6.3 発電はだれでもできる
3.11大震災で,電力会社だけに電力の供給を依存していたのでは,非常時に困ってしまうことが解りました。 あるいは,電力会社の電気代が高いと感じる,電力だけでなく発電機からの排熱も利用したいなどの理由で,移動体以外でも発電設備を持つ場合があります。 それらを自家発電と呼んでいます。
6.3節の内容
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[A]
電力会社からの電力供給(商用電源という)を受けられない,あるいは受けない場合は,比較的電力が大きいときは,回転型発電機による自家発電が使われています。
自家発電には固定型と移動型および可搬型があります。
自家発電と一言にいっても,図 6.15のようにいろいろあります。
図 6.15 自家発電 |
多くのビルや,工場・病院・大きな学校・公共施設など,電気の供給が途絶えるとすぐ問題が発生するところでは,多くの施設で非常用の自家発電機を備えています。
この場合,
Q 6.17 非常用自家発電 |
[A]
病院や
図 6.16 電池でバックアップ |
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UPSは,短時間の停電で支障をきたす多くの分野で使われています。
基本的には,通常は商用電源から無停電状態を必要とする機器へ電気が供給されていて,その一方で,短時間給電できる分を電池に常時充電しています。
いざ停電になると,電池にためておいた電気を交流に変換し,商用電源から自動的に切替えて供給します。
電池で機器に電気を供給している間に,非常用の自家発電機を始動させ,本格的な代替供給になります。
もちろんUPSだけで数時間持たせたりする場合もあります。
病院などでは,表 6.5のように非常時にも切れない電源は,異なる色の
表 6.5 非常用電源の アウトレット |
[A]
そうです,常時移動する自動車や電化されていない鉄道はもちろん,航空機あるいは動力駆動の船舶などにも,動力駆動の発電機が付いています。
ごく身近には,自転車にも人力による発電灯が付いています。
工事現場など電力会社からすぐには電気が引けないときは,図 6.17(a)のような軽油を燃料としたDieselエンジンを動力源とする,大型の可搬型発電機を使います。
ボンベ2本で,2時間供給可能 | |||
CGM450MK 37/45kVA,重さ約1t 新ダイワ工業HPより |
YDG350VA 300/340VA,重さ86kg ヤンマーHPより |
enepo EU9iGBK 900VA,重さ19.5kg 本田技研工業HPより |
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(a)据え置き型 | (b)小型Diesel発電機 | (c)ガス発電機 | |
図 6.17 移動できる発電機 |
露店や行事の出店,キャンプ(野営,英語では
2013年の夏,福知山市の花火大会のベビーカステラを売る屋台で,発電機を稼働させたままガソリンを補給しようとして,ガソリンタンクが火炎放射器になり,3人の死者が出ました。
もちろん,花火大会は中止となりました。
これは,発電機に対する知識というよりも,屋台の主が,ガソリンという燃料に対する注意を完全に怠っていたからです。
個人が野外で使うには,より安全なDiesel発電機やガス発電機が望ましいです。
なお,ガソリンスタンドでは,危険物取扱の有資格者を常駐させなくてはなりません。
[A]
電気の供給業者は2013年時点で,法律で6種に分けられています。
(a) | 【一般電気事業者】はいわゆる電力会社で,日本全国の地域別に10 社。 |
(b) | 【卸電気事業者】は発電のみで,発電した電気をすべて電力会社に売っている電気の卸し売り事業者。 発電に関しては電力会社と変らない。 電源開発(J-POWER)と原子力発電(2013年現在事実上供給停止中)の2社がある。 |
(c) | 【卸供給事業者】も発電のみで,発電した電気をすべて電力会社に売っていて,前項の卸電気事業者以外の事業者。独立発電事業者(IPP: Independent Power Producer)ともよばれている。
IPPには,電力会社や高炉の排熱を持つ製鉄会社の子会社およびそれらとの合弁企業が多い。 公営の小規模な水力発電所は2013年現在全国に287個所あり,その総発電設備は240万kWである。 神奈川県など大口の揚水発電設備を持つ所は,自家用で使う以外に卸し売りもしている。 |
(d) | 【特定規模電気事業者】6kV,50kW以上の大電力を契約で需要家に直接販売することができる。
特定規模電気事業者(PPS: Power Producer and Supplier 通称“新電力”)という。
送配電は,既設の電力会社の設備を有料で利用している。 PPSの登録事業者は,商社やガス会社および鉄鋼会社などエネルギーを大量に取り扱う企業や自社消費が多い企業,あるいは再生可能エネルギー(地熱・水力・風力・ゴミや木材片・太陽光など)関係の事業者などが主体となって設立されていて,2012年で約60社あり,どんどん増えている。 |
(e) | 【特定電気事業者】電気会社からの電気の供給を受けないで,特定地域内で発電から配電まですべて自前で電気を供給する事業者。 3.11 大震災直後の東京の計画停電の際,都市ガスによる特定電気事業で発電をしている六本木ヒルズでは,停電しないどころか電力会社へ電力供給さえしていた。 JR東日本も火力と水力の本格的な発電所を有している。 JR東日本は,3.11大震災のときには電力会社へ電力供給していた。 |
(f) | 【特定供給】子会社や事業の関連が密な事業所にだけ,電力供給している。 |
事業所内だけで使う常時自家発電で,届け出義務がある1,000kW以上の設備は,2011年の合計で約5,400万kW(東京電力の規模に匹敵)といわれています。 この中で売電可能な余剰電力は約10%と推定されていますが,発電原価が高い割に売電価格が非常に安い(2012年で,太陽光発電の約1/6)などの面で,あまり積極的に売電されていません。
従来,発電事業と送配電事業は,“一般電気事業者”として地域独占が認められて来ましたが,3.11大震災に伴う福島第一原子力発電所の事故をきっかけに,電力価格や原子力発電への傾斜など,地域独占の弊害が議論されました。
2013年の電気事業法の改正では,発送電の事業を分離し,家庭など小口の電力も自分が気に入った発電事業者から自由に買えるようにする方針が打ち出され,2016年4月からは個人も発電事業者を選べるようになりました。
Q 6.20 隣接地発電 |
[A]
需要家のすぐそばに図 6.18のように発電所を設けると,暖房や給湯などの温水供給やQ6.21で説明する吸収式冷房が使えるなどいろいろと有利な点があります。
ただ,隣接地発電は電力会社が自ら設置するというよりは,ビル(群)や工場などの所有者が設置する例が多いです。
図 6.18 隣接地発電 |
隣接地で発電して,熱力学的に避けられない廃熱を,冷暖房や給湯などのエネルギー源として利用することを
一般的には,天然ガスの内燃機関やガスタービンを用いた小規模発電装置と,その廃熱を利用する構造とが一体となったシステムが,コジェネレェーションと呼ばれています。
発電施設が需要家のそばにある利点と欠点を考えると,以下のようになります。
(a) | 【発電場所による危険性】(欠点) 民生用のコジェネレェーションシステムを考えた場合,都市ガスを利用しない場合は,個人住宅に隣接して発電のための可燃物を貯蓄することになり,災害時に危険であることや,消防法上の手続きの煩雑さなどの問題がある。 また電力の需要地に発電設備を置くことで,排気による空気汚染や隣家への騒音の原因ともなる。 |
(b) | 【送電による損失】(利点) 隣接地発電は発電所から長距離を送電する際の損失や,変電所や配電に伴う損失がほとんどないと考えらる。 一方,長距離を送電しても損失が少ないように,50万〜100万Vの超高圧送電線で送っても,変圧器や配電網での損失があり,電力会社では全体で5%程度の電力損失があるといわれている。 |
(c) | 【燃料の供給にかかる経費】(やや不利) 大規模な発電所は,燃料輸送の観点からも立地に制限を受ける。 一方,家庭用の発電装置に燃料を供給する場合を考えると,その燃料代にはそれらのエネルギー資源を家庭まで輸送するためにかかるコストが含まれる。 家庭では既設の都市ガスを使うのが,追加コストが一番少ない方法であるが,思ったほど普及していない。 |
(d) | 【エネルギー効率】(不明) 最新鋭のコンバインドサイクル発電所では,発電効率は60%程度と小型の発電設備と比べるとかなり高い。 しかし,発電所で出る廃熱を利用するとしても,発電所周辺での利用に限られてしまう。 市街地の街区や大きめの建物に設置した,ガスコンバインドサイクルによる発電では,コジェネレーションを含めた総合効率で80%程度に達している。 一般家庭では,30〜35%程度しかないガス発電の効率に対し,如何に温水を貯めて利用できるかで総合効率は大きく変わる。 理論的には80〜85%は可能であるが,温水利用率の向上が鍵である。 すなわち,冷房電力を多く使う暑いときは,温水への需要はさほど大きくないので,高価な吸収式冷房機が必要となる。 |
民生用のコジェネレーションシステムを考える際は,一定以上の供熱需要がなければ高い効率も意味合いが薄くなってしまいます。
Q 6.21 排気の熱で冷房 |
[A]
冷房装置には,一般的なエアコンのような電動の
日本ガス協会 HPより作成 |
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図 6.19 吸収式冷却 |
図 6.19のように蒸発器内の低圧条件下で,低い温度で水を蒸発させることで,接している冷水の温度を下げ,蒸発した水蒸気は吸収器で
この吸収式は,単体の冷暖房装置としても“ガス冷房”の名で知られています。
実際は家庭用として使うには,費用がかかりすぎて採算が取れず,店舗や事業所向きです。
隣接地発電などの排気に含まれる低温の燃焼熱でも,吸収溶液から水分を分離するエネルギーに使うことができるので,結果的に排気や排水の温度を下げるのに利用できます。
稼働音が静かなので,ビルなどの大規模冷房にもかなり使われています。
Q 6.22 電気を売る商売 |
[A]
都市ガスなどを使って自前のコジェネレーションで発電した電気は,電気事業者にならないと売れません。
日本では個人や小規模な事業者を対象にした売電制度は,2012年7月から太陽光・風力・水力(3万kW未満)・地熱・
新たな価格や買取り期間は毎年見直されますが,その買取り費用は一般の電気代に上乗せされてすべての需要家に請求されます。
2012年の買取り価格と期間は表 6.6のようになっていました。
2014年度の改定では太陽光が下げられ,洋上風力が太陽光並に上がり,消費税分も変りました。
表 6.6 2012年の買い取り価格(1kWh 当り円,5%の消費税を含む) |
買い取り価格の固定期間は,契約時から20年,10kW未満の太陽光は10年,地熱は15年 |
この制度を20世紀末には早々と導入した独(
日本では2013年5月末で,稼働中の非居住用太陽光発電の買い取り制の設備は167万kWで,太陽光発電以外を合計しても原発3基分程度の336万kWにしかなっていません。
しかし,この時点で認可を受けている非居住用太陽光発電設備1,937万kWがすべてが稼働すると,電気代は独並みに上がるかもしれません。
★ 電力の質と原価
電気は発電できればよいというわけではなく,以下のような項目の質も問われます。 |