半分にまで上げる予定でした。
 中国では2010年以降急速に,大量の原子力発電所を海水で冷却できる沿岸部だけでなく,長江などの大河の流域を始めとして国内あちこちに建設しています。 これは大気汚染の大きな原因の一つとなっている石炭火力発電をこれ以上を増やせないからでしょう。 しかし,専門家から見るととても甘い危機対策しかしていない原子力発電所をつぎつぎと建造し,しかも安価に海外輸出まで進めている現状を見ると,福島の次は中国かその輸出先で原発事故が起きる可能性があると論じる専門家もいます。

*   *   *
★ 原爆の材料

 原子炉で生成されたプルトニウムPlutonium239(239Pu)からは,原爆を簡単に作ることができるので,初期の原子力発電所は原爆の材料を得る目的で作られました。 黒鉛を減速材に使った原子炉は低濃縮の燃料でも稼働でき,プルトニウムの回収率も高いので,初期には軍事目的で黒鉛減速型の原子炉が多く作られました。 旧ソ連(現Украïнаウクライナ)のЧорнобильチョルノーブィリで1986年に爆発した原子炉も黒鉛減速型でした。
 今では,燃えかすであるプルトニウム類が大量に溜り,2011年の発表では,日本国内に約9t,処理依頼先の英仏に35tも溜ったまま処分できない形で保存されています。 そこでこれを235Uに混ぜて再度燃料(MOX燃料)に使うことも試みられていましたが,3.11大震災以来中止されています。

Q 6.11 放射性物質
 放射性物質はなぜ怖いのですか,それはどんな物質ですか。

[A]
 世の中には,低濃度の放射性物質よりも致死率が高い物質や遭遇率が高い事故は,たくさんあります。 それらより放射性物質が怖がられているのは,a:人体の五感では解らない,b:汚染地域にいれば避けることができない,などの理由からです。
 東京電力福島第一発電所では,3.11大震災の津波による停電で冷却水の供給が絶たれ,原子炉内の核分裂自体は無事停止していたようですが,図6.10に示したような核分裂生成物中の放射性物質の崩壊熱で,いわゆるメルトダウンMelt Down を起してしまいました。 原子力発電の冷却の大切さはこれでよく理解できると思います。
 なお,未使用の核燃料には,基本的に図6.10に示す核分裂生成物を含んでいないので,放射線に関しては比較的安全です。 燃焼後の燃料棒に含まれる放射性の核分裂生成物が危険なのは,それらが出す放射線が比較的強いからです。
 ちなみに,あまりに強い放射線を出す危険な核分裂生成物は,燃料棒の中ですぐに他の物質に変わってしまいます。 放射性物質が出す放射線の強さとその寿命は,ほぼ反比例します。 そこで,取り出した燃料棒からやメルトダウン事故で環境に放出されると危険なのは,数日〜千年で半分にまで崩壊する(この時間を半減期はんげんきという)放射性物質です。
 放射性物質が出す放射線の半減期が30年とすると,300年経てばその放射線量は約千分の1(2−10=1/1,024)になります。 もし広い国土があれば,これらの物質で軽度の汚染を受けた程度の地域なら,2〜300年隔離して放置すればまた使える土地に戻ります。

表 6.4 問題となる核分裂生成物

 表6.4はウラニウム235の主な核分裂生成物で,生物体内に摂取されると影響が出易い物質です。 なお表6.4には,核分裂後の生成物から図6.10のようにさらに崩壊した生成物も含まれています。

Q 6.12 地熱などの熱源
 燃焼と原子力以外にはどんな熱源がありますか。

[A]
 地熱で発生した蒸気で直接タービンを回す方式もあります。 地熱については,火山国日本は米国・Indonesiaインドネシアに次ぐ埋蔵量が確認されています。
 地下の平均的な温度は,図6.11のように複雑に変化しています。 地表から100〜200kmくらいまでは,100m当り3℃程度の割合で温度が上昇します。 この割合だと地球の中心部はもっと高熱になるはずですが,そうなってはいません。

図 6.11
地下の推定
温度と地熱
EPACS
自然史博物館
「地球のからくり」
より作成

 地球表面の地殻の温度は,地球が出来た際の高温状態からまだ冷え切っていないままの約6,000℃と推定(2013年に米誌Scienceサイエンスに載った最新の研究発表による)されている,地球中心部からの放熱だけでは説明できません。
 地殻に含まれる放射性同位元素235U,238U,232Th,40Kなどが崩壊する時に出る熱が加わって,まだ地下の熱さを保っていられると考えられています。 すなわち地殻自体が一種の原子炉と言えます。 ですから,地熱発電はいわば天然の原子力発電です。
 この地熱の地表からの放出量は,約44T(Tera:1012)W(=440億kW)と推定されていますが,地表に降り注ぐ太陽エネルギーの約90P(Peraペタ:1015)Wと比べると,月光よりはかなりましという微々たるものです。 2011 年に東北大らの国際研究チームが発表した内容によれば,図6.11に示したように,放出されている地熱の約半分は地球が出来たときの重力収縮による発熱の残りだそうです。
 しかし,地熱の放出場所は火山や温泉地帯に集中していますし,昼夜や気候の影響を受けないので意外と利用しやすい熱源とも言えます。 地熱は,産業技術総合研究所が推定した日本の埋蔵量2,347万kWから考えると,3.11大震災時の原子力発電設備容量(4,896万kW)のある程度の部分は,代替できると見られています。
 火山が多い火の島九州には,熱水が得られるところが多く,九州電力だけで5ヶ所の地熱発電所があり,発電量は3〜5万kW程度です。 この中で,指宿市の山川地熱発電所は1995年3月から3万kWの発電を行っていましたが,2018年の2月から地熱発電所で使われた熱水を再利用した山川バイナリー発電所も稼動開始し,5千kWの電力を供給しています。
 これは図6.9で説明した“一軸型コンバインドサイクル”の排熱水を利用して,さらに発電することも可能であることを示しています。

*   *   *
★ 月光エネルギー

 地球上での月光エネルギーについては,太陽光の45万分の1程度という計算例があります。 この値は,晴れた夜に頭上に満月があっても,だいたい1m2当り1mW程度です。全地球合計しても130GW(=1.3億kW)で,3.11大震災直前の日本の全発電設備の半分にも及びません。

Q 6.13 太陽熱で発電
 太陽熱で湯を沸して発電できますか。

[A]
 図6.12のように,太陽熱で直接蒸気を発生させる方式も検討されています。 太陽熱での発電は,宇宙に置かれた水素からヘリウムHeliumを作り出す核融合炉による,原子力発電と考えることもできます。 ただ集光などの工夫をしないと,そのままでは熱水の温度が低いので,あまり効率が上がりません。
 お椀型やたくさんの平面鏡で集熱鏡を作って,常時太陽光を一個所に集中できるようにすると,汽力発電に使える水準の高温高圧の水蒸気を発生させることが可能です。 表6.1に挙げたように米国やEspañaスペインで実験されています。 この方式では,太陽光を一点に集中させるための集熱面積は大きくは取れないので,1基当りの発生電力は原子力発電や大規模火力発電の1/100位の1万kW程度にしかできません。 また,鏡の製作・維持費や,太陽の動きに合せて鏡を制御する装置が高くつきます。
 平面状に集熱器を並べる方式は,費用や制御の点では有利ですが,設置面積が大きく必要です。 UAE(Arabアラブ首長国連邦)では,約200haの広さに集熱器を並べて,2013年から出力10万kWの発電所が稼働しています。

図 6.12
太陽熱発電

 Españaでは2009年から,標高1,100mの高原に約50haの広さの集熱器を置き,5万kWの発電所を稼働させています。 溶融塩の蓄熱槽が用意されていて,太陽熱が得られない時も発電できるそうです。 日本では太陽熱の利用は,家庭や事業所などでの給湯・暖房などへの供熱が一般です。 太陽熱と共にゴミなどの燃焼熱を併用することで,常時発電することができ,地球温暖化防止には役立ちます。

NREL(National Renewable Energy Laboratory:
米国国立再生可能エネルギー
研究所)

Wikimedia より
2005/1/3,USA.Gov
- BLM - BUREAU OF LAND MANAGEMENT
図 6.13 太陽熱LNG併用発電

 米国Californiaカリフォルニア南部のMojaveモハーヴェ砂漠では太陽熱にLNGを約1/4併用して,図6.13のように35万kWの太陽熱での発電(SEGS:Solar Energy Generating Systems)を行っています。 夜間はLNGと蓄熱を利用しているので,太陽電池を使った太陽光発電よりも実用性は高いようです。

Q 6.14 あまり高くない温度の熱源
 地熱以外の工場や家庭などの低い温度の排熱で発電できますか。

[A]
 中小規模の低温の熱源から効率よく発電する熱媒体として,超臨界(31.1℃,7.4MPa以上:大気圧のおおよそ72倍)の二酸化炭素(CO2)でタービンを回す発電方式も研究されています。 2011年には,日本で世界最初に発電実験に成功し,中小規模の汽力きりょく発電よりも10%程度熱効率が上がると期待されています。
 さらに,エアコンなどに使われている冷媒の代替フロン(HFC245faなど,フロンは和製語)を用いた,100℃以下の温水を熱源とする,出力100kW程度以下の小型発電機(バイナリBinary発電という)が市販されています。 100℃程度の熱い温泉が湧く別府温泉などでは,バイナリ発電の導入が進んでいて,固定価格買い取り制度によって,50kW程度の電力を恒常的に電力会社に供給できるとても質のよい電力です。 予定では当初の投資額は,5年程度で回収できるとのことです。

Q 6.15 Stirlingエンジン
 Wattワットの蒸気機関に勝てなかったというStirlingスターリングエンジンでは,発電はできないのですか。

[A]
 低い熱源でも使えるものとして,最近Stirlingエンジンが見直されています。
 Wattの蒸気機関は蒸気の圧力を上げれば,効率が上昇しました。 しかし当初は,蒸気の高圧に釜が耐えられなくなって,爆発することもありました。 そこで1816年に英国のStirling牧師は,高圧蒸気を使用しないエンジンを発明しました。
 この構造は図6.14のように,空気や軽い気体を詰めた二つに別かれた気体室に二つのピストンを入れ,気体室間は再生器を介してパイプPipeでつないであります。 二つのピストンは一つの回転軸につながっていて,約1/4回転ほどズレて動きます。

ST-5型
3.7kW
独Stirling
Technology
スターリングエンジン社
HPより
図 6.14 Stirling エンジン

 パイプの一端を加熱し,もう一端を冷やすと,内部に封じられた作動気体が熱で膨脹したり冷えて収縮したりしてピストンを動かしてクランクCrankでつながっている回転軸が回ります。
 図6.14は一番原型に近い形のStirlingエンジンです。さらにシリンダCylinderを二つにした方式もいくつかあり,それぞれに特徴があります。 このエンジンが回るりくつはちょっと手品みたいで面白いのですが,本書の範囲を逸脱するので説明は省きます。
 Stirlingエンジンは,図6.8に示した熱力学のCarnotカルノーサイクルのりくつどおりに動きます。 熱効率は非常に高く,Carnot サイクルの理論限界近くまで上げることも可能です。
 ただ,出力の割に装置が大きくなり,車輌などの動力源には向かなかったこと,出力を急には変えられないため,負荷変動への応答が鈍いことなどで,Wattの蒸気機関や,その後出現した内燃機関に押され,ほとんど使われませんでした。
 Stirling エンジンは,気体の圧力を高くしないと,装置全体が大きくなってしまいます。 気体には,比熱容量が空気の5倍と大きいヘリウムHeliumが最適です。 しかし,ヘリウムの費用と密封の難しさのために,作動音が静かという利点を生かして潜水艦に使われた以外は,Stirlingエンジンは長い間まぼろしのエンジンと言われてきました。
 しかし,比較的温度が低い家庭の給湯器の排熱などでも発電できるので,最近は省エネルギー対策に使う排熱回収発電方式の一つとして見直されています。 作動気体に空気を使った10kW程度までの小型の発電機が,いろいろと販売されています。 またStirlingエンジンは,気体を加熱する燃料にはなにを使ってもよいので,太陽熱で足りないときは,ゴミや木材など,再生可能な熱源だけで発電を続けることもできます。



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