Title

6.5 太陽光で発電する


 太陽電池の小型のものは,電卓や時計などの電源に以前から使われていましたが,最近は,従来の発電所の代替を目指した大型の太陽電池も作られています。
 太陽光発電は,3.11大震災後一時は大騒ぎとなりました。 原子力発電の代替に使えるクリーンな電源として,大きく期待されたのです。 家庭の屋根やビルの屋上・壁面を利用する程度のものは,非常な拡がりを見せています。


6.5節の内容

6.4節 熱によらない発電 7.1節 電気を送るには

Q 6.26 太陽電池   Q 6.27 太陽電池の効率
Q 6.28 太陽光の平均強度 Q 6.29 発電できる電気量の概算
Q 6.30 自宅の太陽光発電の採算性 Q 6.31 原子力発電の代替
Q 6.32 太陽光発電した電気の蓄電 Q 6.33 小規模な太陽光発電と蓄電池



Q 6.26 太陽電池
 太陽電池はどうやって発電していますか。

[A]
 発電そのもののりくつは,他の電池とは異なり物理現象です。

図 6.21
光発電のりくつ
 (a)光電効果     (b)荷電子の励起    (c)光発電

 相対性理論で有名なEinsteinアインシュタインNobelノーベル賞を受賞したのは,図 6.21(a)のように,真空中で光を導体に当てると電子が飛び出す現象に関する光量子仮説です。 光量子仮説によると,光はその波長に反比例したエネルギーを持つ粒子として扱われます。 光量子仮説は,それまで実験的に解っていた,“電子が飛び出す速度は光の強さには依らない”という事実を説明できました。
 図 6.21(b)のように,太陽光が絶縁体や半導体に当たると,そこにいた電子が,休んでいる状態から突然活動状態へ飛び上がり,自由電子になります。 しかしそのままでは,Q2.7で説明したように,物体の中で無駄に動いて,電子の抜けた孔にまた戻ってしまい,得たエネルギーはやがて熱となってしまいます。
 そこで図 6.21(c)のように,電子が負の電荷を担って動くn型と,電子の抜け殻(ホールHole,正孔とも言う)が正の電荷を運ぶp型の2種類の半導体で,接合(Junctionジャンクション)を作ると,n型とp型が接している部分には,図 6.22のように電気を運ぶキャリアCarrier(担体,電子とホールのこと)が中和してなくなった空乏層(Depletion layerディプレッション レイア)が出来ます。

図 6.22
半導体の接合面

 これは,電子やイオンが集まったできた図5.20の電気二重層と似た動きです。 キャリアは接合面から遠い方だけに残っています。 空乏層のn型半導体は正に,p型半導体は負に帯電しています。 このため図のような電位の勾配が出来,それ以上中和電流は流れなくなります。 すなわち,空乏層は絶縁層になります。
 外から接合部に光が当たると,図6.21(b)と同じようにキャリアが励起され,自由に動けるようになります。 このとき光の粒子一つからできるキャリアは,正のホールと負の電子の一組です。 これらのキャリアは,初期状態で空乏層が出来たときと同じりくつで,図6.21(c)に示すようにそれぞれ左右に追い出されます。
 すると,n型半導体全体としては電子が過剰になり,p型では逆のことが起ります。 外部に電線をつなぐと,この光の粒子の衝突で発生した過剰な電子は,外部で仕事をしてp型半導体の電子不足なホールと再結合して,一生を終えます。 すなわち,光電池の完成です。

Q 6.27 太陽電池の効率
 太陽光が全部電気になるのですか。

[A]
 じつは太陽電池では,当たった太陽光エネルギーのどのくらいが電気として取り出せるか,という効率が大きな検討項目です。 これは電池を作る材料にもよりますし,いろいろな細工さいくを加えても変わります。

図 6.23
太陽電池の効率
 (a)電気に変換されない分          (b)電気への変換範囲

 太陽電池は,図 6.23(a)のように種々の原因で効率が低下しますが,いちばん大きな原因は,図 6.23(b)のように,電池セルCell自体が利用できる太陽光の範囲が全太陽光ではないことです。
 a-Si(Amorphous Siliconアモルファス シリコン:非晶質硅素)では,太陽エネルギーの中で電気に変換できる部分は,比較的エネルギーが高い黄緑の光から紫外線です。 一方Poli-si(Poli-Siliconポリシリコン:多晶質硅素)では,赤い光から赤外線までを電気に変換できます。
 太陽電池の種類や構造にもよりますが,この各変換可能範囲は全太陽光エネルギーの約30%程度です。 この両者のいいとこ取りをした多層構造の太陽電池もあります。 2013年の時点で米国のNREL(名称は図6.13 参照)が認定した最高変換効率の太陽電池は,このいいとこ取り手法により34.9%に達しています。
 なお,地上の植物が緑色に見えるということは,緑色を光合成には使っていないということで,植物の太陽光の利用効率はよくありません。 いわゆるバイオ燃料は保存できるということと,設備投資が安価であるということを除けば,効率では太陽光からの直接発電にはとうていかないません。

*   *   *
★ LEDでも発電できる

 LED(Light Emitting Diodeライト エミッティング ダイオード)は,白熱電球に代わる省電力照明の切り札になっていますが,モータなどと同じく可逆的に使って発電にも使えます。
 じつは,LEDで使っている半導体と内部の構造は,太陽電池とほぼ同じです。 もちろん発光用に特化した構造なので,発電用に集光している太陽電池の効率にははるかに及びませんが,LEDをいくつか使ったりレンズLenzで集光すれば,電卓を動かす程度の電気を起こすことができます。

★ 有機半導体による太陽電池

 大阪大学産業科学研究所は,木材から作った15nmの太さのセルロースファイバでいた紙に,幅100nmの銀の導電膜を印刷・塗布した透明な基材を開発したと,2012年に発表しました。
 この上に有機半導体の太陽光発電膜を形成して,3%の光電変換効率が得られたそうです。 基材を安価に作成できることと自由に曲げられるため,太陽光発電装置の設置の自由度が上がることが期待できます。


Q 6.28 太陽光の平均強度
 太陽光発電装置の全入射光に対する効率は,図6.23で考えた通りでよいのですか。

[A]
 図6.23は太陽電池単体の効率を考えたものです。太陽光発電装置として考えると,太陽光が使える電気になるまでの効率すべてを考えなくてはなりません。
 先に,太陽から来た光エネルギーの一部しか太陽電池には届かない,というりくつについて図 6.24を見ながら考えます。

図 6.24
地表への太陽エネルギー

(a)  地球が太陽からの平均的な距離にいるときの,宇宙空間での太陽からの全エネルギー(太陽定数という)は,太陽光に垂直な面で測って1.366kW/m2程度である。
 もし太陽電池の効率が100%で,このエネルギーが全部使えれば,日本の普通の家庭一軒分の電気は,畳2枚分(3.3m2)程度の太陽光発電パネルで間に合う。
(b)  しかし地表は,人工衛星とは異なり夜には太陽光がない上,雲がなくても大気がある。 これらのために太陽エネルギーは,雲や海面および地表で反射(反射能はアルベドAlbedoとよばれ,地表の平均値は0.306)されたり,大気や雲で吸収され,昼間でも平均して約半分しか地表には届かないといわれている。
 吸収された太陽エネルギーの一部は地表に達し,大気中の二酸化炭素の吸収によって,地表温度を平均15℃に保つのに役立っているが,太陽光発電には使えない。 なお,この二酸化炭素が赤外線を吸収する温室効果がないと,地表温度は平均−18℃になるといわれている。
(c)  JISジスJapan Industry Standardジャパン インダストリ スタンダード:日本工業標準)では,雲がない状態での標準的な大気での減衰比を,AM(Air Massエア マス )と定義している。 頭上に太陽がある位置での値をAM=1として,大気の厚み効果を表している。
(d)  日本の緯度では,太陽光は通常斜めから射すので,AM値は1.5程度になり,北へ行くほどAM値は大きくなり,冬はさらに大きくなる。
 なお,JISでは標準太陽として,地表で太陽光に垂直な面で1kW/m2の日射量がある,という基準で太陽光発電の性能を示すとしている。 この条件は,地表の反射能を0.2,AM値を1.5として想定している。 しかしこの値は,完全に澄んだ晴天時に得られる理想値と考えるべきであろう。
(e)  太陽光がない夜や雨天・曇天を考慮に入れた平均日射量については,(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構(略:NEDO)から,日本全土の800地点以上の値が発表されている。
 それによると,関東地方では全天からの一日の日射量は,年間平均12〜13MJ/m2である。 これを一日の秒数(24×3600=86,400)で割ると平均電力が得られ,約140〜150W/m2である。
(f)  日本では日射量は,緯度よりも雨や雪および曇りの日数に左右される。 中部山岳地帯や本州・四国の南岸および沖縄で,ようやく14MJ/m2となる。 一方,北陸・山陰は関東よりも低く,12MJ/m2以下の場所が多い。

 日本で一年を平均して利用できる太陽エネルギーは,145W/m2程度と見積ることができます。 この値は,宇宙空間での太陽定数の11.6%にしかなりません。

*   *   *
★ 北半球は夏は太陽から遠い

 太陽からの距離は地球の軌道が楕円であるために,北半球が冬の1月4日ころにいちばん太陽に近づき(近日点という),1億4,710万kmとなります。 夏の7月4日ころは1億5,210万km で,平均149,597,870 km(1天文単位という)です。 夏と冬で軌道上の日射量は約3%程度違います。 もしこれが逆で,近日点が7月だったら北半球の夏はもっと苛酷だったでしょう。

Q 6.29 発電できる電気量の概算
 自宅の太陽光発電には,どのくらいの大きさの太陽光発電パネルを設置する必要がありますか。

[A]
 Q6.27でりくつを調べた太陽電池の最大効率に,平均的な太陽エネルギーをかけ合わせれば最善の発電量が計算できます。

(a)  使用している太陽電池の種類にもよるが,太陽電池が利用できる光の範囲のエネルギーは全太陽エネルギーの約30%である。 Q6.28で求めた年間平均の太陽エネルギー(145W/m2)をかけると,45W/m2程度となる。
(b)  JISで決めた測定法で測った公称最大出力だと,300W/m2程度の電力が得られる。
(c)  太陽電池が発電する電気は,直流の低い電圧なので,家庭内の機器で利用するには交流の110Vにしたり,電力会社に売電するための装置パワーコンディショナPower Conditioner(電力調整器)を通す必要があるが,そこでも2.5〜5%程度の変換損失がでる。 また屋根などに設置した各パネルから電気を集めて来ると,そこでも損失が出る。
 さらに太陽電池自体にも内部抵抗があり,電圧最大と電流最大を同時に満足させることはできないので,損失が出る。
(d)  (c)に経年劣化などを合わせた変換効率は,最大で75%程度(JIS推奨計算基準値)と想定されている。
(e)  地上での太陽光エネルギーと,太陽電池の効率および直交変換効率を考えると,太陽光発電パネルの平均発電量は,理想的な値で36W/m2程度となり,年間では,
  36×24×365=315kWh/m2
が,得られる総電力となる。

 なお,2012年の経済財政白書によれば,2011年における平均的な太陽光発電の設備利用率(最大発電量に対する実際の平均発電量)は12%だそうです。
 JIS の公称最大値を使って平均発電量を出すと,300W/m2×0.12=36W/m2となり,上記の推論とよく合致します。
 ただどちらの値も,AM=1.5の時のJISの日射量や,理想的な太陽電池の変換効率を元に出したものです。 現実に発電ができる太陽光発電パネルの効率と,設置場所の太陽光照射量を元にした場合は,ある程度間引いて見積もるのが安全でしょう。

Q 6.30 自宅の太陽光発電の採算性
 自宅に太陽光発電パネルを設置すると得しますか。

[A]
 たくさんの先進的な人が,自宅に設置した太陽光発電パネルで発電したデータを公開しています。 それぞれの測定条件が解らないので正確に判断できませんが,表 6.8にある人がHP上で公表しているデータを統計処理して示します。

表 6.8
太陽光発電の
実績例

 これを見ながら採算を検討して,収支トントンになればよいでしょう。

(a)  単身家庭などを除く,日本の通常の一戸当たりの年間電力需要は,21世紀初頭で4,500kWhといわれている。 この表 6.8の家のデータは,比較的電気の消費量が多い。
(b)  自宅の太陽光発電が儲かるかどうかは,太陽光発電パネルの単価や効率低下も含んだ寿命だけではなく,売電価格や各種補助金などの政策に依存する。
(c)  2012年から,再生可能電力の電力会社への強制的な高額買い取り制度が始まったので,とりあえず需要家の買電が1kWh当り24円(原発停止で値上げが認められる以前の東京電力の2段階目の料金),売電が表6.6の38円と,価格は政策的に買電価格の1.5倍以上に設定されているとする。
(d)  表6.8と同じ3.3kW(25m2)の太陽光発電パネルを設置したとする。
(e)  平均的な年間消費電力量4,500kWhの需要家だと,表6.8のデータの52%程度の消費量なので,3.3kWの太陽光発電パネルからの給電が主になり,わずか641kWhの買電超過となる。
(f)  この際の平均売電量は,需要家の状態で大きく変わるが,一切無視して,表6.8の実績例3,859kWhの年間発電量の半分の約1,930kWhが売電できるとする。 すると,38円−24円の売買差額14円から,14×1,930≒27,020円ほどの年間収入が見込める。 なお,標準需要家の消費量4,500kWhに不足した電力分641kWhは計算外となる。
(g)  発電設備なしだと,3,859kWh分の92,616円の支出が必要なので,差引合計で約12万円ほどの利益が出る。 この利益で設備を買って維持できればトントンである。
(h)  3.3kW程度の太陽光発電パネルの設備費用は,2012年の時点で,工事費を入れて200〜250万円程度である。
 ただし,国や都道府県および市区町村の補助金が50万円程度得られるとすると,150万円〜200万円で済む。 売電収入から設備の償却費を引くことができ,所得0なので税金がかからないと仮定する。 設備が故障による保守や発電効率の低下なしで,12〜17年連続して使えれば,太陽光発電装置を置いても損はない。 表6.6に示す固定買取り期間の10年で元を取るのは,ギリギリであろう。
(i)  さらに電力調整器は10年,パネルもいちおう10年で寿命となっていることが多いので,前者に関しては交換や修理費用がかかる可能性がある。
(j)  なお,売買電しないで電力を自給自足にするには,パネルも4.5kW程度必要となり,さらに電気をためる蓄電池として,9kWh程度の蓄電システムに200万円ほど余計にかかる。

 したがって個人宅では,25〜35m2程度の太陽光発電パネルを設置し,昼間電気が余れば売り,夜や冬は不足する電気を買うということはできそうです。
 一方電力料金は燃料費の上下でも変動しますし,消費量が増えると割高になるようになっています。
 ただ,太陽光発電パネルからの電気がまったく得られない状態でも必要な電力を賄えるようにしなくてはなりませんから,契約A数を下げることはできません。 すなわち基本料金は変わらないということです。
 なお,売電用の積算電力計は,Q1.16で説明しましたが,一般に売る側に費用負担と管理責任があります。

Q 6.31 原子力発電の代替
 太陽光発電で原子力発電の代替はできないのですか。

[A]
 図 6.25の図からも解るようにむつかしいでしょう。家庭や建物の屋上・壁面などで発電する小規模な太陽光発電パネルではなく,原子力発電の代替となると,次の四つのことを考える必要があります。
  a:発電効率,b:設置面積と場所,c:蓄電方法,d:設置・維持費用
 そのりくつを追うためにいくつかの数値を調べます。

図 6.25
太陽光発電所の
必要面積

(a)  既設の発電所については,1基当り1GW(百万kW)の発電能力を有する原子力発電や大規模火力発電では,稼働率がいちばん重要な要素である。
(b)  汽力発電の年間稼働率を80%とすると,年間約7TWhの電気が供給できる。
 実際に最大電力消費時と最低時との比は,真夏や夏冬と春秋の間で倍以上あるのと,定期点検があるので,稼働率はさらに低下して70%程度になる。
(c)  2012年の時点で稼働している大規模太陽光発電所の一つに,川崎の扇島太陽光発電所があり,23ha(0.23km2)の敷地(パネルの設置面積は約半分という)で最大出力13MW(100W/m2強),年間総発電量13.7GWhを得ている。
(d)  扇島の横浜側には,太陽光発電所の約1/3の面積(7.2ha)に,東京ガスの扇島パワーがあり,こちらはコンバインドサイクル3基で,太陽光発電所の約100倍の大型原発1基分に相当する,1.22GWの発電能力を有している。
(e)  太陽光発電の稼働率を考えると,扇島パワーの単位面積当りの年間総発電量は,扇島太陽光発電所の1,500〜2千倍近くになる。
(f)  稼働率を70%と仮定した扇島パワーと同程度の年間発電量7.5TWhを,太陽光発電で確保しようとすると,扇島太陽光発電所の約550倍の面積が必要で,これは山の手線の内側の面積の約2倍に相当する。
(g)  3.11大震災以前の原子力発電の年間総発電量,約300TWhを確保しようとすると,約5,000km2の土地が必要となる。 この面積は関東平野(17,000km2)の1/3弱である。

*   *   *
★ 電気を使う方も桁違い

 事業仕分けで有名になった理化学研究所のスーパーコンピュータSuper Computerけい”は,2011年の6月と11月に実施された全世界のスーパーコンピュータの性能比較で,それまで世界一だった中国の“天河”の4倍の10.51P FLOPSペタ フロップスという演算性能を出し,二回ともトップTopの座に着きました。 ちなみに,2013年の6月の時点では第4位です。
 しかし,その最大消費電力は何と11MWで,扇島太陽光発電所の最大発電電力をほぼ喰い尽くします。 もちろん“京”の建屋の屋上には,太陽光発電パネルが設置され,晴天時に消費電力の0.45%ほどを発電できるそうです。

Q 6.32 太陽光発電した電気の蓄電
太陽光発電で起した電気は,使い切れないときはどうしますか。

[A]
 火力や水力発電など発電量を自在に変えられる方法のバックアップBack Up発電なしでは,太陽光発電に全面的に頼ることはできません。
 もちろん蓄電池を用意すれば,あまった電気をためることはできますし,ためた電気を夜や天気が悪いときに使うこともできます。 図6.25の広さを確保した太陽光発電所から,原発や大規模火力発電1基並の年間7.5TWhの発電量が得られるとし,その一日分の発電量の半分をためようとしても,10.3GWh分の電池を用意しなくてはなりません。
 たとえばバスやトラックに使う24V,160Ahの鉛蓄電池を使っても,実用的には2kWh程度しか電気をためられませんから,500万個以上必要となることが分かります。 電池の総重量は約30万t,平らにべったりと並べると約70haの面積が必要です。 蓄電池の費用だけではなく,設置する場所も問題となります。 さらに,寿命が短い充放電を制御する設備の更新と保守の費用もかかります。 大規模太陽光発電は決して経済的ではないのです。
 事実,2014年10月からは東北電力など5社が当面の間,風力や太陽光などの不安定な大規模電力の新規買い取りを中止したことがあります。 その主な理由は,現状の発電変電設備および送電設備が,蓄電池などの補助無しでは買い取り供給電力の変動に耐えられないということです。
 さらに九州電力は,すでに稼働中の太陽光発電からの過剰な電力の受入れ停止を2018年10月13日(43万kW),14日(62万kW)の土日に実施しました。 この受入れ停止は国内の電力会社では初めてのことですが,今後も春や秋の休日などで電力消費が低下する好天の日中には,頻繁に起こりうることです。
 これは当初の契約に基づく受入れ停止の措置であり,太陽光発電側は電力売上げだけでなく,その他の補償を得る権利もありません。 なお,余剰電力が発生した場合に本州や四国に送電することもすでに10月1日(112.5万kW分)に実施済みです。 今回はこのような送電をしても,なおかつ太陽光発電の電力が余分となったようです。
 受入れ停止は次週の20,21日にも実施され,118万kW分が送電線から外されました。 無計画な太陽光発電や風力発電は,すでに原発を否定した独でも送電不能をもたらし,独国内に豊富に埋蔵されている褐炭による火力発電を増やして,電力の供給と需要のbalanceが崩れたときの対処をしています。
 太陽光発電は価格面でも優位性は急速に失われています。 2016年4月の方針では,家庭からの買取り価格は,2016年度の31〜33円から18年度には26円に引き下げられました。 企業などが運営する10kW以上の大規模な設備からの買取り価格も,2012年度40円,13年度36円,14年度32円,15年度27〜29円,16年度24円,17年度21円と,毎年2〜4円程度引き下げられ,18年度には18円,19年度には14円になりました。 さらに,2022〜24年度には大規模設備は8.5円,家庭からのも2020年代後半には11円となります。
 買取り価格が高かった2012〜14年度に設置申込みをし,18年度末までに送電線に接続しない設備からの買取り価格は,2017年度の価格に下がる予定です。 これは,高い値段で売値を確定し,設置費用が急速に低下していることを背景に,設備の設置を延期して大きな利益を得ようとする事業家を締め出すためです。
 なお,大規模太陽光発電所の費用については,場所と規模および電池の有無で大きく異なるのでここでは議論しません。 3.11大震災の後,多くの論者が太陽光発電で原発の電力の代替をさせようといい出しましたが,太陽光発電の基本は,家庭用など小規模の省エネルギー対策用で,土地代が高い日本で,大規模太陽光発電事業を汽力発電と同列に論じることは無茶かもしれません。

*   *   *
★ 大規模蓄電

 2016年3月福岡県の瀬戸内海に面した所にある豊前発電所構内の空スペースに,九州電力の大容量蓄電システムが設置(変電所も新設)されました。
 蓄電規模は,設置時点で世界最大級の30万kWh(出力5万kW)で,昼間の太陽光発電などの強制買い入れで余った電力を蓄めておいて,夜間に放出するためのものです。 設置面積は1.4haで,日本ガイシ製の出力800kWのナトリウム硫黄(商品名:NAS)電池ユニットが63台置いてあります。
 NAS電池は,ナトリウムと硫黄を300℃と高温で作動させるため,火災などの危険を常に伴うので,水を使わない消火設備等,十分管理が行き届いた環境下でないと利用できません。 個人や小規模な事業所での太陽光発電用の蓄電設備には,やはり鉛蓄電池が最適です。

Q 6.33 小規模な太陽光発電と蓄電池
 家庭や屋外で,小規模な太陽光発電パネルで得られた電気を蓄電して使うという考えはありますか。

[A]
 FIT(固定価格買取り)が10年間なので,2019年から太陽光発電初期の42円という買取り契約が切れます。 その後は,2019年は上述のように24円で再契約できますが,その後も買電価格が下がり続けると,売電で利益を得ることは難しくなります。 EV車の電池や据え置きの鉛蓄電池に蓄めておいて自家用として使う方向になるでしょう。
 すでに大規模に実用化されている小規模な用途として,KDDIは“トライブリッド電力制御”という名前で進めています。 KDDIでは2012年時点で全社の消費電力の約60%が,あちこちに設置されている携帯電話の基地局で消費されているということです。

図 6.26
KDDIの
太陽光発電
情報処理
Vol.53,No.8より

 そこで,基地局に太陽光発電と電力会社からの夜間電力の売電と蓄電をする装置を付け,図 6.26に示すような実験結果が出ています。 この例では,200Wという比較的小電力の基地局に400Wの太陽光発電パネルを付け,夜間電力と太陽光発電の電気による充電だけで,6時から22時までの昼間の電力消費が多い時間帯は,電力会社からの買電なしで基地局が稼働できています。
 KDDIは全国にこの方式を展開することで省エネルギー化に乗り出しています。

★ 電気自動車の電池を利用

 電気自動車(EV:Electric Viehcleエレクトリック ビークル)は,HV車とは異なり100km以上を走行できるだけの容量の電池(例:24kWh)を搭載しています。 この容量は年間4,500kWh消費する平均的な家庭の約2日分です。なお,EVは電気料金が安い夜間電力を使って充電するのを基本としています。
 この電池を,走行用だけでなく太陽光発電の余剰電力の充電にも使い,かつ自家用の電気にも使うと,太陽光発電の電気を充電するために電池を別途用意する必要はなくなり,売電しなくても電気代の節約になります。
 しかし,昼間太陽が出ている時間帯に,車が自宅から出払っていると充電できませんので,節電を考えると,車の使用を太陽光のご機嫌に合わせる生活様式が必要になるでしょう。




もくじへ
前の章の頭 この章の頭 次の章の頭
前の節の頭 この節の頭 次の節の頭

©2016 Yikai Family
このpageの著作権は猪飼家が保有しています。 転載禁止です。