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6.4 熱によらない発電


 日本の発電は現在は,90%が熱機関による発電ですが,敗戦後の1958年ころまでは,日本の発電は“水主火従”と言われ,70%以上の電力が水力発電所から供給されていました。 1960年に火力との割合が半々になりました。それが今は,水力が約8%の“火主水従”です。
 熱媒体を用いない発電方法には,大きく分けて回転型の発電機を使うものと,エネルギー源から直接電気に変換するものがあります。 前者は交流発電となりますが,後者は直流発電です。


6.4節の内容

6.3節 発電はだれでもできる 6.5節 太陽光で発電する

Q 6.23 熱を用いない回転型発電   Q 6.24 直接発電
Q 6.25 水素が燃料になる



Q 6.23 熱を用いない回転型発電
 熱を使わないで回転型発電機を回す例には,どんなものがありますか。

[A]
 表 6.7のように水や空気の流れの力で,直接タービンやプロペラPropellerを回して発電することもできます。

表 6.7 熱媒体を使わない直接発電

 水力発電は非熱回転型発電の中でも,最大の供給能力があります。日本には2010年時点で約4,500万kWの水力発電設備があります。 中国長江の三峽ダムにある発電所には,70万kWの発電機が32 基設置されていますから,一ヶ所で日本全国の水力発電容量の約半分を有している計算になります。
 Hollandオランダ(正式国名はKoninkrijk der Nederlanden)が風車の国で有名なように,風力が比較的安定している欧州北部では,Deutschlandドイツが洋上に大規模な風力発電設備を持ち,Danmarkデンマークは電力消費量の20%も賄っているという例もあります。 中国では風が強い西部を中心にたくさんの風車を設置し,2010年の時点で設備出力は世界一の4,230万kWになっています。
 日本は東北地方北部や北海道は風力も高いのですが,風力の安定度は悪く,稼働率は他国に比べて低いです。 福島県沖20kmの浮体上に2千kWの風力発電機を置く実証実験が,2013年から始まりました。 うまくいけば本格建設に移り,2020年ごろに原子力発電1基分の電力が得られるそうです。
 水力発電や風力発電だけでなく,潮汐力や波浪力で水や空気の流れを発生させて,発電することも研究されています。 こちらは稼働率も高く,かなり安定しています。実際に,FrançeフランスDoverドーバー海峡に面したLa Ranceラ・ランスでは,24万kWの潮汐力発電所が1966年に完成し,稼働率96〜97%と伝えられています。

*   *   *
★ 羽根も可動部もない風力発電

 風力発電は,大きなプロペラが風切り音を出したり,暴風が吹くと壊れたり,渡り鳥がプロペラに衝突するなどの欠点が指摘されています。
 HollandのDelftデルフト工科大学が開発している風力発電システムEwiconエビコンはプロペラがなく,動く部品もないそうです。 りくつは帯電させた水粒子を放出して,風の力で電界に逆らって逆方向へ移動させることで発電する,一種の風力電池とも呼べるものです。

Q 6.24 直接発電
 水や空気などの媒体の圧力差で回転型の発電機を回す以外に,熱を使わないで発電する方法はありますか。

[A]
 エネルギー源から直接直流を発電できるものとしては,太陽電池や燃料電池があります。 太陽電池は後の6.5節で説明します。太陽光エネルギーは密度が低いのと,夜以外でも冬や曇・雨天では稼働率が低くなるのが最大の欠点です。
 太陽光でなくても,温度差があれば半導体や金属の接合を使って,直接電気を発生させることもできます。 直接発電の場合は回転機による発電ではないので,直流になります。

★ クリーンエネルギー

 地熱,水力,潮汐・波浪力,風力や太陽光・熱による発電は,発電時に直接放射線や二酸化炭素を排出しない発電なので,クリーンCleanなエネルギーと言われています。
 これらのエネルギーは,大気中の二酸化炭素(CO2)の増加による温室効果を防止する決め手とされていますが,地熱・(潮汐・波浪力を含む)水力以外は,いずれも21世紀初頭の現在でも,発電コストCost(費用)は高く付いてるようです。 さらに日本では稼働率を考慮に入れると,風力や太陽光発電のコストが劇的に下がる可能性は低いかもしれません。
 実際に大気温度は,二酸化炭素以外にもメタンMethaneなどの温室効果ガスや太陽の活動量によっても変化します。 代替エネルギーについては拙速に結論を出さずに,種々の方法を模索するのが最善でしょう。


Q 6.18 水素が燃料になる
 燃料電池は何を燃やしているのですか。

[A]
 燃料電池は火を付けて燃やしてはいませんが,燃料を空気中の酸素で直接酸化して電気を取り出す方式の電池です。
 炎を出さずに燃料を酸化するには,以前は触媒に白金を使っていましたが,2010年代になって安価で白金と同程度の触媒能力を持つ物質が,いろいろと開発されています。
 燃料電池は,自動車の動力用電池としての研究開発が進んでいます。 一方,ノートパソコンや携帯電話などの携帯電子機器に使われている二次電池の代用になる,小型の燃料電池の開発も重要視されています。
 燃料電池は,Q6.6で説明した熱機関(Carnotカルノーサイクルの限界)の制約を受けないので,理論発電効率は,25℃の酸素と水素で発電すると,約83%まで取れるといわれています。 実際には,水素を精製する際のエネルギー損失や電池自体の内部損失などで,最新鋭の火力発電所の効率(約60%)程度までしか得られません。
 燃料としては,大型燃料電池にはいろいろなものが使われますが,基本は水素です。 ただ水素をそのまま保存したり持ち運ぶのは危険なので,何かに収蔵させるか,あるいはメチルアルコールMethle AlcholeメタノールMethanol)を燃料とするものもあります。

図 6.20
燃料電池


← ロームのHPより
     ↓
 (a)水素燃料電池の構成  (b)水素化カルシウムのシート

 電気が発生するりくつは,図 6.20(a)のように普通の一次電池と同じで,負極で水素から電子が出て水素イオンIonになり,水素イオンが正極で酸素に酸化吸収される間に,電気として仕事をします。 ただ水素源として乾電池に使っている亜鉛など有限量の固体ではなく,気体の水素を補給することで,無限に使えるという利点があります。
 携帯電話の充電に使える燃料電池としては,図 6.20(b)の写真のような,重量3gで容積2.9mlの水素化カルシウムCalciumシートSheetで水素が供給され,約5Wh 分の水素を持っているものがあります。

★ 白金を触媒にして緩やかに燃やす

 使い捨てカイロ(懐炉)の出現であまり見かけなくなりましたが,白金を触媒にしてベンゼンBenzeneを炎を出さずに燃焼させる白金カイロが,1932年に的場仁市が創設したハクキンカイロ社から発売されました。
 ポケットティッシュ大の現行機種は,専用カップCup(8ml)に2杯の燃料で,24時間もの間かなりな温度に温めることができます。 使い捨てカイロよりも長持ちし温度も高いので,主に寒冷地での野外活動などに使われています。 著者はこの方式が超小型発電に使えることを期待しています。




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