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5.2 完全には乾いていない乾電池

 電子機器や時計などの乾電池を,電池が切れた状態で入れっぱなしにして,乾電池が液漏れし,中を錆びさせてしまった経験は誰にでもあると思います。
 実際にSwissスイス製の超高級腕時計は,その多くが液漏れで壊れる可能性がある水晶式ではなく,機械式のムーブメントMovement(駆動機構)を使っています。


5.2節の内容

5.1節 電池は実験と通信に使われた 5.3節 乾電池からは直流が出てくる

Q 5.3 乾電池の液漏れ   Q 5.4 液漏れはどうして起きる
Q 5.5 乾電池は消耗品   Q 5.6 使い切りでない電池
Q 5.7 電池の種類  



Q 5.3 乾電池の液漏れ
 机の引き出しから長い間使っていなかった懐中電灯が出てきました。 液漏れを起してベトベトになっていますが,この液は手で触って大丈夫でしょうか。

[A]
 素手と裸眼では決して触らないでください。電池から漏れた液は強いアルカリAlkali性を帯びていることがあり,目などに入ると失明することもあり,たいへん危険です。
 弱アルカリ性の石鹸水の飛沫が目に入ったときに痛いのは,石鹸のアルカリ分が角膜から水分を吸収して,刺激するからです。 塩酸などの酸も恐いですが,アルカリ性の液体が手につくとツルツルと滑らかになった感じがします。 それはアルカリが蛋白質を簡単に分解するからで,目に入ると失明の危険があります。

★ 強アルカリは金属を溶かす

 普通の感覚では,金属が溶けるのは強い酸にだけだ,と勘違いしてる人が多いです。

図 5.3
アルカリは
怖い

 2012年の秋に,東京メトロ丸ノ内線の本郷三丁目駅に停車中の車内で,強アルカリ性の業務用洗剤をコーヒーCoffeeを飲んだ後の蓋付きのアルミ缶に入れていた女性が,その缶を振っていたところ,図 5.3のように突然爆発し,液が飛び散り11人の乗客にかかりました。 近くにいた乗客の内,二人の目に液が入り,たいへんなことになりました。
 強アルカリAlkali性の液体で,まず缶の内側に焼きつけてあった保護膜が溶け,さらに振っていたのでアルミが溶け,蓋付きの容器内に水素が充満して爆発したものといわれてます。
 この事件があった後も,飲食店に勤務する男が2016年2月20日朝,勤務先にあった高濃度のアルカリ性業務用洗剤をペットボトルに入れてリュックサックで自宅に持ち帰る途中,リュックを背負ったままJR神戸線の座席に座り,ペットボトルが潰れて洗剤が漏れたのに気付かないまま加古川駅で下車しました。 入れ替わりで座席に座った女子高生がお尻に炎症を起こし,約1年の治療が必要となったそうです。


Q 5.4 液漏れはどうして起きる
 乾電池の液漏れはどうして起きるのですか。それは防げないのですか。

[A]
 乾電池は,内部の亜鉛などの金属が酸化することで電気を得ています。 その時多少の水素ガスGasが発生します。 このガスは内部で吸収したり,外部へ排出したりする機構がありますが,ガスの圧力が高まると液と共に外へ出てくることがあります。
 電池の種類によっては,電池の外側が亜鉛の筒になっています。その場合は,金属の酸化が進むと,最悪穴が空いて液漏れを起こします。
 さらに連続で長い間使っていると,内部で発生したガスが上手く抜けなくて液漏れを起すこともあります。
 よく液漏れが起きるのは,器具の中に電池を入れっぱなしにしておいたまま,何年も放って置いたときです。 たとえ器具を使っていなくても,少しづつ電流が流れて(自然放電という),電池は消耗してしまいます。
 電池の外側はいろいろな方法でおおってあるので,軽い液漏れでは周りに被害が出ることは少ないですが,最終的には液漏れ被害を起こすことがあります。

Q 5.5 乾電池は消耗品
 乾電池が液漏れしたら寿命が尽きたのはわかりますが,電気がなくなったらなぜ携帯電話の電池のように充電できないのですか。

[A]
 乾電池は充電に向きません。 電池工業会では充電は禁止しています。 携帯電話の電池とは構造とりくつが違うからです。 無理に充電して何か起きたら自己責任です。
 乾電池は,亜鉛などの金属を溶かして電気を得ています。 乾電池は,外部から電気を流して充電しても,一度溶けてしまった金属を,完全に元のように戻せる(還元反応という)しくみではないのです。

★ 乾電池充電器

 じつは乾電池を充電できるという充電器が売られています。 化学的に可逆反応が可能な範囲の少しの電気量なら充電できますが,大量の電気を充電すると乾電池内部で水素ガスが発生し,爆発する危険があります。 さらに,乾電池を充電するときは次のような注意も必要です。
  (a) 新しい乾電池と混用しない
  (b) 完全に放電する前(電池残量30〜50%のうち)に充電する
  (c) 素人細工で充電せずに実績がある製品を使い,完全充電前に終了とする
  (d) 再充電は10回程度までで止め,小負荷の用途で使う


Q 5.6 使い切りでない電池
 消耗品ではない電池はつくれますか。

[A]
 普通の電池には電気の元になる物質が必要です。 その物質が酸化され,そのエネルギーEnergyが電気として取れ出されます。 化学反応で電気を得ているので,化学電池(Chemical cellケミカル セル)と呼んでいます。
 化学電池は,酸化される物質と酸化剤を補給すれば使い切りになりません。 電池の電気がなくなったら,図 5.4のように外部からエネルギー源を補給してやります。
 使い切りでないない電池には2種類あります。一つは,図5.4(a)のように酸化された物質を電池内部に保存し,外部からの電気エネルギーで電気分解し,酸化される物質を再生産するものです。 もう一つは,図5.4(b)のように外部から新たな酸化される物質を補給するものです。

図 5.4
消耗品でない電池の
エネルギー源
  (a)電気を供給する              (b)燃料を供給する

 第6.5節で説明しますが,太陽光のエネルギーを直接電気にしたり,温度差から直接電気を発生する,化学反応ではない方式で電気を得る電池もあります。 これらは,正確には電池と呼べないかもしれませんが,一般に電池と呼んでいます。

Q 5.7 電池の種類
 電池についていろいろな話が出てきましたが,市場で簡単に入手できる電池にはどのようなものがありますか。

[A]
 電池といわれるものには,乾電池のほかにQ5.6で示したようにいろいろな種類があります。 これらは大きく分けて,表 5.1のようにだいたい4種になります。 上から三つの種類の電池は化学反応を利用しています。

表 5.1 電池の種類

【一次電池】
  

 わたしたちが通常電源に使うために買っている電池は,一次電池といい使い捨てです。 この電池は乾電池とも呼ばれており,マンガンMangan(独語)電池やアルカリAlkaline電池,リチウムLithium電池などいくつかの種類があります。
 電池の容量はAh(Ampere hourアンペアアワー)で表されます。 これは“流すことができる電流”ד時間”の量を示しています。 近年は容量の増加によって,より長時間使える電池が流通しています。

【二次電池】
  

 二次電池は蓄電池とも呼ばれ,通常は機器に組み込まれた充電用の機構と,簡単に接続できるようになっています。 自動車などの大電流を必要とするものや,ノートパソコン,スマホやタブレットPCなど,体積や重量の割には多くの電気を喰う機器には,使い捨ての一次電池ではなく,放電で酸化した物質を電気分解で再利用できる,充電式の二次電池が使われています。

【燃料電池】
  

 燃料電池は,原理的には電気分解と逆のことをやって発電するものです。石油や穀 物などから純粋な水素やメタノールMethanol(CH3OH)などを発生させ,それらを触媒を使って酸化する電気化学反応によって直接発電します。
 詳しくは第6章で説明します。

【太陽電池】
  

 太陽電池(Solar cellソーラ セル)は,時計や電卓の電源以外では,最初は宇宙・山奥・海上な ど,消耗品の補給が困難な地域での電源として使われはじめました。 発電効率の向上に伴い,家庭や大きな建物でも,電力会社からの電源の補助に盛んに使われ始めました。これも第6章で説明します。




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