7.3 電気は送ると減る
宇宙空間のような完全に障害物が無い状態でないと,たとえ電気といえども移動させると一部が熱になって目減りしてしまいます。
7.3節の内容
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[A]
図7.1にあるように,普通の金属は抵抗があるので,送電や配電に使う電線ではエネルギー損失が出ます。
このため送配電にはエネルギーが要ります。
自宅の積算電力計からパソコンなどの機器までの配線でも,損失は発生します。この分は電気代として支払いの対象になります。
実際の送配電での損失は,電線の抵抗による損失以外に,放電・漏電による損失,変電による損失があります。
電子にはほとんど質量がないので,油や水を運ぶような意味での運搬エネルギは不要ですが,ほとんどの電線材料は電気が流れることに抵抗しますので,その損失分だけエネルギを消費します。
また温度が高いほど電線の抵抗は大きくなりますので,冬より夏のほうが損失が大きくなります。
送電線すべてを超伝導体にすることができれば,抵抗による送電損失は0になります。
ただし,電線を超伝導が起きる温度まで冷やすのに,エネルギが必要になります。日本では2010年から図7.2のような電線を用い,超伝導送電の実証実験をしています。
電線の抵抗損失の大きさは,図 7.11に示すように電圧と電流の積で求められます。
図 7.11 送配電損失と電力 |
損失はエネルギが減少することですから,単位はWで表します。電気の損失は流れる電流の2乗に比例します。
これらの電気の状態を表す量には,次のような関係があります。
電力(W)=電圧(V)×電流(A)
電圧(V)=抵抗(Ω)×電流(A)‥‥‥‥‥‥‥
損失(W)=抵抗(Ω)×電流(A)×電流(A)‥‥ 上の二つの式から
図7.11のように,電圧を倍にして電流を半分にしても電力は変りませんが,損失は1/4に減ります。
同じ電力を送るには,電流が少ないほど損失が減るので,電圧をなるべく高くして送電するほうが有利です。
[A]
電車は第3章でも説明したように,直流の直巻整流子モータを使用していました。
電車のモータの端子電圧は,第一次大戦前は米国GE(
交流電化区間以外の日本の大部分の鉄道は,直流1,500Vを給電しています。
1957年にそれまでのこげ茶色から一気にカラー化し,中央線に華々しく登場した朱色の101系電車には375Vの整流子モータが使われました。
図 7.12 電車のボギー台車 |
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2軸の
電車は架線あるいは第三軌条とレールとの間で,電気を供給しています。2002年に登場した山の手線のE231系電車には電動車が6輌あるので,動きだすときなどの力行時には,全体で最大1,500Aもの電流が必要です。
一方新幹線(25,000V)や地方の幹線(20,000V)では,変電所を減らすことができる交流で給電しています。
たとえば常磐線は,千葉県から茨城県に入った後,藤代駅南側以北が交流電化区間です。
ここの切り替えを走り抜けると,15輛編成のE531系交直両用近郊型電車の一編成当りの最大供給電流は,直流区間の2,240Aから170A程度へと極端に少なくなります。
(a)JR山の手線(1,500V直流給電) | (b)茨城県のJR常磐線(20,000V交流給電) |
図 7.13 鉄道の給電 |
図 7.13のように,新幹線など交流給電の鉄道では電圧が高いため,架線に流れる電流は少なく,架線自体は細くても大丈夫です。
ただし,電圧が高いので碍子が長く,放電用の突起まで付いています。
一方直流給電では,電流が多くなるために架線を2本並行して張ったり,上部の
Q 7.13 送配電線の損失計算 |
[A]
純銅の0℃での抵抗は,150mm2の断面積(直径14mm の電線)で,1kmの長さ当たり約0.103Ωです。
1,000kWの電力をこの断面積の電線で送るとして,往復で10kmの長さの電線による電気の損失を計算します。
1kWは1,000Wです。
電力を6,600Vと154,000Vで割って電流を出します。
流れる電流を2乗して,電線の長さと単位長さの当たりの抵抗値を掛ければ,損失が出ます。
電流はそれぞれ,
A:1,000×1,000/6,600=151.52(A)
B:1,000×1,000/154,000=6.494(A)
です。
ここから抵抗損失はそれぞれ,
A:151.52×151.52×0.103×10=23.6(kW)
B:6.494×6.494×0.103×10=43.4(W)
となります。
6,600Vの配電線の損失は,全配電量の約2.36%にもなり,意外と大きいことがわかります。
一方154,000Vでは損失は白熱電球1個分くらいです。
なお,この断面積150mm2(直径14mm)の電線は,6,600Vの電柱による高圧配電に多く使われています。
[A]
★ 漏・放電による損失
放電による損失は,電圧が高かったり空気が湿っていると,電気が空中を通じて直接大地や他の電線に放電して発生します。
現象としては雷の放電と同じです。
図 7.14 放電や漏電による損失 |
特別高圧やEHV,UHV 送電線の絶縁用の碍子が,汚れた状態で濡れたりすると,図 7.14のように碍子の表面を通じて電気が逃げ,漏電による損失が出ます。
これらの現象は,電圧が高いほど激しくなります。
日本では潮風が吹いて碍子の表面に塩分が付着し易く(塩害),その上雨が多く湿度が高いので,送電々圧をあまり高くはできません。
なお,鉄塔に使われている電線は,被覆がない裸電線です。
本来被覆は,人や物が触った際に感電しないようにあるのですが,送電電圧が高いと,被覆がある電線を触っても,Q4.18で説明したように静電気が誘導されて,感電してしまいます。
★ 変電による損失
電圧を変えるには,トランスが必要ですが,トランスの中の銅線の抵抗による損失(銅損)のほかに,変圧器の鉄芯による損失(鉄損)もあります。
図 7.15 トランスでの損失 |
鉄芯の損失は,図 7.15に示すように,鉄芯に電気が誘導されて起こる渦電流損失と,鉄芯内の磁場が起磁力に比例しないことによる損失があります。
渦電流損失はすでに,第2章のIH式の厨房器具や第3章の図3.32(b)で触れました。
後者の損失は,
Q 7.15 発電から需要家までの電気の損失 |
[A]
電気として需要家が使うまでに,図 7.16のように元のエネルギーは,いろいろなところで損失が出て,減っていきます。
図 7.16 燃料のエネルギを電気として供給するときの損失 |
燃料が持つ化学エネルギーが,タービンなどの回転力になるまでに,煙突から排熱損,Carnotサイクルの損失(蒸気の復水冷却で発生)があります。
これらの損失はどうしても避けられない損失です。
回転力を電力にする発電機での損失を含めると,通常の蒸気タービンでは,第6章で説明したように,LNGや石炭の持つ潜在エネルギーの約40%程度しか発電機から取出せません。
さらにここまでに説明した,送配電での損失,変圧器での損失なども避けられません。
これらを考えると,一般需要家では電気のエネルギーは,元の石油などの燃焼エネルギーの1/3程度しか使えません。
これでも自動車などの移動する内燃機関に比べると,エンジンが無駄に回ったりせず,さらに燃料税が安い分も含めて有利です。
これがEV(