7.4 交流の供給方式は単純ではない
電池の電圧にいろいろあるように,家庭や事業所に供給されている交流は,単純ではありません。 周波数,電圧,相数や帰線なども,国によって異なります。
7.4節の内容
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Q 7.16 東西の周波数 |
[A]
第6章で説明したように,東京では明治中期に直流発電を開始しました。
その後明治後期に交流化するときに,“東京電燈”では発電機を独(
図 7.17 東西の周波数 |
交流の周波数は,東京電力と東北電力以東が50Hz,中部電力と北陸電力以西が60Hzになっています。
このために東西の電力の融通は,2013年の時点では静岡と長野にある三つの周波数変換所の能力(合計190万kW)で,限界が決まります。
3.11大震災の時には,東西の電力融通をするための周波数変換設備が,100万kW(原発一基分程度)しかなかったため,関東では震災後の電力不足時に計画停電に陥ってしまいました。
Q 7.17 新幹線の電源周波数 |
[A]
新幹線は建設当初から交流電化です。
1964年に開通した東海道新幹線は,60Hz 地域を走る割合が多いので,60Hz,25kVを供給しています。
したがって関東地区では,大井・綱島・西相模・沼津に50Hzから60Hzへの地上周波数変換設備があります。
開通当時はモータと発電機を組み合わせたMG(Motor Generator)方式でしたが,今は各変換設備で電子式と組み合わせています。
全電子式にしないのは,種々の事態に対応できるようにするためです。
図 7.18 周波数自動切替 |
長野新幹線は,軽井沢駅の西方に置いた約1.5km長の切替区間(中
列車通過時の地上での自動切替えと同時に,車上でもそれに合わせて周波数を自動で切替えています。
Q7.12で紹介した常磐線の交直切り替え区間は,図7.18のような中セクションに電気を流すようになっていません。
完全に電気を切ってしまう
2013年夏にこのデッドセクションで,常磐線の特急電車が車両故障で立ち往生してしまい,はるばる遠くから救援のためのDiesel機関車を回送し,引っ張り出すという事件が起きました。
筆者は運悪く行きあわせて,約4時間ほど電車が動かないという目に遭いました。
なお東北線の黒磯駅だけは,列車が構内に停車している状態で,地上側操作による中セクション方式で切り替える方式を採用しています。
Q 7.18 周波数が違うと起きる問題 |
[A]
50Hzと60Hzとを比べた場合,同期モータや誘導モータなどを使った回転機器では,60Hzのほうが回転数が上がるので,回転数×トルク(回転力)で決まるモータの出力が大きく取れます。
また60Hzのほうが,変圧器もその寸法を小さくできます。
変圧器を小さくするために,以前は航空機や船舶の電源に400Hzの高周波電源も,使われていたことがあります。
かつては周波数の違いのために,東西の境を越えて引っ越しをすると,回転機能を持つ家電機器や電子機器では,調整や部品の交換が必要だった時代もありました。
このように同一国内に電源周波数が二種類あることは,日本の鉄道の軌道幅が,英国の植民地向けに使われた1,067mm(3 feet 6 inches)の狭軌が主流であることと共に,日本発展の
図 7.19 インバータ 方式 |
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現在の機器では,たとえモータを回すためでも図 7.19のように,一旦直流に直す
50/60Hzの違いはもちろん関係なく,情報機器では90V〜240Vまでどの電圧でも使用可能というものが多いです。
すなわち,“必要は発明の母”なのです。
インバータについては,Q3.32でそのりくつを説明したように,直流の電圧を電子回路で別の電圧に変換するものです。
図 7.20 スイッチト キャパシタ |
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(a)キャパシタに並列充電 | (b)キャパシタから直列放電 |
インバータは多くの場合電圧を下げる方向へ変換しますが,電圧を上げる方向としては図 7.20のように,
図7.20(a)で並列になったキャパシタに,電池から電圧Vを充電し,電子スイッチを図7.20(b)のように右に倒すと,今度は三つのキャパシタが直列になるので,充電した電圧と電池の電圧を加えた4V が出力として得られます。
実際には,キャパシタの電荷は,出力につながれたキャパシタに分散されますので,4V にはなりませんが,元の電池の電圧よりも高くすることはできます。
この電子スイッチを左右に素早く動かせば,昇圧した電圧を供給できます。
昇圧インバータは,この他にコイルに流れている電流を利用するやりかた,さらに一旦交流に変換した後,トランスを使って電圧を上げてから整流器で直流にする方法があります。
Q 7.19 外国での家電機器の使用 |
[A]
電源プラグの形が,国によって異なるということはQ1.2で紹介しました。さらに,日本以外の世界の多くの国では,配電効率がよい200V以上の電圧を供給しています。
日本でもQ1.15で説明したように,実際には少し高めの110Vが,需要家の入り口では供給されていますが,建物内の配線などで1割程度の損失が出ることを考慮して,公称100Vとされています。
現在は日本でも,Q1.14で説明した単相三線式を使って,ほとんどの家庭や事業所には200Vの電源も供給されています。
かつて日本が統治していた韓国・朝鮮や台湾では,100Vが供給されていましたが,今は200V供給になっています。
表 7.2 世界の主な国と近隣諸国の電源電圧と周波数 |
世界の主な国の電源電圧と周波数を,表 7.2に挙げておきます。
米国ではよく公称117Vといわれていますが,これは供給電圧の130Vから10%下がった値を示したのかもしれません。
さらに,米国は公称電圧を115Vと称することもあり,120Vの地域もあります。
なお,200Vの電源が漏電すると,感電死する可能性が高くなります。2013年7月に中国で,粗悪品の充電器につないだままで,着信したiPhone4に出た人が漏電死しました。
図1.47のPSE認証を受けていない安物の充電器は使わないことです。
電源周波数については,表7.2のように欧州の多くの国とその過去の植民地では,50Hzが使われています。
南北米大陸では60Hzの国が優勢です。
パソコンを自作しようとすると,電源に図 7.21のように,115Vと230Vの切換えスイッチが付いていることが分かります。
図 7.21 パソコンの電源 |
中央の上下に動く スライドスイッチ で供給電圧を選択 |
115Vは米国やCanada向けですが,日本向けの100Vはありません。
幸いパソコンの電源には,インバータと同じ形式の
Q 7.20 2種類の引き込み線
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[A]
どちらも3本の電線で供給されているので,解りにくいかもしれません。
この2種類の引き込み線はすでに図1.21に示したように,別々に電力量を測っています。
一方はQ1.14で説明したように“従量電灯”といい,日本では100/200Vの単相3線式で,普通の家庭や小規模な事業所に供給されています。
もう一方は“低圧電力”(動力)といい,日本では200Vの三相3線式で供給されています。
三相交流は,工場や大型エアコンなどの電気機器の動力源です。
電力料金は,電灯は基本料金が安く,kWh当りの単価は高く設定されています。
動力契約はA数ではなくkWで基本料金を計算し,かなり高く設定されていますが,kWh当りの単価は電灯と比べると大幅に安いです。
この両者を統合した料金もあります。
6,600Vで電気を受け取って,自社内に変圧器がある工場では,さらに大きなモータなどに使うために,400Vの動力用電源も使われています。
[A]
第3.4節でも説明したように,三相交流を1本ずつ使ってしまうと,三相交流の3本の電線に流れる電流の合計値が0にならなくなります。
本来,三つの交流にはそれぞれに帰りの電線があり,合計6本の電線が必要なところを,3本の電流の合計値がつねに0となるので,接地側の電線を不要としています。
負荷を流れて接地側に帰るはずの電流は,他の電線を通じて帰っていると考えてもかまいません。
すなわち,電流が同じ向きの2本の電線の電流の合計値が,もう1本の電線の電流値と大きさが同じで,向きが反対になります。
これにより三相交流の送電線は,直流送電と同程度の送電効率が得られます。
Q3.21で説明しましたが,動力を使うモータや電熱線などでは,負荷を通った電線を1本にまとめて,どこへも接続しないでおしまいにします。
これは英字のYに似ているのでY接続(結線とも言う),あるいは放射状に負荷をつなぐので
三相交流は戻りの電線がないので,電圧を測るときに外してしまった帰りの電線(中性点という)との間で測ることができません。
実際に負荷が付いた状態でないと,送電線などにはこの中性点が物理的に存在しませんので,1本目と2本目,2本目と3本目,3本目と1本目というように2本の電線の間の電圧(線間/相間電圧)を測って三相交流の電圧とします。
図 7.23 Y 絶続と△接続 |
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(a)Y(スター)接続 (b)△接続 |
この電圧は図 7.23のように,中性点との間の電圧の√3倍になります。
220/√3=127(V)の単相交流の波形を120°ずつずらしたものが,220Vの3相交流というわけです。
負荷を三相の二つの線間に入れると,負荷には線間電圧を供給できます。
このような形は三角形に似ているので
三相交流は各相の負荷が同じでないと,中性点で電流が帳消しになるという原理が満たされません。
さらに,三相交流の電源につなぐ負荷は,基本的にはプラグで抜き差しをしない固定接続にします。
三相誘導モータは,通常はデルタ(△)接続で使いますが,負荷が軽いときや始動時にはスター(Y)接続にすることもあります。
Q 7.22 三相4線式配電
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[A]
需要家への給電電圧は米国やCanadaを除くと,表7.2のように単相220〜240Vが世界の趨勢になっています。
さらに日本以外の多くの国では,図 7.24(b)のような380〜415Vの三相4線式で,200V級の電灯と400V級の動力を同一配電線から供給することが実施されています。
かつて日本統治下にあった韓国や台湾では,長い時間と手間をかけて220Vに昇圧し,三相4線式で配電しています。
日本でも東京電力管内で,ある街全体に400V三相4線式で配電する実証試験が行われています。
配電用の変電所で6,600Vへ降圧する変圧器は,20MVA前後の容量のものを使っています。 そこから何本か出る高圧配電線は,1系統で2,000kVA 程度の電力を送っています。 400V級の配電になると配線の太さの関係で,1系統の配電量は6,600V配電時の1/10くらいに減りますから,配電用変電設備の数は増えます。 しかし,これにより将来は柱上変圧器を省略できるので,電力損失を下げ経費も節減することが可能です。
米国とCanadaでは,多くの地域で三相4線式で供給されています。
電灯用の供給電圧は,線間電圧200Vの3相交流を,帰線との間(Y 接続)で使ったときの電圧115.5Vとほぼ同じです。
日本の場合は,単相100Vを供給するには3相交流を200Vではなく,173V供給にしなくてはならず,動力機器への対応が問題となります。
逆に,米国と同じ電圧で三相4線式供給した場合は,従来の100V用の家電機器が壊れる可能性もあって,三相4線式の普及には問題が山積しています。
★ 中国に残る旧租界
19世紀から20世紀初頭にかけて,欧州の列強は中国沿海部の大都市に治外法権の街(租界)を設け,その中では西欧風の街作りがなされました。
石造りの建物,上下水道,道路の敷石および公園の整備だけではなく,電気の供給方式もその時に決まりました。< |