7.2 送電と配電は電気エネルギー分配の動脈
生物の動脈は,エネルギ源となる栄養や酸素を人体の隅々まで運びますが,電気の動脈の送電線は,電気と情報を運んでいます。
7.2節の内容
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Q 7.4 送電・配電 |
[A]
発電機から出た電気は,送電損失を減らすために変圧器(トランス)を使って,最高50万〜100万V(100万Vは設計電圧で,日本では50万Vでの使用例が多い)程度の高い電圧(UHV:
図 7.3 電気の送配電 |
図 7.3は,電気が家庭や事業所などの需要家に送られるおおよその概念を,図示したものです。
500kV(UHV)や275kV(EHV:Extra High Voltage,225k〜27.5kV)などの高圧で送られてきた電気は,都市の郊外などで,送電線の電圧を154,000V〜66,000V程度に下げ,配電変電所に送られます。
図 7.4 配電変電所への 送電線 |
比較的低い電圧の特別高圧送電線 左右に3本あるが,片側は予備 鉄塔のてっぺんに張られている細い 電線は地線 |
図 7.4の写真は東京郊外の住宅地を走っている特別高圧送電線です。
100万V級の送電方式は,日本の技術による中国での実用実績が物を言って,2009年にIEC(
★ 通信線網を兼ねる送電網
送電鉄塔の最上部には,図7.4のように“地線”という鉄塔から大地に接続されている電線が張ってあります。
地線は基本的には,送電線の避雷針の役目をしています。 |
Q 7.5 交流電圧の変更 |
[A]
電圧を変えられることが交流を使う最大の理由です。
電圧を変えることを“変圧”と言います。
変圧には,ここまでも何回か触れたように,変圧器(トランス:
トランスの構造は,鉄芯に銅線を巻きつけたものです。
日本語の語感としては,“変圧器”は電力会社が関与するような大きなものを指すことが多く,日常的には“トランス”(カタカナ日本語)を使う人が多いです。
図 7.5 トランスで交流の 電圧を変える |
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トランスは図 7.5のように,通常は元の電気を受け取る側を一次側,電圧を変えた電気を出す側を二次側と呼んでいます。 トランスが扱える電力の大きさを容量といい,周波数と鉄芯の大きさで決まります。
Q 7.6 トランスのりくつ |
[A]
電磁相互作用によって変圧します。
おさらいをしますと,第3章のモータのところでモータと発電機はその動作が逆なだけで,りくつは同じだと説明しました。
すなわち,整流子モータは回り出すと逆起電力が起き,その電圧がモータにかけた電圧に近づくと,モータの回転数はその付近で平衡を保ちます。
鉄芯を入れた電磁石のコイルに直流電圧をかけると,図 7.6(a)のように磁場が発生し,それはほとんど鉄芯に閉じ込められたようになります。
図 7.6 コイルの逆起電力 |
(a)直流電磁石 (b)交流と逆起電力 (c)トランスの電圧 | |
コイルにかけた電圧が直流なら,電磁石になるだけでおしまいですが,もし交流をかけるとどうなるでしょうか。
当然ながらコイルに流れる電流も交流になり,図 7.6(b)のように,交流の磁場が鉄芯に発生します。
もちろん電磁石は交流の電磁石になるので,鉄などを吸いつけると,交流の周波数の2倍の周波数のブーンという音が出ます。
では,コイルに同じ電圧(交流はQ1.40で説明した実効値)をかけたとき,直流と交流とではどちらが磁石として強力でしょうか。
じつは,交流の方が弱くなります。
それは,交流の電磁石は電流の向きが変る瞬間に一度磁力がなくなるからという理由ではありません。
実際にコイルに流れる電流が少なくなるからです。
モータのところで説明した逆起電力と同じものが発生して,実質的にコイルにかかる電圧が差し引かれるからです。
そのりくつは次のようになります。
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電磁石にかけた交流の磁場は,そこに巻かれたコイルに電気を発生します。
このコイルは,電磁石にするために巻いたコイル(一次巻き線)だけでなく,同じ鉄芯に巻かれた独立したコイル(二次巻き線)にも,図 7.6(c)のように巻き数に比例した電圧を発生します。
トランスとして使う場合は,単なる電磁石とは異なり,鉄片や釘を吸いつける必要がないので,磁場が逃げないように鉄芯で一回り(閉磁路という)させます。
こうして一次巻き線から送りこまれた電力を,効率よく二次巻き線に伝えます。
図7.6(c)の場合は,一次と二次の巻き線の巻き数比が10:5なので,二次側の電圧は一次側の1/2になり,トランスを使って交流の電圧を変えることができます。
Q 7.7 柱上変圧器 |
[A]
日本では,需要家のすぐ近くの柱上変圧器(トランス)や地上・地下変圧器で,110Vあるいは220Vに下げ,引き込み線や地下配電で小口需要家に供給します。
図 7.7 変圧器の容量 |
最終需要家向けの 柱上変圧器 (50kVA×2) |
柱上変圧器は図 7.7のように,その容量が外に大きな数字で書かれています。
数字を見るために上を見て歩いて
この変圧器には“50”という数字が書かれています。これは変圧器の能力が50kVA ということを示しています。
2台ありますので合計で100 kVAです。
VAという単位はWに似ていますが,変圧器などの能力を表すときに使います。
変圧する交流の電圧と電流をかけ合せた値です。
なぜWを使わないかということはむつかしくなるので,省略します。
この一組の変圧器で,40A契約の一般家庭の需要家なら,
100×1,000VA÷40A×110V)≒22.7(戸)
に電気を供給できます。
実際は余裕を見てあるので,20戸程度までに配電するのが限界でしょう。
住宅街では,通常一つの電柱の変圧器から10〜25戸くらいの家に配電しています。
家電製品,特にエアコンの普及に伴い,一般家庭などの電灯契約のA数は,1970年代から大幅に増大し,2000年ごろには平均30Aに達しています。
Q 7.8 マンションの変圧器 |
[A]
マンションなどの集合住宅や,大規模な商店・工場・学校・病院などの建物では,最後の需
要家向けの変圧器は,敷地内や建物の中に設置されています。変圧器など変電に必要な設備
一切を一体化した,図 7.8(b)のような受電装置をふつう
6,600Vの高圧線から,地中を通してマンションに給電している | ||
(a)高圧受電 | (b)キュービクル | |
図 7.8 高圧受電と受電設備 |
マンションの場合は,キュービクルは地下か敷地の一部に置いてあります。 市街地のまん中の場合は,屋上に設置してあることもありますが,どのみち普通の人が簡単に触れられないようになっています。
Q 7.9 三相交流から単相交流へ |
[A]
三相交流の相間各々に合計3台のトランスを入れて,電圧を下げた出力を別々に使う三つの単相として供給できます。
この場合,この三つの単相交流を合せて一つの完全な単相にはできません。
なぜなら,交流の波の最大値や0の位置(位相という)が,図3.28のように120゜ずれているからです。
通常はトランスを一つ省略して,二つの単相交流すなわち二相交流として使います。
図 7.9 三相から単相への トランスの結線 |
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(a)V結線トランス | (b)Scottトランス |
トランスのつなぎ方としては,図 7.9のような二つの方法がよく使われています。
V結線(V
いわゆる動力(三相220V)もこの接続で得られ,
二つの単相の出力の一方を逆にし,強引に直列に接ぐ(逆V結線という)と,純粋な単相の1出力を得ることはできますが,トランスの利用効率はさらに悪くなり,V接続の
特殊な捲き方をした
一方,トランスの利用効率が√3/2にしかならないこと,および2種類のトランスが必要なことなどの理由で,同一種類のものを多用する配電用の柱上トランスにはあまり使われていません。
主な用途としては,鉄道の交流電化区間など負荷が単相でよいところで,上下線別あるいは同じ線路で上り方面と下り方面に,異なる二相を配置して使われています。
Scott トランスから三相の動力を得ることも,捲き方を変えることで可能です。
Q 7.10 高圧配電線の地中化 |
[A]
配電用に6,600Vの高圧を使っているので,危険防止のため電柱の背は高くする必要があります。
その上の方に柱上変圧器を設置するのですから,たしかに異様に見えます。
図 7.10 高圧配電線の 地中化と地上 変圧器 |
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“ |
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(a)中国広州市の地中化配電線 | (b)東京文京区の地上変圧器 |
日本でも東京をはじめ一部の都市では,配電線の地中化が行われています。 欧米や欧米によって街作りされた中国の大都市では,図 7.10(a)のように高圧の配電線は地中化されているところが多いです。 この場合でも変圧器は,図 7.10(b)のように地上や空中に配置してあります。