7.5 電気を測る方法とその単位
昔は,ラヂオ少年が最初に欲しがった万能測定器は,テスタでした。
電気は感電したり火でも吹かない限り,電気があるということがあまり見えないものです。
そこでいろいろな方法で電気の状態を測る必要があります。
7.5節の内容
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Q 7.23 電気が目に見えるようにする |
[A]
電気は目に見えません。
図1.35のようにネオンを光らせてもよいですが,何かの方法で測らないと,その電気がどの程度の量なのかも分かりません。
電気のいろいろな量を測って,頭で納得するという努力が必要です。
さもないと,見えないということで,多くの電気嫌いな人を生んでしまいます。
電気を測るために,いろいろな電気の測定器が考え付かれました。
電気の測定器の中には,普通の生活でもよく使うものもありますが,その道の人だけが使うものもあります。
図 7.25 群盲電気を撫でる |
さらに,電気にはいろいろな単位が付いています。正にいろいろな方面から電気という象を図 7.25のように勝手に
Q 7.24 直流電流の測定 |
[A]
電流は通常電流計で測ります。
測定した結果は,なんらかの物理的な手法を使って,人間や機械に分かるようにしなくてはなりません。
←三菱電機YM-206ND FA機器.com HPより |
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(a)1mA電流計 | (b)可動コイル型電流計 |
図 7.26 昔ながらの電流計 |
昔からある電流計は,図 7.26のような
電流を測るりくつは,直流モータと同じです。図7.26(b)に示したように,鉄芯入りの
コイルの周りには永久磁石で作った磁場があり,コイルが作る電磁石と引っ張り合ってコイルに回転力を与え,その回転力がぜんまいばねと釣り合った位置で,電流の大きさを知ります。
なお,コイルへの電流はブラシではなく,上下のぜんまいばねを通して供給しています。
Q 7.25 電流計の感度 |
[A]
電流計の針が最大の角度(最大目盛)まで振れたときの電流を,電流計の定格値としています。より小さな電流が測れる電流計を,“感度が高い”と言います。電流値の目盛りは,分度器の目盛のように,最大値の1/100くらいまでは付けられますので,定格1mAの電流計なら10μA程度の差までは,誰でも誤差無く楽に読み取れます。
図 7.27 鏡付きの電流計 |
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図 7.27のように,目盛のそばに鏡が貼ってあって,目がきちんと正面に位置しているか確認できる電流計では,訓練すれば定格値の1/1000 まで読みとれます。
電流計の感度は,コイルの捲数を増やし,ぜんまいばねを弱くすれば,原理的にはいくらでも上げることができます。
しかし,下記のような問題が生じるので,実用的には最大値(
(a) コイルの捲数を増やすとコイルが重くなり,針の位置が安定するのに時間がかかる
(b) コイルの捲数を増やすとコイルの巻線の抵抗が大きくなり,電流計での電圧降下が問題となる
(c) 弱い電流でも大きく振れるようにばねを弱くすると,外部の振動で電流計の針が動く
(d) ばねを弱くすると,針が一気に大きく振れたとき安定位置に止まるのに時間がかかる
電流計で大電流を測るときは,電流計に図 7.28のような並列(
図 7.28 大電流の測定 |
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電流計のコイル自体に直接大電流が流せるようにすると,ばねや電線が太くなってコイルが重くなってしまいます。 通常は,フルスケールが1mAの電流計に,倍率器を付けて大電流を測ります。
Q 7.26 直流電圧の測定 |
[A]
電池の端子電圧などの直流電圧は,電圧計で測ります。
図 7.29 電圧の測定 |
電圧は,じつは図 7.29に示すように,微小な電流を測定できる電流計と倍率器を組合わせて測ります。
通常は,10μA〜1mA程度の電流計を使います。
電流計のコイル抵抗の倍数−1の値の抵抗を,図7.29のように電流計に直列に接続します。
コイル抵抗が100Ωでフルスケールが1mAの電流計は,
100×10-3=0.1(V)
がフルスケールの電圧計になります。
この外部に99.9kΩの抵抗を倍率器として付けると,
(100+99900)×10-3=100(V)
と,フルスケール100Vの電圧計になります。
ここから解るように,電圧計の倍率器内で99900×10-3=0.0999(W)と,ほとんど電力を無駄に消費してしまうので,電圧計に使う電流計はなるべく感度が高いものの方が有利です。
Q 7.27 直流の電力 |
[A]
電圧か電流の一方が分かれば,負荷の直流抵抗値から計算で求まります。
しかしこの方法では,電球など直流抵抗の値が変動する負荷の場合は,消費されている電力の現在値は求められません。
直流電圧と直流電流を同時に測ってかけあわせると,そのときに負荷で消費されている電力を計算で知ることができます。
しかし,このとき電圧計と電流計が消費する電力の影響で,測定した電圧値と電流値のかけ算した値が,そのまま負荷で消費された電力にはならないことに,注意しなくてはなりません。
すなわち計器が消費した電力を,計算値から差し引かなくてはなりません。
図 7.30 電流と電圧の同時測定 |
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(a)電圧計が前 (b)電流計が前 |
電圧計と電流計を入れる位置で測定精度が変わります。
図 7.30(a)のように電圧計を電源の側に入れて,電流計を負荷と直列に入れると,実際に負荷にかかる電圧は電流計による電圧降下分だけ減りますから,負荷での消費電力は,
(電圧計の値−電流計の値×電流計の内部抵抗値)×電流計の値
となります。
逆にした図 7.30(b)の場合も同様に,
(電流計の値−電圧計の値÷電圧計の内部抵抗値)×電圧計の値
となります。
計器による不要な消費電力を下げるには,元になる電流計に感度が高いものを使う必要があります。
Q 7.28 交流の測定 |
[A]
直流の電流計や電圧計に交流を加えると,針がメータの0 の辺りで左右に細かく震えるだ
けで測ることができません。
交流はQ1.40で定義した実効値で表現します。
交流電流を測るには主に二通りの方法があります。
(a) | 交流電流がサイン(正弦)波なら,交流を整流器で直流に直し,直流の値から,計算で求める。 | |
(b) | 交流の電磁石で,ばねで保持している鉄片を吸い寄せ,吸い寄せる力とばねの力の平衡がとれた位置を電流値とする。 |
図 7.31 交流の測定 |
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(a)整流して直流にする (b)鉄片を引込む |
交流を整流器を通して直流に直すと,図 7.31(a)の上半分側のように点線と実線からなる脈流波形が得られます。
この図の平均値はサイン波形の平均値で,ピーク値の2/π=0.6367倍になります。
すなわち実効値をV とすると,
平均値=√2×2/π×V =0.9V
となり,目盛を直流の時の1.11倍にして描いてやればよいことがわかります。
実際には,こうすると指針が100Hzでブルブル震える現象が出ることがあるので,電流を平滑化します。
平滑化をキャパシタで行うと,キャパシタの効果で図7.31(a)の平滑値のように交流のピーク値に近い値になってしまいます。
ピーク値との差は,整流器による損失やキャパシタから電流が流れ出すことで発生します。
このため,直流の目盛の√2/2=0.707倍にしても正確には測定できません。
鉄片を空芯のコイルに吸い寄せる図 7.31(b)の方式は,吸引鉄片型電流計といい,コイル電流の実効値を表します。
この方式は直流も測れますが,図7.26(b)の可動コイルに比べて精度が出ません。
さらに,鉄片がコイルに吸い込まれる量が,実効電流に比例しないので,指針が振れる角度も比例せず,目盛は大きい方で詰まってしまいます。
交流電流は,図7.30の直流電流とは異なり,電流計を負荷に直接直列に挿入せずに,図 7.32ように交流電流が流れている電線に磁性体を
図 7.32 カレントトランス |
ミドリ安全のHPより (CTH30G1A) |
これは一次側が一捲きの小型のトランスを,クランプしてぶら下げたと考えてよいです。
電流を電圧に変換するように見えるので,
交流の電力を測るには,通常は交流電流と交流電圧を測り,それをかけあわせます。
現在はすべてディジタル式になっています。
Q 7.29 電気の量を簡単に測る |
[A]
電圧や電流など複数の値を測定できる便利な万能測定器があり,
↑ 34460A ← U1241B アジレント・テクノロジ旧HPより (現キーサイト・テクノロジ) |
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(a)アナログ式テスタ | (b)ディジタルマルチメータ | |
図 7.33 回路試験機 |
図 7.33(a)のメータ式のテスタは,専門家だけでなく家庭でも簡単に電池の電圧を測ることができ,たいへん便利な測定器です。
基本的には,直流の電流と電圧,交流の電圧,抵抗値を測ることができます。
中央のくるくる回るスイッチで,測定したい条件を選べば,内部のたった一つの電流計と種々の倍率器や整流器,電池を使って基本的な電気の値を調べることができます。
図7.33(a)のような昔ながらのアナログのメータを使うのではなく,図 7.33(b)のように電子回路を使って,表示もディジタル化したものは,(ディジタル)マルチメータを呼ばれています。
図 7.33(b)の左側のものはアナログ式のテスタの形を踏襲し,測定した電圧をAD(
さらに,AD変換の電子回路だけを用意して,USB接続したパソコン上で操作や表示をする安価なものもあります。
抵抗は自分から電子を動かさないので,受動素子と呼ばれています。 抵抗値を測るには,外部から電気を供給しないと測れません。
図 7.34 抵抗値の測定 |
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(a)ブリッジ (b)テスタのりくつ |
正確には,図 7.34(a)のように,値が解っている正確な抵抗と比べる方式で測定します。
正確な値が解っている抵抗RSを用意し,中央の電流計の目盛が0になるように抵抗R1とR2を調節すると,電池の電圧V に関係なく,
RX=RS ×R1/R2
と,抵抗だけで未知の抵抗値を求められます。このような接続方法を,それまでの抵抗測定法を改良した
テスタは図 7.34(b)のように,抵抗に電圧をかけて抵抗に流れる電流を測り,電流値から抵抗値を求めます。
まず,抵抗測定端子をショートしてRT を調節し,ショート電流が電流計のフルスケール(I0)になるようにします。
その後,測りたい抵抗RX をつなぐと,RT と直列になり抵抗が増えるので,電流はIR に減ってしまいます。
RX=RT ×(I0−IR)/IR
フルスケールの電流I0 とRT は解っている値なので,電流IR を測ると抵抗値が求まります。
抵抗値は,フルスケールの調整をしておけば,電池の電圧V には影響されません。
テスタやマルチメータには,抵抗に電流を流す機能が内蔵されています。
Q 7.30 波形を見る |
[A]
電圧波形の観測には,記録計というものと
図 7.35 ディジタル式観測機 |
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現在,波形を見る道具はすべて,図 7.35のように,すべての
記録計はもともと,地震のような振動の波形を,回転
病院へ行って心臓の検査をすると,紙に心臓の鼓動がペンで描かれた紙が出てくるのを見たことがある人もいるでしょう。
これはペン型記録計といいます。
以前は心臓が出す鼓動の電圧を増幅して,直接ペンを動かしていました。
オシロスコープは,電圧の変化を画面に表示する装置です。
図 7.36 オシロスコープ |
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MSO-X2022A アジレント・テクノロジ旧HP より (現キーサイト・テクノロジ) |
図 7.36のオシロスコープは,100MHzまでのアナログ波形4チャネル,ディジタル波形8チャネルを同時観測できます。 簡単な作業場や学校用の電圧波形表示装置として利用できます。
Q 7.31 電気の単位は種類が多い |
[A]
たしかに普段の生活に使っている単位としては,電気関係は多いだけでなく解りにくいです。
図7.25のように直感で理解できないからでしょう。
ただ,すでに実生活で電圧のV(
これらの電気の性質を測る単位は,水や空気と類似させると何となく実感がつかめます。
電圧 ― 水圧・気圧 電流 ― 水流量・空気流量
すなわち,“〜圧”と付くのは物質を動かそうとする力の値です。
また,“〜流(量)”と付くのは動く物質の単位時間あたりの分量です。
水や空気の流速に相当する単位は,電気では使われていません。
電気現象の伝搬速度(電子単体の移動速度ではない)は,理論的には光速だからです。
このほかHz(
VやWという単位を基本とすると,その量が大きかったり小さかったりすると,0をたくさん並べなくてはなりません。
そこで,普通は1,000倍あるいは1/1,000ごとに名称を付けて,0が並ぶことを避けます。
漢字圏ではこれが4桁ごとを基準に,500万円とか25兆ドルとか言いますが,西欧ではこれが3桁ごとです。
西欧で先に科学技術上の発見や定義がなされたので,SI単位系ではこの1,000倍方式で倍率を呼ぶことに決まっています。
大きい方から | 10倍から | 0.1倍から | 小さい方から | |||||||||||
記号 | 名 称 | 倍率 | 記号 | 名 称 | 倍率 | 記号 | 名 称 | 倍率 | 記号 | 名 称 | 倍率 | |||
Y | 1024 | da | 10 | d | 1/10 | y | 10-24 | |||||||
Z | 1021 | h | 100 | c | 1/100 | z | 10-21 | |||||||
E | 1018 | k | 1000 | m | 1/1000 | a | 10-18 | |||||||
P | 1015 | M | 106 | μ | 10-6 | f | 10-15 | |||||||
T | 1012 | G | 109 | n | 10-9 | p | 10-12 |
Q 7.32 主な電気の単位の意味 |
[A]
定義はきっちりとあります。
ただ,詳しく説明すると難しいので並べるだけにします。
必要になったら,もっと専門的な書籍やネット情報を見てください。
(a) |
・電圧( ・個人が家庭や事業所・学校で扱う電圧の範囲はだいたい1μVから500V程度まで ・ ・生体内の神経も電気を使って信号を送っているが,こちらは心電計や脳波計でもわかるとおり,10μVから100mV程度の電圧 ・心臓の鼓動を促している電気も皮膚の表面を測ることで,動きが正常かどうか分かる |
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(b) |
・電気の量は電荷( ・電荷はすなわち電子の粒の数そのもの ・1C分の電子の数は624京1,509兆6,291億5,265万個ほどになるが,その全質量は5.7ng程度しかない |
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(c) |
・電流( ・1秒間に1Cの電荷が通り抜けたら1A ・電子の数を直接数えるのは難しいので,通常はより測定が容易な電流を使って,通り抜けた電気の量を知る |
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(d) |
・電気の ・電力を測る単位は, |
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(e) |
・電気の流れにくさを示す単位は, |
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(f) |
・電荷をためるものを ・1Cの電荷を1Fのキャパシタにためると,キャパシタの電圧は1Vになる ・ちなみに地球も真空中に浮いているので,電荷をためることができ,その容量は約0.00712F |
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(g) |
・電流が変化する際に,自分の電流によって磁場が発生し,その磁場の変化から逆向きの電流が起きることで,変化する電流に対する一種の抵抗( ・これはコイルの自己誘導( |
Q 7.33 電気単位の名称はほとんど人名 |
[A]
名称の付け方には必然的なりくつはなく,表 7.3のように,
表 7.3 電気で使うSI単位の名称(国籍は通常使う漢字表記を使った,なお単位Jは仕事量) | |
★ 古い単位系
かつては科学や技術の分野には,cgs単位系や重力単位系,日本では尺貫法などいくつかの単位系が同時に使われていて,学習者や実際に仕事をする際にも,しばしば換算などの問題が発生していました。
米国ではいまだに12進法を基準としたヤード・ポンド法(和製語, |