1.6 ビリビリと感電する電気
電気は目に見えません。
電気が起こす現象を見たり聴いたり嗅いだり感じたりして,電気が来ていることを知ります。
電気が惹き起こすトラブルも,五感をたくましくしてないと判らないことがあります。
ビリビリは,感電の原因になり危険です。
1.6節の内容
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Q 1.25 ビリビリ電気とパチパチ電気 |
[A]
ビリビリくる電気と毛のセータのパチパチする電気は性質が違います。
図1.33 感電する |
ビリビリくる電気は一過性のものではなく,触っているといつまでも電気が身体を流れます。
すなわち,電線に触れている限りずーっとビリビリは続きます。
ですから,ビリビリの度がひどいと図1.33のように死んでしまうこともあります。
電線から火花がパチパチ出たり,電線が加熱あるいは漏れたりして煙がモクモク出ると,いわゆる漏電による火事が起きます。
一方セータのようにパチッとくる電気は,通常は一度感じたらそれっきりです。
Q 1.26 洗濯機がビリビリする |
[A]
洗濯機などの家電機器は,内部で電気が漏れるとビリビリと感電することがあります。それを防ぐために多くの家電製品にはアース線が付いていて,漏れた電気を大地に逃がすようになっています。
地球全体から見れば,局所的な漏電量はほんの僅かなので問題はありません。
図1.34 家電機器の 漏電 |
電気が漏れる理由は,図1.34のように,家電機器の内部の配線や器具の劣化や水濡れによって電気が漏れ出す場合と,電気の誘導で漏れる場合があります。
後者の場合は,製品の設計思想の問題ですから,新品でも漏れることがありますが,感電死するほどの水準ではありません。
しかし危険は回避したほうがよいので,かならずアース線を地面につないでください(これを“接地”という)。
なお,後者の場合は図1.30(a)のように,コンセントの左側の溝が長いほうが図1.17のトランスのところで接地されています。
家電機器のプラグを抜いてコンセントに逆に挿すとビリビリしなくなることがあります。
Q 1.27 漏電を調べる |
[A]
家庭の電気製品から電気が漏れているかどうかを調べるには,図1.35にあるような
図1.35 漏電とネオン管検電器 |
これは微小な電流でも発光する
この検電器を電気が漏れていたり,電気が露出している部分に接触させると,人体を通して微小な電流が流れて,ネオン管が発光します。
ネオン管に封じるガスの圧力は,大気圧の100分の1(約1,000Pa:
放電電流が1mA以下でも十分発光するので,人体には感じない場合がほとんどですが,安全のために図1.35のように10kΩ以上の抵抗器で電流を制限し,人体に大電流が流れないようにしてあります。
ネオン管検電器の形状はねじ回し(
専門家が使う検電器は内部に電池で動く電子回路を持っていて,交流の誘導を使って,電線の被覆の上からでも測ることができます。
Q 1.28 本当は怖いビリビリ電気 |
[A]
ビリビリすることを通常,感電と呼んでいます。
感電は電気を知らないと予防できません。
人体の筋肉や脳は神経細胞の中を伝わる0.1V以下の電気信号で動いています。
人体に直接電気が流れ,その電気が神経の電気よりも強いと,神経の電気伝達が阻害されたり異常な伝達を起こしたりします。
図1.36 電気が心臓直撃 |
もし感電した電気が図1.36のように身体の左側にある心臓付近を流れると,心臓の神経が麻痺して心臓の筋肉が動かなくなり,鼓動が止まってしまうことがあります。
すなわち感電によるショック死です。
感電する時は,電源に接触した指先などから,地面に接している足などを通って電流が流れます。
この時指先あるいは足のどちらかが絶縁されていれば,電流が流れることはありません。
人間が電気を本能的に怖れるのは,生物の神経系の化学反応が電気信号で作動するからです。
電池程度の電圧でも人を感電させるには十分な電圧です。
かかった電圧ではなく,神経系に流れる電流によって感電の度合は決まります。
図1.37 皮膚は抵抗が大きい |
生体自体は非常に電気を通しやすく,図1.37に示したように数百Ω台の抵抗しかありません。
電流が流れることに対していちばん抵抗の高い部分は皮膚の表面です。
濡れていて電気が通りやすい手は,乾いた手より低い電圧でもたくさんの電流が体内に流れ込みます。
通常は30V程度以下の低電圧なら,乾いた状態で取り扱うかぎり大丈夫とされています。
皮膚抵抗は個人差・体の部位・湿り気の状態で大きく変わります。
比較的電気を通しにくい状況では数百kΩ以上あります。
それでも,100Vの電気を触ると,
100V÷100kΩ=1mA (註:1kΩ=1,000Ω,1mA=1/1,000A)
の計算から,1mAもの電流が体内を通り抜けることがあります。
神経細胞は数μA(μは
感電しないためには,以下のことに注意します。
(a) | 素手で電気が通っている裸の電線や金属部分に触らない。 触るときは絶縁性の手袋をする。 |
(b) | 水があるところや湿っているところで電気が通っている器具に触れるときは,絶縁性が高い履物を履く。 |
(c) | 電気が通っているかもしれない裸の電線を持つときは,両手で同時には触らない。 片手で触った場合も,最悪,感電した時のために心臓に近い左手では触らない。 |
Q1.37で説明しますが,家庭などで使う電気製品や電線,リチウムイオン蓄電池など,感電や火災の危険がある電気用品の販売については,電気用品安全法で検査による型式認証が義務付けられています。
Q 1.29 心臓と電気刺激 |
[A]
神経は,感電したとき以外でも,皮膚などが刺激を受けると電気を発生して情報を送り出します。
ただ外部からの刺激なしで,自主的に動いている神経は脳と心臓だけです。
図.38 心臓は電気で起動 |
HS-1 フクダ電子 カタログより |
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(a)自前のペースメーカ | (b)AEDの収納箱 |
心臓は図.38(a)のように,右心房上部に自前の心臓
(a) | 同房結節からの電気信号は,心臓神経で心房全体に伝わり,心房が縮んで中の血液を下部にある心室へ送り込む。 なお,右心室と左心房はそれぞれ肺動脈と肺静脈につながっている。 |
(b) | 電気信号は心室と心房の境目にある房室結節という神経の塊に到達すると,少しの間待つ。 |
(c) | 血液が心室に送りこまれたころ,次に心室全体に房室結節から電気信号が伝わり,心室が縮んで血液を身体全体と肺に送り出す。 なお,心房と心室の間には弁があり逆流を防いでいる。 |
(d) | この間心房は弛んで静脈と肺動脈から血液を吸い込み,再度ペースメーカからの刺激を待つ。 |
心室の神経細胞の電気信号の伝達機能が悪くなって,心室だけがぴくぴくと
こむらかえ腓返りを起した現象を心室細動といいます。
細動が起きて突然止まってしまった心臓を,電気ショックで正常に戻すこともできます。
図.38(b)は駅や学校などあちこちに置いてあるAED(
なお,心室だけでなく心房細動も起こりますが,その時でも多くの場合,心室は速くなった心房の動きの1/2や1/4の周期で動くので,血液の送り出し機能は不規則ながら維持されます。
★ Brugada症候群
一千人に数人の割り合いで先天的に心電図波形に特定の異常を示す |
Q 1.30 心臓ペースメーカと携帯電話 |
[A]
Q2.19でも触れますが,携帯電話の電波が人体そのものに直接影響するという明確な調査・研究結果はまだ出ていません。
携帯電話や電子レンジのようなマイクロウェーブ領域の高い周波数の電波を出す機械から近距離にある人体への影響は,電波が人体に吸収されて発熱することが一番の問題になります。
心臓ペースメーカは生体ではないので,電波の影響は発熱だけではありません。
図1.39(a)のように心臓ペースメーカがアンテナになって電波を受け取ることで,誤動作する危険があります。
図1.39 心臓ペース メーカ への 影響 |
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(a)携帯電話 (b)交流電化区間 |
アナログ方式の旧型や第二世代(PDC方式)といわれた以前のディジタル方式の携帯電話では,5cm以下の至近距離で心臓ペースメーカに影響がでる確率が上がったという報告が出ていますが,第三世代(CDMA方式)以降では電波の発射方式が
実際に総務省の指針では,“携帯電話は心臓ペースメーカを埋め込んだ位置から22cm 以上離す”となっていましたが,2013年に出された新しい指針では,図1.39(a)のように15cmに変更されました。
これを受けて,“電車の優先席付近では携帯電話の電源を切るように”という車内放送を多くの電鉄会社ではすでに止めています。
理由は,携帯の電源を切る件で乗客同士の揉め事が多発していたからです。
実際に今の携帯電話の電波は,小さな電池でも長時間送信できる程度の強さしかなく,実験によると3cmの距離まで近付けて始めて心臓ペースメーカに弱い影響が出始めたそうです。
むしろ,あちこちに置いてある携帯電話の基地局の電波からの影響の方が,基地局アンテナの至近距離では強いことがあります。
設置場所によっては,防護柵で立ち入りを制限していることもあります。
病院内などで電話連絡をとるために,携帯電話よりも一桁少ない電力で通話ができるPHSが使われています。 PHSはもともと固定電話の子機を改良したものなので,瞬間的でも最大80mWと携帯電話の1/10程度の強さの電波しか出しません。 それでも近い距離なら十分通話ができます。
★ 恐い交流の高圧
携帯電話のような高い周波数ではない,普通の家庭に送られてくる電気でも人体に影響が出ます。
ある実験・研究結果によると,わずか0.2V程度の家庭の電源(50Hz)に直接触っただけで,身体に40μA程度の電流が流れたそうです。
実験に使った心臓ペースメーカでは,この程度の電流によって約1mVの雑音が発生し,動作が一時的に不安定になりました。 |