Title

第7章 電気を配送する



   電気を配送するということは,たいへんな事業です。 じつは,1925年に日本でラヂオRadio(敢えて旧仮名表記)放送が始まったころの真空管時代には,ラヂオは電池で聴いていました。
 今のICと違い当時の真空管はたいへん電気を喰いましたので,電池はすぐに消耗してしまいました。 当然ながら安定にラヂオ放送を受信するには,大きな電池が必要でした。
 そこで,電力会社から安価に供給される交流を使ってラヂオを聴くために,交流を直流にする装置(整流装置)がラヂオに付けられるようになりました。
 電池を除去(エリミネートEliminate)したラヂオという意味で,交流で動作するラヂオや蓄音機を,当時はエリミネータEliminator式と呼んでいました。
 江戸時代末期でも,エネルギー源は船や馬車,時には人手で運んだ。 配送のコストはたいへんなものであったが,二ノ宮金次郎のように学問する時間も取れた。



第7章の内容

第6章 電気を起こす 付録 参考図書とHP

7.1 電気を送るには   7.2 送電と配電は電気エネルギー分配の動脈
7.3 電気は送ると減る   7.4 交流の供給方式は単純ではない
7.5 電気を測る方法とその単位


7.1 電気を送るには

 自家発電や電池を使わないで電気を買って使うには,発電所などから電気を送ってもらわなければなりません。 さらに送られてきた電気を,個々の家庭や事業所などで使えるように分配しなければなりません。 これらをそれぞれ送電,配電といいます。 買った電力は建物内でも分岐して使います。これを分電や給電ということもあります。


7.1節の内容

6.5節 太陽光で発電する 7.2節 送電と配電は電気エネルギー分配の動脈

Q 7.1 電気の配送材料   Q 7.2 導電材料の性質
Q 7.3 超伝導の実用化



Q 7.1 電気の配送材料
 電気を送る鉄塔にぶら下っている高圧線には何を使っていますか。

[A]
 電気は電気を通す物質で送ります,でも水道管やガスGas管のようにパイプPipe状にする必要はありません。 なぜなら電気を運ぶ電子は,水やガスの分子などと比べるととても小さく,電気を通す物質なら,物質の中を通り抜けることができます。
 電気を通す物質を導体(Conductorコンダクタ)と呼んでいます。 電子は銅など主に金属導体中を自由に移動することができます。 この自由移動できる性質を使って,電気を送ります。 家の中などでは,通常はこの導体に銅を使った電線で配線してあります。

図 7.1
電気を通す物質

 一般に金属は電気をよく通し,図 7.1のように常温では,銀がいちばんよく電気を通します。 あとは銅,金,アルミ(Aluminumアルミニュウム)の順です。 また金属は低温であるほど電気の通りがよくなります。
 実際には重さや費用,強度面などでの扱いやすさから見て,一般の配電には銅の電線,電気を発電所から遠くに送る送電線には,軽いアルミ電線がよく使われています。
 なお,電気の通り難さを示す数値の抵抗率は,0に近いほど電気の通りがよいことを示しています。 詳しくは7.3節で説明します。

*   *   *
★ 黒鉛は金属ではない

 黒鉛(Graphiteグラファイト)は金属ではなく,銅の1,000倍も抵抗がありますが,Q2.10で説明した電気炉や,第3章で説明した整流子モータのブラシなどで電気を通す材料に使われています。
 なお,同じ炭素(カーボンCarbon)からなる物質でも,ダイアモンドDiamond結晶の状態では,電気を通さず1012Ωm以上の絶縁性を有しています。
 同じ炭素なのに導電性と絶縁性があるのは,結晶構造の違いから起きる現象です。
 黒鉛は,俗称亀の子というベンゼンBenzene環が蜂の巣の表面のような感じで縦横に膜状に延びたものが,幾重にも重なった構造をしています。 ベンゼン環でできた膜の両面には,πパイ電子という自由に動き回ることができる電子が発生し,導電性があります。

Q 7.2 導電材料の性質
 いろいろある金属中から,なぜ図7.1の金属が,導電材料として使われているのですか。 導電材料の特徴を教えてください。

[A]
 価格(入手が容易),抵抗率の低さ,通常の環境での化学的な安定性,引っ張り強度などから,図7.1の金属が導電材料としてよく使われています。

(a)  金や銀は高価なので,IC内部の接続およびコネクタConnectorスイッチSwitchの接点などに,わずかに使われることがある。
(b)  硬貨の五円玉に使われている真鍮しんちゅう(黄銅:Brassブラス)は,銅と亜鉛の合金である。 その金によく似た色あいと加工性の良さから,古来硬貨や装飾品に使われて来た。
 純銅よりも硬く電気もある程度よく通すので,電気器具の接続やスイッチなど,耐摩耗性が必要な接触や摺動しゅうどう(擦り合わせる)部分や電気を通すねじなどに使われている。
(c)  銅の合金には表 7.1のように電気用に使われているものがある。

表 7.1 いろいろな銅合金

(d)  電気鉄道では鉄を電気の導体として使う。架線からの電車を動かした帰りの電気をレールRailに流したり,一部の地下鉄のようにレールで給電したりもする。 さらに電車の存在を知らせる信号電流も流している。
 実際にレールに純鉄を使ったのでは,柔らかくてすぐに摩耗してしまうので,レール用の鋼鉄を使う。 通常のレールの抵抗は,純鉄の2倍以上(20×10-8Ωm程度)になるが,断面積が大きいので問題はない。
(e)  はんだ(半田と書くこともある)は,電子機器の内部で電線やICを接続する用途に使われている。 強度はあまりないが,200℃程度の低い温度で熔け,機器の狭い体積内で安価に電気的な接続を確保する手段としては,なかなか代替する技法が見つかっていない。
 鉛毒が問題になるまでは,長年“共晶はんだ”(すず63%,鉛37%で融点183℃)が使われて来た。 現在は“鉛フリーはんだ”(錫に銀と銅を少量加えたもので,融点は220℃位)が使われてる。
 なお,はんだは“盤陀”とも書き,語源はあまり確かではないが,西洋語を音訳した外来語ではない。 はんだ付け技術自体は江戸時代にはすでにあり,鋳掛け屋が街を回って鍋などに空いた穴を修理していた。

Q 7.3 超伝導の実用化
 電気を送る抵抗が0になるなら,送電線を全部超伝導電線にできないのですか。

[A]
 多くの金属は,ヘリウムHelium(気球などに入れる軽いガス)が液化するような超低温では,抵抗現象が消える超伝導体となります。 超伝導体は,電気の流れに対する抵抗が0であるため,電気を流しても熱を発生しません。
 液体窒素の沸点(−195.8℃)温度を越える温度でも,超伝導現象を呈する物質を高温超伝導体と呼びます。 すべての純金属とほとんどの合金は,それよりもずっと低い温度で超伝導状態が破れてしまいます。
 液体窒素の沸点でも実用に耐える材料を探して,いろいろと研究されて来ました。 その中でも,-163.15℃で超伝導を示すBSCCO(組成はBi2Sr2Ca2Cu3O10)などが有力な材料です。
 たとえば,幅4.3mm,厚み0.23mmのBSCCOのリボンRibbonは,長手方向に200Aもの電流を流すことができ,その電流値は同じ断面積の銅線の100倍にもなります。
 なお,いくら抵抗が0でも,超伝導体を流れる電流が大きくなると,その電流が作る磁場によって超伝導が破れてしまいます。 この超伝導が破れる電流を臨界電流といいます。

図 7.2
超伝導電線

 これらの超伝導体の主な用途は,大容量の直流送電線や超強力電磁石の巻き線などです。図 7.2は超伝導電線の構造を模式化したもので,銅の芯線は,強度保持用と超伝導状態が破れたとき電流を流して安定を維持するためにあります。 電線は長いステンレスの魔法瓶の中で,液体窒素に浸かって超伝導状態を維持しています。
 超伝導電磁石は,リニアLinearモータ駆動の磁気浮上式鉄道や,大型のMR(Magratic Resonanceマグネティック レゾナンス:核磁気共鳴検査装置)などの医療機器に使われています。 なお,小型のMRは超伝導磁石のように冷却する必要がない,安価な永久磁石式です。



もくじへ
前の章の頭 この章の頭 付録
前の節の頭 この節の頭 次の節の頭

©2016 Yikai Family
このpageの著作権は猪飼家が保有しています。 転載禁止です。